39ーー4年生(10月)
文化祭編も今回がラスト!
塔子はクラブ棟で着替えを済ませた。ここの戸締りは誰がするのか少し気になったが、まだ先輩の荷物もチラホラ残っているので任せて帰ることにする。
ーーさて。団席に行く前に。行ってみよー!
塔子は探偵手帳を手に、理科室へと向かうことにした。どうしても続きが気になって仕方なかったのだ。橘や阿久津に続きがどうなったか聞くのは、理科室へ行って謎が撤去されてるのを確認してからにしようと決めていた。残っていたらラッキー、残っていなかったら諦めよう。
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理科室に着いた。塔子はドアを開けて中に入る。時間はもう十七時半になろうとしているところで、この時期の空に太陽の姿はもう無い。ぼんやりと薄暗い教室を進んで窓を確認するが、そこに貼ってあった筈の謎とカードはもう無かった。貼ってあったらしき跡が辛うじて確認できるだけだ。
「あぁ……残念……」
塔子は窓に近付き、その跡をなぞる。ここにあった騎士のカードの裏が見たかった。そう言えば謎と違ってこの手のカードはベッタリと貼り付けては無かった事を思い出す。四隅を三角のシールで挟んであっただけで、ちゃんと裏返せるようになっていたんだなと感心し、改めて楽しかったなと思い返す。
ーー仕方ない。帰ろう。
窓から手を離し、帰ろうと振り返ると教室の入り口に誰かが立ってるのが分かった。
「……コレだろ?」
そう言いながらその人物が進んでくる。
「阿久津」
阿久津は手に持ったカードを塔子に渡す。騎士のカードだ。
「どうして?」
「……高瀬、自分で見たいんじゃないかと思って」
塔子は何故か胸が詰まる。そうだ、自分で見たかった。自分で確認したかった。
「うん、そう。コレ見たかった」
そう塔子が言うと、阿久津は塔子を見てふわっと柔らかく笑った。
塔子は窓に寄りかかり、阿久津から受け取ったカードを裏返す。
『正解!クイズ研の部室で待ってるぞ!』
「あ、もしかしてこれが最後の謎だった?」
「そうだな」
「うー、悔しいなー。あと一歩だったのに。結局三年間一度もゴール出来なかったよー」
「今年は出来たも同然だろ」
「……クイズ研の部室行ったら何があったの?」
「部長が居て、おめでとうって言われて、君たちのお陰で探偵は彼女に自分の気持ちを伝えることが出来そうだって」
「……で?」
「それだけ」
「それだけ?!」
「だから言ったろ?ストーリー適当なんだって」
「むむ……もうちょっと、こう納得出来る終わりが欲しかったな……」
「まだ続けるって言ってたけどな」
「続けるって?」
「大学行ってもやるって」
「マジか、あはは!どこの大学行くんだろ?学祭遊びに行こうかなー!」
「……だな」
塔子は手の中のカードを見つめる。
「で、このカードはどうしたの?」
「……頼んだらくれた」
「阿久津が頼んだの?」
「まぁ……あとの四枚もくれた」
そう言って阿久津は制服のポケットから他のカードも取り出した。その時一枚だけヒラヒラと床に落ちたカードを塔子は拾い、そのまま床に座ってそのカードを眺める。
「ホント出来がイイよねー。こう言っちゃ何だけど、謎の難易度に合ってない」
「ははっ、そうだな。それは俺も思った。なんか俺らと同い年の美術部のヤツが描いてくれたらしい」
「あっ、きっとその人も暗号探偵のファンなんだよ!」
「そうかもな」
塔子の隣に座りながら阿久津がそう優しく言うから、塔子はまた心が温かくなった。
塔子は五枚のカードを揃えて渡すが、阿久津は受け取らない。
「やる」
「え?阿久津がもらったんでしょ?」
「高瀬の為にもらってきたヤツだから」
「……半分こする?ちなみに他のカードの裏はどうなってるんだろ?」
そう言って塔子が神官のカードを裏返す。
『バーカ 出直せ』
「あはは!酷い!」
「ははっ、酷いな。他は?」
『本気?疑うわ』
『回れ右して出直してこい』
『死に晒せ』
「最後特に酷いな」
「あはは!面白い。どれがイイ?」
「くれんの?じゃーコレにしとくかな」
阿久津は『本気?疑うわ』を選んだ。
「あ、ちょっと待って。コレ高瀬に持たせんのも微妙だな」
そう言って『死に晒せ』を手に取った。
「ふふ、どっちも持ってって!ちなみにそれ何のカード?」
阿久津がカードの表を確認する。
「エリザと呪術師」
「それが阿久津のね!橘と森田も欲しいかなー。ふふ、今年の暗号探偵の記念だね!嬉しい、ホントありがと!」
阿久津は下を向いて何となく頷いたように見えた。
「あ、そうだ、阿久津。改めて、今日はありがとう」
阿久津は塔子を見て首を傾げる。何のこと?とでも言いたげだ。
「色々あるんだけど、一番はメグに言ってくれたことかな。嫌な役回りをさせてしまって」
「…………あれは俺が嫌だった」
「うん、それでも。ありがとう」
阿久津は何となく頷いた。
塔子は阿久津から目を離し前を向く。
「あと……同級生と会った時もありがとう。私、あの場所から早く立ち去りたかったから有り難かった」
「……ん」
隣の気配は動かない。
「あと、やっぱりこのカード。よく分かったね?私が自分で見たいだろうって」
手の中にあるカードを見ながら言う塔子の隣でこちらを向いた気配がした。でもすぐまた下を向いたようだ。
「……見てるからな」
「うん?」
塔子はよく聞こえず、阿久津の方を向く。
床に座り立てた両膝の上に肘を乗せて、下を向き両手を首の後ろで組んでいる阿久津の表情は伺えない。ふぅーーーと長く息を吐き塔子の方を向いた阿久津は、手を下ろして塔子の目を見た。
「俺、高瀬のこと好きだわ」
「……え?」
塔子は固まった。聞こえた言葉の意味が一瞬分からなかった。
阿久津はもう一度ふぅーーーと息を吐くと続けた。
「高瀬のことが好きだ。でも高瀬が俺に対して同じ気持ちを持ってないことも知ってる」
阿久津は下を向いて少し自嘲気味に薄く笑った。
「……でもやり方間違えちゃいけねーなってのと……とりあえず伝えとかねーと何も始まんなそうだからな」
そう言って今度は真っ直ぐ塔子見て綺麗に笑った。
「伝えたかっただけ。
行こうぜ。花火始まる」
阿久津はサッと立つと塔子に手を差し出した。
塔子は一瞬迷った後、阿久津の手を掴んで立った。そしてその手を離さずギュッと両手で握って言う。
「阿久津、私分かんないのよ。特別って分かんないの……」
「うん、知ってる」
「……ありがとう。ゴメンね」
「…………」
塔子は阿久津の手を離した両手をどうしたらいいのか分からず、意味もなくスカートを整えた。そして歩き出した阿久津の背中を追いかけながら、いつか見た黒猫を阿久津の左腰に探すも居る訳は無く、何故かそれが無性に寂しかった。
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