第7話 『再会、炎の舞台』
秋。
日本最大級の製菓コンペティション
《ジャパン・パティスリー・フェス》
国内外のトップパティシエが集結する大会。
今年の注目は、二人。
《Lumière》オーナー、龍星ルイ。
《Atelier Haru》オーナー、一ヶ原小春。
元夫婦対決。
メディアは煽る。
《因縁の再戦》
《愛憎バトル》
◇
海辺。
出場通知を見つめる小春。
優ちゃんが隣に座る。
「出るの?」
「出る」
即答。
逃げない。
過去からも、元夫からも。
「怖くない?」
小春は少しだけ考える。
「怖いよ」
でも。
「今のわたしで戦ってみたい」
◇
東京。
ルイもエントリーを決める。
副シェフが戸惑う。
「今、攻める状況じゃ……」
「だからだ」
逃げたら終わる。
崩れた評価を、味で取り戻す。
◇
大会当日。
巨大ホール。
観客席は満席。
二人が同じフロアに立つ。
五年ぶりでもなく、夫婦でもない。
ただ、対戦相手。
視線が交わる。
言葉はない。
でも、火花はある。
◇
テーマ発表。
「Truth(真実)」
ざわめき。
皮肉のようなテーマ。
小春は一瞬、笑う。
(運命、悪趣味)
ルイも無表情だが、目が揺れる。
◇
スタート。
小春の“真実”。
華やかさを排除。
スポンジはあえて少し粗め。
甘さも抑える。
焦げ目を残したキャラメル。
完璧じゃない。
でも、嘘のない味。
“傷も含めて私”
それがテーマ。
◇
ルイの“真実”。
装飾を削ぎ落とす。
白い皿に、黒いショコラ。
中心に、ほんのわずかな塩。
甘さの奥に苦味。
完璧であろうとした自分。
崩れた自分。
両方を閉じ込める。
◇
途中、小春のソースが煮詰まりすぎる。
優ちゃんが観客席から息を飲む。
だが小春は慌てない。
火を止め、水を一滴。
深呼吸。
“焦らない”
以前の自分なら動揺していた。
今は違う。
◇
ルイも小さなミス。
ナイフがわずかにずれる。
完璧主義ならやり直す。
だが、あえてそのまま出す。
“歪みも真実”
◇
完成。
並ぶ二皿。
派手さはない。
でも、空気が変わる。
試食。
審査員の表情が変わる。
小春の皿。
「Raw… but honest.」
未完成のようで、正直。
ルイの皿。
「Controlled… yet vulnerable.」
制御されながら、脆い。
◇
結果発表。
優勝――
一ヶ原小春。
会場がどよめく。
小規模店の勝利。
大手の王者を破る。
小春は深く一礼。
歓声の中、ルイが歩み寄る。
悔しさはある。
だが、笑う。
「強いな」
「そっちも」
短いやり取り。
憎しみはない。
でも距離はある。
◇
会場の外。
優ちゃんが小春を抱きしめる。
「すごい」
その腕の中で、小春は少しだけ安心する。
視線の先に、去っていくルイの背中。
胸が、わずかに痛む。
終わっていない感情。
でも戻らない時間。
◇
東京へ帰る新幹線。
ルイは窓の外を見る。
負けた。
だが、不思議と清々しい。
彼女は、自分の道で強くなった。
「……それでいい」
呟く。
◇
ラスト。
海辺の夜。
小春と優ちゃんが並ぶ。
波の音。
優ちゃんが静かに言う。
「俺、ちゃんと好きだからな」
今度は、はっきり。
逃げ道のない告白。
小春は目を閉じる。
心は揺れている。




