34ーー4年生(10月)
文化祭&体育祭編 第五話!
理科室に着いた。ドアを開けて中に入ると正面ど真ん中の窓にまた2枚のカードが貼ってある。
「またこれか。これ後何枚あるんだろうね〜」
橘が指差すのは何となく豪奢なカード。今度は長い黒髪を後ろで一つに結んだ、これまたイケメン風な男性だ。腰にシンプルな太刀を佩いている。下に『騎士』と書いてある。騎士なだけあって、さっきの神官と比べると逞しく描かれている気がする。
『彼を殺した犯人ですか……おそらく彼の妻であるエリザさんか、彼女に傾倒している神官か、彼の依頼を失敗した呪術師でしょう。しかし例え犯人が誰であろうと私は騎士だ。残った人々は守ってみせる。』
「と、イケメン騎士が仰ってますー」
カードを読んだ塔子が茶化して言う。
「あはは!高瀬もイケメンとか思うんだね〜」
「ちょっとー、美的感覚が死んでるワケではないんだよ?美しいものを見たら美しいとは感じるよー」
「でもイケメンだから好きになるワケじゃないんだよね?高瀬は何に惹かれるんだろうね〜?」
橘に聞かれて塔子はちょっと考える。
「うーん、よく分からないんだけどさー。最近付き合ってる友達を見てたりして恋愛もなんかイイなぁって思い出したよー」
塔子は早紀と秋の二人を思い浮かべてウンウン頷く。
「うわ〜マジか〜。でもそれってあんまり言わない方がイイと思うよ〜。特に部活でとか」
「うん?どうして?」
「なんとなく〜。
まーまー、こっちの暗号解いてみよ〜」
橘の言っていることはよく分からなかったが、確かに暗号を解かないと探偵を救ってあげられないな、と塔子は頭を切り替えた。
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「今何時になったんだろー?」
「結構疲れたよね〜。ちょっと休憩したくない?」
「そうしよー。どっかのカフェ行ってみよっか!」
「あ、確か五年のどっかがメイドカフェやってるみたいだよ〜。さっきの執事カフェとどっちがイイ?」
「メイドカフェがイイなー!可愛いメイドさん見たい!」
「そうなの?!イイの?そっちで。執事に癒されに行きたくないの?」
「えー橘的にもメイドカフェの方が良くない?」
「う〜ん、どうかな〜。僕はどっちでもイイけど〜」
「行こ行こー!阿久津も行こー!」
「…………」
浮かない顔の阿久津に気付くことなく、塔子は五年の教室に向かった。
「「キャーーー!お帰りなさい、ご主人様ぁーーー!」」
教室に入った途端、黄色い声に迎えられた塔子は少し面食らった。五年一組の女子の先輩方は黒色のワンピースにフリフリの白エプロン、頭には猫耳やウサギ耳を着け、紛れもなくメイドカフェのメイドだ。そのメイドさんたちが一斉にこちらに向かってくる。
「ご主人様、こちらのお席にどーぞー!!」
塔子が驚いている前で阿久津と橘はあっという間に手を引かれ空いていた席に連れて行かれた。
ーーあ、忘れてた。この二人、顔面で大人気の二人だった。
塔子は二人を中心に出来上がった人垣に面くらいながら、ポツンと残されてどうしようかと考えていた。あの人垣を掻き分けて中に入っていく勇気はない。
「高瀬?」
そんな時、名前を呼ばれて振り返るとバスケ部の先輩が立っていた。
「まみ先輩!ここのクラスでした?」
「そーだよー。どうしたの?そんなトコで突っ立って。遊びに来てくれたんだったら座んなよー」
「あ、ありがとうございます。ってか、まみ先輩はメイド服着てないんですかー?」
「うん、アタシ裏方だから。音楽担当」
「音楽担当!!!」
「あ、そうじゃん、高瀬も大好きじゃん!曲選ぶ?」
「えーーー!!!イイんですかーーー!!!」
塔子はテンションMAXであっという間に二人のことを忘れ、まみ先輩に連れられ衝立の後ろに入って行った。
衝立の裏ではドリンクを作っている人たちでごった返していた。その横でまみ先輩は椅子に座ってスマホで好きな曲を選んでいるそうだ。まみ先輩のスマホは教室の中央に置いてあるスマートスピーカーに繋がっている。
「最高じゃないですかぁぁぁ。役得過ぎませんか?」
「でしょ?高瀬だったらそう言うと思った」
「私来年これやります。絶対やるーーー!」
「あはは!クラス説得しないとだね!」
「します。説得して納得させて音楽係勝ち取ります!」
グッと握り拳を作って気合いを入れる塔子。
「あはは。さて、何流したい?好きなのでイイよー」
「先輩、また今年もあのコラボで新しい曲出したの聴きました?」
「あ、今年のはちょっと祭囃子っぽいヤツでしょ?聴いたよ!やっぱ超かっこいいよね、あの人たち」
「ですです!超かっこいいですよねー!なんであんなにかっこいい曲作れるんだろー。でも私は去年のコラボ曲がホントに好き過ぎて……なので、一年前の曲ですけど、こっち流してもらいたいです!」
「オッケー。今の曲終わったら流すよー。あ、高瀬が好きって言ってたボカロP、新しい曲出してたね」
「出してましたねー!聴きました?」
「聴いた聴いた!」
塔子はまみ先輩との音楽談義に花を咲かせる。楽しくて仕方ない。
「高瀬ってこういう曲カラオケで歌うの?」
「歌いますよー」
「え、歌えるの?!」
「いや、歌えないんです」
「でも歌うの?」
「歌ってみると全然歌えなくて、やっば!やっぱ歌手すごーい!ってなるのがたまらないんです」
「ドMかよ!あはは!」
話は止まらない。
「私、大好きな歌い手がいるんですけど、最近全く歌出さなくなって……活動辞めるんじゃないかと思ってちょっとショックなんですよねー。その人の曲も流して欲しいですー」
「誰?誰?どの人ー?」
「あ、ちょっと待ってください。私のスマホから送りま……あ、めっちゃ着電してた!」
塔子がスマホを確認すると、阿久津と橘から数回ずつ着信が残っていた。
――ヤバい、すっかり忘れてたー!
塔子がそっと衝立の中から外を覗いてみると、先程通された席に阿久津と橘はまだ座っていた。橘はメイド先輩と話をしているが少し困った顔をしているし、阿久津に至ってはメイド先輩を完全無視で、不機嫌さを隠しもしない顔でスマホを見ている。
――これはヤバい!!
「まみ先輩、すみません。友達と来てたのすっかり忘れてましたー!」
「マジか。友達どこにいんの?」
「あそこです。ちょっと私行ってきます!」
塔子はまみ先輩に頭を下げて、二人の席にそぉーっと近付いて行く。何となく怒られそうで怖い。いや、塔子が悪いのだが。
もうすぐで着く、というところで何を感じ取ったか阿久津が突然顔を上げてこちらを見た。ビクっとなった塔子を見て、テーブルに両肘をついた腕に顔を埋め、はぁーと溜め息を吐いた阿久津。再び目線だけ塔子に向け、
「……どこ行ってたんだよ」
と項垂れた。
「ゴメンね、ホントゴメン!先輩が居たからつい話し込んじゃって!」
「あ!高瀬やっと来た!」
橘も気付き、スマホを指差した。
「電話かけたんだけど高瀬出ないんだもん」
「ゴメン、全然気が付かなかった……ホントゴメン!」
塔子が二人に平身低頭で謝っていると、教室内にさっき話していた曲が流れ出した。思わず塔子が衝立を振り返ると、まみ先輩が笑顔で手を振っている。
「高瀬、次さっき言ってた曲流すから送ってー」
「わーい!秒で送りまーす!」
ウキウキでスマホを操作する塔子を見て、阿久津はもう一度深く溜め息を吐いた。
「高瀬が何してたか想像がついたよ〜」
橘もそう言って苦笑いだ。
「何も言わずにゴメンね?でも二人の人気に驚かされたよー!」
「僕たちもフォロー出来ずにゴメンね?でも電話は気にしてて欲しかったな〜」
「そこはホント、その通りでございます」
「いや、でもちょっと嫌な気持ちにさせちゃったかもって思ってたら、まさかイキイキしてたから、なんか肩透かしくらった感じだよ〜」
「へ?嫌な気持ちになんてなってないよー?」
「うん、そうなんだね。理解したよ」
そう言って笑った橘の笑顔は少し寂しそうに見えた。
注文したドリンクを飲み干した三人はメイドカフェを後にした。
「休みに来た筈なのに逆に疲れたよ〜」
「私がお店のチョイス間違ったよね、ゴメン!」
「でも高瀬は元気になってるよね〜」
「あ、うん。元気出ちゃったねーえへへ」
塔子は大好きな曲が聴けて色んなトコが回復している。
「だけど久々に阿久津のあそこまでの塩対応を見た気がするー」
「氷点下だったね〜」
「うんうん。最近柔らかい阿久津見てたから何だか懐かしさすら感じたよー」
「どちらかと言うとコッチの阿久津の方が通常運転な気もするんだけどね〜」
塔子は隣を歩いている阿久津をチラッと盗み見る。さっきまでの何となく楽しそうな雰囲気は消し飛んで、薄っすら眉間に皺が寄ってるような気もする。
「阿久津ー、ゴメンね?」
塔子が改めて謝る。阿久津は下を向いたまま目線だけ塔子に向け、軽く息を吐く。
「…………お前ってさ…………いや、何でもねー」
「……非常に気になりますが……」
「いや、ゴメン、続きやろーぜ」
阿久津は何かを吹っ切るように頭を軽く振り、探偵手帳を取り出した。
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「三枚目だね〜」
それぞれのスマホに映し出されてるのはまたまた豪奢なカード。今度はクルクルとしたブルネットの髪の毛の悲しそうな顔をした綺麗な女性のカードだ。細身に描かれた身体が何となく庇護欲を唆る。豪華でも質素でもない装いに包まれた自身の身体を抱きしめるようなポーズの下には『エリザ』とある。
『彼の暴力的なところには困ってはいましたが、まさかこんなことになるとは……。私にはよく分かりません。でも犯人は葬儀屋さんではないです。』
「エリザさん登場したねー」
「したね〜。そして葬儀屋なる者もこれから出てくることが分かったね〜。ってことで、これは保留っと」
「コッチの謎は簡単だな。カタカナがくっ付いてるだけだ」
「そうだねー。ってことで行きますか、被服室!」
「……時間的に今日はそこが最後かもな」
阿久津に言われてスマホを確認するともうすぐ16時になりそうな時間だ。
「そうだねー、もうこんな時間。明日でちゃんと終わるかなー」
塔子は気持ち早足で被服室へと足を進めた。
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「……ここまでだな」
手元の探偵手帳を眺めながら阿久津が言う。
「そうだね〜、続きはまた明日だね!僕、ちょっと疲れたかも」
橘が伸びをしながら言うと、塔子もつられて一緒に伸びをする。
「確かにー。結構歩かされたしね!心地良い疲れだ!」
「明日は図書館のどっかの窓にあるヒントを探すところからだね〜」
「そうだな」
「サックリ見つかるとイイねー!」
三人はそんな話をしながら自分たちのホームへと帰った。
「あ、帰ってきた。どうだったー?暗号探偵」
教室に帰るとメグとエリが自分たちの展示の近くで寛いでいた。
「面白かったんだろ?俺もやりたかったな」
後ろから聞こえた声に振り返ると、丁度帰ってきた森田だった。
「うん、すごーく楽しいよー!明日はメグもエリも一緒にどうよ??」
塔子は目をキラキラさせながら二人を誘う。今年は絶対最後まで解きたい。人が増えるということは知恵も増えるということだ。
「うーん、阿久津たちと文化祭歩くっていうのは捨て難いんだよなー」
「うん?ゴメン、もう一回言って?」
メグの小さな呟きは塔子の耳には届かなかった。
「ね〜どんな謎があったの〜?それ見てみたいな〜」
「そうだよね!」
エリに言われた塔子は探偵手帳を取り出し、ワクワクしながら解いた謎のメモを見せる。
「色んな謎があってさー!これがねー……」
「うわ〜無理〜」
「アタシもイイや。明日は外部も来るし、謎とか解いてらんないな」
見せた瞬間、秒で断られた塔子はガックリと肩を落とす。
「マジかー、しょんぼり」
「そんなことより執事カフェやばかったよ!!」
「そ〜なの〜!先輩たちからお姫様扱いしてもらえるんだよ〜!」
「あそこ、あの高橋先輩居るんだよー!ドリンク買ったら一緒に写真撮ってくれるの!マジで最高だった!」
塔子はあの高橋先輩がどこの誰なのか全く分からなかったが、きっとイケメンなんだろうと突っ込んで聞くことはやめておいた。
「はっ!そう言えば!!」
盛り上がっている二人の隣で塔子の探偵手帳を見ている森田に塔子は迫る。
「ねー森田!来年も同じクラスにもしなれたら、文化祭の出し物はメイドカフェにしよっ!!」
「「「「「はぁ??」」」」」
塔子の発言に阿久津も含めた五人が声を上げる。
「え?高瀬メイドやりたいの?」
森田が怪訝な顔で塔子を見る。
「嘘でしょ、高瀬。絶対やめた方がイイと思うけど〜」
橘も驚いた顔だ。阿久津も眉根を寄せて塔子を見ている。
「意外なんだけど。塔子そんな感じ?」
「塔子ちゃんのメイド姿はヤバそ〜」
メグとエリもちょっと引いている様に見える。
「違う違う!私は音楽担当するのー!今日先輩がやっててさー、控えめに言って最高だった!!来年私あれがしたい!!今のうちに根回ししとこーかと思って。だから森田、メイドカフェに清き一票と準備しといてね!」
「「「「なんだ……」」」」
皆んな一気に興味を失い、塔子の森田へのお願いはスルーされた。
「……それメイドカフェじゃなくても良くね?」
さらに呆れた顔で阿久津に言われ、確かにその通りだと思った塔子だった。
こうして、塔子たちの片瀬祭一日目は無事に終了した。
頑張ります。




