25ーー4年生(8月)
「えっ!!高瀬??」
塔子が名前を呼ばれて振り向くと男バスの越野が居た。
「あ、越野」
「え、マジで高瀬?!その格好どーしたー?!」
越野は仰け反る程驚いている。
「どうしたって……浴衣だよ。変?」
「いや……あ、っつかこないだはゴメン、鍵」
「あ!もー越野のせいでバスで帰ったんだからねー」
「ゴメンて!詫びに何か奢るよ。そこの唐揚げでイイ?」
「いや、でもまー拾ってもらってるから。ゴメン、気にしないで。ってか何で真山に持って来させるワケ?」
「違っ、奪われたんだよ。俺だって自分で返しに行こうと思ったよ。とりあえず唐揚げでバス代にして」
そう言って越野は紙コップに入った唐揚げを一つ買って塔子に渡した。遠慮しようと思った塔子だったが熱々の唐揚げが美味しそうだったので誘惑に負けた。
「えー!イイのー?わーい、ありがとう!美味しそう!一個要る?」
「じゃ、一個貰っとくわ。あ、さっき秋と成田見たぞ。相変わらず仲良いな、アイツら。真山も山本と来てるらしい」
「あー、そうそう!早紀も来るって言ってたー。どっかで会えるかな。越野は誰と来たの?」
「独りもんの男バス集団だよ、悪ぃか」
苦笑いで答える越野に首を傾げて塔子も返す。
「いや全然。私も一緒だよ」
「あ、女バスも来てんの?」
越野が塔子の後ろに目を向けて見回す。
「ううん、クラスの子たちと来たのー」
「そっか。あ、やべ、電話鳴ってる。俺便所に来たんだった。じゃな、高瀬。あ、後で皆んなで会えたら写真撮ろーぜ!お前の写真売れそうだわ」
「何それ?」
越野は訳のわからないことを言い捨てて風のように去っていった。塔子は越野にもらってしまった唐揚げを手にホクホクした顔でメグたちのところに戻った。
「さっきのも男バスの子なんだねー。塔子貢がせてんの?」
「貢がせ……っっってない!でも唐揚げ貰っちゃった。メグも一個どう?」
「いらなーい」
メグは首を横に振りエリの方へ駆けて行った。
「そこの唐揚げ美味しい?僕も買ってこようかな〜」
「あ、橘。一つどう?美味しいよ!」
「だったら買ってくるよ〜。一緒食べよ」
「唐揚げは正解?」
「ゴメンって。その話題は忘れて〜」
橘が唐揚げを買っている間、塔子がメグたちに目を向けると二人はかき氷を買っていた。それを見ながら食べた唐揚げはもう冷えていた。
「あ、こっちの道行けば中央の広場に行けそうだけどどうする?まだ出店回ってからにする?」
森田が指差す方向には色々な催し物で盛り上がっていそうな空間が広がっている。
「あ、そっち行ってみたい!行こうよ!」
森田の提案にメグが飛び乗り、塔子たちは出店巡りを中断し、中央のイベント会場へ行くことにした。
中央のイベント会場には即席巨大迷路、本格風お化け屋敷、野球・サッカー・バスケットのストラックアウトがあった。
ーーあー!ストラックアウトがあるー!去年あんなの無かったなー。あったら超盛り上がっただろうなー。
塔子は去年バスケ部の仲間で来た時のことを思い出し想像する。去年これがあったならきっと皆んなでストラックアウト大会が始まったであろう。
ーー今年は口にしちゃダメだな、気を付けよう。浴衣だしね。
塔子はそちらを見ないようにして皆んなに着いていく。
「ねー!迷路とお化け屋敷、どっちから先に行く?!」
「……メグ、どっちも行くの決定なんだ?」
いつもニコニコの橘が苦笑いだ。
「あ、もしかして橘、お化け屋敷ダメなんじゃない?ホラー苦手って言ってたもんね?」
以前、課題の剣士を血溜まりに沈めてしまった時、そのような事を言っていたのを塔子は思い出した。そして塔子もミステリーは読むが怖いのが好きな訳ではない。いや、正直に言うとお化け屋敷とか怖くて仕方ない。
「う……こういうの好きとか、僕よく分からないんだけど……高瀬大丈夫なタイプ?」
「えっと、目瞑った状態で、スタートからゴールまで誰かが手を引っ張ってくれるんだったらイケるかも?」
「それちっとも行けてないから!あはは」
「仕方ないから私、橘に付き添ってゴールで皆んなが出てくるの待ってるよ!」
「僕が高瀬に付き添ってあげる〜」
「仕方ないなー、もう」
「仕方ないよね〜」
塔子と橘がしれーっとゴールの方へ向かおうとするとメグが二人の前に立ちはだかった。
「ちょっと待ってよ!つまんないじゃん!
塔子、去年ここ来たんでしょ?これ入って無いの?」
「うん、逃げ切ったから……いや、私こういうのホント怖いんだけどー……」
去年塔子は、バスケ部のお化け屋敷入りたいグループが入ってしまうまで隠れて逃げ切った。ちなみにその隠れていた時に後ろから真山に肩を掴まれ大きな悲鳴を上げてしまい、大爆笑されたのは忘れたい過去だ。
「アタシが塔子の手ー引っ張って行ってあげる!だから皆んなで入ろ!!橘もホラ、行くよっ!!」
「ひぃ〜〜〜」
「メグ、ホントに手引っ張って行ってくれる?絶対途中で離さないでよ?!ホント怖いんだってー……」
「ホントホント!ホラ、入るよー!」
塔子は腰が引けた状態でメグの手を握り締めながら入り口の長い暖簾を潜って行く。
「ちょっと塔子、アタシの手握り潰す気?痛いんだけど!」
「ご、ごめん。橘は大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない。怖い怖い。何も見えないじゃん!」
「もう橘も手ー貸して」
メグが反対側の手を橘と繋ぐ。
「ありがと〜メグ……いや、メグのせいでこんな怖いんだけどね!」
「……エリは大丈夫?私の左手空いてるよ?」
「ん?私こういうの全然平気〜。むしろ楽し〜!」
「ひぃー……意外なんだけど……森田は?泣いてない?」
塔子が視界ゼロの中、キョロキョロしながら見えない森田に声をかける。
「泣くか。ったく高瀬、妖精・魔法の次はお化け?いる訳ないだろ」
「違う、違うよ、森田。ここは全力で私たちを怖がらせに来る場所なんだよ。もうその精神が怖……」
その時、塔子の左側からプシューっと風が塔子の顔に吹きつけた。
「っっイヤぁーーーっ!!」
「ちょっと塔子うるさい!」
「風が、風が……あ、ヤダ、メグの手が離れたー!どこ?」
「風だって分かってんじゃん、大袈裟だよ」
「あ、メグの声がちょっと遠くに……手ぇ離さないって言ったじゃん……え、ホントに何も見えないんだけど」
塔子は恐怖のあまり足が竦んで動けなくなった。するとその塔子の左足首を脇のカーテンの下から伸びてきた手が掴んだ。
「っっっきゃーーーーっ!!!」
「高瀬っ?大丈夫?メグ、ちょっと止まって……」
「た、橘どこ?だ、誰か足首掴んできたーっ!怖いよー!」
塔子は震えながら見えない前方に右手を伸ばした。すると誰かの背中に触れた。
「だ、誰?お化けじゃない?」
言いながら手を動かすと洋服の何かに手が触れた。
「……黒猫?阿久津?」
「……手ぇ貸せ」
塔子の手に触れたのは阿久津のフーディーに刺繍されてた黒猫だった。その手を阿久津が掴んでくれ、ようやく塔子は歩けるようになった。
「阿久津ぅぅぅ、死ぬとこだったよぉー」
「はいはい、死なねーけどな」
呆れたような声だがその手は温かく、塔子の手を強く握ってくれている。
「高瀬〜?大丈夫?」
橘が聞いてくれる。その声も随分遠くにあるようだ。
「だ、大丈夫ー……橘も生きてる?」
「なんとか……瀕死だよ……」
「私も……」
何とか阿久津についてゆっくり歩いている塔子だが、今度はその顔にヌルッとした物が触れる。
「っっひぃっっ!!!」
「おい、手ぇ離すな」
「あ、阿久津、何か今顔に触ったぁぁぁ」
「大丈夫だ」
「きも、気持ち悪い。ヌルッとしてた……何?何?」
「コンニャクだろ?定番じゃねーかよ。ってかあのくらい高瀬なら避けられるんじゃねーの?」
阿久津が繋いでいない方の手で塔子の顔を拭ってくれる。
「うぅ……何でそんなに把握出来るの?何で皆んな歩けるの……?こんなに真っ暗なのに」
「……高瀬、お前ずっと目ぇ瞑ってんだよ。開けろ」
「…………へ?」
塔子はあまりの恐怖にずっと目を瞑ってしまっていた。恐々と目を開くと正面に立っている阿久津と目が合った。周りはとても暗いが全く見えない暗さではない。阿久津がジッとこっちを見ているのもなんとなく見える。
「あ……ホントだ……怖かった……」
塔子は思わず肩の力が抜ける。それと同時に繋いでいた手を離し、目の前に持ってきて広げる。
「見える、見えるわー……道理で皆んな歩ける筈だわ……でも怖いことに変わりはないんだけど。むしろ見えるのも怖い!」
呆れ顔の阿久津に塔子はもう一度手を伸ばす。
「阿久津、ゴメン。手貸してー、握っててー」
塔子がお願いすると、阿久津はクルッと前を向き、後ろ手に塔子の手を取って歩き出した。
「黒猫が頼もしぃ……」
「…………」
ゴールに着くまで塔子はずっと阿久津の黒猫を見ていた。阿久津の手は涼しげな顔からは何となく想像できない、剣ダコのある意外に頼もしい手をしていた。
読んでくださってありがとざますー!




