第14話 『本場の誇り』
世界大会・準決勝。
対戦カードは――
日本代表
VS
フランス代表
会場の空気が変わる。
完全アウェー。
観客の多くはフランスを応援している。
小春の喉が、わずかに渇く。
(これが……本場)
◇
テーマ発表。
「Theme: Emotion in 3 Textures(3つの食感で感情を表現せよ)」
食感で“感情”。
しかも三層構造。
高度な構成力が必要。
レオは迷わない。
「Passion.」
情熱。
フランスらしい、強く燃える感情。
ルイは小春を見る。
「何にする」
小春は、即答できなかった。
嬉しさ?
悔しさ?
愛?
その時、胸に浮かぶのは――
“恋”。
でも、それを口にする勇気はない。
「……希望」
やっと出た言葉。
ルイがわずかに目を細める。
「理由は」
「壊れても、また立てるから」
震えない声。
ルイは、静かに頷く。
「いい」
◇
スタート。
日本の構成は、
下層:サクサクの米粉クランブル(現実)
中層:とろけるミルクムース(迷い)
上層:軽い柚子メレンゲ(希望)
対してレオは、
パリッとしたチョコ
濃厚ガナッシュ
熱いラズベリーソース
情熱を爆発させる設計。
観客の視線は、明らかにレオへ。
歓声が上がるたび、小春の心が揺れる。
(勝てるの……?)
◇
残り四十分。
トラブル発生。
日本側のメレンゲが、湿気で少し沈む。
高さが出ない。
「……まずい」
小春の顔が青ざめる。
ルイが即座に判断。
「焼き直す時間はない」
残り三十五分。
選択肢は一つ。
「形、変える」
「え?」
「高さを捨てる」
立体的な“希望”から、
横に広がる“光”へ。
予定外。
リスク。
でも、今できる最善。
小春は一瞬迷い――
頷く。
「やりましょう」
ルイが支えるように器を固定する。
二人の距離が、近い。
呼吸が重なる。
「大丈夫だ」
低い声。
小春は、はっとする。
「何があっても、立て直せる」
その言葉に、心が落ち着く。
(隣にいる)
それだけで、怖くない。
◇
完成。
日本の皿は、繊細で、柔らかい。
派手さはない。
でも、三つの食感が優しく重なる。
レオの皿は圧巻。
観客がどよめく。
炎のような盛り付け。
芸術。
力。
自信。
◇
試食。
フランス側は大歓声。
審査員も興奮気味。
日本の皿は、静かに評価される。
沈黙が長い。
小春の手が冷える。
その時、ある女性審査員が言う。
「This… feels honest.」
正直。
「It’s not loud. But it stays.」
派手じゃない。でも、残る。
小春の目が潤む。
◇
結果発表。
「Finalist――」
一校目。
「France.」
歓声。
当然。
二校目。
静寂。
小春の鼓動が爆音のように響く。
「Japan.」
世界が、弾ける。
通った。
決勝進出。
ルイが静かに息を吐く。
レオが歩み寄る。
笑っている。
「You changed the shape.」
「Good choice.」
認められた。
対等な目。
「Final. No mercy.」
「望むところだ」
ルイが答える。
◇
会場を出た後。
夜のパリ。
セーヌ川の風。
小春は、立ち止まる。
「ルイくん」
「なんだ」
「わたし……」
言いかけて、飲み込む。
今は違う。
まだ言わない。
「明日、絶対勝ちましょう」
ルイは、少し笑う。
「ああ」
その横顔が、近い。
世界の舞台。
あと一歩で、頂点。
でも――
決勝のテーマは、まだ知らない。
そしてレオは、本気をまだ全部出していない。
甘くない最終決戦。
夢も、恋も、すべてを懸けて。
世界一の舞台へ。
――つづく




