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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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第9話 『完璧だったあの日』

全国大会出場が決まり、学園は祝福ムードに包まれていた。

廊下ですれ違う生徒たちの声。

「やっぱルイすごいよな」 「一ヶ原も意外だった」

小春はその言葉に、少しだけ胸がざわつく。

(“ルイくんがすごい”……か)

もちろん誇らしい。

でも同時に、自分はまだ足りないと感じる。

放課後。

全国大会に向けた強化練習が始まる。

龍星先生が資料を机に置く。

「今回の大会は、国内最大規模だ」

スクリーンに映し出されたロゴ。

全国製菓学生大会——

優勝者には、世界大会推薦枠。

会場がざわつく。

「ここで勝てば、世界が見える」

龍星先生の視線が、ルイに向く。

一瞬。

ほんの一瞬だけ、ルイの表情が硬くなる。

小春はそれを見逃さなかった。

夜。

実習室で一人、ルイが作業をしている。

誰もいないはずの空間。

小春は忘れ物を取りに戻り、その姿を見る。

ルイの動きは、いつも以上に鋭い。

無駄がない。

冷たいほどに正確。

(怖い……)

そう思ってしまうほど。

完成したケーキを、ルイは無言で見つめる。

次の瞬間。

包丁が入る。

断面。

わずかなズレ。

ほんの一ミリ。

それだけで——

ルイは、ケーキをゴミ箱に落とした。

小春が息を呑む。

「……完璧じゃない」

低い声。

自分に向けた言葉。

小春は思い切って声をかける。

「ルイくん」

一瞬の沈黙。

「見てたのか」

怒ってはいない。

でも、どこか冷たい。

「すごく綺麗でした」

「ズレてた」

「一ミリです」

「一ミリで負けたことがある」

空気が止まる。

ルイは、静かに語り始める。

「あの日も、全国だった」

期待の天才。

史上最年少優勝候補。

観客も、講師も、家族も——

“勝つ”前提だった。

「でも、最後のナパージュが均一じゃなかった」

写真を見せられた。

拡大された断面。

一ミリの差。

「それで二位」

その瞬間から。

“完璧でなければ価値がない”と思うようになった。

「だから、壊れないものしか作らないんですね」

小春の言葉。

ルイは何も答えない。

でも否定もしない。

「怖いんですね」

静かな声。

「また一ミリで負けるのが」

ルイの視線が鋭くなる。

「同情か」

「違います」

小春は首を振る。

「悔しかったですよね」

その一言が、深く刺さる。

同情ではない。

理解。

小春は、試作台に立つ。

「わたし、まだ完璧じゃないです」

メレンゲを立てながら続ける。

「失敗もいっぱいします」

くしゃっと笑う。

「でも、楽しいんです」

ルイは黙って見ている。

「完璧じゃなくても、誰かが“おいしい”って笑ってくれたら」

「それで、救われることもあると思うんです」

甘い考えかもしれない。

でも、それが小春。

沈黙のあと。

ルイがぽつりと言う。

「……お前はずるい」

「え?」

「怖がらない」

「怖いですよ?」

小春は即答する。

「でも、逃げたくないだけです」

ルイの胸の奥で、何かが軋む。

完璧でいなければ。

失敗してはいけない。

その鎖が、少しだけ緩む。

帰り際。

ルイが言う。

「全国、勝つぞ」

いつもと同じ言葉。

でも今日は違う。

「完璧じゃなくても、勝つ」

小春の目が大きくなる。

そして、ゆっくり笑う。

「はい!」

その笑顔が、眩しい。

廊下の影。

その会話を、誰かが見ていた。

ルナ。

静かに拳を握る。

「本気で変わろうとしてるんやな……ルイ」

その目は、決意で燃えている。

全国大会は、ただの通過点じゃない。

それぞれの過去と、

それぞれの“完璧”がぶつかる舞台。

甘くない戦いが、始まる。

――つづく

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