43ーー4年生(10月)
午後、一番最初の種目は高等部の女子による創作ダンスだ。クラスから五人ずつ、総勢百五十人によるダンスは振り付けもさながら、その見た目の可愛らしさで大人気の種目だ。自分たちで作る衣装も小道具も毎年とても凝っていて目を惹く仕上がりだ。他校の男子生徒もこの種目を目的に見に来る子が多いらしい。その為この種目はとても競争率が高い。その中から出場権を勝ち取ったメグとエリは強運の持ち主だ。
「メグ!エリ!頑張ってね!」
塔子が笑顔で二人を送り出す。
「二人とも見てるからね〜!」
橘もニコニコと手を振って見送る。
「「行ってくる!!」」
二人も塔子たちに向かって手を振ると、着替えの為の教室へと向かった。その二人を見送り、塔子たちも団席に向かう。
「この種目の後はちょっと暇になるなー。何か出る?」
塔子は並んで座っているいつもの三人に話しかける。
「俺障害物競走があるな」
「あ、森田障害物出るんだー。応援しとくねー」
「最後に青汁の一気飲みあるんだよね〜?」
「そうなんだよ……誰が考えたんだ。悪趣味だろ」
「森田、気合だよ!!」
「はぁ……高瀬は何もかも気合で何とかなると思ってるだろ。マジで気が重い」
「でも青汁って美味しくない?」
「わざわざマズイ青汁用意してるんだよ」
「そうなんだ……ファイトだよ!」
「あ、始まるよ〜!」
げんなりしている森田と対照的な、テンションの高い橘の声でグランドの方に目を向けると着飾った女の子の集団が走り込んで来るところだった。
「うわー!何アレー!」
塔子は創作ダンスの子たちの衣装を見て声を上げた。彼女たちはセラー服を妖艶にアレンジした様な衣装を着ていた。日頃制服がブレザーなのでセーラー服というだけでも可愛らしく見えるのだが、それが何ともエロ可愛くアレンジされているのだ。
「え、どうしよう。目のやり場に困るんだけど!」
「ちょっと高瀬、そういうこと言うのやめて。見られなくなるじゃん」
橘にちょっと怒られた。
そして曲が流れ始めた。ニューなスクールリーダーの『オトナブル』という曲に合わせて、ちょっと背伸びをする女子高校生を妖艶なダンスで表現している。
「え、待って、これ見てイイの?!」
「だから高瀬、照れるのやめて?コッチに伝染する!」
「高瀬、うるさいぞ」
森田にも怒られた。
「ヒィー、でも皆んなメチャクチャ可愛いねー!指の隙間から見ちゃうわ」
「普通に見ろよ。そっちの方が恥ずかしい」
「高瀬もこういうの可愛いって思うんだね〜。踊りたいとかも思うの?」
「橘、適材適所ってのがあってだね?私が出ちゃったら台無しだよ」
「何で??」
「私何踊ってもちょっと盆踊り風味に仕上がるんだよー」
「ぶはっ!!何それ?!」
「何だろうね?ラジオ体操踊ってもちょっと変なんだって。笑われちゃうんだよね……だからヤダ」
「え?そっちの方が見たいんだけど〜」
「ラジオ体操って踊るもんだったか?」
森田は首を傾げている。
「…………ちょっと阿久津?笑ってる?」
阿久津が隣で肩を揺らしている。
「……盆踊り見てみてぇ」
「もうヤダー」
「なぁ、ラジオ体操って踊るって言わなくないか?そもそもが間違ってるぞ」
最後まで森田に突っ込まれた。
「二人ともメチャクチャ可愛かった!!」
塔子が戻ってきたメグとエリに賞賛を送る。二人の衣装はそのままだ。
「着替えなくてイイの〜?」
「もったいないじゃん!もうこの後出番ないからイイの!写真も撮ってないし!」
「そうだよ〜、橘くん、一緒写真撮ろうよ〜」
「阿久津も!」
メグが阿久津に迫る。
「嫌」
阿久津は一言そう言うと、一瞥もせずどこかに行ってしまった。拒否されたメグはショックを受けたような顔をしていて塔子は焦る。
「きっとSNSが嫌いなんだよ〜」
橘がフォローするように言う。塔子もそれを聞いて納得する。そう言えばあの時も阿久津自身が嫌だったと言っていた。
「もう載っけたりしないのに……」
メグが悲しそうに俯く。
「うんうん、そうだよね〜。だから一緒に写真撮ろ?載せないんだったら僕も一緒に撮りたいな〜」
橘はいつも優しく場をフォローする。塔子は感心しながらメグのスマホに手を伸ばす。
「メグ!私撮るよ!エリも貸して!撮ってあげる!」
塔子は自分のスマホでもメグとエリの三人で撮ってもらった。着飾った二人はとても可愛いと思った。
森田の障害物競走がグランドで行われている。もうすぐ出番が来そうだ。
塔子はメグとエリと橘の四人でその様子を団席から眺めている。阿久津はあれから帰ってこない。
「皆んな結構苦悶の表情で飲んでるねー、あはは」
「そんなに苦いのかな〜?」
エリが首を傾げている。今どき青汁とはそこそこ美味しい物だとの認識だ。
「わざわざ苦くなる物混ぜてるらしいよー」
メグが説明してくれる。
「何混ぜてるんだろ?」
「何かを混ぜてるという事実がもう嫌だよね〜?」
「「「確かに!」」」
橘の言葉に三人で頷く。
「あ、森田だ」
森田のレースがスタートした。跳び箱を跳んだり網を潜ったり、そこそこ一般的なレースの最後が青汁だ。
「量がさ、多くない?」
「あの量嫌がらせだよね〜」
「森田一気に飲んだ!」
「見てるだけで吐きそう〜」
塔子には文句言っていた森田だったが、気合で飲み干したようだ。何とか二位でゴールした。
「体操服が緑色に染まらなくて良かったねー!」
戻ってきた森田に塔子が言うと森田はものすごく嫌な顔をした。
「それ冗談にならないからな。誰かがやってしまったら連鎖反応起きそうだから注意しろって言われてたし」
「マジか。障害物競走、過酷過ぎん?」
その時下から駆け上がってきた篠田に声をかけられた。
「高瀬、そろそろリレーの練習行こう」
塔子は篠田に頷きながら今まで自分が座っていた場所を森田に譲る。そう言えばまだ阿久津は帰ってこない。
「森田ここ座って!行ってくるー」
「ありがと、頑張れよ」
「頑張ってね〜!」
「篠田も頑張れー」
「塔子ちゃんも篠田くんもファイト〜」
「青団、どこに集まるって言ってたっけ?」
塔子の質問に篠田が答える。
「東校舎の裏って言ってたよ」
「そっか。私トイレ寄ってからそこ行くわ。時間大丈夫だよね?」
「うん、分かった。伝えとく」
「ありがと!よろしくねー!」
塔子はトイレを出て東校舎の方に向かう途中で阿久津の姿を見つけた。
阿久津は同じクラスの女の子と何か話しているようだ。塔子はその道を抜けて東校舎の方へ向かうつもりだったのだが、今隣を抜けて行くのは躊躇われる。少し後ずさりをしてどうしようか迷っている間に話が済んだようだ。女の子がコッチに向かってくる気配がし、塔子は思わず近くにあった外階段の踊り場まで駆け上がった。
気配が無くなったのを確認してソッーと下に降りる。もう阿久津も居なそうだ。塔子は急いで練習場所まで走って行った。
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団対抗代表リレーは中等部一年の組が若い方から女・男の順番で走る。必然的にアンカーは六年の後ろの方の組の男子になり、塔子は真ん中ちょっと後ろくらいを走ることになる。
塔子は四年一組の男の子からバトンを受け取り篠田へ渡す。距離は皆んな百メートルだ。
時間になり、それぞれのスタート位置に向かう。
ーーこれが最後だ。全力で走ろう。
塔子は良い緊張感で自分の出番を迎えることが出来た。白団の二年生が転んでしまいかなり遅れをとっているが、その他は割と接戦でレースは進んでいる。
塔子の前に走る男の子にバトンが渡った。青団はその時点で二位。しかしすぐ後ろに付けていた黄団と紫団の男の子たちがとても速かった。塔子にバトンが渡されたのは四番目。
塔子は思わず微笑んだ。舞台は整った。
一位の赤団には届くだろうか。距離は百メートルしかない。赤団と紫団は先輩だが関係ない。前に居る人間は抜く、それだけだ。
塔子は走った。
黄団と紫団はあっという間に抜き去り、赤団の先輩に追い付いて篠田にバトンを渡した。
篠田も速かった。さすが陸上で短距離を専門にしているだけある。アウトから赤団の先輩を抜き、そこそこの差をつけて一位で五年の先輩にバトンを繋いだ。
結局塔子たちの青団は三位でゴールした。一位は紫団、二位は赤団だった。
「お疲れ!篠田速かったねー!」
「高瀬もな。俺たちで一位取れたからまー満足だな」
「ふふっ。ねーそんなに早いのにどうしてスウェーデンリレー出なかったの?」
「ウチ五年が出るって決まってるんだよ。バスケ部ずりーよな。俺が出てたら最後負けてなかった」
「いや、それは分かんないよー!来年勝負だな!」
「来年は負ける気しないなー」
「ちょ、陸部もバスケットボールで走ってよ」
「何でだよ。意味分かんないっしょ」
「いやいや、アレかなりのハンデだからね?それで勝ったって言われてもあんまり悔しくないからね?」
「既にもう悔しそうだけどな」
「まだ負けてないっ、ってか今年勝ったのウチだから!」
「悔しいーよなー。陸部が走って負けるって屈辱だよなー」
「ふふふー」
今年の体育祭は大満足だったな、と塔子は思った。出たいレースに出ることが出来、満足のいく結果を残せた。
こうして三日間という長丁場だった片瀬祭の幕が閉じた。
良いお年を!




