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38ーー4年生(10月)




「じゃーねー、どうか探偵を救ってあげてねー」


 待機時間が終わり阿久津と橘に手を振り、塔子は着替えるためにクラブ棟へ向かう。昨日の時点で、今年の暗号探偵は無茶なところに謎が貼ってあったりしなかったので今日は着替えてなかったのだ。



「塔子」

 クラブ棟に着くと早紀が着替えた状態で既に居た。

「一緒に行こうかと思って待ってた」

「ありがとー!秋は?秋もこの時間なの?」

「ううん、秋は今日朝イチだったんだよ。あんま人来なくて楽だったって言ってた」

「そーなんだ。そこが狙い目だったかー」

「でもこの時間も来るって言ってたよ。暇だって。なんかもう終わりだから担当じゃない子たちも結構来るかもって言ってたよ」

「あ、ワイワイしてたら楽しいねー。大人数の中に埋もれてしまえたらイイんだけどー」

 塔子も着替え終わり、早紀と連れ立って中アリーナへ向かう。 


「うーん、どーだろーね。とにかくシュート入れてくしかないよ!」

「…………4クォーター残り数秒、1点ビハインドの状況で与えられた2本のフリースローだと思って打つわ」

「あはは!そんな過酷な緊張状態でずっとやる気?一時間持たないでしょ」

「そもそも一時間が長いんだよー」


 そんな話をしながら向かう二人の目に飛び込んできたのは人でごった返した中アリーナだった。


「え?何でこんなに人居るの?」

「すごい人だね」

 塔子と早紀は入り口から中を覗き込む。早紀が言っていたようにこの時間の担当じゃないバスケ部もたくさんいるようだ。その中に見覚えのある姿があった。


「あ、ねー早紀、あの人混みの中心に居る人って」

「あ、麻生先輩じゃん!」

「卒業した男バスの先輩だよね?」

「そうそう、去年この企画で腕死んでた麻生先輩だよ。他校の女子からの人気がエグすぎてさ」

「覚えてるー。あれ人気だったからなんだ!」

「……それ以外に何があんの?とりあえず中入る?」

 塔子は早紀に続いて体育館の中に入る。



「麻生先輩!勝負してください!」

「あ、ズルイ!私もお願いします!」

「アタシも!アタシも!」

「俺もー!」

「ちょ、なんで俺そっち側なんだよ。客で来てんのに」


 塔子がバスケ部の塊に近付くと、麻生先輩なる人に現役バスケ部が群がって勝負を挑んでいた。いつも威厳を気にしている六年の先輩たちも無邪気で楽しそうな顔をしている。

「あはは!先輩たち何か楽しそう!」

 塔子の言葉に早紀も頷く。

「ホントだね。何かさ、もうグダグダじゃない?」

「確かにー!

 ……そう言えば真山たちはどこにいるんだろう?」

 体育館を見回して真山たちの姿を探すと塔子たちが今居る所から一番遠いゴールを使ってシュートを打っているようだ。その周りにはさっきの元白中軍団の姿もある。


「ねー、何だかんだで仲良く勝負してない?」

 塔子が真山たちを指差すと早紀も笑ってる。

「ホントだ。秋も居るわ。結局バスケが好きなんだよね、きっと白王子たちも。塔子、行かない?嫌?」

「ううん、行こー!私も勝負したい!」

「結局ね!あはは!」



「あ!高瀬さーん!!」

 軍団の一人が塔子に気付く。

「あ、バカ、高瀬、何でこっち来てんだよ!」

 真山が眉間に皺を寄せて塔子にシッシッとでも言うようにあっち行けと手を振る。

「真山、ありがとね!私も勝負しようかと思って!」

「さすが、高瀬さん!男前!」

「お前、負けたら写真撮られるんだぞ……」

「ふふふ、真山、負けなきゃイイんだよ!先輩たちも何か楽しそうだし、私も楽しみたーい!」

 

 塔子たちはそれから総当たり戦で勝負を楽しんだ。勝負にはそれぞれが何回かずつ負けたのだが、チェキは先輩たちが麻生先輩と一緒に撮る為に占領されていた事とさらに途中でネガが切れたこともあり、写真を撮られることは無かった。



「コレで撮れんじゃん」

 途中、雪也が自分のスマホを塔子に示すも首を振って拒否した。まさに今日、SNSで嫌な思いをした塔子は知らない人の手に自分の写真データがあることを許容できなかった。

 

「おい、ダメだぞ。最初に断ってあるだろ、スマホでの写真はナシだって」

「チェキ無くなってんの、そっちの都合だろーがよ」

「そもそも金も払ってねーだろ。こんなん無効だ」


 対応は真山に任せて、塔子はとにかくバスケを純粋に楽しむことにした。それに真山と雪也も何気に仲良くなっている気がする。



 塔子は早紀と秋と真山、そして元白中バスケ部と一緒にフリースローとスリーを時間いっぱい投げて楽しんだ。最初はあんなに嫌だった元白中バスケ部とも、バスケを通じて少し打ち解けられたのかもしれないと思う塔子だった。




「バスケ部ーーー!時間!終わって片付けーーー!」


 先輩の掛け声を聞いて体育館の時計を確認すると十六時を少し過ぎていた。塔子も散らばってるボールを集める。


「おし、お前らもう帰れ」

 真山が雪也たちを追い返そうとしている。

「最後までムカつくな、真山……」

「こっちはこれから片付けとかあんだよ。オラ、どけ」

「あはは、楽しかったねー。またね!」

 塔子も雪也たちに手を振る。そんな塔子に向かって雪也が口を開きかけたその時、

 

「高瀬ーーー!二階!!」

 

 女バスの先輩の声が塔子に届いた。塔子は笑顔でもう一度手を振るとダッシュで二階に駆け上がって窓を閉めに行った。 

 

「白王子、印象変わった?」

 一緒に二階に上がってきた早紀が塔子に聞いてくる。

「うん?印象?あーそうだね。今度また似たような状況であの人が誰かをバカにして笑ってたら、次は私本人に向かって文句言えるな。今日の勝負でそのくらいの関係性は築けたかも」

「ふふっ、その文句言ってるトコ、陰から見ていたいわ」

 塔子もその場を想像して一緒に笑った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




「お疲れー!」

 塔子は笑顔で教室に入って行く。教室の中は既にいつも通りの風景に戻っていた。


 あれからバスケ部は中アリーナの掃除を皆んなで手早く済ませ、それぞれ自分のクラスの片付けに散っていった。塔子たち四年生はクラスの片付けというものは殆ど無いのだが、自分たちの課題を仕舞い、教室の掃除をして整えるくらいはしなければならない。


「間に合わなかったかー……」

 塔子はクラスの片付けの手伝いが出来なかったことに申し訳なさを感じた。

 

「高瀬、お疲れ様〜」

 声に振り向くと橘が不思議そうな顔をして立っていた。

「思ったより全然元気だね〜。ものすごく疲れて帰ってくるかと思ってたんだけど〜」

「あ、うん。楽しくシュー練してきた感じだわ」

「さっきの人たちもう居なかったの?」

「ううん、居たよー。一緒に遊んで来た感じ?もうなんか先輩たちもグダグダでさー、写真とかも無かったから良かったよー」

「う〜ん、なるほど?高瀬はしばしば僕の想像を超えるよ」

 橘は何となく腑に落ちない顔をしている。


「はーーい、席についてーー!」

 そこに小林先生が入ってきた。ホームルームの時間だ。塔子も橘も自分の席に戻った。



「じゃーこれでホームルームは終わります。皆さん今日は本当にお疲れ様でした!明日は体育部門だからね、あと一日頑張ろうね!では皆んな花火終わったらそれぞれ帰っていいからねー。はい、解散!」




「塔子ちゃん!花火見に行こ〜!」

 エリとメグが誘いに来てくれた。

「ありがとー!私さ、着替えてくるの忘れてて。クラブ棟で着替えてから行く!あとちょっと寄るトコあるから遅くなるかもしれない!」

 そう伝えると、塔子は荷物を持って教室を飛び出した。



 

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