幸福刑、執行
「幸福刑!!執行!!」
目の前の少女はそう言って俺を指さしている。
髪、肌、服。そのすべてが真っ白であり、それゆえに蒼い瞳が一層美しく際立っている。服装は、どこかの童謡に出てくる天使のようだ。
今までに出会っていたなら忘れられないほど、端正な顔立ちをしている。歳は、20かそこらだろうか。
「初めましてじゃな、大犯罪者。私は神の使いであるかわいい天使ちゃんじゃ。短い付き合いになるがよろしく!」
天使は自慢げにそう告げた。
「どこから突っ込むべきかわかんないんだけど
・・・まず一つ確認していい?」
「よかろう。言ってみたまえ。」
会話はできるようだ。
「確か、俺死んだよね?」
「うむ、その通り。理解が早くて助かるぞ。」
「・・・じゃあ今の俺なに?」
死後ってこんな感じなんだろうか。死んだことないからわかんないや。
「うーーーむ。わしは長い話は苦手でのお。だが、簡単に言うと・・・」
「簡単に言うと」
「・・・お前は罪なき人を殺しすぎたので、簡単に地獄へは送れぬのじゃ!!」
「気を失ってその場の人皆殺しにするってどんなバーサーカーなんじゃ、お前は!!」
・・・ちょっと待て。まさかあのパーティーにいた人全員殺したのか。騙されてその場で殺されたんじゃなかったのか。
「罪なき人を殺すのは俺の本意ではない。本意ではないが、俺がやってしまったことは絶対に許されるべきことじゃないな」
「うむ。しかし、お前の事情も把握はしている。それゆえに神たちは処分に困ったのだ。しかし、大量殺人は到底見逃せん!!そこで神たちの会議により決まったのが『幸福刑』という訳じゃな。」
・・・神はすべてを知っているということか。
「それで、その幸福刑じゃが・・・話は簡単。おぬしにはこれから異世界に転生して、たくさんの人を幸せにしてもらう!!!」
は??何を言ってるんだこいつは。天使は茫然としている俺をおいて話を進めようとする。
「それじゃあ説明はこれくらいにして、さっそく言ってもらうとするかの。」
「ちょ、ちょっとまってくれ!」
「なんじゃ。もうこれ以上話すことはない。」
「異世界?転生?訳が分からない。もうこれ以上俺を生かさないでくれよ!!!!!やっと死ねたんだ。殺してくれよ!!!!!!神ならそれくらい容易いことだろお!??」
俺を苦しめる幾つもの記憶が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
「言ったはずじゃぞ、お前の事情は把握していると。これは特別措置だ。お前にとっての最上級の苦痛は『今後も生き続けること』。そして、『他人を幸せにすること』。」
さらに天使は続ける。
「大勢の人を殺しといて今更楽に死ねると思うなよ。お前は今後も苦しんで、苦しんで、苦しんで生きていくんだ。それが罰だろう。違うか?」
俺は膝から崩れ落ちる。やっと死ねた。そう思っていたのに。待ち受けるのは次の人生。
「それからお前には『不死』と『不殺』の呪いをかけておいた。今後誰かを殺すことも、自ら死ぬことも叶わない。当たり前のことだがのう。」
もう驚くことはない。激しい頭痛に襲われ、意識が遠くなっていく。
「俺は・・・どうやってこれから生きていけばいいんだ・・・」
「・・・確かに生前お前は不幸だった。すべてを失い。自身も何度も壊れかけた。しかし、それでも生きようとしていたのはなぜじゃ?」
頭がうまく働かない。どんどん意識が・・・
「『幸せ』とは何か。よく考え、行動することじゃ。せいぜいがんばれ。」
意識が暗闇に落ちる。
ーーーー『幸福刑』執行ーーーー
こうして俺の絶望の異世界転生は幕を開ける。