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幸福刑  作者: 雨路の宿
第一章 紅く燃ゆる小さき灯
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第五話 打ち上げ花火

「父さん、俺に魔法を教えて。」

「ダメだ。」

「なんで。」

「まだ魔法に覚醒してないから」

「どうすれば覚醒するの。」

「六歳ぐらいになったら勝手に覚醒するんだよ、

今はローラン先生とお勉強でもしとくんだな。」

「ケチ親父・・・」

「誰がケチ親父だ!!!」


俺は、三歳になった。

しかし、いまだに魔法は教えてもらえない。


アルベルに続いて、ローズとフロイドも魔法に覚醒し、勉強と訓練に勤しんでいる。

一方俺は、いまだに覚醒することはなく、訓練の様子をのぞき見したり、盗み聞きして、どうにか早めに覚醒するヒントはないかと探っている毎日。


ローランは家事や育児だけでなく、教育にも精通しているらしい。

俺とネルとリンに向けて、世界の基礎知識や基礎学習の授業を行っている。

今では、俺の中でのローランの評価は「なんでも超人」となっている。

教えてはくれないが、魔法も使えるとか。


「ふふふ。レトはまだ3歳なんだから、ダメでーす♡


ね~。ルーナ、アレス♡」


クラウンに同調する形で、フレデリカにも俺の魔法勉強を否定された。

そして、フレデリカは腕の中に眠る、二つの新たな生命に話しかけてた。


名はルーナとアレス。俺らと同じく、また双子らしい。


それにしてもどんだけ生むんだよ。

この世界ではこれが常識なのだろうか。


「それよりも、ネルを起こしてきてくれない?

あの子ったらまだ起きないのよ。

ローランはリンの復習に付きっきりだし、お願い、レッターお兄ちゃん♡」


これ以上、粘っても魔法を教えてくれそうにないな。


「わかった。行ってくる。」


俺は生まれた直後、まるで監獄かのように思えた子供部屋を後にする。

月日の経過は恐ろしい。

もう、あの部屋を懐かしいと感じている俺がいる。


二歳を過ぎたくらいの頃から、俺たちは個人の部屋で寝るようになった。

もちろん、屋敷内の出入りも自由。快適になったものだ。


しかし、俺含め兄弟は皆、この屋敷の敷地内から外に出たことがないのだ。


井の中の蛙大海を知らず。

おれはまだ異世界という名の大海に飛び込めずにいた。


出る方法を試さなかったわけではない。

しかし、この敷地内を覆うように強力な結界が張られており、外に出ることは

不可能だった。


しかし、逆に言えば外からの脅威もないということ。


つまり、クラウンは外にある何かを恐れているということになる。


無理に聞こうとは思わないが、いつかちゃんと理由を話してくれるのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ネルの部屋についた。

まずはノックをしてみる。


しかし、反応はない。


カギは・・開いている。


仕方ないか。


「お邪魔しまーす。

ネル姉さん。母さんが起きなさいってさ。」

「うーーーん。無理って言っといて・・・」


毛布にくるまったネルを動かそうとするも、

確固たる起きたくないという意思で反抗してくる。


いつにも増して、起きる気配がない。


「そういうわけにもいかないよ。

ネル姉さんも母さんに怒られたくないでしょ?」

「・・・怒られるのもヤダ。でも起きない。」


これはダメなやつだ。

別に俺がネルに用があるわけではない。


早めに諦めて、母さんに報告するか。

母さんはネルに特段甘いところがある。

どうせ、怒られないだろう。


おれにとって大事なのは結果ではなく、

アリバイだ。


そこに、たまたまローズが通りかかった。


「あら、レト~♡

どうしたの、浮かない顔して。」

「うぶっ!!」


出会い頭に強く、抱きしめられた。

いきなりの出来事で、よけることもできなかった。


「急に抱き着いてきたらびっくりするよ、ローズ姉さん。

魔法の訓練は終わったの?」

「ええ。最近は調子が良すぎるくらよ。

それもレトが教えてくれた書物のおかげね!

流石は最愛のレトね!♡」


ローズは魔法に覚醒してから明らかに身にまとうオーラが強く、激しく燃えるようなものへ変化している。これは、クラウンやフレデリカだけでなく、アルベルやフロイドとも似ている。


それにローズの好調・・・


やはり俺の推論通りかもしれない。


俺は魔法の書物を読み漁ったり、魔法の訓練を観察したりして、

魔法の根本について理解できないかとここ一年研究してきた。


その結果がもうすぐそこまで来ている気がする。


「ローズ姉さんの頼りになれそうで良かったよ。」

「ありがとう♡

それで、なにか悩み事があるなら言ってみて?」


俺はローズにネルのことを話した。

ローズならどうオチを付けるのか興味があったからだ。


「そうなのね。

じゃあ私がネルを起こせれば、レトも怒られなくても済むわね♡」

「ローズ姉さんにはできるの?」

「任せなさい。だって私、お姉ちゃんだもの。」


他愛もない話をしていると、あっという間にお目当ての部屋の前に着いた。


まずは俺がもう一度対応することになった。

これで起きれば、ローズは出る幕なく終わらせることができるが・・・


「ネル姉さん、起きて!」

「・・・」


無言で抵抗してくる。


やはり、ネルは俺ではどうにもできないようだ。


そこでローズの出番だ。

俺の後ろで待機していたローズが、待ってましたと言わんばかりに、歩き出した。

ネルのベッドの前でとまり、そっとネルに触れて話し出した。


ネルの体がびくっと震えた。

ネルはローズがいることに気づいたようだ。


少し顔を出して、俺に目で訴えかけてくる。

なんでローズ呼んでんだよ、と。


「ねえ、ネル。あなた、レトに迷惑かけたらしいわね。」

「・・・ローズ姉には関係ないでしょ。」

「ふーん。お姉ちゃんに向かってそんな態度とるんだ。」


いつもよりワントーン低い話し声を初めて聞いた。

それはネルも同じだろう。


凍えるように冷たく、しかし燃えるような熱さもある。

そんな不思議な気分になっていた。


完全にローズが空気を支配している。


無言の圧でネルに起きることを促している。



無限にも感じる数十秒の沈黙のあと、

勝負はあっさりと終わりを告げる。


「お、起きる。」

「ん?」

「・・・起きます。」


あの怠惰でマイペースなネルに敬語を使わせるとは。

流石ローズ、年を重ねるにつれて、姉の圧というものを会得したらしい。


「うん。良かった♡

これで一件落着ね。私、兄さんのところに行かないといけないから。

後は、まかせたわ、レト♡」


そう言って、ネルの頭をなでてから、すぐにネルの部屋を出ていった。


俺とネルだけが部屋に取り残された。


ネルがベッドから立ち上がって、俺に抱き着いてきた。

その体は震えていた。

安易な気持ちでローズを連れてきてはみたが、想像以上のトラウマをネルに植え付けてしまったかもしれないな。


「ネル姉さん、怖い思いさせてごめん。

大丈夫?」

「・・・もう二度とやらないで。」

「わかったよ。約束する。

これからは俺が一人で起こしに来る。」

「ん。」


そのあとも、ネルは俺に抱き着いたまましばらく離れることはなかった。


「ん。」

「ん?」


急に万歳をして、俺の方をみてきた。

ようやく離れたかと思えば、ネルが俺に着替えさせろと要求してきている。

仕方ない。今日くらいは手伝ってやるか。


「はいはい。じっとしてね。」


その後、上も下も俺が着替えさせた。

まるで育児を手伝っている気分だ。

ローランには今度感謝の気持ちを伝えよう。


「ねえレト、着替えってなんでこんなにめんどくさいの。」

「それ俺のセリフだよね?」


着替えが終わるころには、恐怖もだいぶ薄まってきたようだ。

今まで通りのマイペースなネルを見て少し安心した。


「じゃあ俺も行くね。母さんに顔出すんだよ!」

「ん。」


ようやくひと段落か。

ネルの部屋を後にし、俺は最近のお気に入りの場所に行ってみることにした。


改めて、ローズの恐ろしさを知った。

俺も怒らせないようにした方がよさそうだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この無駄に広い屋敷には、当然ながら書庫が存在している。


ここに来て、魔法に関する本を読むのがマイブームだ。

最近はここでそのまま寝てしまうこともあるくらいだ。

この世界について少しでも多く、速く情報を集める必要があると感じている。


書庫の真ん中のスペースは、本が読むための机と椅子が配置されている。

ここが今の俺の寝床である。

そして、そのスペースを住処にしている人はもう一人いる。


「もう来てたんだね、フロイド兄さん。」

「レト、お前にしては遅いな。変なことに巻き込まれたか?」


ここは元々フロイドが一人で独占している状態だった。

一人になれる貴重な場所にも関わらず、俺を一切拒まず、一緒に書庫で本を読むことを受け入れてくれた。


今日も笑顔で俺を迎え入れてくれる。


「それがさ、今日は朝から散々な目にあって・・・」


俺は今日の出来事をフロイドに話した。


「そうか。レトも姉さんの怖さを目の当たりにしてしまったか。」


フロイドは深いため息をついた。

どうやらフロイドにも心当たりがあるようだった。

思い返してみれば、昔からフロイドはローズの舎弟のようだったからな。

ずっと昔からあの怖さを経験していたんだろうか。


「フロイド兄さんも疲れてそうだね。」

「まあね。」


カーネシア家において、魔法に覚醒した子供は父から魔法の訓練を受ける決まりがある。

護身のために必要なことらしい。

その訓練は毎日、午前中に行われている。


「僕は兄さんや姉さんみたいに魔法の才能があるわけでもない。

魔法の本を読んでも、ちっとも身にならない。

俺は訓練なんかやりたくないんだ。」

「じゃあ俺と変わってよ。」

「変わってああげられるなら、そうしたいよ。」


そう言ってフロイドは笑っていた。

俺は訓練をよくのぞき見しているが、確かにローズやアルベルと違って、

魔法の生成スピードや魔法の制御ができていない。

彼らより一年遅く始めただけで、最初はみんなそんなものだと思うが、

本人は結構気にしているらしい。


「誰にでも出来不出来はあるよ、フロイド兄さん。

誰よりも勉強熱心で、学力は高い。

誰よりもこの書庫に出入りして、本を読んでる。

それは、アルベル兄さんたちにはできないこと。」

「レト・・・」

「魔法も大事だけど、俺は勉強も同じくらい大事だと思う。

それに、魔法が護身のために必要なら。

俺がフロイド兄さんを守るよ。」


ただ戦闘能力が高いだけでは、最強にはなれない。

それは俺が一番よく知っていることだ。

どの世界でも変わらない、理である。


書庫にある、小さな窓から入る光が俺とフロイドの間に

差し込んできた。


小さな火に触れるような、そんな暖かさをふと感じた。



「ああ、ありがとう。」


優しく微笑み、俺の頭をくしゃくしゃとなでる。


この言葉は、ちゃんとフロイドに届いただろうか。

届いていたらいいなと思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そのあと、俺はまだ読み切っていない魔法の書物を読み始めた。

しかし、この世界の言語をマスターできたわけではなく、

つっかかることもある。


「ねえ、フロイド兄さん。

この<マナ>ってどういう意味?」

「これ?随分古い本読んでるね。

マナは魔法の元と呼ばれるものだよ。


魔法とはイメージの具現化なんだ。

イメージ通りの魔法になる役割をしているのが<マナ>。


たとえばこの火の玉だって、無から生み出されるんじゃなくて、

俺のイメージによってマナが変化した状態なんだよ。」


フロイドは、小さな火の玉を生成して、見せてくれる。

魔法は無から生み出されるものではない・・・


今の俺に魔法が使えないのは、

マナがないからなのだろうか。


「あ~~~~!


いた!!!!!」


書庫に一人の少女が入ってくる。

俺によく似た顔と赤毛を持つその少女は、俺の方を指さして大声をあげた。



「もう!ずっと探してたんだから!」

「リン。もうローランさんの補修は終わったの?」

「もちろん!完璧よ!」


リンは俺やネルよりも学習能力が低く、いつも補修をさせられている。

勉強が嫌いなわけでなく、学習意欲が低いわけではないらしい。

補修を重ね、次の授業の際には俺らにちゃんと追いついてくる。

リンは努力を欠かさない奴、そんなイメージが漠然とあった。


今日は授業ない日だし、ゆっくり一日かけて本でも読もうと思っていたのに。


「今日は私と遊ぶ約束だったでしょ?

でも部屋戻ってもいないし、まさかと思ってここに来てみれば・・・」


リンは本を読むことは好きではない、動くことが大好きな元気いっぱいな女の子。

それゆえ、一日中本にしがみついている俺をよく思わないのだろう。


「もう!レトは本読みすぎ!私の相手もしろ!!」

「ごめん。もっと補修が長引くと思って。」

「まあまあ落ち着いてよ、リン。

レトも別に約束を忘れていたわけじゃないんでしょ?」


そこにフロイドも助け船を出してくれる。

流石はフロイド、いい立ち回りをしてくれる。


「むーー。」


リンはふてくされたように、顔をこれでもかと膨らませている。

忘れてた俺が悪いか。


「ごめん、リン。

今行くよ。」

「ほら、走って!」

「ちょっと、ここでは走らないで!」


フロイドの注意も聞かず、リンは俺の手を取って、走り始めた。


リンの手はとても暖かかった。

その温度に耐え切れず、俺はリンの手を振りほどく。

しかし、リンに逆の手をつかまれる。


「もう、話してやらないんだから!

バカ弟!」


そう言って屈託のない笑みを俺に見せ、再び走り始める。


俺を引っ張って前を走るリンの後ろ姿が、炎のようにゆらゆらと揺れるその髪が、

なぜか俺の記憶に深く刻み込まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そのまま俺はリンに連れられ、庭に来ていた。


「今日は庭で遊びましょ!!」


特訓中は危ないからという理由で、庭に出ることは禁止されている。

時刻は正午を周り、午後三時頃。

この時間なら、特訓はしていないはずだ。


午前中は曇っていたが、今は太陽が顔を出している。

髪が靡く程度のそよ風も、遊びには適しているかもしれない。


「それで何するの?」

「そうね・・・ってあれ?」


リンが見ている先を見ると、カーネシア家の長男、アルベルが特訓をしていた。

そのそばには、父のクラウンもいるようだ。

午前中からずっとやっているのだろうか。


「アルベル、あんまり無理するなよ。」

「わかってる!もう一回だ!」


アルベルはもう9歳。魔力量も他の兄弟たちより多いのだろうか。

何度も、大きな火の玉を頭上に作ろうとしては、途中で消えてしまっている。

あれは、昔クラウンが見せていた花火のような魔法か?

いまでも脳裏に映る美しく、派手な風景。

アルベルが汗だくになりながらも、特訓し続けているのを見るに

なんとしてでも成功させたいようだった。


俺たちはとっさに隠れて、それを見ていた。

見つかったら怒られるし、ここは屋敷の中に戻るしかない。


俺はリンに扉の方に行くよう、合図した。

リンもそれに気づき、忍び足でそちらに向かう。


「お前ら!!!!!

危ない!!!!!!!!」


そのとき、クラウンの叫び声が聞こえてきた。


大きな火の玉がこちらに向かって飛んできている。


その向かう先には、リンがいた。


クラウンがこちらに走りだしているが、間に合わない。


すべてがスローモーションに進んでいく感覚。

生前もそうだった。こういう大事な場面では、俺の周りはスローモーションになっていく。



静寂に包まれ、俺の思考は研ぎ澄まされていく。



俺はリンと火の玉の間に立った。



あと数秒で火の玉があたる。



半年、本を読んで、訓練を見ていて気付いたことがある。



俺が前世から見えているオーラ。

魔法を発動するときは、このオーラが魔法に代わっているのではないかという仮説。

つまり、このオーラとは書物でいうところの<マナ>。


俺自身にもオーラは確認できる。


つまり、俺も魔法が使える・・・はずだ。


魔法はイメージだ。


このオーラを右腕に集中させて、鎧のようなイメージをする。


うまくいってるかはわからない。



しかし、やるしかない。




目一杯の力を右手に込めて、向かってくる火の玉の下側に拳を命中させる。

なぜか熱さは感じなかった。



そのままアッパーのように、上に向かって火の玉を吹き飛ばす。


反動で俺は後ろに吹っ飛んだ。


屋敷の壁にぶつかった衝撃で、背中に痛みが走る。


痛みを抑えながら、上を見上げると、そこには花火のような美しい景色が広がっていた。


あの日見たクラウンの花火ほど洗練された美しさはない。

しかし、アルベルの努力がめらめらと伝わってくる別の美しさがそこにはあった。


アルベルとクラウンが俺にかけ寄ってくるのが見えた。

リンもその後ろで心配そうに俺を見ている。


リンが無事そうで良かった。


そこで意識がプツリと切れた。



次回、第六話「強くなる意味」。来週日曜12:00投稿予定です!

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