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20ーー4年生(7月)




 塔子は阿久津と一緒にやった早朝の勉強が思いの外捗った為、次の日からテストまでの四日間、早く登校して勉強を続けた。それは阿久津も同じだったようで、約束をしていた訳ではないが毎朝なんとなく一緒になり、時々分からない部分を教え合って充実した時間を過ごすことが出来た。大抵は塔子が阿久津に教えてもらう立場ではあったが。

 


「阿久津ってホント穴がないね。苦手な教科って無いの?」

 理解が曖昧だった英語表現の内容を阿久津に確認した後、塔子は感心しながら言う。

「そんなことねーけど……でも分かんないままだと気持ち悪ぃし」

「うーん、その気持ちは私も分かるけど、それにしても完成度が高いというか。しかもサラッとやってる感じがなんかスゴイよねー」

 阿久津は下を向いて首の後ろを掻いている。もしかしたら照れているのかもしれない。


「あ、ねー、そう言えば阿久津って芸術は何を選択してるの?」

「美術」

「美術か……もしかして絵も上手いとかいうの?!」

「いや別に……でも街並み描いて腐った団子にはなんねーかもな」

「酷いよねー」

「高瀬がな、はは」

 下を向いて阿久津が笑う。


「……そーいや何で書道選ばなかった?」

「私?書きたかったら家で書けるしねー。それより歌いたかった」

「歌うんだ?」

「うん、歌うとストレス発散になる。なんない?

 …………阿久津が歌うのとか……ちょっと想像できないんだけど……ふふ。カラオケ行ったりとかするの?」

「…………」

「あ、待って、答えなくてイイよ……ちょっと想像するだけで…………あはは!」

「…………ケンカ売ってんな?」

「あはははは!どうしよう、想像するだけで面白い!メチャクチャ下手であって欲しー!」

「……なんでだよ」

「えー下手だった方が親近感がわく!これで歌まで上手かったら引く!メチャクチャ音外してあれ?あれ?って首傾げながら歌って欲しい!」

 涙を流しながら笑う塔子を阿久津は呆れた、でも優しい顔で見てる。

「……高瀬は上手いの?」

「ううん、私は好きなだけだよー。でもね、堂々とはしてるよ」

「ははっ!想像つくな」

「歌はね、気持ちよく歌ったもん勝ちなんだよ!だからどんなに下手でも楽しかったらそれでイイんだよ!」

「……高瀬とだったら楽しそうだな」

「ふふふー。行きたくなったら一緒に行ってあげてもイイよ!」

「……ん」

 下を向いてしまった阿久津の表情は分からなかった。




――――――――――――――――



「終わったーーー!!!」

「やっと終わったね〜!!!」

 長く感じた中間テストも今集められた日本史Aのテストを最後に終了となった。塔子の周りのクラスメイトも清々しい表情で近くの人間と探り合ったり慰め合ったりしている。


「お疲れ様、橘!」

「お疲れ様〜、手応えはどうだった〜?」

 テストは出席簿順で受ける為、塔子も近くにいる橘とお互いを労いあった。いつものようにニコニコしている橘も、流石に少し疲れているように見える。


「手応え……全然分かんない。でもALのメンバーで毎日勉強出来て良かったよー。橘も英語教えてくれてありがと!」

「いやーこっちこそだよ〜。数学助かった!」

「また期末も一緒に出来たらイイねー」

「え〜今終わったばっかなのに期末の話とかやんないでよ〜」

「ホントだ、ゴメンゴメン。しばらくはテストとか忘れたいね!」

 塔子はうーんと伸びをして身体を回す。

「とりあえず動きたいわ。身体がムズムズする」

「あは、高瀬っぽい。今日から部活?」

「うん!早くボール触りたい」


 テスト期間中は夜に走ってはいた塔子だったがボールにはしばらく触れていない。もうすぐバスケが出来るとなるとウズウズしてきた塔子は、ホームルームが終わったと同時にクラブ棟へと駆け出して行った。




――――――――――――――――



「疲れたけど気持ちいー!」

 塔子は脱いだバッシュを手に、早紀と体育館を出た。首にかけたタオルで汗を拭きながら、早紀に今日これからの予定を聞く。

「今日は秋と約束してるの?」

「うん、やっとテスト終わったからね〜。マックでも食べて帰ろうかと。塔子も一緒にどう?」

「うーん……迷うなー。あ、ねー、週末秋と約束が無い日にカラオケ行かない?!あ、秋が居てもイイけど」

「あ、何気に久々だね!行きたい行きたい」

「ねー!こないだ久しぶりに思い出してさ、カラオケ。あはは」

「ん?そうなの?今週日曜はどう?」 

「いーねー!楽しみ!」 

「で、今日はどーする?」

「今日はやめとこーかな!」


 早紀も秋も、中等部一年の頃からの仲だ。三人やその他のバスケ部の仲間と一緒に遊びに行くことも多々ある。塔子も一緒に遊びたい時は遠慮なく来ることを早紀も分かっているので無理に誘うこともない。

 着替え終わってクラブ棟を出ると秋が早紀を待っていた。いつもクールな早紀がこちらに手を振り笑顔で秋に駆け寄って行くのを見て、恋愛も楽しそうだな、と感じた塔子だった。




――――――――――――――――



「中間テストも終わったし、翻訳の方も完成させていきたいんだけど……皆んな進んでる?」


 週明けた月曜日。今日も森田の声でアクティブラーニングの時間がスタートした。


「はぁー、やっとテスト終わったっていうのに……ヤダヤダ」

 メグが気怠げに溜息を吐く。

「私テストの返却が恐怖で何も手に付かないよ〜」

「石田……流石にその言い訳厳しくないか?」

「森田くん、うるさい」

 エリがイーっと顰めた顔を森田に向ける。仲が良いのか悪いのかよく分からない。


「テスト終わったばっかりでって気持ちも分からなくもないけど、そんなこと言ってたらすぐに夏休みに入るぞ?」

 森田が現実を突き付ける。

「そして夏休み明けには提出期限だ」

「げぇー……」

 メグが項垂れる。


「ま、僕は大体終わったかな〜。阿久津は〜?」

「……大体終わった」

 橘の問いかけに目だけ上げた阿久津が答える。


「ざずがだねー、ケホッ」

「え?高瀬、声変じゃない?枯れてない?」

「ぎのう歌いすぎた……喉イガイガするー。飴舐めてイイかな」

 いつもよりハスキーになった塔子の声に橘が即反応する。塔子は制服のポケットに忍ばせておいた飴をコソッと口に入れ喉を潤す。


「えー!塔子昨日カラオケ行ったのー?!イイなー?誰と?」

 さっきまで怠そうにしていたメグが俄然元気になって詰め寄ってくる。

「女バスでね。何だかんだで六人も集まったよ」

「部活の子たちと行ったんだ〜。楽しかった?」

 塔子はエリに向かってうん!と頷く。

「あれ?そー言えばさっき塔子、廊下で男バスの子とカラオケがどーのって話してたよね?もしかして男バスも一緒に行ったんでしょ!いーなー!」

「いやいや、違うよ〜。ってかよく男バスって分かったね?知り合い?」

「あの人男バスの真山って人でしょ?大抵のイケメンはチェックしてるの!」

「そ、そうなのか。

 いや、男バスと会ったのは偶然なんだよ……多分。部屋も別々だったし。一緒に行ったワケではないのよ」


 昨日塔子は本当に驚いた。

 そもそも早紀と二人で行く予定だったカラオケだったが、二人の話を聞いていたチームメイトたちが一緒に行きたがり、大歓迎で人数を募ったところ六人とそこそこの人数になった。

 日曜日の昼過ぎ、とある駅前のカラオケ店にて待ち合わせだったのだが、塔子が行ってみるとそこには女バスだけではなく男バスもたくさん居て驚いた。

 おそらく早紀が秋に話し、秋も行きたくなって仲間を募ったんだろう、と塔子は思っている。お店まで同じだったのは偶然なのかあわよくば……との気持ちが秋にあったのかは分からない。でもメグには偶然なんて信じられないようだ。

 

「えー!そんなことあるワケないでしょ!」

「あ、いやまー中には付き合ってる子たちも居るから、話が伝わってたのかもしれないけど……」

「ってかそこで会ったのにわざわざ別々に部屋取る?バスケ部仲良いんだよね?」

「いや、男バスの中には彼女持ちもいるし。さっきの真山だって女バレに可愛い彼女居るしさ。彼女にしてみたら嫌でしょ。それにそもそもそんな大所帯、予約なしで部屋空いてないよ」

 そう言うとメグはまたハァ……と怠そうに項垂れた。

「……結局イケメンには彼女が居るんだよね……」

「あれ?今そんな話だった?」

「詰まるところ、そんな話になるワケよ……」


「でも意外だな。高瀬が彼女の存在に気を遣うとか繊細なことが出来るのが」

「また出たな?毒霧」

「あはは、でも分かるかも〜。高瀬そういうの気付かなそう」

 森田だけでなく橘にも言われてしまった塔子。苦笑いしながら断言する。

「危機管理はホント大事。君子危うきに近寄らず、だよ」

「高瀬、それ使い方間違ってる」

 森田に言われ、塔子は首を傾げる。

「君子というのは学識や人格ともに優れた立派な人間を指す言葉だ。間違ってるぞ」

「毒霧絶好調じゃん……」

 塔子はガックリ肩を落とした。 

 




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