表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福刑  作者: 雨路の宿
序章 幸福刑執行
2/3

第二話 幸福刑

俺は、一面真っ白な部屋で目を醒ます。


家具は一つもなく、四角でただただ広い部屋。

俺は状況が呑み込めずにいた。


「俺は死んだよな・・?」


ロードに頭を打ちぬかれた記憶は鮮明に残っている。

服はあの時の空港のままだ。


じゃあここはここは地獄か?

思ってたのとはだいぶ違うな。


「もう起きたのね。殺し屋やってただけあって、精神力は一般人よりけた外れにたかいようね。」


突然後ろから聞こえてきた声に、とっさに後ろに振り返り、距離を取った。

気づかなかった。気配が全く感じられなかった。


長くきれいな金髪に、白い肌。白いローブのようなものを身にまとっている女性が、そこにいた。


彼女が放つオーラは、人の持つそれとはまったく違う。おぞましく、美しく、底がない。

真っ白な深淵といった印象を受けた。この女性は、多分人間ではない。


「ごめんなさい。急に現れたら警戒するのも無理ないわね。

敵意はないの。あなたにならわかるでしょ、レイ?

いや、”スマイリー”って言った方がいいのかしら」


俺のことも、把握しているらしい。知りたいことは山ほどあるが、まずはこの女性から話を聞きだすことにしよう。


目の前の少女は、うーんと悩む動作をし、少しすると思い出したかのように再びしゃべりだした。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。

私の名前はリリア。

わかりやすく言えば、女神よ。」


「おれのことは知ってるんだよな、りりあ。」


「ええ。もちろん。

いままで何をしていたのか。

そして、どうやって死んだのかまでね。

信用していないなら話してあげましょうか?」


「いや、その必要はない。」


多分本当だろう。疑う余地もない。

自信満々そうな顔もそれを裏付けている。

それよりも聞きたいことは山ほどあるのだ。


「それより質問してもいいか?」


「いいわよ。」


「まず、ここはどこだ?」


ひとつずつ確実に、知っていく必要がある。


「ここは、生と死の間にある世界。

死んだ人はまず、みなここに来るのよ。

そして、女神である私が、今後を決めるの。

地獄か、天国か、ね。」


ふふん、と自慢げにリリアは話している。


「そうか。なら聞くまでもないな。

早く地獄に送ってくれよ。」


俺はもう死んだ。その事実をだんだん、心が受け入れ始めている。

もうすぐ終わりがくる。


すると、リリアがずんと近づいてきた。


「ちょっとまった。」


「なんだ?もう話すことはないはずだ。」


「いやいや!大ありよ!お・お・あ・り!」


まだ何かあるようだ。それもただごとではないような、なにか。


「ここからは、まじめな話をするわよ。

まず、あなたは現世で人を殺しすぎてる。

よって女神裁判にかけられたのよ。」


「女神裁判・・・?」


「通常、天国・地獄のどちらであっても、その魂は失われれることはないの。

しかし、あなたのような危険因子はそのどちらでもない、”虚無”にとばされることになってる。

女神裁判は、その危険因子を”虚無”に飛ばすか否かを決める場と思って。」


「じゃあ、俺は”虚無”行きが確定したと?」


虚無だろうが、地獄だろうが俺にとっては大した違いはないが。


「正確には、ほぼしかけた、ね。

あなた、殺し屋でもありえない数の殺しをあってるんだもの」


リリアはやれやれ、と呆れているようだ。


「結局、俺はどうなるんだ。」


結論を焦らされるのは、好きではないな。


リリアは落ち着いてと、俺を静止したあと、一呼吸おいてまた話始める。


「あなた下った判決はこうよ!


”幸福刑”!!!」


こうふくけい?

幸福?

どういう意味だ?


「あなたってそんなに困惑することもあるのね。まあ、無理もないか。


つまり、あなたには利用価値がある。

そう判断されたの。


あなたには並外れた身体スキルと頭脳があった。だから、女神たちは救済措置を設けた。

現世でたくさんの人間を不幸にしたのなら、次は多くの人を幸せにしてみなさい!


よって”幸福刑”!!!」



生前、ロードに言った言葉を思い出す。

俺は誰かを幸せにすることはできないと。

その覚悟も、資格もないと。


「断る。」


俺にはできないのだ。


「女神が決めたことには逆らえないわ。」


「勝手に決めやがって・・!!

俺はもう死にたいんだ!”虚無”でもなんでもいいから送ってくれよ!!」


久しぶりに熱いものが込みあがってくる。


「あなたを”虚無”へは送らない。送りたくないと私が判断したからこそ、裁判で幸福刑を提案した。」


目の前の女神が、自白した。

私が、俺を幸福刑にしたと。


「さっきも言ったでしょう?

あなたのことは知っている、と。

私は、あなたのようなあたたかい人を”虚無”になんて送りたくなかった。

あそこは、暗く、寒く、悲しい場所だから。」


「俺は人殺しだ。俺には虚無が似合うじゃないか!」


「あなたは知りたいと思いませんか、

”幸せ”の正体を。」


俺の中で抑え込んでいた感情がうずき始める。


ロードは言った、幸せになりたいと。

彼はそのために引き金を引いた。


知りたい。

俺も自身と誰かの幸せを願い、行動してみたい。


しかし、赤く染まった手で誰かをつかむことは、

できないと俺の心がブレーキを掛ける。


俺が生んだ不幸たちが、俺が幸せになるのを拒み続ける。

俺はそれを受け入れ、孤独を望んだはずだろ・・・!


葛藤している俺に、やさしくリリスは語り掛ける。


「今まで生み出した不幸から解放される必要はないの。

それがあなたの強さだから。


今度はその背負った不幸の分、幸せを生み出すことに注力しなさい。


その過程で、不幸になることもありましょう。

それでも幸福を目指しなさい。」


それはあまりにも、苦しく、辛い日々になるだろう。

俺が生涯逃げ続けたことを、死後になって向き合うことになるとは。


「その不幸から逃れるために死んだ俺に、もう一度生きろというのか・・・

幸福刑・・・

俺にぴったりの刑だな。」


「ええ。今のあなたにはぴったりね・・・


でも、さっきよりは少しマシな顔してるわ。」


まさか、女神に説教されるとはな。

俺はこれまでの不幸のせいにして、幸せにすること、なることから逃げてきた。


でも、その不幸を背負ってそれでも幸せになるのが、”人間”なのかもしれない。


「ああ、やっと人になれそうだ。


それにしても、リリスのせいで俺はいかれた刑を受けることになっちまった。


この刑が終わったら、必ずお前を説教しに帰ってくるからな。」


にやりと笑うと、リリスもにやりと返してきた。


「そのときは、ありがとうっていいなさい。」


俺の全身が光始めた。どうやら時間らしい。


「時がたてば、あなたのもとに女神から祝福があるでしょう。


まずは、それを頼りにすることね。」


よくわからなかったが、まあいづれわかることだろう。


消え入る意識の中で、リリスがいってらっしゃいと言っているような気がした。


ふたたび、意識が遠のいていくーーーー



レイが消えたあと、リリスは一息をついていた。


「何とかなったわね。

あとは、女神の祝福にちゃんと気づいてくれればいいのだけど。」


私がレイを見つけたのはたまたまだった。

次の転生者選び中に目をつけてた人材が、レイによって瞬殺されたのを見てしまったのだ。


それからはレイに夢中だった。

彼が死に、女神裁判にかけられても、必死に”虚無”送りを阻止した。


私は彼のファン第一号なのだ。


「今度はちゃんと愛されなさいよ、

レイでもなく、”スマイリー”でもなく、

レッターとして。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ