31ーー4年生(10月)
文化祭&体育祭編、二話目!
「じゃ、俺化学室行くから」
そう言って森田は急いで出て行った。
「結局塔子は何時から何時までバスケ部に行かなきゃなの?」
「今日は十時から一時間だけなんだー。ご飯どこかで食べよ?軽音は何時から?」
「十四時からー。分かった。とりあえず終わったらメール頂戴」
「分かった!あと化学室にも行こう?森田が寂しくて泣いてるかもしれないから」
「いや、泣かんだろ」
メグが呆れ顔だ。
「お腹空かせてるかもしれないから」
「……とりあえず後でね〜、塔子ちゃん!」
エリにはスルーされた。
塔子はメグ・エリ、さらに阿久津・橘と別れ、クラブ棟でサッと着替えた後、中アリーナに向かった。
森田は実験の準備などが忙しいようで殆ど化学室に篭ることになるらしい。ご飯くらい一緒に食べられたらイイなと思った塔子は、時間が許せば化学室に顔を出しに行こうと思った。やっぱりシャボン玉の中に入りたいと思っていることは秘密だ。
阿久津と橘はクイズ研の部室に暗号探偵の探偵手帳を買いに行った。アレが無いと捜査が始められないのだ。手帳と名が付いてるが、物語の導入部分の話と各謎の手がかり、そして気になることを書き留められるようにブランク用紙が数枚一緒に綴じられた、ちょっとした物だ。どのくらいの数用意されているのか分からないが、万が一売り切れにでもなってしまったら悲しいので塔子の分も買ってきてもらうようにお願いしてある。
「え、心配しなくても大丈夫だと思うよ〜」
と橘には言われてしまったが。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「高瀬先輩!勝負です!!!」
挑んできたのは男バス中等部の後輩だ。塔子はニコニコとボールを手に前に出る。
「ふふふ、うまい棒は渡さないもんねー」
「え?いや……はい」
「どっちから投げる?」
「選べるんすか?じゃーオレ後攻で!」
「オッケ、私から行くねー!」
塔子はフリースローラインに立ち、バックスピンをかけながらボールを手前にクルクル回し二回突くと、手に取り膝を曲げ構える。
パシュッ!!
「イエーイ!まず一本!」
塔子が人差し指だけを伸ばした片手を挙げる。
「オッケーっす、次はオレっすね」
パシュッ!!
「イェー!こっちも入れたっすよー」
「イェー」
中等部三年の男バス仲間でハイタッチし合う。
「ふふー。次もサクッと決めるよー!」
………………
「五対三で高瀬の勝ち!」
「「「あぁーーーー」」」
「あはは。二本も外してちゃダメだよー!出直しー」
「クッソーーー」
「高瀬先輩!次オレと勝負、しゃす!」
「えー、また?今五本入れたの見てたよねー?」
………………
「五対四で高瀬ー」
「イエーイ!」
「高瀬先輩!次アタシとお願いします!」
「え、マジ?」
………………
「五対四で高瀬ー!」
「ヨシっ」
「高瀬先輩!おなしゃす!」
「…………」
………………
「四対三で高瀬!」
「一本落とした……」
「高瀬先輩!」
「……皆んなで潰しにくる作戦酷くない?!酷い!!」
………………
………………
………………
「四対三で高瀬ー」
「高……」
「待って?あと何人いるの?」
「あと……十人くらいっすかね?」
「……嘘でしょ?」
「外し始めてるぞー!いけるぞー!」
「これ後の方が良かったなー失敗したー!」
三年生が盛り上がっている。
………………
………………
………………
「三対三!サドンデスー!」
「イケる!イケるぞー!」
「ふぅ……負けるのヤダなー」
シュルルルルル……バンバン!
バックスピンをかけたボールを二度突く。
ふぅーーー…………塔子は大きく息を吐く。
ボールを構え、
パシュッ!!
「高瀬決めたー!」
「イイぞー!」
「次ー!三年ー!」
バンバンッッ!!
力強くボールを突いた後、狙って……
ガーンッッ!!
「落としたーーー!!」
「バカヤロー!!」
「うわー!やっちまったー!」
「四対三、高瀬っ!」
「集中力がやばくなってきた……」
「次、お願いしま……」
「高瀬!時間!交代!」
次に控えていた三年生が声を上げたのに被せるように、終了の声をかけてくれたのは真山だった。気付いたら交代の時間である十一時になっている。
「た、助かった……」
「高瀬、この時間だったっけ?次の一時間じゃなかった?」
真山が駆け寄ってくる。
「あ、チカちゃんと代わったの。真山も次の時間なの?なんか三年生が集中攻撃してくるから気を付けてねー。一時間って結構しんどいわ、これ」
塔子が顔を顰めながら両手首を振る。
「何で代わってんだよ…………お前負けた?」
「ううん!うまい棒死守したよ!!」
塔子がドヤ顔で少し顔を上に逸らし得意げな顔をする。
「うし!よくやった!」
「ちょ、もうやめてよー」
真山が大きな手で塔子の頭をグリグリ撫でるので髪の毛が乱れる。無造作に結んでいるだけなので直すのは簡単だがやめてほしい。
真山は三年生の方を振り返ると不敵に笑う。
「よし、今からお前らの相手俺なー!」
「いや、いいっす!」
「遠慮します!」
「ちょ、これからクラス帰らないとで……」
「オラ、そこに並んで金出せー。負けたらペナルティつけるからなー」
「「「げぇーーー!!」」」
嫌がっている男バスの三年生と、真山の登場に大喜びの女バスの三年生。
「あはは!!皆んな頑張ってねー!!」
そんなやり取りをしている真山たちに笑いながら手を振った塔子は体育館の入り口付近に阿久津と橘の姿を見付けた。
「ゴメン、お待たせ!どこか見てきたー?」
謎解きは一緒にスタートしたいなー、と塔子が言った為、二人は一時間どこかで時間を潰してきた筈だ。
「うん、ま〜。高瀬メチャクチャ入るんだね〜」
橘は驚いた顔をしてゴールを指差す。
「フリースローは一番確率の高いシュートだからねー。邪魔入んないし」
「それにしても勝ち続けてたじゃん」
「うん、勝負には勝ちたいよねー」
「最後の方ヒヤヒヤしたけどね〜」
「私も。身体はまだ打てるけど集中力が続かなくなってきたよ。明日もあんなんだったらヤダなー。
ね、私着替えてきた方がイイ?このままでもイイ?」
「ん?どっちでもイイけど〜?高瀬が好きな方で」
「……いや、そのままの方がイイんじゃね?ベンチの裏とか覗いたりしたし」
塔子に聞かれ、橘は首を傾げたが阿久津は首を振った。
「え?マジ?じゃー僕たちも着替えた方がイイの?そんなにやる気なの?」
「……俺たちは別にいいだろ」
「そっか、スカート……
高瀬あれでしょ?あわよくばシャボン玉に入りたいんでしょ?だったらそのままの方がイイんじゃない?」
「!!魔法使いがここにも!!」
「ふっ……いや、高瀬わかりやす過ぎだからな?」
驚愕の表情で橘を仰ぎ見る塔子を見て、呆れ顔の阿久津が柔らかく笑う。
「高瀬ー」
まだ体育館の入り口でワチャワチャしていた塔子が名前を呼ばれて振り返ると真山がボールを突きながら近づいてきた。
「お前これからどこ回んの?」
「うん?色々ー」
「色々って、分かんねーよ」
「私自身も分からないワケよー。決めてないし!まー見付けたら手ーくらいは振ってあげよう!」
真山は少し顔を顰めて塔子の頭を軽く小突く。
「なんだそれ…………お前明日は時間変えんなよー」
「明日はラストなんだよね……真山も?ねぇ、一時間は長くない?」
「うーん、ちょっと先輩たちに相談しとくわ」
「ありがとー!じゃね、フリースロー頑張って!」
真山とその後ろに居るバスケ部の数人に手を振って、今度こそ塔子たちは体育館を後にした。
後ろを振り返りながら閉まった体育館のドアを確かめて、橘は首を捻る。
「な〜んかさ、あの真山って人、高瀬に対して距離が近いよね〜。彼女居るんだよね?ただ仲良いだけ?」
「彼女居るよー。可愛い彼女。女バレの山本さんって知らない?ショートが似合う美人さん」
「そうなんだよね?う〜ん……」
「……………………あのさ、恥ずかしい話してもイイ?」
「恥ずかしい話?」
「……あのね、真山って会った時からあんな感じでね、ずっとグイグイくるからさー、私てっきり好かれてるのかと思ってしまいまして……」
「うんうん、さもありなんだと思うけど」
「だよね?!勘違いしてもおかしくないよね?!
だからさー、好かれてるから、こう、グイグイ来られてるのかと思ったから、え、もしかして?的なことを聞いたことがあるの」
「うんうん」
「そしたら思いっきり否定されて、その直後から山本さんと付き合いだしてさ。今思い出してもすっごく恥ずかしい……なんて自意識過剰なヤツなんだ、私」
「え、そうなの?じゃ〜高瀬も好きだったの?あれ?好きな人いたことないんじゃなかったっけ?」
「いや、好きって言われたら困ったんだと思う。特別に好きとかって気持ち、私やっぱり良く分かんないし。だから真山の距離感に困惑?してた感じ?自分でもよく分からないんだけど……とにかく今思い出しても恥ずかしいわ」
「なるほど〜」
「だからね、真山って、ただただ距離感バグってる人なの。あれ困るよね」
「う〜ん、なんかよく分かったよ!スッキリした!」
「え?そう?今の話でスッキリする?」
「うんうん、バッチリ」
「ほえー」
塔子には良く分からないが、橘はニコニコしながら頷いている。ふと、反対側を歩いている阿久津に目を向けると、難しそうな顔をして探偵手帳を眺めていた。
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