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2、最大にして最高の歌

コンビニに行ってから帰って来る途中。

彼女は「用場さん。すいませんが今から10分ほど自宅で待って居て下さい」と言ってきた。

それから彼女は先に帰宅した。


俺は「え?」となりながらも待ってみる。

そして10分が経った後。

インターフォンが鳴り響いた。


「はい?」

『あ。私です。長友です』

「あ、ああ。長友さん」


俺は直ぐにドアを開ける。

そこに長友さんが鍋を持って立っていた。

手袋を嵌めており。

熱いのだろうと思わせる感じだった。

何だろう?


「な、長友さん?」

「ちょっと温めなおすのに時間がかかりました」

「...え?」

「これ筑前煮です」

「え?わざわざ俺に?」

「何かコンビニ弁当って塩分が高いですし」


長友さんはニコッとしながら俺を見る。

俺はその姿にドキッとしながら鍋を受け取る。

それから長友さんを見る。

長友さんは柔和な顔で「ご飯ちゃんと食べて下さいね」とふわっとした。


「...あ、ああ」

「その。自暴自棄になっている...様な感じもしましたので」

「自暴自棄か。...大丈夫。大丈夫だよ」


俺は慌てて答える。

彼女は全てを見透かしているんだな。

そう思いながら本当にバレないかドキドキした。

そして長友さんは頭を律儀に下げる。

それに応えながら顔を上げる。


そして室内に持ち込んだその筑前煮。

ありえないぐらい美味かった。

こうして考えると出汁とかとるの大変だろうに。

そう思ってしまい全部食べてしまった。

汁一滴も残さずに。


涙が止まらなかった。



翌日になってから俺は鍋を返しに行こうと思い学校の通学鞄と一緒に持ってからドアを開ける。

それから長友さんの部屋に行こうとした。

すると長友さんの部屋のドアが開いた。


「あ。おはようございます用場さん」

「おはようございます!?」

「?」


長友さんは「?」を浮かべながら柔和な笑顔になりながら俺に手を振ってくれる。

その姿がまた可愛らしかった。

俺は「...」となりながら鍋を差し出す。


「あ。美味しかったですか?」

「...とても美味しかった。...身に染みたよ」

「...そうなんですね。良かった。こんな私の...料理を感動してくれる人が居るなんて」

「...長友さんは料理が上手なんだね」

「はい。清水さんに教えてもらいました。...あ。すいません。知り合いですね」

「...そ、そうなんだ」

「はい」

「...」

「...」


そして沈黙が流れた。

俺は長友さんを再度見てから顎に手を添えて「そ、その。長友さんは何処の学校に通っているんですか?」と聞いてみる。

すると長友さんは躊躇うかと思ったのだが「近所の花蜜高校ですよ」と無邪気に答えてくれた。

俺は「!」となってから「え?」となる。


「あ、あのお嬢様学校の?」

「そうですね。因みに用場さんはこの近所の...県立の高校ですよね」

「そうだな。俺は単純に馬鹿だからね」

「そんな事は無いですよ。お馬鹿そうな顔をしてないです」

「...そう言ってくれて有難いね。でもお馬鹿さ。...だから単純な事しか出来ないしね。馬鹿な事ばかりだよ」


そう言いながら俺は複雑な顔をする。

すると長友さんは少しだけ深刻そうな顔をしたが直ぐにぱちんと手を叩いた。

「まあそれはさておき」と言いながら、だ。

そして「また何か作っても良いですか?」とまたニコッとする。

俺はハッとしてから「...え?」となる。


「私、用場さんの喜ぶ顔を見てから...純粋に嬉しくなったんです」

「...」

「...ご迷惑でなければまたお裾分けで」

「...俺なんかの為に?」


里島めぐると...何でこんなに落差があるのだ。

そう思いながら俺は深刻な顔をする。

すると「...用場さん?」と長友さんが聞いてくる。

俺は首を振った。


「ゴメン。でも君は料理も得意なんだね」

「当たり前ですよ。だって1人暮らしですからねぇ」

「そうか。俺、君より経験とか経歴が少ない。1人暮らしが初めてでもある。だからもしかしたら何か聞いたりするかもしれないね」

「そうですか?是非是非。沢山聞いて下さいね!」

「...有難う」


そして俺は笑みを浮べてから頭を下げる。

それから歩き出そうとした時。

風が吹いた。

そうしてから「あの」と声がした。

顔を後ろに向けるとそこに長友さんが真剣な顔で居た。


「...もしかしてですが...」

「?」

「...あ、いや。やっぱり何でもないです」


その言葉に俺は「???」を浮かべる。

そして長友さんを見る。

長友さんは首を振る。

それから「内緒です」と唇に人差し指を立てた。

ウインクをした。


「???...えっと...」

「すいません。恐らく勘違いだと思います」

「か、勘違い?」

「はい。大丈夫です。全部こっちの話なので問題はないんです」


俺は訳が分からないまま彼女を見る。

すると長友さんは「私も学校に行きますね」と小さくまた手を振って急ぎ足で歩いて行った。

俺はその様子を見てから「?」を浮かべつつそのまま長友さんを見送る。

何かむず痒くて頬を掻いた。



「徹。独り暮らしはどう?」

「...まあまあだな」


俺の高校の2階の教室に来てからドアを開けて入る。

それから椅子に座って友人の女子、内藤智ないとうともに1人暮らしの経過を打ち明けた。

ボブヘアーの可愛い女子。

四角い眼鏡をしている。

俺にとっては高校一年生からだが大切な親友である。一

あの時以来の。


そんな智には今までの成り行きとかを全て説明した。

智は顎に手を添えて悩みながら「難しいね」と言いながら苦笑する。

俺は肩をすくめた。

「そうだな」と賛成票でも出すかの様に。


「彼女の笑顔を見ていると復讐心が薄れる」

「うんうん。でも復讐はキチンとやらないと。ね?徹」

「...変わらずだな」

「私は物事を曖昧にするのが許せないだけ」


智は笑みを浮かべる。

俺はその姿を苦笑いで見る。

「まあでもお前ならそう言ってくれると思ったけどな」と言って伸びをした。

智は「まあでも里島さんは最初からおかしいって思ったけどね。全て裏切られた気分だね本当に」と死んだ様な真顔の様な顔をする。

俺は目線だけ動かして「だな」とまた言った。


「本当の本当に最低」

「まあ本当に最低なのは分かるよ...お前の言葉でまた戻って来れた」

「...そう?」


そうしているとチャイムが鳴った。

智は手を振ってから「じゃあまた後でね。徹」と言ってから斜め後ろの椅子に腰掛けてから俺達はホームルームを迎える。


俺はそれを「ああ」と言ってから見送ってから前を見る。

気だるそうな相変わらずの担任が入って来た。

俺達を一瞥してからまた気だるそうにする。

東野真知子とうのまちこ教諭だ。

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