「怒りの銃火」
「うわぁぁぁあああっ!!」
ケイは怒号を上げながら、グローブを通じて床の鉄板を力任せに引き剥がし、それを瞬時に解析・変質させた。
「うおおおおおっ!!」
歪んだパネルがひしゃげ、ねじれ、何か意志を持ったかのように変形を始める。次々と接合されたパーツが、重厚な骨組みを組み上げていく。
砲身、冷却管、給弾装置、回転機構——すべてが一体となって形を成す。
わずか数秒後、ケイの前に完成したのは、まるで旧時代の兵器を思わせるような、武骨で巨大な機関銃だった。
ケーブルがグローブの接続ポートから本体に繋がり、即座に電流が走る。銃身が重々しく回転を始め、金属のうなりが空気を震わせた。
「ズガガガガガガッ!!!」
怒涛のような爆音とともに、連射された無数の弾丸が、火花とともに射出される。
その一発一発は、通常の鉛弾ではない。炸薬を内包した特殊な榴弾であり、着弾と同時に周囲に破片と衝撃波を撒き散らすよう設計されていた。
弾道は風を切り、鋭い角度で御影に迫る。空中には光の筋がいくつも走り、まるで一点に向けて流星が落ちていくようだった。
ドォンッ!! ドカァァン!!
弾丸が着弾した瞬間、閃光と爆音が炸裂した。通常の銃弾とは違い、その一発一発が“榴弾”として爆発するように調整されていたのだ。
御影の立ち位置を中心に、爆炎が連鎖的に広がっていく。炎と煙があたり一帯を覆い尽くす。
ケイはなおも引き金を引き続け、怒りに任せて銃弾を吐き出す。
「うおおおおっっ!!!」
目に浮かぶのは、拓真の姿があった場所。そして今、その場には“なにもない”空白だけが広がっている。
その感情が、ケイの中で怒りの火薬となり、トリガーとなって爆発したのだった。
——やがて。
「ゲホッ……ゲホッ……」
黒煙の中から、御影が咳き込みながら姿を現す。制服は焼け焦げ、髪にも煤がついている。
「殺傷能力、高すぎ……まじで……」
片手で口元を覆いながら、煙を振り払うようにして前へ進む。その表情には、驚愕と感心、そしてわずかな嬉しさが混ざっていた。
「たった数秒であんな機関銃を……しかも、床の鉄からだなんて……」
言いかけたそのとき。
「——っ!!」
ケイの姿がすでに消えていた。
「どこ……っ!?」
御影が目を見開いた瞬間、眼前に迫る鋼鉄の閃光。
「ぐっ!」
ケイは機関銃の本体を縦に真っ二つに割っていた。そしてそれぞれのパーツを、巨大な二振りの戦斧へと即座に変化させていたのだ。
その斧が、御影の頭上へと容赦なく振り下ろされる——!
だが、御影は今度は真剣白刃取りをせず、一瞬の身のこなしで身を翻し、斧の軌道を回避した。
「チッ……」
鋭く空を切った戦斧は、そのまま床に叩きつけられる。
「——ッ!!」
次の瞬間、斧の衝突地点から激しい爆発が巻き起こった。
ドゴォォォン!!!
爆風と炎が一気に広がり、御影の身体がその勢いに呑まれて宙を舞う。
「うわっ……!」
彼の身体は弾き飛ばされ、煙と炎を引きずりながら床を滑り、やがて訓練場の壁際にまで吹き飛ばされた。
「っは、ははっ……まさか、斧まで爆発するとはね……!」
御影は咳き込みながらも、口元に笑みを浮かべ、壁にもたれるようにして立ち上がろうとしていた——。
御影が顔をゆっくりと上げると、目の前に構えるケイの姿が見えた。
「……あ、それは——やばいかも」
静かな声とともに、御影の顔から笑みが消える。
ケイの腕には、巨大なエネルギー砲が展開されていた。両肩から背中にかけてケーブルのような構造体がうねり、胸部に集まる光の粒子が淡く明滅している。砲身の先端には、白熱したエネルギーが螺旋状に収束し始めていた。
御影は即座に両手をケイに向けて構える。
「ッ!」
重苦しい空気が張り詰めた、次の瞬間——
「あぁぁっぁぁぁぁあああああっ!!」
ケイの叫びとともに、エネルギー砲が閃光を放って炸裂する。
——だがその瞬間、世界が切り替わった。
光に包まれた次の瞬間、ケイの足元にあったのは——
草原。
「えっ……?」
広大な牧場に、ケイは一人立っていた。足元には柔らかな芝が広がり、遠くにはのんびりと草を食む牛たちの姿。頭上には抜けるような青空が広がり、流れる雲が静けさを演出していた。まるで異世界のような、現実離れした静けさがそこにはあった。
その幻想のような光景を打ち破るように、背後から聞き覚えのある、軽い調子の声が響く。
「いやー、やりすぎだよケイくん」
その声に反応したケイは即座に反応し、掌に刀を形成。反射的に振り返りながら振り下ろす構えを取った。
だが、視界に飛び込んできたのは、両手を高く挙げ、満面の笑みで降参のポーズをとる御影の姿だった。
——そして。
その背後には、傷一つない拓真が立っていた。
「たくま……っ!!」
ケイは慌てて攻撃の手を止め、刀を勢いのままに地面へと下ろした。驚きと安堵がないまぜになった表情で、彼は立ち尽くす。
「僕のスキル、“消し飛ばす”って言ってもね。完全に消し去るんじゃなくて、実は“別の場所に転送”してるだけなんだ」
御影は悪びれもせず、にこにことしながら淡々と説明を始めた。
「……っ」
「ちゃんと全身を一括で飛ばさないと真っ二つになるけどねっ。牧場にまるっと飛ばしてあげた。……さすがに、あのままだとシェルターごと吹っ飛びそうだったから、ね。ケイくんごと、まとめて転送しちゃったってわけ」
膝から力が抜けたように、ケイはその場に崩れ落ちた。
「……よかったぁ」
心拍がようやく落ち着いてきた頃、御影が軽く手を叩く。
「よーし、じゃあこれにて訓練終了っ! 帰ってご飯食べて体休めて? 疲れたでしょ〜」
ケイはまだ呆然としたまま、ぼそりと呟く。
「……訓練でやりすぎだろ……俺は……あんたを……本気で殺すつもりで——」
その言葉を遮るように、御影はにっこりと笑う。
「でも、みんな生きてる」
ケイはその言葉に、しばし沈黙し、そしてふっと息をついた。
「……ありがとう……」
御影は腕時計を見ながら、ふいと立ち上がる。
「じゃあ、僕は次の予定あるから、これで〜」
それを聞いた拓真が、慌てて言う。
「え、えっ!? シェルターまで飛ばしてくれないんですか!?」
御影は両手をぶんぶんと振りながら、笑顔で応じる。
「えぇ〜、だって僕くたくたなんだもん。二人もこんな遠くまで飛ばしてさ、エネルギー切れ〜無理無理、走って帰ってね〜」
そう言い残すと、御影は胸に手を当てて、すっと地面に正方形の後を残して消えた。
静寂の中、拓真が手元のタブレットをいじる。
「……ここから、シェルターまで……50キロ以上あります……」
ケイと拓真の肩に、深いため息が重なった。
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