42ーー4年生(10月)
今回入れて、あと2話で体育祭編も終わりです!
「塔子ー」
名前を呼ぶ声に教室のドアを振り返ると姉・涼子の姿があった。
「リョウちゃん!ホントに来てくれたんだねー!」
「可愛い妹の勇姿を見にねー。マジで勇姿だったわ。アンタそこら辺の男の子よりイケメンだったね」
「あ、リレー見てくれた?!あ、ルカだ」
「トーコ!超〜カッコヨカッタヨー!」
「ありがとー!」
午前の部が終わり、今はそれぞれの教室でご飯を食べているところだ。家族と一緒に食べることも自由だが、殆どの生徒は自分の教室で友達と食べる。塔子も例にもれず、メグたちと教室で食べていた。そこにルカを伴った涼子が顔を出しに来たのだ。涼子は堂々と教室に入り、塔子たちの側まで来た。隣に居るルカは帽子も被っていなければサングラスもかけていない。いつもの通りキラキラしい姿でニコニコしている。
「ちょっと塔子!お姉さんとその彼氏さん?」
メグに聞かれ、塔子は頷く。
「そうそう、リョウちゃんとルカだよー。友達のメグとエリだよ!」
塔子の紹介に頭を下げるメグとエリ。
「どーもー。妹がお世話になってまーす。これからもよろしくね!」
涼子が磨き上げた外面で挨拶をすると、塔子の後ろから声がかかる。
「ね〜高瀬、僕たちも紹介してよ〜」
橘に言われ、塔子は後ろを振り向く。塔子がメグやエリと食べていたすぐ近くの席では橘が阿久津と森田とお昼を食べていた。
「あ、リョウちゃん。コッチが橘と阿久津と森田だよー。班が一緒だから良くこの六人で居るんだー」
塔子が三人を紹介すると、涼子は満面の笑みで挨拶をした。そのまま涼子は橘たちのとこで立ち話を始め、気付いたらルカはメグやエリと盛り上がっている。
塔子がふと周りを見回すとクラスの皆んながチラチラとこちらを見ている。ルカだけじゃなく涼子も大概目立ってる気がする。居た堪れなくなった塔子は立ち上がって涼子の元へ近寄り腕を引いた。
「リョウちゃん、なんかすごく目立ってるから……」
塔子に言われ涼子は教室を見回し、高校生の目が自分たちに集まっていることに気付き笑う。
「あぁ、ゴメンゴメン、ホントだわ。やっぱルカ連れて来るんじゃ無かったな」
「リョーコ、ボクだけのせいじゃナイネー」
涼子のボヤキはルカに届いたらしい。ルカが抗議の声を上げる。
「はいはい。じゃー私たちもう帰るね。午後も頑張んなー」
涼子は自分より高いところにある塔子の顔を撫でて、阿久津たちに向かって手を振る。
「塔子のことよろしくねー!」
涼子とルカは来た時と同じように皆んなの視線を集めながら堂々と帰って行った。塔子も席に戻るとご飯を再開する。
「やっばいね、ルカって超イケメン!!」
メグが興奮している。本当にメグは顔の良い男の人が好きなんだな、と塔子は再確認する。
「うんうん、塔子ちゃんがキラキラしてるって言ってた意味が分かったよ〜。ホントキラキラしてた!」
「お姉さんと結婚したらルカがお義兄さんになるってことでしょ?イイなー!あんなお義兄さん欲しいー!」
――何がイイのか分かんないなー。リョウちゃんあんまり好きじゃなさそうだしなー。
塔子は遠くない未来、涼子とルカは別れるんじゃないかと思っている。恋愛ビギナーにすらなっていない塔子には何故なのかは分からないが、何となくしっくり来ないのだ。恋愛のことは全く分からないが、涼子のことは少しは分かるつもりだ。そして涼子はそんなにルカのことが好きに見えない。でもじゃーどうして付き合っているのか塔子にはサッパリ分からないのだが、涼子なりの理由があるのかもしれない。
ちなみに涼子はこの手の話を塔子にすることは無い。塔子のことを小学生男子だと思ってる涼子は、まだ早いと判断しているらしい。上の姉の蒼子とは歳が近いのもあり相談したりしている。塔子はまだ蚊帳の外だ。
しかし昨日涼子が言っていた。
「塔子ともそんな話が出来る日も近いのかもねー」
本当にそんな日が自分に来るのだろうか。涼子とルカの背中を見送りながら、塔子はそんな事を考えていた。
「高瀬、お姉さんとそんなに似てないんだな」
後ろから森田が話しかけてきた。
「あ、そうなんだよ〜。なんとなく面影あるかな?ってくらいだねってよく言われる」
「う〜ん、化粧とかの影響もあるのかもしれないけど、少し系統違うのかな〜?」
橘も同意する。
「うんうん、そーかもねー。上二人は見た目結構似てるよ」
「そうなんだ〜。それにしてもお姉さんメチャクチャ綺麗だね〜!」
エリが目をキラキラさせて褒めてくれる。
「そう?ありがとう!伝えとくねー」
塔子もニコニコとお礼を言う。
友達に姉を紹介した後はこの手の会話が必ずなされる。皆んな涼子を綺麗だと褒めてくれ、あまり似てないねと言う。その事を塔子自身は何とも思っていない。涼子の事を褒めてもらえるのは嬉しいし、自分があまり似ていないことも事実だ。
塔子の価値観が見た目に重きを置いていたのなら話は違ったかもしれない。しかし塔子は自分の良さはそんなところではないと自負している。そんな塔子だから、いつも人からの見た目の評価にあまり関心が無い。自分が努力して出た結果を認めてもらいたい、常に塔子はそう思っている。
「塔子!ルカさんの知り合いとか紹介してもらえない?」
メグが前のめりで聞いてくる。
「え?ルカって確か30過ぎてるよ?その知り合いってどうなの?」
「え?30?!見えない!」
「見えないよねー。リョウちゃんが『ルカは気持ちが少年だから若く見える』って言ってたよ」
「えーなんかそんなとこもイイ!!そして年上最高じゃん!」」
「うんうん、分かる〜!年上イイよね〜」
エリまでそんな事を言っている。
「いやいや、私たちまだ15とか16でしょ?無いでしょー」
「そんなの分かんないじゃん!若い子好きな人も居るかもしれん!」
「ダメだよ、私たちをアリだと言う大人はナシだよ」
「何でよ?」
メグが納得のいかない顔で塔子を見る。
「高瀬家の家訓で『未成年に手を出す大人はクズ』ってのがあるの。だからそれはクズだよ」
「どんな家訓だよ!」
「ウチ父親にも母親にも口酸っぱく言われてるよ。何もかも知ったような顔して子供をコントロールしようとするヤツは同年代に相手にされない大したことないヤツか自分に自信が無い大したことないヤツだから騙されてはダメだよ、って」
「高瀬家、厳しいね?」
橘が後ろから参戦してくる。
「自分の言葉が未成年の将来にどんな影響を及ぼすのかに恐怖を感じない大人は信用するなって言われてる」
「高瀬のご両親しっかりしてるな」
森田が深く頷いている。
「だってメグ、もし年上の人をすごーく好きになっちゃって、その人も応えてくれたとして。私たちにとってその人の言葉って天啓に近いものになるんじゃないかなー。それを恐れない大人はやっぱり疑問だよ」
「だったら涼子さんはどうなのよ?涼子さんにとってもルカは結構年上でしょ?」
メグの言葉に塔子は納得がいった気がした。
「リョウちゃんはもう自分の事は自分で決められる歳だしねー。別に歳の差をダメだって言ってるワケじゃないんだよ。でもそう言えばルカもリョウちゃんをコントロールしようとしてるトコあるなー。それだな、違和感は。きっとそろそろ別れると思う。あのリョウちゃんが支配されることをヨシとするワケないもんなー」
「えっ?!別れちゃうの〜?」
「あ、いや分かんないけど、ルカは自分の人生にリョウちゃんを添わせようとしてる気がする。でもそれってリョウちゃんの人生じゃないからねー。話し合えない人はダメだろうねー」
塔子は涼子が蒼子に相談していた内容が漏れ聞こえてきた時の事を思い出しながら言う。
「どうした?高瀬。なんかいつになくマトモな事を言ってるぞ?」
「また出た、毒霧ー!」
皆んなが涼子とルカのことで盛り上がってるのを横目に、阿久津が塔子に話しかけてきた。
「……高瀬、さっきのリレー。凄かったな」
「っっ!見ててくれた?!」
「うん、皆んな見てただろ、アレ。
……すげーカッコ良かった」
「あーりーがーとー!走り終わった後キツくて死ぬかと思ったけど気持ち良かったー!」
「あんな風に走れたら気持ち良いだろーな」
「あ、阿久津も速かったねー!校長先生でガッカリだったよー。私走る気満々だったのにー」
「…………走る気だったんだ?」
「準備運動は完璧だったよ」
「……ハハっ、そっか」
阿久津は下を向いて柔らかく笑った。
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