37ーー4年生(10月)
「あー!!居たいた!!高瀬さん見っけ!!」
無事謎も解けたし、後は時間になるまで、と教室で寛いでいた塔子の耳に、またまた聞きなれない声が届いた。若干ウンザリしながら声のしたドアの方を見ると、これまた見たことあるような無いような顔の集団が居た。
ーー今度は誰?またSNS見た人なのかな……四人?でもどこかで見たことあるよーな……
「高瀬さんだよねー?片瀬の高瀬さん、あはは」
「お前それ面白くねーから」
「ねー高瀬さん、校内案内してよー。バスケ部のよしみで!」
ーーバスケ部??どこかの学校のバスケ部か。
塔子は首を捻りながらスマホを取り出す。
「高瀬さん戸惑ってるじゃん。おい、雪也、お前行けよ」
「は?何で俺が」
雪也と呼ばれた背の高い男の子が軽く肩を押され前に出てきたのを見た塔子は、その集団がどこのバスケ部だったのかを思い出した。
「あぁ……白中の……」
「おー!正解!覚えててくれてありがとー!」
「やっぱ雪也見て思い出した?高瀬さんでも雪也のこと知ってるんだねー」
「ってことで雪也も居るし、一緒に文化祭回らない?」
「おい、人をダシに使うなよ」
「カッコつけんなよ、お前だって高瀬さん目当てでここ来たくせに」
「おい」
雪也なる青年が抗議の声をあげるも速攻で却下される。
「えっと、行きません」
塔子がキッパリと断る。
「えー」
「暇そうにしてるじゃん」
「今は暇してるワケではなく、ここに居なければいけない時間なので、行けません。すみません」
塔子が軽く頭を下げる。
「あ、なんかバスケ部フリースロー対決やってるって?」
一人の男の子が思い出したというように声を上げる。
「聞いたよー、高瀬さん3時から入る予定だって」
「高瀬さんに勝てたら一緒に写真撮ってくれるんでしょー!挑戦するの楽しみにしてるよー!」
塔子が思わず嫌ーな顔をしてしまうと彼らは大爆笑をする。
「そんな嫌な顔しないでよー!あはは」
「そんな顔しても綺麗だよねー!」
「スリーでもイイって聞いたんだけど?」
「フリースローとスリーと二回チャンス貰えんの?」
「楽しみだなー!」
彼らの会話に塔子がウンザリしていたその時。
「おーおー待たせたなっ!!」
そこに力強い声が廊下の方から聞こえてきた。バスケ部の集団が後ろを振り向くと、そこには悪い顔をしている真山が居た。
「げ、真山じゃん」
「何でお前が来んだよ」
「遠慮してんじゃねーよ。俺が相手してやんよ」
「呼んでねーよ」
「うっせーよ。とりあえず体育館行こーぜ」
「お前高瀬さんの何なんだよ。うっぜーな……」
「お前は彼女といイチャついとけよ。こないだ映画館でお前ら見たぞ」
バスケ部集団は真山を見て一様に嫌な顔をした。
「とりあえず先生呼んでおいたぞ」
そう言って真山の後ろから顔を出したのは秋だ。
「げ、秋。お前もかよ。別に俺ら何もしてねーよ」
「いいから行くぞ、ホラ」
真山と秋に連れられて、バスケ部集団は教室を出て行った。塔子がホッと見送っていると、チラッと早紀が顔を出した。
「塔子、大変だったねー」
「早紀!ありがとう!メール見てくれたんだねー!」
実は彼らがバスケ部だと分かった時点で、塔子は早紀にメールを送っていた。
「うん、秋と一緒に居たから追っ払って貰おうとコッチに向かってたら途中に真山も居てさ。連れてきた。こういう時役に立つな」
「ホント助かった!秋との時間邪魔してゴメンね?」
「いや、全然大丈夫。それにしてもさっきの白王子じゃん。他の子たちが見たらキャーキャー言うんじゃない?体育館行くのかな?盛り上がるかもなー」
「白王子ってあの雪也って呼ばれてた人?」
「あ、そんなんだったかも。去年まで白石中の七番、色白だし名前もそんなんで付いた呼び名が白王子。どこ行っても女の子に囲まれてる人でしょ?」
「へー、知らない。でもあの人たちの試合覚えてる。オフィシャルしてたから良ーく覚えてる。胸糞悪い試合だった。白王子?腹ん中真っ黒なんじゃない?」
「あはは!!塔子辛辣!!あーあれか、終わった後塔子がメチャクチャ怒ってた試合か」
「去年の夏ね。あのラフプレーの連発、ホント酷かった。さらに終わった後、相手のキャプテン泣いてるのバカにしてた姿が忘れられないわ。今思い出しても腹立つ」
「塔子の前じゃ男前も役に立たないんだよねー、ウケる」
早紀はクスクス笑っている。
「ねー、早紀も今日ラストだよね?あの人たち居ないとイイなぁ」
「真山が追い払っておいてくれることを祈っとこ!」
また後でね、と早紀は秋を追って行った。塔子はこれからの事を考えると憂鬱になる気持ちをやり過ごすように溜め息を吐いた。
「ってか忘れてたぁー。ここ終わったら私アリーナ行かないとじゃん。あぁ……今年も探偵最後まで出来なかった」
塔子が項垂れていると、橘が気の毒そうな顔をして話しかけてきた。
「なんか色々察したけど……大丈夫??」
「高瀬が人を悪く言ってるの初めて聞いたな」
森田の言葉に塔子はバツの悪い顔をする。
「あ、ゴメン。気分の良いものじゃないよねー」
「いや、珍しいからよっぽどなんだろうと」
「っていうか、人にあんま興味ない塔子にしたらホント珍しいよね。嫌いって強い感情じゃん。ある意味あのイケメン特別じゃん」
「特別……特別?なんかそれも嫌だな……」
「あはは!塔子ちゃん、ホント嫌な顔してる〜。何がそんなに嫌だったの?」
「うーん……
去年の夏、あの人たちの学校の試合のオフィシャルをやったことあるのよ」
「オフィシャル??」
「えっと、その試合の補佐をする係って感じ?タイマーやったりスコア書いたり、その関係でファール数えたり……色々仕事があるんだけどさ。私その試合スコア付けてたのね。
そもそもその試合、あの人たちのチームが勝つだろうって思われてた試合だったの。地力的に。でも相手の調子が良くてさ。特に四番がかなりキレてて。これは金星上げるかもーなんて思いながら見てたらさー。後半酷いラブプレーの連続でことごとくチャンス潰されるし、アンスポ貰っても攻めの勢いも無くなるし、最後には四番怪我しちゃって。コーチの指示だったのかもしれないし、分かんないけどさ。でも試合終わってあの人たちギリギリ勝って、向こうの四番が泣いてるのをニヤニヤしながら笑ってたの。私その姿見てホント腹立って。思わず男泣きしてる四番に駆け寄って手を握って慰め……」
「たの?!高瀬が?!」
「え?ううん、慰めたかったけど泣いてるトコそんなのされたくないだろうなって止めたんだけどね。そのくらい腹立ったのよ」
「あ〜ビックリした。高瀬そういうの軽々しくしちゃダメだと思うよ、僕」
「そうだよね、知らない人にそんなことされたら引くよね。気を付けるよ」
「あ、うん、そうだね、気を付けよ〜」
橘は苦笑いだ。
「でもさー塔子、アタシにはよく分かんないけど勝負の世界なワケでしょ?勝つ為ならそういうのも戦略のウチなんじゃ?」
「ある程度は分かるよ。でもアンスポってアンスポーツマンライクファウルだからね?スポーツマンらしからぬ行為だぞって何度も注意されてるワケで。何よりもバカにするように笑ってたあの顔を忘れられないよ」
「……塔子ってメンドクサいよね」
「ぐっ……」
「……そうか?」
塔子が何も言えずにいると今まで黙って見ていた森田が口を開いた。
「高瀬らしくて良いと思うけどな。そこでちょっと酷いけどイケメンだから許せる、とか言ってたら高瀬じゃないだろ」
「も、森田……いつもの毒をどこに置いてきたのー?」
「今から取りに行くところだ」
「チッ、皆んな塔子に甘いんだよ……」
最後のメグの呟きは皆んなには届かなかった。
「あ、そうだ〜!今日の後夜祭、どこで見る〜?」
エリが場の空気を変えるようにテンション高く話を変える。
「後夜祭ね〜。今年も花火上がるんだっけ〜?」
「気持ち程度、だけどな」
橘の疑問に森田が答える。
昔は花火ではなくキャンプファイアーを行っていたらしい後夜祭。片瀬祭の文化部門が終わる二日目の夜、各クラスから出る不要になった物を校庭で燃やしていたのだという。しかしグランドを人工芝に替えたことを契機にキャンプファイアーは実施されなくなり、その代わりお遊び程度の花火が上げられるようになった。花火の打ち上げに関しては当時の生徒会長が尽力し、学校と掛け合いやっとの思いで開催に漕ぎつけたのだが、その生徒会長が現役の間には間に合わなかった、という話だ。
「ま、団席で見るのかな〜?他にイイトコある〜?」
明日は片瀬祭のラスト、体育部門の開催だ。その為の設営も済んでおり、校庭には各団毎に団席、つまり生徒たちの観覧席も設置されている。そこからは花火も見やすく、毎年そこから見る生徒が多い。もちろん、付き合っているカップルなどは自分たちだけの場所を探し出し、頑張って自分たちだけの世界を作るのが醍醐味なのだが。
そのようなことに全く縁が無かった塔子のような人間は、毎年団席から皆んなでワイワイ眺めるのが定番なのだ。
「そうだよね〜。やっぱり団席か〜」
エリは少し残念そうにしているが、普段ならこの手の話にはノリノリで乗ってくるメグが静かだからか、あまり盛り上がることなく終わってしまった。
そんな中、塔子は自分の探偵手帳を眺めながら、物思いに耽っていた。
別視点でも書きたいよーな、いらないよーな。
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