第4話 『焦げついた真実』
東京。
《Lumière》の厨房。
記者たちが店の前に張りついている。
《離婚危機》
《世界一夫婦、崩壊》
噂はもう、隠せる段階じゃない。
◇
ルイは一枚の封筒を握っていた。
差出人は――
あの“写真の女性”。
名前は、美咲。
大会スポンサー企業の広報担当。
あの夜、同席していた人物。
封筒の中身は、USBメモリ。
震える指で、再生する。
映像。
ホテルのラウンジ。
自分と美咲。
距離が近いカット。
だが、次の瞬間。
別角度の映像が映る。
ルイが明確に距離を取っている。
手を振りほどいている。
そして――
美咲が、わざと腕を絡める瞬間。
さらに別の音声。
「奥さんとの“理想像”が邪魔なんです」
スポンサー契約更新のためのスキャンダル。
完璧な夫婦像を崩すことで、話題を作る。
仕組まれていた。
だが――
最後の場面。
酔った自分。
拒みきれなかった一瞬。
完全な無実ではない。
隙を作ったのは、自分。
◇
ルイは拳を握る。
怒りよりも、後悔。
小春に言った言葉が蘇る。
「一度だけだ」
あれが、致命傷だった。
説明しなかった。
守ろうとしなかった。
プライドが、邪魔をした。
◇
海辺のカフェ。
小春は優ちゃんと静かにケーキを仕上げている。
そこへ、ニュース速報。
《Lumièreオーナー龍星ルイ、緊急記者会見》
小春の手が止まる。
◇
東京。
無数のカメラ。
ルイは一人で立つ。
氷の天才は、今日は氷じゃない。
「今回の報道について、事実を話します」
会場が静まる。
「写真は事実です」
ざわめき。
「ですが、意図的に仕組まれたものでもあります」
映像を公開。
会場がどよめく。
スポンサー企業の関与。
美咲の発言。
すべて明るみに出る。
だがルイは続ける。
「しかし」
声が低くなる。
「隙を作ったのは、俺です」
沈黙。
「妻を傷つけたのは、俺です」
言い訳しない。
守らない。
ただ事実を背負う。
「彼女が離れると決めたなら、受け入れます」
記者が問う。
「復縁の可能性は?」
ルイは一瞬、目を閉じる。
浮かぶのは、海辺で泣く小春。
「可能性を語れる立場じゃない」
「でも」
顔を上げる。
「俺は、まだ愛しています」
フラッシュが炸裂する。
◇
海辺。
小春はその映像を最後まで見ていた。
優ちゃんが静かに言う。
「……どう思う?」
小春は答えられない。
罠だった。
でも。
隙はあった。
嘘はあった。
信頼は、揺れた。
胸の奥に、小さな熱が戻りかける。
でもすぐに冷える。
(信じて、また傷ついたら?)
◇
夜。
カフェの外。
ルイが立っている。
会見直後、そのまま来た。
スーツのまま。
疲れ切った顔。
優ちゃんが先に出る。
「全部話したね」
「ああ」
「それでも彼女が戻らなかったら?」
ルイは迷わない。
「それでも待つ」
真っ直ぐ。
嘘はない。
優ちゃんは小さく息を吐く。
「……やっかいだな」
本気だと、わかるから。
◇
扉が開く。
小春が出てくる。
視線が合う。
波の音だけが響く。
「聞いた」
それだけ。
ルイは頷く。
「遅かった」
小春の声は静か。
「守ってほしかったのは、後からじゃない」
ルイの喉が詰まる。
正論。
痛いほど。
「……ごめん」
小春は目を逸らす。
「今はまだ、無理」
完全拒絶ではない。
でも、許しでもない。
その曖昧さが、いちばん苦しい。
◇
ラスト。
夜の海。
三人の影。
揺れる関係。
再生は、簡単じゃない。




