35ーー4年生(10月)
なんでさ、謎とかに手を出しちゃったんだろ…我ながらアホすぎる!
フンワリと、片目で読んで頂けると有難いです。
なんなら目をつぶって読んでもらっても!
片瀬祭二日目が始まった。
「さて!今日も楽しく暗号探偵!」
ノリノリの塔子はチラッと隣を見る。
「思ってたんだよ、ずっと化学室に居ないとだったら森田文化祭楽しめないじゃんね、って」
隣には塔子の探偵手帳を眺めている森田の姿がある。
「いや、まー別にいいかなって思ってたんだけど、文化部門の実行委員の補佐をしてた先輩が都合がついてさ。今日の午前中は部に居なくても良くなった。正直暗号探偵なければ部に居ても良かったんだが、面白そうなんだよな、これ」
塔子の手帳を真剣に読む森田。
「で?まずどこ行くの?」
森田が他の三人を見回す。
「まず図書館の窓に貼ってあるだろうヒントを探すんだよね〜?」
「だね、行ってみよー!」
四人はさっそく図書館に向かうことにした。
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「でたねー、呪術師」
「出たね〜、四人目だね」
またもや豪奢なカード。『呪術師』と書かれたその人は大きな黒いローブを身に着けている。大きなフードも被っている為、顔の造作は分からない。それどころか男性なのか女性なのかすら分からない。辛うじて見えている口元は薄っすら笑みを浮かべているようだ。その口元から分かるのは案外若そうだ、ということだけだ。
『確かに私は彼の依頼を一度失敗しています。でもそれが彼を殺す動機にはなり得ない。まだチャンスはたくさんあったのだから。そして私から見える所に神官もエリザさんも葬儀屋もずっと居たので犯人ではないでしょう。』
「何だコレ?」
森田が首を傾げる。
「昨日から四枚目なんだよ〜」
そう言いながら橘は自分で撮ったカードの写真を森田に見せる。
「……まあ犯人を見つけるんだろうな」
「あと一枚は確実にありそうだよねー」
「葬儀屋が出てきてないからね〜」
「さて、もう一つの謎は何だろう?」
謎が書いてある方の紙には四つの中途半端な絵と、あらゆるところにカタカナが散らばっている。
「なんかこの絵、どこかで見なかったっけ?」
「あ、探偵手帳になかった?」
塔子が探偵手帳を見てみると、似たような絵が四つと穴が空いた紙がある。
「これ絵が完成するように重ねるのかな?」
重ねてみるといくつかのカタカナが浮かび上がってきた。が、意味が分からない。
「……これだけじゃダメだな。他に何かヒントねーかな」
「この四つの絵に何か意味があるとか?」
「うーん、クラッカーとおにぎりとサンタの帽子とピラミッド……」
「全部三角形だな」
「「「確かに」」」
四人は考え込む。
「……三画か」
阿久津が顔を上げる。
「うん?」
「この浮かび上がったカタカナの中から三画で書けるカタカナを抜き出す」
「「「なるほど!」」」
探偵手帳のこのページの下には『答えが出たが涙で前に進めない。やはりアレが必要だ』と書いてある。
「これどーゆーこと?」
首を傾げた塔子に橘が期待に満ちた顔を向ける。
「涙は拭かないとなんじゃない?」
「……売店か」
「でも売ってくれないんだよね?」
「でもまたヒントはくれるんだよ!またお芝居してくれるのかなー!楽しみ!」
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「おや!アンタまた来たのかい?アンタに売れるモンは何も無いと言ったのに……」
売店のおばちゃんに問題の答えを伝えると突然スイッチが入ったかのようにお芝居が始まった。
「困ったねぇ。そんなに本気なのかい?半端な気持ちじゃないんだろうね?」
塔子たちはワクワクした顔で見ているだけで何も答えてはいない。が、話は進む。
「いいかい?人の言葉に惑わされてはいけないんだよ。結局は自分がどうしたいかなんだ」
おばちゃんのセリフは長い。
「分かったよ。コレを持ってお行き」
「すごかったな……」
森田が驚いてる。
「ね〜面白いよね〜」
「おばちゃんが優勝だねー」
橘も塔子もすっかりおばちゃんのファンだ。
今もらったのは今までよりもちょっと大き目の紙。載っているのはクロスワードだ。
「これを解けばいいのか」
森田はさっそく解き始めた。塔子もそれに倣う。クロスワードの中身はこの学校の建物や専門教室の名称など、片瀬学園ならではの内容になっている。外部の人たちもパンフレットを確認することで解けそうだ。
「『武道場』ってなった?」
皆んなが解けたであろうタイミングで塔子が聞く。
「うん、なったなった」
「そうだな」
横を見ると阿久津も塔子を見て頷く。
「武道場ってどっちだろうねー?」
「顧問のこと考えると剣道部が使ってる方な気がするけどね〜」
「……どっちも今日は施錠してある筈」
「じゃー扉とか壁とかかな?」
塔子たちはとりあえず建ち並ぶ武道場へ向かうことにした。
「行こう」
歩き出した阿久津の背中を塔子は追う。
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暗号は第一武道場の外の壁に貼ってあった。
『葬儀屋』と書いてあるそのカードに描かれているのは肩までのプラチナブロンドを持つ、色白で美しい女性だった。涼しい目元が印象的で、生命力を感じさせない無機質な美しさだ。この能面のような顔で一体どのくらいの人々を弔ってきたのだろうか。
『私は生きている人間とはあまり関わりがありませんから。ただ亡くなった人をあの世に送る手伝いをするだけで。彼の死に関わりがあるのは神官か騎士のどちらかでしょう。』
「これで五枚目だねー」
「これで全部かな〜?」
「もう一つ方の謎は……アナグラムか?」
「そうだね、森田。アナグラムはこれで二回目だよー」
「……よし、僕今回も頑張るよ!」
「俺も解いてみよう」
四人はその場に座って頭を捻る。
「あ、いけたよ〜」
「また橘!早い!」
「僕これ好きかも。『クイズ研の河合に聞け』でどう?」
「それだな、橘ナイス」
河合とはクイズ研顧問かつ剣道部顧問の河合先生だ。
「河合先生か。どこにいるかな?」
「クイズ研の部室か社会準備室か?」
「どっちが近いかなー?」
塔子がパンフレットの地図を見ながらあっち向いたりこっち向いたりしている。
「何してるんだ?」
森田が怪訝な顔で塔子を見る。
「え?地図の向きと現実を合わせようとしてるの」
それを聞いた阿久津が眉根を寄せる。
「……余計分かんなくなんね?頭に東西南北入れとけよ」
「……ちょっと何言ってるか分かんないっすね……」
「……高瀬さ、方向を右とか左で考えたりしてないよな?」
「えっ?それ以外に何が?」
「それだと自分が向いた方向によって変わるだろ……だから迷うんだよ。地図は北を上で固定しろ」
「この会話でもう混乱してるからね??」
阿久津は瞬きを数回した後、合点がいった顔をした。
「去年、一昨年と高瀬がゴールできなかった理由が分かった。地図読ませる問題あったもんな」
「あはは!なるほどね〜、だからなんだ?昨日もよく解けてたから不思議だったんだよ〜」
「いや、そもそも自分の学校くらい地図なしで歩けるだろ……」
森田が呆れ顔だ。
「えっとー近いのは………………
クイズ研の部室ですね!」
「「「社会準備室だな(ね)」」」
反対向きに歩き出そうとした塔子の腕を掴んで歩き出した阿久津に引きづられるように、塔子は社会準備室に向かって歩き出した。
結局、河合先生は社会準備室に居た。
「お!阿久津ー、やってるなー!お前らが今年初めてだぞ!誰も俺まで辿り着けないのかとヒヤヒヤしてたわ」
次はどんな小芝居をしてくれるんだろうとウキウキしていた塔子は肩透かしを喰らったが、河合先生は阿久津に会えて嬉しそうに世間話をしている。しかし顧問の先生相手でも阿久津のクールな態度は崩れないようだ。
「おっと忘れてた!
『それがあの子に繋がる番号だ。今度は間違うんじゃないぞ。素直になることが一番だからな。それと嘘を吐いているのはただ一人だけだ。後の四人は皆んな本当のことを言っているぞ』」
河合先生はそう言ってメモを渡してくれた。最後に自分の役割を思い出したようだ。
「じゃー幸運を祈ってるぞ!」
先生はそう言って阿久津の背中をバンと叩き教室から送り出してくれた。
『4202−8615−873』
「何の番号だろー?」
塔子は首を捻る。
「携帯電話とか固定電話の番号じゃないしね〜」
「他のヒント無いの?これだけ?」
森田はもらったメモを裏返してみるが、この数字しか書いてない。
「今までで数字使った何かとか残ってない?」
「うーん、何かあったかなー」
塔子は探偵手帳を開いて森田に渡す。塔子も横から覗いてみるが、コレと言って思い付かない。四人とも手帳を見ながら考え込む。
「……ねぇお腹空かない?今何時だろ?」
塔子の言葉に皆んな我に帰る。
「そう言えばそうだね〜。もうすぐ12時になるよ〜」
「うわ、もうそんな時間か。あっという間だったな。楽しかった。俺部に戻って午前中の片付け手伝うわ」
「森田お昼どうするのー?」
じゃーな、と言い置き早足で行こうとする森田の背中に塔子が声をかける。
「とりあえず今はいい。どうせ一時半からホームで待機だったよな。そこで何か食べるかも」
そう言い残して森田は化学室へ行ってしまった。
「僕たちはそうする〜?どこもすごく混んでるだろうね〜」
橘の言うように今日は一般客も多く来校している為、どのクラスも人でごった返している。
「謎が比較的人の少ない所に貼ってあって良かったよねー」
塔子が言うと橘も同意する。
「ホントホント、後半の謎は意図的に人が集まりそうなトコを避けてある気がするよ〜」
阿久津も隣で頷いている。
「そう言えば高瀬、小学校の時の友達とかって誘ってないの?お昼一緒に食べる約束とか無いの〜?」
橘に聞かれ、塔子は一瞬返答に詰まった。
塔子は結局小学校卒業まで、学校に楽しく通えるようにはならなかった。その為同級生に都内の私立に通うことを伝えてもいないし、引っ越すことすら伝えずに卒業したのだ。同級生たちは中学校に入学して初めて塔子が居ないことに気付いたであろう。もしかすると塔子が居なくなったことに気付いてすらいない子もいたかもしれない。塔子自身、そうであったらイイなと思っているくらいだ。学園祭に誘う友達などいるはずもない。
「う、うん。私中学入学と同時に都内に引っ越して来たんだよねー」
「そうなんだね〜。阿久津も確かそうだったよね?受験の為に一時帰国したんでしょ?僕も一年半くらいこっちの小学校通ったけどあんまり馴染めなかったからな〜。寂しい人間同士、三人で仲良くご飯食べよっか!」
突然の質問に少し動揺した塔子だったが、橘が明るくまとめてくれてホッとした。
三人は話し合った結果、昨日のようにテイクアウトして人が少なそうな場所を探して食べることにした。
薄目でね。薄っすらフンワリがキーワードだよ!




