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28ーー4年生(8月)

ちょっと空いちゃいましたー!

すみません!




「次っ!五対五!名前呼ばれたらビブス付けて!」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 夏休み、今日は午前の練習。


 女子バスケ部は五月のインターハイの予選で敗退し、六年は引退した。新体制がスタートしてもう数ヶ月経つ。今はもうすぐ始まる夏季大会に向けて練習にも気合が入っているところだ。塔子もベンチ入り、あわよくばスタートメンバーを勝ち取るために毎日練習に励んでいる。





「「ありがとうございましたー」」


 塔子は早紀と体育館に一礼をしてクラブ棟へ向かう。


「暑い……疲れたー」

「ヤバいね……死にそう」

「早紀、今日の午後大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、ご飯さ、ちょっと涼しいトコに行こ」


 今日の午後は塔子が取りたかった化学実験の特別授業がある。塔子は部活後に参加するにあたって早紀を誘っていた。運良くまだ定員に至っておらず、二人揃って受講出来ることになった。



 二人はクラブ棟でシャワーを使いサッパリした後、一旦学校を出てお昼ご飯を食べに近くのファーストフードに向かう。


 

「ねー、ところで今日って何するの?」

 ポテトをつまみながら早紀が聞く。

「あ、なんかダイラタンシーって言ってたよ」

「ダイラタンシー?」

「なんかさ、片栗粉でトロトロの液体作るんだよー。ゆっくり手を入れるとスーッと入るんだけど、力強く衝撃を与えると硬くなるヤツ」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「うん、私も自分で何言ってるか分かんない。上手く説明出来ないけど、とにかく今日はそのダイラタンシーを大量に作って走るらしいよ!走れるくらい大量になんて個人的に絶対作れないから超楽しみ」


 早紀はイマイチ想像がつかないようだ。実際に見てみないと分からないものかもしれない。


「ってか、詳しいね?それ誰情報?」

「あー森田ってクラスの子が化学部なのよ。だから今日やる内容教えてくれて」

「えーっと、あのメガネかけてる人?」

「そうそう、きっとその人」

「塔子のクラスの子たちも来るの?あの女の子たちも?」

「あーメグたちは興味ないみたい。阿久津は申し込むって言ってたけど橘は来ないと思う」



 あの夏祭りのあと、家に帰りスマホを電源に繋ぎ、メグとエリにすぐ謝罪のメールを送った。エリからはすぐに返信が来たが、メグからは次の日になっても来なかった。不安な気持ちを抱えていた塔子だったが、その次の日になってようやく「別に何も気にしてないよ」と一言返ってきた。



「ねー早紀……クラスの子たちと上手く行ってる?」

「うん?まーそこそこ?何、塔子。上手くいってないの?」

「……うーん、よく分かんないの。私時々空気読めてないのかも」

「空気ねぇ……それって読まなきゃいけない空気なのかねー。私塔子と3年ちょっと一緒に居て、空気読めないヤツなんて思ったことないよ」

「……ありがとう。でも自分が気づかないうちに人に嫌な思いさせてたらって思うと……」

 塔子が浮かない顔でジュースに手を伸ばす。

 

「……私さ、こないだ廊下でちっちゃな女の子とぶつかったのよ。謝ろうと振り向いたら思いっきり睨まれて。え?今のそこまで怒る要素あった?!って謎に思ったんだけど、その子、秋のことが好きな子だったみたい」

「え?秋のこと?」

「うん、今年から同じクラスになったみたいで、最近秋の周りをウロチョロしてるの見かけたことある。すっごく小さくて可愛い子」

 ちなみに早紀は170センチある。

「あは、ウロチョロって」

「ねー塔子。私何か悪いことしたと思う?秋と付き合ってることって悪いこと?」

「ううん、全く」

「でしょ?全員に好かれるなんて無理よ」

「うん、そうかもね」

「そうかもね、じゃなくて無理よ。そしてね、どこでどんな人に嫌われてるかなんて分かんないじゃん?だから気にしてたって仕方ないのよ。自分に恥ずかしくないように過ごしていればイイの。私の知ってる塔子は心根の真っ直ぐな努力家だよ」

「え、ベタ褒めじゃん!照れる!もっと言って!」

「はいはい、照れてすぐふざけちゃうトコとかも可愛いと思うよ」

「う……そうでしょう、そうでしょう!」

「そんな可愛くて性格もイイ塔子に嫌な目を向けてくるのは全部妬み嫉みだから気にしなくてヨシ!」

「いや……それはもう言い過ぎでしょ……でもありがと!元気出た!」

 塔子はしょんぼりと俯いていた顔を上げて笑顔になる。


「それにしても秋を好きな子かー。どうすんの?早紀」

「受けて立つよ」

「あはは!カッコイイ!まー秋は早紀にベタ惚れだからねー!なんか最近早紀たち見てると恋愛もイイなぁって思うようになったよー」

「マジ?!気になる人出来たら教えてよ?」

「うん、一番に聞いてもらうー」





ーーーーーーーーーーーーーーー



 ダイラタンシーの実験に塔子は大満足だった。まずは四人一組で二キロの片栗粉を水と混ぜて小さめのバケツでダイラタンシーを作って色々と試した。手を入れてゆっくり掻き混ぜてみたり、表面を叩いて硬く締まる感触を楽しんだり。


「ねー森田、この後全部まとめて大きな水槽に入れるんでしょ?!あそこに用意してあるヤツ!」

 塔子が指差したところには青色の防水シートの上にアクリル製の大きな水槽が用意してある。


「その手振り回すなよ?綺麗にしたかったら横に汲んである水で洗い流して」

 ダイラタンシーでドロドロの塔子の手首を掴み、ドロドロが下に落ちる前に元のバケツに突っ込む森田。

「片付けが大変なんだよ、コレ」

「ゴメンゴメン。これ終わったらどう処理するの?」

「あそこの土を掘って流し込むんだよ。いずれ土に還るらしい」

「だから外でやってるんだねー。片付けも大変だ」

「一度作ると重くて運ぶのも大変だからな。捨てる所の近くでしか出来ない」

「……ねー穴掘って流し込むまでお手伝いするので、終わって皆んなが帰った後大きな水槽に埋まらせてくれない?」

「は?」

「塔子、埋まるってどこまで埋まる気なの?!」

 早紀が驚いた顔を向ける。

「いやいや、膝くらいまでよ?!でもそこまででも人前ではちょっと……でしょ?でも折角だもん、やりたい!ね?阿久津もやりたいよね?」

「いや、俺は別に」

 バッサリの阿久津を無視して森田にお願いをする塔子。

「ホラ、阿久津もやりたいって。お願い!」

「片付けは有志を募るって先生言ってたから出来なくはないかもしれないけど……本気でやるの?」

「うん、是非!この量のダイラタンシーにお目にかかることはもう無いかもしれない!」





「……アホだな。やると思ったけど」

「うん、俺も高瀬やると思った」

「ゴメン、塔子。私も思ったよ」


 アホの子を見る目で塔子を見ている阿久津と森田と早紀。その視線の先にはダイラタンシーの水槽に尻餅をついた塔子が立ち上がろうともがいている。


「は、はしゃぎすぎた……でも冷たくて気持ちいい!」

「……んなこと言ってる場合かよ。高瀬着替えあんの?」

 阿久津が塔子の手を掴んで引っ張り上げる。

「え……着替え?午前中に汗まみれになったヤツしかないや……」

「信じらんない。昨日ダイラタンシーやるってメールした時点でこうなることは見えてただろ?持ってきておけよ」

「え?森田には見えてたの?私にはそんな未来見えてなかったけど!」

「高瀬はもっと自分を知るべきだ」



 水槽から引っ張り上げられた塔子は防水シートの上で腰から下についたダイラタンシーを落とす。家から持ってきた捨ててもいいタオルである程度拭き上げたところに阿久津がナイロン袋を渡してくれた。


「使ってねーTシャツとジャージ。デカいと思うけど使う?」

「えっ、イイの?!超ありがとう!」

 阿久津から着替えを受け取っている塔子に早紀が耳打ちする。

「(塔子、私コンビニで下着買ってきてあげる)」

「(ありがとーーー!!)」



 片付けの前に着替えを先に済ませることになった塔子はクラブ棟に行き、シャワーを浴びて早紀に買ってきてもらった下着と阿久津から借りた服に着替えた。


「で、デカイ!!」

「ホント大っきいねー。彼シャツだね。下履かなかったらまさに」

「彼シャツ?」

 塔子は首を傾げて早紀を見る。

「何でもない。裾引きずっちゃうね。ロールアップしよ」

 早紀はそう言ってジャージの裾を折って上げてくれた。

 



「お待たせー。片付け手伝うー!」

 塔子と早紀が戻ると片付けは粗方済んでいた。

「あ、ほぼ終わっちゃってるねー、ゴメン」

「後はブルーシート拭いて畳んで、使ったバケツとかを化学室まで運んで終わりだな。それにしてもデカイな、阿久津の」

 ダボダボな格好の塔子を見て森田が笑う。

「うん、大っきいねー。それにしても阿久津ありがとねー。洗って今度持ってくるね!」

「……」

 阿久津は下を向いてバケツを拭き上げていて顔を上げない。

「おーい、阿久津ー。ありがとねー?」

「……ん」

 阿久津は一瞬顔を上げて塔子を見たが、またすぐに顔を下げてしまった。




 何はともあれ、ダイラタンシーに塔子は大満足だった。




 

次回からは文化祭&体育祭編です。

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