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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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第1章サブタイトル 「静かな情熱、はじめての一歩」 第1話 『転校生と苺のムース』

春の朝。

桜の花びらが、校門の前を静かに舞っていた。

日本最高峰の製菓専門校――

《スイーツアカデミー》。

その門の前に、小さく深呼吸をする少女が立っている。

一ヶ原小春。

白い指が、制服の袖をぎゅっとつまむ。

「……がんばろう」

声は小さい。でも、想いは強い。

人前で話すのは苦手。

初対面はもっと苦手。

できれば目立たずに過ごしたい。

でも――

お菓子作りのことになると、逃げたくない。

なぜなら、小春には夢があるから。

世界最高峰の舞台、

World Pâtisserie Grand Prix

で優勝すること。

(わたしのスイーツで、誰かを笑顔にしたい)

その一心で、ここに来た。

「今日から転校してきた一ヶ原小春さんだ」

担任の声で、教室中の視線が集まる。

心臓がうるさい。

「……よろしく、お願いします」

ぺこりと頭を下げる。

ひそひそ声。

「大人しそう」

「本校ってレベル高いのに大丈夫?」

胸が少しだけ痛む。

そのとき。

「へぇ」

後ろから、低い声。

振り向くと、窓際に座る男子生徒と目が合った。

整った横顔。無駄のない姿勢。

氷みたいに静かな空気。

――ルイ。

「世界目指してるって、本当?」

突然の問い。

クラスがざわつく。

小春は一瞬だけ迷う。

でも――逃げない。

「……はい。世界一になります」

教室がしんと静まる。

ルイの目が、わずかに細くなる。

「面白い」

それだけ言って、彼は視線を戻した。

冷たいのか、優しいのか分からない。

でもなぜか、小春の鼓動は少しだけ早くなる。

午後。

実習室に集められる生徒たち。

白衣姿で立つのは、若き天才講師――龍星先生。

「転校生がいるな」

鋭い視線が、小春を射抜く。

「実力を見る。今から実技テストだ」

ざわめき。

「テーマは“自分を表現するスイーツ”。制限時間二時間」

いきなりの試練。

でも小春は、震える手を押さえながら材料を並べる。

選んだのは、苺のムース。

派手じゃない。

でも、優しくて、芯のある味。

(わたしみたいでいい)

丁寧に泡立てる。

空気を含ませる。

焦らない。

ふと横を見ると、ルイが完璧な動きでチョコレートを扱っている。

美しい。無駄がない。

「……」

視線に気づいたのか、ルイが言う。

「混ぜすぎると分離する」

はっとする。

確かに、ムースが少しゆるい。

「ありがとう、ございます」

ルイは何も答えない。

でも、その一言がなければ失敗していた。

(見てくれてたんだ)

胸の奥が、ほんのり温かくなる。

二時間後。

完成した作品が並ぶ。

龍星先生が一つずつ試食していく。

そして、小春の前で止まる。

スプーンを入れる。

苺のジュレが光る。

ひとくち。

沈黙。

「……甘さは控えめだな」

胸が締まる。

「だが」

顔を上げる。

「芯がある。逃げていない味だ」

目が、潤む。

「一ヶ原。お前は伸びる」

その一言が、世界一の賞状よりも嬉しかった。

放課後。

片付けをしながら、小春は小さく呟く。

「もっと、上手になりたい」

その背中に、声が落ちる。

「本気なら、途中で泣くなよ」

振り向くと、ルイ。

「世界は甘くない」

「……はい。でも」

小春は、まっすぐ見つめ返す。

「甘くないから、甘さが必要なんです」

一瞬、ルイの目が揺れる。

「……変わってるな」

「よく言われます」

小さく笑う小春。

その笑顔に、ルイの胸がわずかにざわめいたことを、まだ誰も知らない。

夢への第一歩。

恋の、ほんの入り口。

静かな情熱は、まだ誰にも気づかれていない。

でも確かに――

動き出した。

――つづく

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