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幸福刑  作者: 雨路の宿
序章 幸福刑執行。そして、異世界へ。
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ラストダンスパーティー

「笑う紳士」とは、俺の殺し屋としての通り名みたいなものだ。自分でつけたわけではなく、俺がいつもスーツを華麗に着こなし、笑う仮面をかぶっていることに起因するが、さすがに安直すぎる。そんなおちゃらけたおじさんみたいな感じじゃなくて、「死神」とかそういう恐れられる名前がよかった。だが、仕方ないこともある、通り名がない頃より認知されやすくなったし受け入れるしかないな。うん。


静かな室内に突然、機械音が鳴り響く。俺の仕事用の携帯が鳴っているようだ。依頼かな。


「はい、もしもし」

「お前が『笑う紳士』か?」


電話越しの男はゆっくりと低い声でいきなりそう聞いてくる。電話越しでも只者ではないオーラを感じることができる。これは大物の予感がするなあ。報酬も弾みそうだぞ。うひひ。


「そうですよ。殺しのご依頼ですか?」

「ああ、そうだ。殺して欲しいやつがいる。金はいくらでも出せる」

「金は前払いで手渡しでしかやってませんよ。それでもよろしいのですか?」

「ああ構わん。それをするほどの実力があると見込んでいる。」


随分と俺を調べてきたらしいな。それなら話は早くて助かる。俺と直接会うことにも躊躇はないようだし、まずは話を聞きいてみるか。


「では依頼の内容をうかがっても?」

「有名人がひそかに集まるパーティーに忍び込み、とある会社の跡取り息子を殺して欲しい。」


この手の依頼はよく来る。次の社長の座を欲しているのだろうか。おれでも聞いたことがある大きな会社だった。そういう欲望に忠実なのは嫌いじゃない。そのパーティーに忍び込む手配もしてくれるらしいので簡単の類の仕事だな。


「その依頼。引き受けます。後日、殺害対象の写真とお金をもってパーティーの前日に一度落ち合いましょう。」


久しぶりの仕事だな。

電話を切り、ふと窓の方を見る。この時の俺はこれから起こる大虐殺事件のことなど知る由もなかった。



時は過ぎ、依頼当日の夜。難なくパーティー会場に潜り込めてしまった。このパーティーはでかいビルで行われているのだが、セキュリティが俺の依頼史上一番に高い。依頼主の援助がなければ間違いなく高難易度のミッションだった。あとは、昨日もらった写真の人物を殺すだけだが。・・・あれだな。


殺害対象を発見し近づこうとすると、彼が人気のない方へ歩いて行った。これはチャンスだな。俺もそのあとを追って進んでいく。すると、その瞬間後ろから複数の殺意を感じ取った。人が多過ぎて気づけなかったが俺も後をつけられていたようだ。


振りかえると、三人の男がナイフを振りかぶっていた。俺はそれをかわし、一歩下がる。完全に人気のないところに来てしまった。その瞬間それまで暗かったあたりが一気に明るくなる。すると周りには十数人の武装した奴らが立っていた。聞いていた話では、ボディーガードはいても2人だったはず。これはどおういうことだ・・・。その答えは奥の扉から出てきた男によって解決する。


「そういうことか。はじめから俺を殺すのが目的だったんだな。依頼主のじいさんよお!」

「・・・察しがいいな。私も殺し屋稼業をしているものでね。お前の存在をよく思わない上の奴らから消すようにと言われているんだ。悪く思わないでくれよ。」

「ははは。勘弁してくれ。こんなところで死にたくないな。」


武装したこの人数を一人で相手するのは無理だ。しかし、ここのセキュリティでは逃げるのも容易ではないか。


「いけ!!お前ら!!笑う紳士をころせ!!」


全員が俺に向かって走ってくる。四方八方からくる攻撃をよけながらカウンターを喰らわせ、またよけ、そして攻撃。繰り返しているうちに体力は削られていく。しかし、一度の致命傷で倒れそのまま拘束されてしまった。


「やはりお前は恐ろしい存在だ・・・。武装した人間の半数がやられちまった。また集めるのに金がかかるってのに・・・。くそやろうが!!」

「はあ・・はあ・・。うるせえな。殺すなら早くしろ。」


くそ・・・。縄がほどけねえ。血も止まらない。ここまでか・・・。


「ああ??そういえば、お前はいつも仮面をしているなあ。そのきもい笑顔の仮面の下はどんな顔してるんだろうなああ!!!」

「やめろ・・・。殺すぞ・・・。」

「おいおい。急に殺意なんかこめてどうしたんだよ。そんなに見てほしいなら取ってやるよ!!!」


仮面が外され、遠くに飛ばされた。


「おい・・・。なんだよこの傷・・・。いや、やけどのあとか?」


これは怒りだ。憎しみだ。


俺の意識が遠のいてゆく。


見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。


 俺 の 顔 を 見 る な 。


「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


笑う紳士はきつく自身を縛っていた縄を破った。


「なんだと!?お前らやつを早くころせ!!!!おい何して・・・うわああああああ!!!!」


一瞬にして殺し屋の皆が亡き者になった。


騒ぎを駆けつけてパーティー会場から数人が様子を見にやってきた。そしてひとりたたずむ男と目が合う。


「お前も・・・・俺の顔をみたのか?」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


こうしてここからパーティー会場は殺戮の場となる。あたりは悲鳴で溢れ、血がまるで花火のように舞い上がる。誰も彼を止めることができず、狂気のままにあたりを蹂躙し始める。彼のひどいやけどで覆われたその顔は、表情もわからない。彼は自身の体に限界が来るまで、狂気に踊り続けた。






ふと目を覚ますと、そこは一面が白い謎の空間だった。なにもない、なにも感じない。殺し屋として感覚を研ぎ澄ませている俺にとってこれほど気持ち悪いことはない。


「どこだ・・・ここは?俺は一体どうなった?」


喰らった傷も治っている。助かったのか・・・?

「えーこほん。それでは判決を下します!」


声が聞こえる方に振り返るとそこには、白い髪の少女が立っていて、こちらを指さしている。


「幸福刑!!執行!!」


「・・・は?」


俺の長い長い刑期はこうして始まるのだった。


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