18ーー4年生(7月)
――さすがに早く来過ぎたか。
塔子が校門に着いた時点でスマホを確認すると7:10だった。待ってる時間で中間テスト対策をやればイイやと自転車を置きに行くとそこにはもう阿久津の自転車があった。
ーー早っ!!
塔子は急いでホームに向かい、ドアを開ける。
「おっはよー!早いね、阿久津」
塔子が勢いよく教室に入っていくと、既に自分の席に座ってノートを広げている阿久津が目に入った。他の生徒はまだ誰も来ていないようだ。
「…………髪……おろしてんの?」
「ん?髪?」
塔子は肩より少し長い髪をいつも一つに纏めている。今日はいつもより早く出る為に準備しようと洗面所に行ったら姉と時間が被ってしまい、面倒になってそのまま出てきたのだった。
「あー結ぶ。適当でイイや」
手首にはめたゴムで無造作に髪を結ぶ塔子を横目で見ながら阿久津が言う。
「……髪短くしねーの?」
「ん?どゆこと?」
「いや……高瀬だったらバスケに邪魔だって短くしてもおかしくねーな、と」
阿久津の言葉にうんうんと頷く塔子。
「分かる。いやーショートへの憧れはあるのよ。なんならメンズカットもイイなーとか思う。でもまず私天然パーマが酷くてさ」
「は?どこが?ストパーかけてんの?」
「いや、内側が酷いの。表面はストレートなんだけど。だから短くしちゃうと纏まんなくて大変なの。結んでる方が楽」
「……見えねーな」
「あ、ホラ見てみて」
塔子はそう言うと、今自分で結んだ髪を解いてハーフアップにして見せる。
「すっごくウネウネしてるでしょ?」
「……パーマかけてるみてー」
「そうなのよ。これがあるからショートにするには超頻繁に切りに行かないとになるの。それも面倒でしょー」
塔子はハーフアップをやめて一つに結び直す。
「それと家族に止められてるの、髪短くするの」
阿久津が首を傾げる。
「私がショートにしちゃったら女の子の要素が無くなっちゃうからやめとけって。酷い言われようじゃない?」
「……三姉妹なんだっけ?」
「そう。三姉妹の長男って言われてる」
「フッ、なんだそれ。
……高瀬ん家、家族仲良さそうだよな」
「あー、うん、仲はイイかも。姉たちからの扱い酷い時もあるけど、やっぱりかなり可愛がってもらってるかな!歳も離れてるしねー。
阿久津、兄弟は?」
「三つ上に兄貴が一人」
「へー!仲良し?」
「………………普通?」
すごく考え込んだ挙句、首を傾げて自分に問うように言う阿久津に塔子は笑いを誘われた。
「あはは!誰に聞いてるの?ふふ」
塔子は笑いながら鞄から必要な物を取り出し、残りをロッカーにしまいに行く。
「ゴメンね、お待たせ。阿久津の席でイイよね?」
そう言いながら塔子は阿久津の前の席に座る。
「さて!えっと阿久津くん?何が聞きたいんだい?」
「フッ、何ソレ?その小芝居必須なわけ?」
「雰囲気から入るタイプなの」
「はは、何の雰囲気だよ」
阿久津は下を向いてハハッと笑い、目だけ上げて塔子を見た。
「……昨日橘ともやってたな」
「雰囲気大事だからね、雰囲気」
「……雰囲気って言いたいだけみたいになってんぞ」
「あはは」
「……………………
ね?同じ答えになったでしょ?」
塔子が昨日の問題を公式を使わない解法で解いてみせる。
「……マジか」
「さっきの条件注意だよ!」
「了解。これ早いな」
「他にも解いてみたくなったでしょ?」
「うん、使ってみたい」
「はい、そんな貴方にコレ!」
塔子は阿久津の為に類似の問題を集めたプリントを渡す。
「……これどーしたの?」
「ん?昨日帰ってからネットで拾って集めてみた」
「……サンキュ」
「ふふ。どーいたしまして!コレ、その答えね。渡しとくー。
じゃー私自分の机で英語やるわー」
「あぁ……ありがとな。あ、高瀬」
自分の席に帰ろうとする塔子を阿久津が引き留める。
「英語な、まず一番言いたい事とか結論を最初に言ってしまって、それから修飾したり説明したりするのが大前提な。英訳する時ってどうしても日本語で考えると思うんだけど、別にそれは悪いことじゃないから、その考える日本語を要素ごとに区切って、情報として優先順位の高い情報から言っていくと良いと思う。もちろん、文法をある程度覚えた上でになるんだけど。さらにそれって何も一文の中だけの話じゃなくって、会話全体においてもそうだから。まず相手に結論を伝えて何の話を今からするのかを知ってもらった後に理由付けな」
目をパチパチさせた塔子は少し考えた後、阿久津に向かって笑顔で大きく頷いた。
「やってみる!ありがと!」
塔子は席に着き英語表現のテキストを広げる。
――そう言われてみると、まず結論や主張が先に来てるよね。私まず枝葉から先に細々と説明したがりだからなー。話進まず結論に到達しないこともあるしな。もう英語向いてないじゃん。でも阿久津のお陰でコミュニケーションの授業少しマシになる……気もしないでもない。ふむ、まず結論ね。
塔子が気付いた時にはもうクラスの大半が登校していた。塔子は勉強道具を片付けてロッカーにしまいに行く。ついでに一時間目の準備もする。
――朝早く来て勉強するのイイかも。集中できた。明日から早く来てやろーかなー。
そんな事を塔子が考えていると担任の小林先生が入ってきた。日直の『起立!』の声がかからない。誰だー?と塔子が黒板を確認すると……
――またウチらじゃん!!
塔子は思わず田所くんを振り返ると田所くんもまた驚愕の表情を浮かべていた。
――またやってしまった……
小林先生と目が合い、仕方なく塔子が号令をかける。今から出席簿を取りに行くべきだろうな、と塔子がまた立ち上がろうかと思ったその時、小林先生が教卓の上から出席簿を持ち上げるのが見えた。
――え、田所くん?!
もう一度振り返ると田所が満面の笑みで塔子に頭を下げている。違う違う、私じゃない!と塔子が首と手を振ると田所がハッとした顔をして『よ・う・せ・い?』と口を動かした。
やっぱり居るのだ、塔子は嬉しくて仕方なかった。
――――――――――――――――
「ねぇ、驚愕のじじ……」
「妖精は居ない」
放課後、今日は多目的室が取れなかった為、化学室で勉強会だ。森田が化学部に入っている関係で顧問の先生から許可が出た。
「森田……まだ全部言ってなーい」
「今日の高瀬と田所の茶番を目撃したんでね」
「何それ何それ?」
メグが聞くと森田がウンザリした顔で説明を始めた。
「今日高瀬たちまた日直だったんだよ。で、また出席簿取りに行ってなかったんだろうな、小林先生が教室入ってきたら途端に二人ともソワソワし始めてさ。でも出席簿があったもんだから……」
「あったもんだから?」
森田の言葉を橘が繰り返す。
「妖精だよね!!」
塔子が目をキラキラさせて立ち上がる。
「こうなってんだよ。田所まで目をキラキラさせてたからな。これで高瀬も田所もサイエンス選ぶって言ってんだから終わってる」
「森田毒霧に覆われてるよ……」
「誰のせいだよ。そもそも持って来いよ出席簿。妖精頼みにするな」
「その点に関しては大変申し訳なく……」
「ね〜そんなことより阿久津くんは?」
「そんなことより……」
エリに妖精の話をサックリ流された塔子は、そう言えば阿久津の姿が見えないことに気が付いた。
「あ〜、なんか教室出る時に隣のクラスの女子に引き留められてたよ〜。きっと告白でもされてるんじゃないかな」
橘が何でもないような顔で言う。
「良くあることだけどね〜。でも阿久津も頷かないよね〜」
「そーなんだー。阿久津好きな人とか居るのかな?」
メグが真剣な顔で橘に詰め寄る。
「いや僕知らないよ〜。本人に聞けばイイじゃん。メグだったら聞けるよ〜」
「え、無理。本気で拒否られたら怖いし」
メグがそう言うとエリも高速で頷く。
「うんうん、分かる分かる。本気で嫌がられるのは怖いよね〜」
「うーん、阿久津って基本的に優しいから答えてくれるんじゃないかなー?」
塔子が阿久津を思い浮かべながら言うと、橘が苦笑いしながら首を振る。
「いやいや……あ〜でも高瀬魔法使いだからな〜、答えてくれるかもね〜」
「えっ、私魔法使いだったの?!
………………ハッ、だから……」
「違うからな。高瀬の魔法で出席簿が出現したんじゃないからな?」
「…………森田も人の心が読める魔法使えるのではないのでしょーか?」
「妖精の次は魔法とか、この化学室で舐めたことを」
「怖い、怖いよ!阿久津より森田の方が絶対怖いよ!それに魔法って言い出したのはアチラです」
塔子が両手の掌を上に向け腕ごと橘の方に差し出す。
「ちょっと高瀬、僕を巻き込まないでよ」
「ピピー!巻き込まれた一般人を装うのは反則です!」
左手はホイッスル、右手を真っ直ぐ上に挙げてノリノリの塔子。挙げた右手を掴まれ驚いて顔を上げると阿久津が顰めっ面で立っていた。
「……何やってんの?」
「あ、阿久津やっと来た!」
「阿久津くん、お疲れ〜」
喜ぶメグとエリ。
「ビックリしたー!
阿久津、お疲れ様!ちょうど今、橘が反則負けしたトコだよ!」
「違うでしょ!僕何に負けたのさ?」
「……何だっけ?」
「もう勉強やろうよ。高瀬に付き合ってらんない」
森田にバッサリ斬られた。問答無用の袈裟斬りだ。
読んでくださってありがとざますー!




