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夢の住人~夢の世界で未来を選べるスキルを得た俺は、選択ひとつで死ぬバトロワに挑む~  作者: 阿行空


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「選別」

『夢の住人~外伝~』にお越しいただき、ありがとうございます。


この外伝は本編『夢の住人』の“裏側”に焦点を当てた短編です。


本編で語られなかった出来事、別の場所で進んでいた話――

そうした要素を通して、本編のシーンや台詞の意味が少しだけ違って見えることを目指しています。


※この外伝には、本編【○○】までの内容に触れる描写が含まれます。

未読の方は、先に本編をお読みいただくことをおすすめします。


それでは、『夢の住人~外伝~』をお楽しみください。

「……帰りたいんだろ?」


少女――名乗りもしないその彼女が、空になったカップを指先でくるくると回しながら言った。小さな回転音がカウンターに反響し、静かな店内に心地よい緊張感を生む。


「じゃあクスリを買えばいい。あんたの通貨でも、ギリ一回分は足りる」


彼女の声には、揺らぎも慈悲もなかった。ただ、事実だけを静かに述べているような、淡々とした口調。まるでこの世界において、それ以外の選択肢など存在しないかのように。


「……どこで手に入るんだよ」


俺は自然と声を落とした。自分の声が少し上ずっていたことに気づき、無意識に喉を鳴らす。


「ミッション報酬。もしくは、取引所」


そう答えると、彼女はポケットから取り出した。光沢のある真鍮製の蓋には、目立たないように文字が彫られていた――“TYPE-SLEEP”。


蓋を開けると、中には銀色の錠剤が一粒、まるで宝石のように鎮座していた。光を吸い込むような沈んだ輝き。その存在感に、俺は息をのんだ。


「眠気を強制的に誘発する。飲めば現実に戻れるよ」


「……ほんとか?」


「うん。戻れるけど、また現実で眠れば、ここに戻る。そういう仕組み」


彼女の視線は、銀の粒よりも俺の反応を見ていた。その黒目がちな瞳は、相変わらず何もかも見通すように深く、逃げ場がなかった。


(つまり……現実に戻れても、それで終わりじゃない?)


「二度目以降はどうするか。……もう稼ぐしかない」


彼女の声のトーンが一段階下がり、空気が一気に張り詰める。


「人を殺すか、自分の“できること”を売るか。ここで生きていくって、そういうこと」


彼女はソファーの背に身を預け、両足を無造作に組んだ。くたびれたパーカーの袖が少しずれて、手首の細い骨と、そこに擦り傷のような古い痕が浮かび上がる。彼女は続けた。


「“できること”ってのは、スキルって呼ばれてる。ここの住人の一部は、“現実じゃできなかったこと”をここでやれる。無意識の中に眠ってた力。それが、ある日突然、現れる」


「……それって、誰でも?」


「まぁある程度はね。スキルは先天的。遺伝か、資質か、それとも偶然か。発動条件も違うし、制御も難しい。大半は平凡スキル。殺す側にもなれず、金も稼げず、ただ消えていく」


彼女は静かに言い放った。口ぶりはあくまで冷静だったが、その一言が重く、店内に沈殿するように残った。


「じゃあ……君は?」


俺がようやく問い返すと、彼女は一瞬だけ笑った。それは、哀れみでも優越感でもなく、ただ自分の立場を受け入れている者の微笑みだった。


「私は、スキル持ち。あと、運営が何をやってるか、ちょっとだけ知ってる」


「運営……?」


その単語に、ぞくりとした。ゲームみたいな響きだが、ここにいると、それが現実のものとして感じられる。


彼女は声を落とし、さらに続けた。


「この世界は、ただの夢じゃない。首謀者がいて、目的がある。運営は優秀な人間を選んでる。力やスキル、生存本能があるやつだけをふるいにかけてる」


「……なんでそんなこと?」


「人類の選別だよ」


店内に溶け込んでいた静寂が、彼女のその一言でビリッと裂かれたように感じた。


「ここで何ができるか生き残れるのか。それを見て、選ばれたやつは現実で次世代の人類として"選ばれる"。誰が、どこで、何のためにかは知らない。まぁ、全部あくまでも噂ね」


人を殺して生きるか何もせずに殺されるのを待つかそんな世界に足を踏み入れてしまったことに絶望した。


「これを飲んだら現実には戻れるんだな」


「うん。でも、戻っても次に眠ればまたここに来る。逃げられない。入った以上は、“ここの一部”だから」


「じゃあ……どうすれば解放される?」


「知らない。多分、運営に“選ばれる”か、”消える”か、……そのどっちか」


彼女は言葉を切ると、カップの残ったラテの香りを嗅ぎ、目を細めた。


「一部では“ノアの箱舟”とも言われてる。現実の日本は、もう人口3億を超えてる。世界は100億人。貧困層や行き場のないやつらが山ほどいる。その中にも、隠れた優秀なやつはいる。だから、運営は“眠らせて”、ここでふるいにかけてる。そこに選ばれたやつらが本能的に優れた新人類……そんな仮説もある」


「君は、それを信じてるのか」


彼女はゆっくりと息を吐いた。どこか諦めにも似た呼吸だった。


「さぁね。どっちでも私には関係ない」


しばらく沈黙が流れた。


やがて彼女は小さな声で呟いた。


「ここで“選ばれない”ってことは、現実でも必要とされないってこと。……それが一番、怖いでしょ?」


俺は返す言葉を見つけられなかった。


彼女は缶を俺の前に滑らせた。


「今飲むかどうかは任せる。でも、覚えておいて。次に戻るとき、覚悟がないと“ただの迷い込んだカモ”になる」


その言葉が、耳の奥にこびりついた。


俺は缶をじっと見下ろした。小さなその中に、たった一粒の薬。けれど、それは“現実”という名の逃げ道と、“ここ”という名の運命の分岐を象徴していた。


――選ばれるか、消えるか。


それが、この世界の選別だった。




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週1で『夢の住人 外伝』(短編)も投稿(毎週月曜)。


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