第11話 『甘くない世界』
シンガポール。
熱気と湿度。
高層ビル群の一角に、真新しい看板が掲げられる。
SweetS – Singapore Flagship
オープン初日。
行列。
メディア取材。
SNS拡散。
滑り出しは、完璧だった。
◇
「いける…!」
優ちゃんは売上速報を見て拳を握る。
初日売上、予想の1.8倍。
小春は厨房で次々と新作を仕上げる。
海外限定「抹茶×トロピカル」シリーズ。
現地の味覚に合わせ、甘さを微調整。
世界を狙うなら、現地化は必須。
順調。
そう思っていた。
◇
二週目。
異変。
客足が、鈍る。
レビューサイトに低評価が並び始める。
「Too delicate(繊細すぎる)」
「Not sweet enough(甘さが足りない)」
「Pretty but small portion(量が少ない)」
小春はスマホを握りしめる。
日本では“上品”だった味。
ここでは“物足りない”。
◇
会議室。
優ちゃん、現地マーケ責任者、スタッフ。
「価格も高め設定だ。ブランド戦略上、落とせない」
優ちゃんは冷静に言う。
「でも味は変えないと」
小春が反論する。
「SweetSの芯は守りたい」
空気が張り詰める。
経営と職人。
初めての本格的な衝突。
◇
夜。
小春は一人、現地スーパーを回る。
人気店のスイーツを買い漁る。
味見。
甘い。濃い。大胆。
でも、売れている。
(負けたくない)
でも。
(変えすぎたら、私じゃなくなる)
◇
東京。
ルイは世界大会本戦に向け、追い込みに入っていた。
ニュースでSweetSの海外展開を知る。
次の速報。
《SweetS シンガポール店、売上急落》
小さく息を吐く。
成功は簡単じゃない。
それは、自分も知っている。
だが――
彼女なら立て直す。
そう信じている自分がいる。
◇
シンガポール。
小春と優ちゃん、深夜の店内。
「俺は会社を守る」
優ちゃんが言う。
「数字が落ちれば、撤退も考える」
冷静。
経営者の目。
小春は黙る。
そして言う。
「三週間ちょうだい」
「……何をする?」
「新シリーズ出す」
SweetSの芯は残す。
でも、現地の“幸福感”を研究する。
甘さ、ボリューム、価格帯。
全部、再設計。
「失敗したら?」
優ちゃんが問う。
小春はまっすぐ見る。
「その時は、あなたの判断に従う」
覚悟。
優ちゃんはしばらく黙り、
そして頷く。
「三週間だ」
◇
ラスト。
小春、徹夜でレシピ改良。
優ちゃん、資金繰りで走り回る。
ルイ、世界大会目前。
甘さは、文化で変わる。
でも“想い”は通じるのか。
SweetS、存亡の三週間が始まる。




