第15話 『再出発の地、メキシコ』
パリでの再会から二週間。
SweetS本社会議。
スクリーンに映るのは――
Mexico City 出店計画
優ちゃんが説明する。
「中南米市場は今、伸びてる。特に若年層のスイーツ消費が急増中」
色彩豊かで、甘さは濃厚。
情熱的な味覚文化。
小春は資料を見ながら言う。
「挑戦的だね」
優ちゃんが一枚のスライドを出す。
店長候補。
その名前を見て、空気が止まる。
龍星ルイ
◇
沈黙。
小春がゆっくり顔を上げる。
「……本気?」
優ちゃんは真っ直ぐ頷く。
「今のSweetSに必要なのは“世界一の技術”」
情ではない。
戦略。
「メキシコは難しい市場だ。甘さも色彩も強い。中途半端じゃ負ける」
ルイは静かに言う。
「俺でいいのか」
優ちゃんは即答。
「世界一だろ?」
皮肉でも嫌味でもない。
事実。
◇
数日後。
正式発表。
《SweetS Mexico City 店長に龍星ルイ就任》
世界の業界がざわつく。
“元夫が元妻の会社に入社”
ゴシップは飛ぶ。
だが三人は動じない。
◇
メキシコシティ。
鮮やかな街並み。
太陽。
音楽。
そして強烈な甘さ。
市場を視察するルイ。
カラフルなチュロス。
濃厚なチョコレート。
シナモンの香り。
「……面白い」
久しぶりに、目が燃える。
◇
オープン準備。
小春はレシピ監修。
ルイは現地スタッフ教育。
優ちゃんは資金と物流の整備。
三人が役割を果たす。
だが。
厨房でルイと小春が二人きりになる瞬間。
空気は、わずかに揺れる。
「無理するなよ」
ルイが言う。
「あなたも」
それ以上は踏み込まない。
◇
オープン当日。
店名――
SweetS México – Fuego
テーマは“情熱”。
看板商品。
“チリショコラ・ムース”
“カカオ70% × マンゴー”
“フレイム・キャラメルタルト”
甘さの奥に辛味。
刺激と繊細さの融合。
行列。
歓声。
SNS拡散。
現地インフルエンサーが絶賛。
「Japanese precision meets Mexican passion!」
売上、初日記録更新。
◇
夜。
屋上。
三人で街を見下ろす。
ネオンと喧騒。
優ちゃんが言う。
「成功だな」
ルイは静かに頷く。
「楽しい」
その一言。
王者の肩書きがなくても。
自分の居場所を見つけた顔。
小春はその横顔を見て、少しだけ安心する。
でも同時に――
胸の奥が、かすかに疼く。
◇
ラスト。
SweetS、メキシコで爆発的ヒット。
ルイ、再評価の兆し。
優ちゃん、グローバル展開を加速。
だが。
成功の裏で――
ルイと小春の距離が、ほんの少し近づいていることに、
優ちゃんは気づいている。




