第9話 『最強のライバル、現る』
全国製菓学生大会――開幕。
会場は、都内最大級のコンベンションホール。
甘い香りと、緊張が混ざった空気。
各地の代表校が並ぶ。
その中でも、ひときわ注目を集めるチームがあった。
「見ろよ……あれ」
「去年の優勝校だ」
現れたのは、名門・フランス帰りのエリートが揃う強豪校。
その中心に立つのは――
高身長、整った顔立ち、余裕の笑み。
「久しぶりだな、ルイ」
ルイの足が止まる。
「……神崎」
◇
神崎蒼。
昨年の全国王者。
そして――
ルイが“一ミリ差”で敗れた相手。
「まさか同じ舞台に戻ってくるとは思わなかったよ」
余裕のある声。
「しかも、ペア?」
視線が小春に向く。
値踏みするような目。
小春の背筋がぞくりとする。
「君が新しい相棒か」
にこりと笑う。
でも、その笑顔は冷たい。
「大丈夫? ルイは完璧主義だから」
「少しでもズレると、容赦ないよ?」
小春は、ぎゅっと拳を握る。
「大丈夫です」
神崎が目を細める。
「へえ?」
「わたし、ズレても立て直せるので」
一瞬、空気が止まる。
ルイが横目で小春を見る。
神崎はふっと笑う。
「面白い子だ」
でもその目は、完全に“敵”だった。
◇
控室。
ルイは無言。
小春は思い切って言う。
「怖いですか」
「……あいつは強い」
即答。
「技術も、メンタルも」
「でも」
小春は続ける。
「ルイくんも強いです」
「完璧じゃなくても、勝つって言いましたよね」
ルイは一瞬だけ目を閉じる。
思い出す。
あの日の一ミリ。
拡大された断面。
観客のざわめき。
「……ああ」
目を開ける。
そこに迷いはない。
◇
第一競技開始。
テーマは――「革命」。
制限時間三時間。
神崎チームの動きは圧巻だった。
流れるような連携。
精密な飴細工。
観客席から感嘆の声。
「やっぱり王者……」
一方、小春とルイ。
「飴の温度、あと三度上げる」
「はい!」
呼吸は合っている。
でも、神崎の完成度は別格。
残り十五分。
神崎がこちらを見る。
余裕の笑み。
「また一ミリ、ズレるなよ?」
挑発。
ルイの手が一瞬止まる。
その瞬間――
小春が言う。
「大丈夫です」
強い声。
「わたしたち、ズレても戻せますから」
ルイの視線が小春に向く。
震えてない。
真っ直ぐだ。
「……ああ」
短い返事。
でも、もう手は止まらない。
◇
完成。
神崎チームは芸術作品のような一皿。
隙がない。
対する小春たちの皿は、
荒々しさと、温かさが混ざった構成。
完璧ではない。
でも――生きている。
審査が始まる。
緊張。
沈黙。
神崎が小さく笑う。
「楽しませてくれよ、ルイ」
ルイは視線を外さない。
「今度は、逃げない」
◇
結果は、まだ出ない。
第一競技は接戦。
審査員たちの表情は読めない。
全国大会は、想像以上に過酷。
そして明らかになる。
神崎はただのライバルではない。
ルイにとっての“壁”。
小春にとっての“試練”。
甘さだけじゃ勝てない。
情熱だけでも足りない。
でも——
二人には、もう一つある。
“再生”を知っている強さ。
全国の舞台で、
本当の戦いが始まる。
――つづく




