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夢の住人~夢の世界で未来を選べるスキルを得た俺は、選択ひとつで死ぬバトロワに挑む~  作者: 阿行空


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「兆し」

ミッション報酬として2000円が加算されたスマホの画面を見ながら、ケイはカフェのテーブルでしばらく無言だった。 この数時間で起きた出来事――襲撃、初の戦闘、スキルの発現、それらが頭の中で渦を巻いていた。


目の前にあるカップの中の泡立ったミルクが、徐々に静まっていく様子をぼんやりと眺めながら、ケイは小さく呟いた。 テーブルに置かれたフォークが微かに振動し、気づかないうちに手が震えていることに気づく。


鉄パイプや銃を握ったとき、確かに“何か”があった。 それはただの戦いではなく、頭で考えるよりも速く、全身が反応していた。 構造や重さ、どこをどう持ち、どう使えば効果的か――それが一瞬で理解できていた。


「ケイ」


向かいの席からゆいが声をかける。カップの縁に口をつけたまま、一度も目を逸らさずにこちらを見ていた。 ラテの表面にはまだ薄くミルクの渦が残っており、ゆいの手はそれをゆっくりと回すように動かしている。 カフェの空調が少し強くなり、二人の間に置かれた紙ナプキンがふわりと揺れた。


ゆいはカップをそっとテーブルに置いた。陶器が木の天板に触れる音が静かに響く。


「ねぇ、ケイ。さっきの戦闘で、確信したんじゃない?自分に何かが宿ってるって。それ、ただの偶然で終わらせるつもり?」


ケイはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。


「……いや、試したい。ちゃんと戦えるかどうか」


「よっしゃ、じゃあ決まり」


ゆいの笑みにはどこか満足げな色が滲んでいた。


その会話の間、拓真は黙って二人のやりとりを見つめていたが、不意に口を開いた。


「僕も、また行きたいです」


ケイとゆいが同時に顔を向ける。


「えっ?」


「もちろん、戦うのは無理だと思います。でも……今日、見てて思ったんです。ゆいさんもケイさんも、自分の役割をちゃんと持ってて、それがすごくかっこよかった。僕も……僕なりに、できることを探したい」


言葉にはまだ不安が残っていたが、目はまっすぐだった。 その真剣な表情に、ゆいが少しだけ目を細めた。


「へえ、意外とやる気じゃん。じゃあ、ちゃんと足引っ張らないでよ?」


「は、はいっ」


カフェの空気が少し和らぐ。 テーブルの隅に置かれたグラスの水が光を反射し、窓の外では夕闇がじわじわと広がっていた。 街灯が少しずつ点灯を始め、通りを歩く人々の影が長く伸びる。


三人は、タブレットを囲むようにして次のミッションを検討し始めた。


画面にはいくつかの候補が並ぶ。


・旧地下鉄構内のルート調査 ・廃病院での医療機器回収 ・武器庫跡地の探索


「この武器庫跡地ってやつ……俺、行ってみたい」


ケイが言った。


「理由は?」


「武器があるってことは、それだけ使う機会もあるかもしれない。でも、俺にとってはそれを触って、理解すること自体が訓練になる。手に取るだけで、“知れる”なら、それを繰り返すのが一番近道な気がするんだ」


「いいと思う」 ゆいが頷いた。


「敵がいるかどうかは場所次第だけど、武器庫ってことは警備や仕掛けが残ってる可能性もある。慎重に行こうね」


拓真は少し顔を強張らせたが、それでも強く頷いた。


「……僕、マップ調べておきます。地形とか、前に行った人の記録とか」


「助かる」


そのとき、カフェの窓の外に、一瞬奇妙な気配が走った。 夜の街並みに溶け込むように、フードをかぶった人影がこちらを見ていた。


「……誰か、見てた?」


ケイが声を潜めて言うと、ゆいも一瞬だけ目を細めて立ち上がる。


「外……誰もいないよ」


ガラス越しに確認したが、すでに人影は消えていた。 ただの通行人か、それとも――


ゆいは椅子に戻り、何気ないふりをしてカップを口に運んだ。


「この世界では、誰がどこで見てるかわからない。気を抜かないこと。覚えておきな」


「……ああ」


カフェの空気が、少しだけ冷たくなった。 拓真も黙り込んで、心なしか背筋を正して座り直す。


ゆいが空気を換えるように明るい口調で口を開いた。


「最初に鉄パイプを取ったとき、具体的には何が見えたの?」


「……見えたというか、流れ込んできた。重さ、形、重心の位置。どう振れば一番効くか、全部」


「ふーん。無意識の技術補完型。接触による戦闘支援ってところかな」


「……そんな分類があるのか」


「まぁ何となくね。体質とか、職能系とか、いろいろ。分類をわかってると、スキルに影響する」


「影響……?」


「スキルはしっかり理解してないと使えないでしょ?。理解を深めておくと、発動の幅が広がったり、精度が上がったり、別の機能を見つけたり……鍛えれば鍛えるほど、自分に合った形に育っていく。大まかに自分でもわかってないとね」


ケイは初めて聞く話に目を細める。


「スキルを育てる……か。そう考えると、ちゃんと付き合っていくべきなのかもしれないな」


「そ。あんたはきっとこの世界で“戦える側”だよ、ケイ」


そう言ってゆいは、いつになく真剣なまなざしを向けてきた。


「それがどんなに貴重なことか、ちゃんと理解しなよ?」


それがどういう意味なのか―― ケイはその時まだ、理解していなかった。 だが、その言葉が静かに胸の奥に沈んでいくのを感じていた。


その夜、三人はそれぞれの思いを胸に休息をとった。


明日の戦いに備えて。









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毎日 昼12時と夜の20時の2話更新です。




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週1で『夢の住人 外伝』(短編)も投稿(毎週月曜)。

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