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24ーー4年生(8月)




「あ、塔子ちゃん!こっちこっち〜!!」


 塔子が約束の十五時に公園に着いた時には、メグとエリはもう既に来ていた。


「良かった、会えてー。なんか久しぶりな気がする!」

「ホントだねー。ってか結構人多いねー。阿久津たちに会えるかな」

 メグはソワソワしているようだ。

「ここ分かりづらいかな〜?」

「どうだろう?とりあえずもう少しここで待ってみよっか。それより二人とも可愛いー!浴衣も素敵だねー!」


 塔子は普段の制服とは違う二人に会ったのは初めてだった。それがさらに浴衣だ、いつもと全く違う雰囲気に楽しくなってくる。

 メグは青緑色の生地に白色と赤色の大振りの花がところどころに描いてある大人っぽい雰囲気の浴衣に白い帯、エリは薄いピンク色の生地に白色とオレンジ色の小さめな花が散らされた可愛らしいデザインの浴衣にこれまたオレンジ色の帯を合わせている。髪は共に複雑に編み込み結い上げてあり、総じて二人の雰囲気にとても良く似合っている。エリはいつも通りの薄めの化粧、メグはいつもしている化粧よりもちょっと濃い目にしてあるようだ。浴衣にとても似合っている。


「ありがとー」 

「ありがと〜。塔子ちゃんの浴衣も可愛いよ〜」


 塔子は生成りの生地にボルドーや辛子色の大振りの花が咲き、その周りを抹茶色やライトグレーの葉が描かれている浴衣にボルドーの帯を合わせてある。いつも無造作に一つ結びにしている髪の毛は姉の手によって顔の横から編み込まれ右に流してある。


「塔子、少し化粧してる?」

 メグに聞かれて塔子は少し照れながら答える。

「う、分かる?リョウちゃんに髪の毛頼んだらお化粧も少しはしないと浴衣に浮くからって。あ、リョウちゃんって真ん中の姉ね、涼子って言うんだけど。目立つ?ちょっと恥ずかしいんだけど」

「別にー。ちょっと意外なだけー」

「すごく可愛いよ、塔子ちゃん!」

「あ、ありがとー」

 日頃、学校で化粧をすることがまずない塔子はちょっと照れくさい気持ちで俯く。



「あ、阿久津くんたち来た〜!」

 エリの声に塔子が顔を上げると前から阿久津たちが三人一緒に歩いてくるのが見えた。ニコニコと橘が手を振っている。

「わ、私服新鮮!!」

 メグが興奮を抑えたような声で呟く。メグたちの浴衣も新鮮だったが確かに男の子の私服も新鮮だ。何しろ塔子がいつも見ているのは基本的にジャージ男子だ。自分もだが。



「わ〜浴衣可愛いね〜!三人とも似合ってる〜」

 さすが橘、褒め方もスマートだ。

「馬子にも衣装!」

 塔子はニコニコしながら森田を見る。

「って言おうと思ってたでしょー?!」

「まだ言ってないぞ」

「まだって何よ、まだって」

 森田に絡む塔子を見て橘が驚いた顔をする。

「あれ?高瀬ちょっと化粧してる?もうそれ反則じゃない?」

「あはは!何それ?いつも反則負けするのは橘だよ?」

「いや、それ認めてないから〜。それにしても……自分でしたの?」

「ううん、姉にね。髪の毛と一緒にやってもらったの。あんま見ないでー。そして橘、メガネ?」

 橘は黒のスキニーパンツに白と黒のボーダーのクルーネックニット、その上にネイビーの七分袖カーディガンを羽織っている。それにいつもは付けていない黒縁のメガネがとても良く似合っている。

「うん、伊達〜」

「よく似合ってる〜!」

 エリが興奮を隠さずに褒める。

「ありがと〜、エリちゃんの浴衣も可愛いね〜」

「ありがと〜!」


 森田は黒のストレートのパンツに白いTシャツ、その上に黒の比翼ボタン半袖カラーシャツだ。森田のインテリっぽい雰囲気に合っている。阿久津はカーキのテーラードパンツにグレーの大きめ半袖フーディー、裾から白いTシャツが覗いている。腕には黒のいかつい腕時計を付けている。


「ねーとりあえず動こーよ!」

 メグがニコニコと皆んなに声をかける。

「そうだね〜、ここってどんな感じになってるの?高瀬知ってる?」

「えっとね、グルッと一周出店とかが両側に並んでて、中央にはちょっと遊べるトコがあったよ。即席の巨大迷路とかお化け屋敷とか。去年はねー」

「何それ、楽しそう!!」

 メグが大興奮だ。とりあえずグルッと一周して中央も見に行ってみようという話になった。




「お腹空いたねー!」

「そんな格好しててもブレないな、高瀬」

 森田に言われて首を傾げる。

「え?ダメだった?」

「高瀬、こういう時はりんご飴とかを買うんだよ。そして持って歩くんだよ」

「え?持って歩くだけ?食べないの?」

「そう、りんご飴は食べ物じゃなくてただのアイテムだから」

「え、邪魔なだけじゃ……」

「焼きそば、たこ焼き、お好み焼きは罠だからね?勧められても食べちゃダメなんだよ?」

「へ?何で??」

「口元に青ノリとか付いちゃったら〜って考えるんだよ」

「ひぃー、大変なんだね?……何が楽しいの?それ」

「あはは!ホントだよね。だから高瀬は好きにしてイイと思うよ」

「そっか!じゃー何食べようかなー!フランクフルト?」

「あっ、それだけはダメだよ!絶対」

 塔子が探しに行こうと歩き出すと、焦ったように橘が声をかける。

「……何でもイイんじゃなかったの?」

 塔子はめんどくさそうな顔で振り向く。

「えっとね、高瀬。一つだけ、男子と一緒にお祭りに行った時に絶対食べちゃいけない物があるんだ。それがフランクフルトだよ。これから先、何食べてもイイけどフランクフルトだけはダメ。あ、あとチョコバナナも。分かった?」

「……もう一つですらないじゃん……」

 何も分からなかった塔子だが面倒なのでとりあえず頷いておいた。



「ね〜橘くん、金魚掬いとかは〜?」

「最後までちゃんと責任持って飼えるんだったらイイんじゃないかな?でもこれから色々やるのに持ち続けるの大変じゃない?」

「ねー橘、じゃー…………」

「ゴメン、僕色々言い過ぎたね?皆んな好きに楽しもう?!」

 


「……ねぇ、結局何だったら食べられるの?」

 塔子はエリとメグに質問攻めにあっている橘を見ながら、隣に居た阿久津に声をかける。

「……好きなモン食えば」

「フランクフルト?」

「……………………あ、射的」

「勝負しよっ!!」

 塔子は思わずそう言った後で、この間メグに言われたことを思い出した。

「あっ……やっぱやめ」

「やろーぜ」

 そんな塔子に被せるように言うと、阿久津は塔子の腕を掴んで引っ張っていった。


「阿久津やったことある?」

「ない。どーやんの?」

「おじさーん、二人分!」



 おじさんから空気鉄砲を二丁とコルク玉を一人六個ずつ受け取る。塔子は鉄砲を抱えてコルク玉を一つ手に取る。

「まずこのレバーを引いて、先にコルクを詰めて、狙いを定めて……撃つ」

 塔子の打ったコルクはミルクキャラメルの箱に当たったが取ることは出来なかった。

「ダメだったかー。キャラメルは重いかな?レバーは引いてからコルクを詰めた方がイイよ!」

「腕伸ばして撃ってもいいの?」

 阿久津に近づき小声で教える。

「……イイとこと怒られるとこあるみたいだよ。ここは……どうだろ?」

「……やめとくか」

「それに台に肘をついて固定した方がいいかも」

「なるほど」

「あと、狙いは右上だよ。回転させる感じで」

「……随分親切だな。勝負じゃねーの?」

 阿久津が片眉だけ上げてこっちを見る。

「全部忘れて」


 

 阿久津が台に両肘をつき、狙いを定めているところを左後ろから見ていた塔子は、阿久津のフーディーの左腰ちょい後ろの部分に小さな黒猫の刺繍があるのを見付けた。

「こんなトコに可愛い黒猫いるーーー!」

 一発撃ち終わった阿久津が塔子を振り返りニヤリと笑う。

「今気付いたか。高瀬釣れると思ったわ」

「メチャクチャ可愛いね。ココだけ?」

「あと右袖」

「ホントだー!私も欲しいな、この服」

「ははっ」

 レアな阿久津の無邪気な笑顔に、開放的な夏祭りの持つポテンシャルの高さを感じた塔子だった。


 

「引き分けかー」

「落とした物の差で俺の勝ちじゃね?」

 塔子は何かよく分からない小さなオモチャを落とした。笛ラムネのお菓子に付いてくるようなヤツの少し大きいバージョンだ。

「ふふっ、ねぇコレ何だと思う?」

「全然分かんねー」

 思わず阿久津の口角も上がる存在意義の不明さだ。

「よくコレを狙おうと思ったな?」

「だってラスト一発で何か落とさないと負けだったんだもん!」

「ふはっ、負けず嫌い」

 阿久津は思わず噴き出した。

 

「阿久津のは可愛いーなー。この服とお揃いだねー」

 対する阿久津が落としたのは小さな小さな黒猫のぬいぐるみだ。

「同じくらいの大きさなのに猫ってだけで優勝なんだけど。ズルくない?」

「やっぱ俺の勝ちだな」

 普段大人びて見える阿久津が勝ち誇った顔で言うのがいつになく年相応で、塔子は何だかとても微笑ましく思った。




「あ、居た居た!あそこでりんご飴買ってる、良かった」

 近くの出店を覗いているメグたちを、射的をやりながらもチラチラと目で追っていた塔子だったが、最後の方で見失ってしまっていた。少し焦って探すとすぐそこのりんご飴のお店に居てホッとした。


「あ、どこ居たの〜?」

 橘が気付いて手を振る。

「ゴメン、そこの射的をやってたー」

「高瀬、勝負したかったんでしょ〜?」

 橘は察しが良い。

「ぐっ……そーいや、こないだはフォローしてくれてありがとね」

「あはは、何のことだか分かんないけど大丈夫だよ〜。それよりまだ何も食べてないでしょ?僕もお腹空いた。何か探しに行こ!」

 塔子は困った顔で橘を見上げる。

「ねー、橘、何を食べたらイイのか迷子なんだけどー」 

「ゴメンゴメン、色々言い過ぎたよね〜。反省してる……」

「あはは!反省しちゃってるの?」

「うん、してる〜。高瀬は好きな物を食べた方が高瀬っぽいよ。だからさっき言ったことは気にしないで〜」

「ふふ。そっか。じゃー何食べよーかなー!」

 

 塔子が今度こそ何か食べようと周りを見回していると、メグが阿久津に駆け寄り皆んなに向かって声をかける。 

「ねー!今のうちに皆んなで写真撮っときたくない?」

「あ〜撮ろう撮ろう!!明るいうちに一枚撮っておきたいよね!暗くなってきたらまた撮りたい!」

 メグの提案にエリが大はしゃぎで手を叩く。

「…………」

 写真を撮りたくないのか、阿久津は眉間に皺を寄せているが、断りはしないみたいだ。

 


「ねー、あの場所イイんじゃない?」

 塔子が指差したのは一つのベンチ。出店が並ぶ一画に、生垣が並んでいる場所があり、その前にベンチがいくつか置いてある。その内の一つが今丁度空いたところだった。

「あ、いーねー!ホラ阿久津、行こっ!」

 メグが阿久津の背中を押しながらダッシュでそのベンチを取りに行き、それにエリが続く。


「あ、私撮るよー!皆んなそこに並んでー」

「あ、塔子!塔子のじゃなくてアタシのスマホで撮ってー」 

 笑顔で自分のスマホを手に後ろに下がろうとした塔子にメグが声をかける。

「あ、うん」

「……おい」

 眉根を寄せた阿久津をスルーして塔子がメグからスマホを受け取ると、横から森田が手を出してきた。

「俺が撮るよ。高瀬は写っておいたら?」

「え、大丈夫だよー?交代で撮る?最初撮るよ!」

「高瀬も森田も一緒に撮ろう。誰かに撮ってもらおうよ」

 塔子と森田の間に入ってきた橘が、塔子の手からメグのスマホを取って、周りを見回す。

「こういう時ってお互い様だから、写真を撮って欲しそうな人を探すとイイんだよ〜」

  

 橘は交代で写真を撮っていた家族連れに声をかけ、まず家族の写真を撮った。そして、メグのスマホを差し出してニコニコとお願いをする。

「もし良かったら僕たちの写真も撮ってくれませんか?」

 家族連れは気持ちよく写真を撮ってくれた。

 

 橘のお陰で六人全員が入った写真を撮ることが出来た。



  


お読みいただき感謝です!

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