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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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プロローグ

甘い匂いは、いつだって記憶を連れてくる。

バターが溶ける音。

オーブンの中で膨らむ生地。

粉砂糖が、雪みたいにふわりと舞う瞬間。

一ヶ原小春は、そのすべてが好きだった。

人前で話すのは苦手。

教室では目立たない。

自分の意見を強く言えない。

でも――

キッチンに立つときだけは、怖くなかった。

「どうして、そんなにお菓子が好きなの?」

昔、そう聞かれたことがある。

小春はすぐに答えられなかった。

でも本当は、ちゃんと理由がある。

まだ小学生だった頃。

大切な人が、深く落ち込んでいた日。

何もできなかった小春は、震える手でクッキーを焼いた。

形は不格好で、少し焦げてしまったけれど。

それを食べたその人は、少しだけ笑った。

「甘いね」

たった、それだけ。

でもその瞬間、小春は思った。

――甘さは、心を溶かせる。

それからだ。

お菓子作りが“好き”から“夢”に変わったのは。

春。

桜が風に舞う朝。

小春は大きな校門の前に立っていた。

日本最高峰の製菓専門校――

《スイーツアカデミー》。

ここには全国から才能が集まる。

天才も、努力家も、プライドの塊みたいな人も。

そして、その頂点に立った者だけが挑める舞台。

世界大会――

World Pâtisserie Grand Prix。

テレビで見たことがある。

煌びやかなステージ。

緊張に満ちた空気。

完成したスイーツに、世界中の拍手が送られる瞬間。

小春は、その映像を何度も繰り返し見た。

(いつか、あそこに立ちたい)

それは無謀だと言われた。

「小春には無理だよ」

「そんなに目立つタイプじゃないし」

「もっと普通の進路のほうがいいんじゃない?」

わかってる。

自分が目立つ存在じゃないことくらい。

でも。

夢に、性格は関係ない。

転校初日。

校舎に一歩足を踏み入れた瞬間、甘い香りが身体を包んだ。

バニラ。

チョコレート。

焼き立てのパイ生地。

胸が、ぎゅっとなる。

怖い。

でも、それ以上に――わくわくする。

(ここで、わたしは変わる)

静かで、目立たないままでもいい。

でも、心だけは誰より熱くありたい。

同じ頃。

実習室の奥で、一人の青年が窓の外を見ていた。

ルイ。

無駄のない動き。

感情をほとんど見せない目。

「今年はどうだろうな」

ぽつりと呟く。

彼もまた、世界大会を見据えている一人だった。

甘い世界は、甘くない。

努力だけでは届かない場所。

才能だけでも足りない舞台。

そこへ向かおうとする者たちが、この学園に集う。

そして、白衣を羽織る若き講師――龍星。

彼は静かに名簿を見つめる。

「一ヶ原……小春」

小さな転校生の名前。

「本物なら、伸ばしてやる」

その瞳には、厳しさと期待が宿っていた。

出会いは、まだ始まっていない。

衝突も、涙も、恋も。

だけど確かに、運命は動き出している。

小さな苺のムースの中に、

大きな夢を閉じ込める少女。

クールな視線の奥に、

誰より熱い想いを隠す少年。

厳しく導く大人。

そして、世界。

甘さは、弱さじゃない。

優しさは、強さになる。

これは――

スイーツで世界を目指す少女の物語。

そして、夢と恋が溶けあう、青春のレシピ。

春風が、静かに吹いた。

物語は、ここから始まる。

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