第一話 裂界の朝
六人の能力者
1.霧島ハル
•特殊知覚系能力(まだ正体不明)
2.白峰トウカ
•空間切断系能力
3.相馬レン
•重力干渉系能力
4.黒曜マキナ
•精神・感情干渉系能力
5.九条ガイ
•超再生・不死系能力
6.天城ユウト
•概念操作系能力
その朝、空は不自然に静まり返っていた。
鳥の声がない。
風の音もない。
都市を満たしていたはずの生活音だけが、薄く、遠い。
「……気持ち悪いな」
高校へ向かう途中、少年は空を見上げた。
名は 霧島ハル。
どこにでもいるような普通の学生――
少なくとも、周囲の人間はそう思っている。
だが。
(まただ……)
胸の奥で、何かがざわつく。
世界の歪みを察知する感覚。
彼だけが持つ、異常な知覚。
次の瞬間だった。
空が、割れた。
音はなかった。
だが確かに、青空に黒い亀裂が走った。
まるでガラスにヒビが入るように、幾何学的な裂け目が広がっていく。
「……は?」
通行人が立ち止まる。
誰もが理解できない表情を浮かべたまま、ただ空を見る。
そして――
黒い何かが、降ってきた。
◆
「逃げろォォォ!!」
誰かの絶叫。
それが遅すぎたことを、全員が思い知る。
落下してきたのは“生物”と呼ぶにはあまりにも異質な存在だった。
歪んだ四肢。
溶けたような外殻。
顔のない頭部。
それは地面に着地すると同時に、人間へ向かって跳躍した。
悲鳴。
血飛沫。
日常が、わずか数秒で崩壊した。
「くそ……!」
ハルは歯を食いしばる。
逃げなければならない。
分かっている。
だが。
(……動け)
身体が凍りついたように動かない。
怪物が視界いっぱいに迫る。
その瞬間。
世界が、沈んだ。
◆
時間が遅くなる。
いや――違う。
周囲のすべてが粘ついたように減速していた。
「間に合ったか」
背後から声。
振り返ったハルの視線の先に、一人の少女が立っていた。
銀色の短髪。
冷たい瞳。
名を 白峰トウカ。
「下がって」
彼女が静かに告げる。
怪物の動きは異様なほど鈍い。
トウカが前へ出る。
何も持っていない。
武器すらない。
それでも――
彼女が空間を撫でた瞬間、怪物の身体が音もなく切断された。
「……え?」
「説明は後」
さらに別の声。
いつの間にか、周囲には五人の人影が現れていた。
長身の男。
小柄な少年。
不敵に笑う女。
無表情の青年。
包帯だらけの男。
「状況は最悪だな」
そう呟いた青年――相馬レン。
「裂界現象……やっぱり始まったか」
「のんびり分析してる暇ある?」
肩をすくめた女――黒曜マキナ。
ハルは言葉を失う。
何が起きているのか理解できない。
だが一つだけ、確かなことがあった。
彼らは――普通ではない。
そして。
彼らの視線が、一斉にハルへ向けられる。
「見えてるんだろ?」
包帯の男――九条ガイが言った。
「歪みを」
空の裂け目を見上げながら、最後の青年が静かに告げる。
名は 天城ユウト。
「君も、こちら側だ」
その言葉とともに。
空の亀裂がさらに広がった。
異世界への扉のように。
終末の入口のように。
――六人の能力者と、一人の少年の運命が交差した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
『六刻のイグジステンス』は、
「選ばれた英雄」ではなく、
「世界からはみ出した者たち」を描きたいという発想から生まれました。
力は祝福ではなく、異物。
才能は希望ではなく、歪み。
そんな世界観の中で、彼らは何を選び、何を失うのか。
正義も救済も、必ずしも美しい形では現れません。
時に残酷で、理不尽で、取り返しのつかない決断が訪れます。
それでも物語は進みます。
この作品が、少しでも心に引っかかるものになれば幸いです。
もし続きを望んでいただけるなら、
彼らの運命はさらに深い絶望と真実へ踏み込んでいきます。
次話でまたお会いできることを願って。
――ありがとうございました。




