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27ーー4年生(8月)




 皆んなで少し探してみたものの、花火の直前に都合良く座れる場所なんて見つけられず、巨大迷路の外の壁にもたれかかって見ることになった。お化け屋敷の壁の方がしっかりしていて良さそうに見えたが、塔子と橘の『後ろから時々上がる悲鳴を聴きながら花火を見たくない』との意見で巨大迷路の壁にお世話になることになった。



「もー、花火とかあるんだったら早めに教えてよ、塔子ー。もっと良いトコで見たかったなー」

「ゴメンね、私もすっかり忘れてて」

「まーでもアタシ今年初めて花火見るー!楽しみ!」

 メグの機嫌が良さそうで塔子は安心する。


「そう言えばさ、高瀬結局殆ど食べられてないけどお腹大丈夫?」

 橘に聞かれて、確かに塔子にしては全然食べていないことを思い出した。しかし全然お腹が空いていない。

「ホントだー。でもなんか食欲無いや。何でだろ?浴衣とか着てるからかもー」

 塔子は自分でも不思議な気持ちでお腹を触る。

  

「ねー阿久津、あと何分で十九時になる?」

 スマホが充電切れの塔子は腕時計をしている阿久津に確認する。

「あと十分くらいだな」

「ありがとー。ゴメン、私今のうちにトイレ行ってくるー」

「あ、高瀬、一人で大丈夫?着いて行こうか?」

 壁から背を離すと鞄を持って行こうとする塔子に橘が声をかける。

「大丈夫!すぐそこだしー。トイレ待たれるのもちょっと……」

 確かに塔子が言うように、公衆トイレは巨大迷路のすぐ反対側にあり、流石の塔子も迷う距離ではない。

「うーん、分かった。気を付けてね〜」

 橘の気遣いに例を言い、塔子はトイレに急ぐ。




 トイレはかなりの混み具合だった。しかしおそらくどこのトイレも同じようなものだろう。大人しく順番待ちをしている塔子の後方から花火の上がる音がした。振り返ってみるも既にトイレの入り口から中に入った塔子には屋根に阻まれて見えない。


ーー見えないかー。別にイイか…………なんか疲れたな……うーん、去年はこんなに疲れたっけな。あんなに走り回ってたのになー。浴衣か?浴衣がしんどいのかな…………それにしても今日は疲れたな……あ、帰って充電したら『鄭重』って調べよ……



 



「あ、高瀬。やっと帰ってきた〜」

「ゴメンね、すっごく混んでた」

「うん、そうだとは思ったんだけど、またトンデモなことが起こってても不思議じゃなくて、なんかドキドキしたよ」

 橘の言い方に塔子は笑いを誘われる。

「あはは、心配ばっかりさせてゴメンね?」



 六人で見た花火は塔子が言ったように控えめなものだった。塔子はメグの表情が気になって仕方なかった。





「さて!花火も終わったし、そろそろ帰る?時間もいい感じじゃない?」

 塔子は橘のその言葉を聞いて何故かホッとした気持ちになった。でもどうして自分がこんな気持ちになるのかは分からなかった。


「えーーー!もう帰っちゃうの?」

 メグの不満そうな顔を見て、申し訳なく思いながら塔子は自分ももう帰ろうかと思っていることを告げる。

「あ、塔子帰るのー?お疲れー!」

「……高瀬、何で帰るの?どっち方面?」

「私バスで帰るー。江古田方面……」

 森田に聞かれて答えたものの、バスケ部の皆んなに会いに行く約束をしていたことを思い出した。


「あぁ……忘れてた。私早紀たちに帰ること言ってこないとだー」

 スマホで連絡することも出来ない。もう皆んな帰ってるかもしれないけれど、それを確認しないことには帰る訳にはいかない気がする。


「高瀬大丈夫?なんか疲れてそう」

「慣れない浴衣のせいかも……あはは。大丈夫!私、部の皆んなに挨拶してから帰るよ!」

「……とりあえずそこまで送る」

 心配してくれる橘に笑顔で返すと横から阿久津が送ると言う。

「すぐそこだよ?」

「……行くぞ」

 有無を言わさず歩き出す。

「そうだよ、女の子一人じゃ危ないって。人も多いし。僕たちも行くよ〜」


 橘にも背を押され、結局皆んなでストラックアウトの場所まで移動することになった。塔子はメグの方が見られなかった。





「あーーー!高瀬やっときたーーー!」

 越野の大声でまだバスケ部の皆んなが居ることが分かった。塔子は声のする方を探すと早紀の姿を見付けることが出来た。何故か涙が出そうなくらい嬉しかった。


「おい、メール見ろよ」

 近くに来た秋に頭を小突かれ、隣に走ってきた早紀に庇われる。

「ちょっとやめてよ、秋。塔子、メチャクチャ可愛い!浴衣超似合ってる!写真撮ろ!!」

 早紀は浴衣は着てこなかったようだ。しかし早紀は普段から私服がオシャレだ。今日もスポーティなカッコ可愛い女子が出来上がっている。

「おい、高瀬!俺たちとも撮るぞ!」

「もう皆んなで撮ろーぜ!」

 既にワチャワチャになっている塔子だが心が温かくなって笑顔になる。


「あ、俺撮る!!皆んなそこに集まって!!」

 越野がスマホ片手に走り出す。

「ちょ、誰かに頼もーぜー!」

「いや、まず俺に撮らせろ」

「あ!待て!!俺も入れろ!!」

「あ、真山も来た!」

「成田!高瀬!真ん中来い!」

「行くぞーーー!撮るぞーーー!


 ブザァーーーーー?」


「「「「「「は?………………!!ビータァーーーーー!!!」」」」」」


 カシャ!!

  


「おい!!何だよ、それ!越野!」

「ギャハハハハ!なんでブザービータなんだよ!!」

「うるせー!俺が次に試合でやりたいことなんだよ!」

「ギャハハハ!聞いてねーわ!」


「あはは!越野アホじゃんね?塔子?」

 早紀が笑いながら塔子に話しかける。塔子は色んな気持ちで胸がいっぱいだ。

「…………あはははははは!!越野、ウケる!!」

 塔子は涙を流しながらお腹を抱えて笑った。



「よし、次は誰かに撮ってもらおーぜー!」

 越野がキョロキョロと見回す。

「あ!高瀬のクラスメイトさん!良かったら撮ってもらえませんかー?!」

 声をかけられたメグが不機嫌さを隠さずにキッと越野を睨もうとしたその横から橘がスッと出てくる。

「撮りますよ〜」

 その橘に塔子は駆け寄り謝る。

「ごめん、橘。そんなことさせて……」

「何で?全然イイよ〜。高瀬が笑顔になってて嬉しいよ」

 塔子は橘の笑顔にまた泣きそうになった。



「ねぇ橘。橘ってもう帰る?」

 バスケ部の写真を撮ってくれた橘に塔子が尋ねる。

「うーん、そろそろ帰ろうかと思ってるよ。多分阿久津や森田も限界でしょ」

「そっか。私も早紀と写真撮ったら帰る。途中まで皆んなと一緒に行ってもイイかなぁ?」

 キョトンとした顔で首を傾げる橘。

「え?せっかく楽しそうなのに帰ってもイイの?」

「うん、だって今日は皆んなと一緒に来たのに。最後までちゃんとバイバイしたいし」

「あはは。高瀬ってそういうトコ真面目だよね〜。分かった、待ってるよ。阿久津たちも喜ぶと思うよ」

「ありがとう」

 塔子は笑顔で早紀のところへ走って行った。

 

 


「早紀、ゴメン。私スマホの電池切れちゃっててさ。良かったら早紀ので一緒の写真撮ってくれない?そして送って!」

「あー電池切れてたんだ?どーりで。撮ろ撮ろ!秋!撮って!」

 塔子は満面の笑みで早紀と写真を撮りながら、こんなに長い時間一緒に居ながらメグたちとは個人的な写真を全く撮っていないことに気が付いた。



「じゃー私帰るねー!お疲れー!」

 部の皆んなに手を振る塔子。早紀がニコニコで振り返してくれている。さっきまであんなに楽しかったのに、何故かまた心が重い。



「ゴメンね!遅くなって!

 ……あれ?メグとエリは?」

 塔子が合流するとそこにメグとエリの姿が無かった。周囲を探すも居ないようだ。


「うーん、なんか気分が悪くなったみたいで〜」

「悪くなったのは気分じゃなくて機嫌なんだろうな」

 答えてくれた橘に森田から訂正が入る。

「……気分悪ぃのはこっちだわ」

 阿久津の眉間に皺が寄っている。何かあったのだろうか。

「……二人とも帰っちゃったの?待たせ過ぎちゃったかな……」

 塔子は罪悪感でいっぱいになる。

「まー今日はもう考えるのやめよう。疲れるだけだ」

 本人たちが居ないのに、いくら考えても分からないことだろう。森田の冷静な意見に、確かに疲れていた塔子は考えることを放棄した。


「さて!もう帰る?」

「あ、ホントお待たせしてゴメンね!皆んなどうやって帰るのー?」

「僕と森田は電車で新宿まで出るよ。阿久津はチャリで来たんだっけ?」

 阿久津は頷く。

「いーなー、自転車。私も来たかったけど流石に浴衣では無理だったー」

「流石にね!」

「高瀬、それやったら台無しだぞ」

「その前に危険だろ……」

 三様に呆れられた塔子だった。



「高瀬、腹減ってねーの?お好み焼き食いたいんじゃなかった?」

「そうじゃ〜ん、広島風だっけ?」

「あっちにあるんだったか」

 阿久津、橘、森田に畳み掛けられ、塔子はお腹が空いている事に気が付いた。

「……ホントだー。何かお腹空いてきたかも?

 いや、でも待って。今何時?もうそろそろ帰らないと心配されちゃうかも。連絡手段が無いし……」

「そうだな。高瀬、バスの時間って分かってる?」

「あ、分かんない」

「調べよう」


 森田が調べてくれた時間は午後八時十五分と八時四十五分だった。今は八時十分だ。


「十五分には間に合わないだろうな」

「四十五分だったら、お好み焼きくらい食べられるかな?厳しいかな〜」

「帰り道混んでるかもな」

 三人が一生懸命考えてくれている姿に塔子はすごく嬉しくなった。

「ふふふ。ありがとね!私のお好み焼きの為に!今度の楽しみに取っとくことにするよ!」

 塔子はうーんと伸びをした。背筋が伸びて気持ちがスッキリする。


「はぁー、なんかさっきまでモヤモヤしてたんだけど、元気になってきたー!」

「高瀬、元気になってきたのはとてもイイと思うんだけど、そんなに伸びしたら着崩れちゃうよ!」

「もうイイかな!私ジャージの方が合う気がする!」

「え〜、すごく似合ってるよ〜。あ、最後に僕とも写真撮ってよ!」

「うん!撮ろう撮ろう!後で私にも送ってくれる?」

「もちろん!」

「高瀬、俺とも写真撮ろう」

「え、森田も一緒に撮ってくれるの?意外!」

「何でだ?魂は取られないぞ」

「あはは!分かってるよ!阿久津も一緒に撮ろ!」



 バスが来るまでの時間、塔子はとても楽しかった。





 

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