「侵入者」
――ウゥゥゥゥン、ウゥゥゥゥン
「警報。警報。シェルター内に侵入者を検知。非戦闘員は直ちに退避してください」
シェルター内に響き渡る警報
(侵入者……!?)
誰かがそう口にする前に、食堂が一斉に動いた。椅子が乱暴に引かれ、テーブルの脚が床を擦って甲高い音を立てる。さっきまでのだるい空気が嘘みたいに引き剥がされて、一気に戦闘態勢に入った。
全員が一斉に食堂を飛び出す。
――そして、遅れてポテコが遅れて飛び出す。
「えっ、えっ、なに!? なにこれ!?」
ポテコはコップを手放す余裕すらなく、胸に抱えたまま走り出した。
肘がぶつかってコップの縁がかちかち鳴る。慌ててるのに、妙にその動きがのろく見えて、今はそれが余計に目につく。
廊下を四人が走る。
廊下に足音が跳ね返り、警報が壁を叩いて戻ってくるせいで、距離が掴めない。近いのか遠いのか分からないまま、ただ音だけが追い立ててくる。照明の弱い場所が帯みたいな影を落として、足元が吸い込まれそうだった。
走りながら、小夜が叫ぶ。
「ぼうや! 非戦闘員の保護!」
ダンが「えっ」と短く息を漏らす。反射で足が止まりかけたが、すぐ歯を食いしばった。小夜の声には迷いがない。だからダンも迷っていられない。
「……わかった!」
ダンが踵を返し走る。戻っていく背中が、廊下の影に飲まれていく。残る三人――ゆい、小夜、ポテコは、警報の先へ向けて速度を上げた。
「おい小夜!」
廊下脇の扉が勢いよく開き、中からとうやが顔を出した。警報音にかき消されそうな声で叫ぶ。
「状況は!?」
走りながら小夜が振り向きもせずに返す。
「わからん!けど侵入者や!」
そのまま小夜が通り過ぎると、とうやは迷いなく扉を放り、反動みたいに走り出した。数歩で距離を詰め、後ろに合流する。
小夜が続ける。声が低く、鋭い。
「このシェルターに侵入できるってことは、相当な手練れや。気ぃ抜きなや!」
その言葉で全員の呼吸が揃い、空気の張りが一段上がった。ゆいもポテコも、口を閉じる。足音だけが増える。
「まずは桧山はんと合流して、篁に連絡!――」
そのとき。
爆発音。
廊下の奥で空気が叩き潰されるみたいな衝撃が走った。
床がかすかに跳ね、遅れて耳の奥が痛む。匂いが追いつくより先に、喉の奥が乾く。
四人は爆発音の方へ向かう。曲がり角が迫り、視界の先はまだ見えない。
曲がり角を曲がろうとすると――
曲がり角の先から、桧山が吹き飛んでくる。
壁に叩きつけられた身体が、削れたような音を立てて滑り、床へ落ちた。
胸元は血みどろで、肉が吹き飛び、肋骨がすべてみえている。
あり得ない。
目が理解を拒むほどの傷なのに、血だけは容赦なく廊下を染めていく。
桧山はこちらに気付くと、口をかろうじて動かしながら――立ち上がる。
「……に……げろ……」
声は掠れて途切れ途切れで、それでも言葉にしようとする意思だけが残っている。
胸元が吹き飛ばされて立ち上がるのですら異常なのに、桧山は倒れない。
倒れないまま、手に鎖でぐるぐる巻きにされた斧を構えて戦闘態勢に入っている。
鎖は柄に巻かれているだけじゃない。
握る腕にも絡みついていて、皮膚に食い込み、血が滲んでいた。
武器を落とさないため――いや、“落とせない”ように自分を縛っているみたいで、ゆいの喉が詰まった。
四人は駆け寄り、桧山が飛んできた方に目を向けた。
そこには三人の敵がいた。
もう一人は袴姿の女の子。背筋が妙にまっすぐで、年齢の割に目つきが冷たい。動かなくても、視線だけで刺してくる感じがあった。
もう一人はカッパを着た女の子。フードの影で表情が読めないのに、そこに立っているだけで空気が湿るような錯覚がした。廊下が急に重くなる。息が微妙に吸いづらい。
そして一人は青年。
青年は、かんかんとアメリカンクラッカーを上下して鳴らしている。乾いた音が廊下に響き、警報音と混ざって耳を刺す。
青年は大量の返り血を浴びて笑っている。服も髪も赤く濡れているのに、気にする素振りがない。
むしろそれを飾りみたいに纏ったまま、口元を吊り上げている。
楽しそうに、愉快そうに、まるでこの状況そのものを遊びにしているみたいに。
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