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22ーー4年生(7月)



「「ありがとうございましたー!」」


 部活が終わった塔子は一礼をして早紀と小アリーナを出た。


「疲れたー」

「疲れたねー。今日も秋と待ち合わせしてるー?」

「うん、門まで一緒行こー」

「うん!…………あ、阿久津、お疲れーー!」


 塔子は武道場の隣を通る時に阿久津の顔を見つけて声をかける。


「……おー」

「もう終わりー?」

 阿久津は頷く。

「あ、私阿久津に渡す物あったんだった」

 阿久津が首を傾げて塔子を見る。

「『根性』と『会心の一撃』と本」

「……会心の一撃もくれんの?」

「いらない?」

「……いる。ってか『根性』忘れられてんのかと思ってた」

「遅くなってごめんね?」

「……本って昨日言ってたヤツ?」

「そうそう、あの近所の優しいお兄さんが……」

「ちょっと待て、それ以上ネタバレすんな」

「あはは!」

「……高瀬、もう帰んの?」

「うん、着替えたらね。渡せる?」

「ん……チャリ置き場でイイ?」

「分かったー。じゃー後でねー」


 塔子は阿久津に手を振り、待ってくれていた早紀とクラブ棟へ向かう。

「早紀、ゴメン!私阿久津に渡す物あったんだった。先に帰っててー」

「了解……ってか何か打ち解けてるね?ビックリした。あんな風に話す人なんだねー。初めて見たわ」

「あ、阿久津って優しいよ?最初は人馴れしてない猫みたいなんだけど、段々近付くのを許してくれる。いつか撫でさせてくれるんじゃないかな」

「いやいや……塔子撫でたいの?」

「あはは!冗談だよー」

「……ほぉー」

「何その変な反応?」

 早紀は何だか形容し難い複雑な顔をしていた。






「あ、お待たせー。結構待った?」

 自転車置き場でポールに寄りかかっている阿久津に駆け寄る。

「……いや、お疲れ」

「ちょっと気合を入れて大きいのに書いちゃったんだよね。サイズ大丈夫かな?」

 塔子は厚紙で筒状に丸めた物を阿久津に渡した。

「……開けてみてもイイ?」

「イイよー。気に入らなかったら書き直してくるよー」

「そんなこと言わねーよ……」


 阿久津は輪ゴムを外し、丸めた厚紙を広げた。


「……カッコイイな……」

「ホント?!良かったー!無理してない?」

「してねー。ホント上手いな」

 塔子はホッとした。阿久津のことだからどんな物でも文句は言わないと思ったがやはり渡すのは緊張した。


「『会心の一撃』は横に書いたんだ?」

「うん、迷ったんだけど何か剣道の書って横のイメージ。そして右から左に書くか迷ったんだけど、書いてみたらピンとこなくて普通に左からで書いちゃった」

「うん……これがイイな。ありがと」

 阿久津は書を見ながら微笑んだ。塔子はその顔を見て心が温かくなった。


「『根性』は安定の力強さだな」

「ふふー、そうでしょー。心が折れそうになったらそれを見て奮起してね?」

「フッ……そーだな」


「あと、これが例の本ね!」

「……おー。これが……」

「返すのいつでもイイからね!」

「ん。ありがと」


 塔子はまた書を厚紙で包み、クルクルと巻いた。そして本と一緒に持ってきていた紙袋に入れて阿久津に渡す。

「これ、持って帰られる?」

「ん」


 塔子はまた大きな交差点まで阿久津と話しながら自転車を押して帰った。

 阿久津は基本あまり喋らないが、塔子の話を興味深く聞いてくれている雰囲気が伝わってくる。その為か沈黙も気になることなく、時々一緒になる帰り道はいつも心地良い時間が過ごせた。





――数日後――



「高瀬」

 アクティブラーニングの時間が始まる直前、珍しく阿久津が話しかけてきた。塔子が顔を上げて目を合わせると阿久津は微妙に言いづらそうな顔で続けた。


「…………あのさ、高瀬これちゃんと読めた?」

「??」

 塔子は首を傾げてよく分からないという様な顔をする。阿久津はさらに困った顔をしながら言い淀む。手には先日阿久津に貸した洋書を持っている。

 それを見て、塔子がさらに訳が分からない風な顔をすると阿久津は意を決したような顔で塔子を見た。


「もし分かりづらい部分とかあったんなら聞いてくれれば教えられるけど」

 塔子は下を向く。

「……あ、いや別に必要なかったんならイイんだけど……」

 塔子は下を向いたまま、肩を震わせる。

「……あ、悪ぃ……」

「あははははははー!!!」

 塔子はお腹を抱えて笑い出した。

「……おい」

「うはははは!ひぃーひぃー」

「……おい」

「ヤバい、お腹痛い……ちょ、ちょっと待って……」

 阿久津は眉間に皺を寄せて塔子を見ている。塔子はお腹を抱えて涙を流しながら阿久津が持っている本に手を伸ばす。

「……これ、あはは!読んだんだねー?ひぃー」

「……お前……騙したな?」

 さっきまでの気まずそうな顔から一転、阿久津はジト目で塔子を見ている。そして阿久津と塔子のやり取りを見ていた橘が寄ってくる。

「え?え?どういうこと〜?コレってあのネタバレの本でしょ?」

 阿久津と塔子を交互に見ながら聞いてくる橘に塔子はまた笑いを誘われる。


「もーー。この『ネタバレを撲滅する会』の会長である私がネタバレなんてするワケないのです!」

 塔子は腰に手を当て胸を張りドヤる。

「何なんだよ、その会は。聞いたことねーわ」

 阿久津が憮然とした表情で呟く。


「あはは!お兄さんが犯人だと思って読んじゃった?」

「……高瀬がそう言ってたからな」

「いや言ってはないんだけどなー!最後お兄さん死んじゃうんだと思って読んだ?」

「……いつ死ぬんだ?ここで死ぬのか?ここか?

 ………………死なねーのかよ!ってなったわ」

「あはははははーーー!」

「で、高瀬全く読めてねーのかと思って心配したんだが…………やられた」

 阿久津がガックリ項垂れ頭をガシガシ掻く。そんな阿久津を見たことなかった塔子はさらに楽しくなって笑ってしまった。

「心配してくれたんだねー、ありがとう!あはは!」


「何?何?もしかして高瀬が言ってた内容全部嘘だったの?」

「全部ってワケでもねーけど……大事な部分で全然違う」

「マジか!阿久津を騙すとか高瀬やるね〜!」

 橘も何だか嬉しそうだ。


「ねー阿久津、その本面白かった??」

 塔子がニヤニヤしながら聞く。阿久津は下を向き数秒考えた後、困った笑顔を浮かべて言った。

「…………高瀬込みでな」

 

 塔子は何だか勝った気がした。



 

 

読んでくださってありがとうございます!

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