32ーー4年生(10月)
文化祭&体育祭編 第三話!
とりあえず塔子はメグたちに連絡を取った。二人は今コスプレ写真館で遊んでいるらしい。十二時まではそれぞれやりたい事をやり、食べたい物を買って化学室で待ち合わせる事になった。
「ねー阿久津。去年、助手を誤解させちゃった探偵の言葉って何だったの?」
今回の話の始まり、最初のポイントである売店に向かいながら塔子が訊く。
「……明かされてなかった。多分考えてないんじゃね?これストーリー適当だろ」
「適当……なのかな。私去年も一昨年も最後まで辿り着けてないから分かんないなー。悔しいー」
「僕さっき初めて知ったから全然分かんないけど、難しいの?」
橘が探偵手帳を眺めながら塔子に訊く。
「私はすっごく難しいって思ってたけど、阿久津解けたんだよね?腹立たしいな」
塔子が膨れた顔で阿久津を見る。
「……腹立たしいって……寧ろ何で解けなかったのか分かんねー」
「お、さらに油注いでくるパターンですね?」
真剣に分からない顔をしている阿久津に塔子が迫る。
「注いでねーって」
これは下を向き柔らかく口角を上げるパターンだ。最近塔子は阿久津がこの顔をすると心がホッコリする。気難しい猫が少し近づくことを許してくれた感じと似ている。
売店に着くとボックスティッシュを探す。なんでも傷心の探偵は泣き過ぎて使い切ってしまったティッシュを買い求めにきた、という設定らしい。
「始まりが、泣き過ぎてボックスティッシュを買いに行くって……探偵のキャラ設定どうなってんの?」
「だからテキトーなんだって」
「何だか先が楽しみだよ〜」
二人が楽しそうだ。そんな二人を見ている塔子も既に去年より楽しい。
お目当てのボックスティッシュは売店の隅に他の商品に紛れて置いてあった。手に取ってみると底面に紙が貼ってある。
『これをレジに持って行こう』
「何?これ買わなきゃなの?」
指示を確認した橘がキョトンとした顔で塔子と阿久津を見る。
「うーん、多分そんな事にはならないと思うけどなー」
「持っててみよーぜ」
阿久津がサッとレジに向かう。
「あーダメダメ!これは売れない。売れないんだ!」
いつもの売店のおばちゃんが両手でバツを作り、妙に芝居がかったセリフを口にする。橘の目がまんまるになっていて、塔子は笑いを誘われる。
「アンタ探偵だろ?アンタにだけは売ってはならないとあの人に……あっ」
おばちゃんは言ってはいけない情報を口にしてしまったようだ。慌てて手を口に当てる。
「……仕方ないね。ホントはこれ内緒なんだけど……」
話は進む。どんどん進む。
「コレ持って行きな。いいかい?自分に素直になるんだよ?」
そう言って、売店のおばちゃんは小さなメモをくれた。
「ね〜待って?こんなに面白いことやってたの〜?あはは!」
売店から外に出ると橘はお腹を抱えて笑い出した。塔子も一緒になって笑う。暗号探偵、去年よりもグレードアップしている気がする。
「え〜?……阿久津これ一人でやってたの?出来んの?」
橘が笑いながら阿久津を見る。
「阿久津が一人で誰かに話しかけてヒント貰ったり出来るの?想像つかないんだけど?」
確かに。塔子も頷く。
「うんうん、ホントだ、想像できない!」
しかし阿久津は何でもない顔で言う。
「……俺一人でやってたなんて言ってねーけど」
「えっ!一人じゃなかったのーーー?仲間だと思ってたのに……」
塔子はガックリ肩を落とすが、また顔を上げる。
「え?阿久津、友達居るの?!」
「……おま……失礼だな」
阿久津が眉間に皺を寄せ塔子を見る。
「あはは!高瀬流石に酷い!!」
「あは、ゴメン!なんか孤高の黒猫のイメージしか無くって……」
「孤高の黒猫って!あはは!!」
橘は涙目になっている。阿久津は憮然とした表情だ。
「で、誰と一緒にやってたの〜?」
「……剣道部のヤツ。
……うちの顧問、クイズ研と兼任してんだよ。だからこれ買いに来いって言われる」
そう言って探偵手帳をヒラヒラさせる阿久津。ちなみに剣道部は中高合同の部だ。
「だから阿久津知ってたのか〜!」
「そうだったんだー!あ、じゃー今年そのお友達たちは大丈夫?一緒にやんなくてイイの?一緒に回る?」
「……もう回ってんじゃねーの。近元だっけ?あのドリンクぶち撒けてたヤツと」
阿久津の言ってる意味が分からない塔子は首を傾げる。
「近元って私が今日、フリースローの担当時間代わったチカちゃん?もしかしてその剣道部の人って磯部くん?」
阿久津は売店のおばちゃんからもらったメモを見ながら歩き出す。
「……アイツのクラスの待機時間に合わせたかったんだろ。一緒に回る約束したって聞いた」
「マ、マジか!!」
塔子は仰け反って驚く。
「全く知らなかったー!」
「え?何の話?どーゆーこと?」
話が見えずに首を傾げている橘を急かして阿久津を追う。
「えっとつまり……阿久津の剣道部のお友達磯部くんとバスケ部のチカちゃんが……付き合ってるの?」
「…………上手くいったら話回ってくんじゃねーの」
「ひぇー。聞いた?橘。私、今日代わってあげられて良かった!なんかお役に立てたかも、嬉しいなー!」
「あはは!良く分かんないけど、高瀬良かったね?」
「うん、きっと喜ばしいことだ!」
「あは、高瀬っぽい。
さて!色々と阿久津の謎も解けたところで、さっきのメモには何て書いてあったの〜?」
確かに、と塔子も自分の手の中にあるメモに目を落とす。阿久津もピタと立ち止まって振り返った。
「あ、悪ぃ……
メモには魔法陣と短い文章が書いてあった」
見てみると、4✖️4の16個のマス目に7つの数字が入っていて、さらにAとBニつのアルファベットが入っている図、そしてその下に
『ABの教室から外に出たいけど出られないから窓からそこを見てるの』
と書いてある。
「ホントだ、魔法陣」
「今阿久津どこに向かって歩いてたらワケ?」
「え?もしかしてもうこの魔法陣解いたの?頭の中だけで?」
阿久津が持ってるメモを覗き込んでみても、数字を書き込んではない。
「あ……いや、解いてない。解こーぜ」
不思議そうな顔で阿久津を見ている橘の横で、塔子は持っていたシャーペンで魔法陣を解く。
魔法陣というのは縦・横・斜め、どこの列であっても和の数が同じになる図形のことだ。4✖️4のマスに7つも数字が入っているこの魔法陣は特別難しい物ではない。
「出来た……えっと、Aが6、Bが10だね」
「高瀬早いな〜」
「王道な感じかな?610に行く?」
「六年十組の教室ってこと?」
「うん、そう。あ……すぐそこだね」
「……え?もしかして阿久津、既にここ目指してた?」
何かに気付いた二人が若干引きながら阿久津を見る。
「嘘でしょ?解いてなかったんだよね?」
二人に視線を向けられた阿久津は、下を向いて頭をガシガシ掻きながらメモを見る。
「……解いてはない。でもこの魔法陣、一と二と三と五は既に入ってるだろ。四年の教室は展示で使えない筈だから後は六年の教室かなって。それにゼロって数字ねーし、もし教室を表すんなら十組しかねーし……アルファベット二個だけだし……そもそもABの教室って書いてあるしな」
「……怖!」
塔子が一歩後退りしてドン引きしている。
「……いや、それでも一応解くでしょ〜普通」
橘も苦笑いだ。
「悪ぃ……話してる間に少しでも近づいておこーかと思って……急ぐ必要無かったな、ゴメン」
阿久津はバツが悪そうに上目遣いで二人を見る。
「……ちょっと橘、ヤベーのがここに居た!!」
「ヤベーって、あはは。でもそうなんだよ〜、阿久津ってこういうヤツなんだよ〜」
「阿久津の頭ん中どーなってんの?あはは!頼もしっ!」
橘の苦笑いと塔子の大笑いの中、阿久津は少し気まずそうに六年十組の教室へ近づいていった。
教室のドアの前には3✖️3の9マス、さらに一番下の段の真ん中下に一つマスが足された10マスに、ひらがなが1つずつ10個入っている絵が貼ってある。
「何これ?」
橘が阿久津に聞いている。
「今はよく分かんねーからとりあえず写真」
塔子はすかさずスマホで写真に残す。
「オッケ!」
三人はドアを開けて教室に入る。
教室には誰も居なかった。このクラスは確かギャラリーで大型展示物を披露している筈だ。よって教室の中には何も無い。普段と変わらない、何の変哲もない教室。
「えっと、何か一文書いてあったよね?」
塔子はメモを確認する。
『外に出たいけど出られないから窓からそこを見てるの』
教室を見渡す。どこかに違和感はないだろうか……
「……ね〜、この文なんか怖くない?この教室入ったら外に出られなくなるホラー展開とか無いよね〜?」
橘が気持ち身をすくめながら訊いてくる。
「ちょ、ちょっとやめてよー!暗号探偵がホラーだったことは今まで無いよ!それにドア閉めて無いし……」
塔子は今通ってきたドアを振り返る。
「…………あれ?…………閉まってる!!」
「ひぃ〜〜〜!ちょっとマジでやめて〜〜〜」
塔子と橘はメモを握り締め二人で身を寄せ合った。
「バカ。閉めたの俺だし」
その二人を引き剥がすように阿久津が入ってくる。
「後ろ見ろ。あの人形だろ」
阿久津が指差す方向を見ると、三十センチ程のフランス人形が教室後方の棚の上に、窓の方を向くように脚を投げ出して座っていた。
「ヒィッ!フランス人形とかもうお誂え向き過ぎて怖い!」
橘が飛び上がる。その横で塔子は阿久津の腕を引っ張る。
「アレってアレ?夜になると髪の毛伸びるってヤツ?」
「それはどっかの市松人形だろ」
「じゃ、じゃー目から血の涙を流したり……」
「それはどっかの聖母マリア」
「じゃ、じゃ、じゃー少女を次々と殺しにくる死霊館の……」
「……アナベルか?高瀬、怖がるくせに知ってんな?」
「……あはは!全部答えてくれるじゃん!」
全てに律儀に答える阿久津に、塔子のちょっと感じていた恐怖も吹き飛んだ。阿久津もちょっと呆れた顔で笑ってる。
「うーん……あの恐怖の人形が外に出たいけど出られないと言っておられる……」
橘は恐ろしさのあまり人形に近づこうともしない。
「連れて行ってさしあげます?」
「ダメだろーな。備品動かしたら他の人が出来なくなる」
塔子の問いに阿久津が首を振る。
「何で外に出たいんだろ?」
「……それよりどうして出られないか、じゃね?」
三人で人形をよく観察する。塔子は気持ち遠目に、橘はかなりの距離を取って。
「橘……そこから見えるの?」
「見えてる、バッチリ見えてる〜。こっち向いてる足の指までしっかり数えられるよ〜。ちゃんと五本ある〜」
「なんでそんなトコ数えてんの……」
「だってもし六本とかあったらまたちょっと怖いじゃん!」
塔子と橘の会話を聞いていた阿久津が振り向く。
「……それだ。靴履いてないんだ」
「「え?」」
「靴履いてねーから外に出られねーんだろ。靴探そう」
阿久津はそう言うと教室内を探し出した。
「個人的な荷物は全部個人ロッカーに入れることになってる。触るの躊躇われるような物置いてねーよ」
「なるほど〜」
橘は屈んで各机の下を覗き込む。阿久津が後ろの棚を確認しているのを見た塔子は前方にある教卓に回り込み、中腰で中を覗き込んだ。
「あ、あったー!」
塔子の目線の先にはフランス人形の物であろう赤い小さな靴が置いてあった。触るのを躊躇っていると後ろから手が伸びてきて靴を持っていく。振り向くとすぐ目の前に阿久津が顔があって驚く。
「怖いもんじゃねーよ」
近距離の阿久津は手に取るのを躊躇っていた塔子をフッと笑い、赤い靴を裏返して見る。
靴の裏には新たな暗号と『靴は元の場所に隠しておいてね!』とのメッセージが貼ってあった。塔子はまたスマホでその暗号を撮り、阿久津が元の場所に戻した。
『彼女が行きたいのは下から三列目・一番右』
その青いカードの暗号を三人で確認する。
「窓から行きたいトコを見てるって言ってるから窓から見えるトコなんだろうね?」
塔子は窓から外を眺める。
外には校庭が広がっており、そこは明後日の体育祭の為の設営がもう殆ど済んでいる。
「う〜ん、青団の団席かな?」
「行ってみるか」
「一度化学室寄ってもイイ?ご飯の時間じゃない?」
塔子がスマホで時間を確認するとあと15分程で12時になるところだった。
「そうだね〜。高瀬、何か食べたい物あった?」
「色々美味しそうなのあったよねー!カレー、唐揚げ、焼きそば、タコ焼き、肉巻きおにぎりに焼きとうもろこしだっけ?他に何かあった?」
「後は色物カフェと甘い物とドリンク系だったかな〜」
「見に行ってみよー!」
三人はお昼を買って化学室に向かうことにした。
大らかな気持ちで読んで頂けたら嬉しいッス!




