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17ーー4年生(7月)

ふふーん。

下書きにも番号ふることにしたんだー。

きっともう大丈夫なはずだぜ!

でももし「ん?話繋がってなくない?」と気付いた天才が居らっしゃったら教えて頂けると泣いて喜びます。(切実)


「うーん、橘も阿久津も居るこの時間に英語をやるのが正解だって分かってるんだけど数学したいなー……ボソボソ」

 ダダ漏れの塔子の心の声を拾った橘が笑う。


「高瀬、声漏れてる漏れてる。英語好きじゃないの?」

「うん、正直あんまり……」

「でも高瀬、英語の発音すごくイイよね〜。得意なんだと思ってたよ〜」

「ホント?嬉しい!発音はね、英語の歌聴き込むからねー、歌いたくて」

「なるほど〜。好きって強いね」

「興味あるのは音だけなんだけどね……」

 塔子は項垂れながら英語の教科書を手に取る。

「まーこれから一週間勉強会やるんでしょ?今はやりたい勉強したら?」

「……そーだねー、そうするわ。ちなみに今橘何やってるの?」

「僕?僕は数学。むしろ数学教えて欲しいよ」

「オッケ!そうしよ!英語教えてもらう代わりに数学きいて!そしてそれって今日数学の小池先がくれたテスト範囲のプリントだよね?私もそれやろー!橘勝負ね!」

 手にしてた英語の教科書をサッサと片付け、数学のプリントを取り出す。

「ちょっと待ってよ、勝負って何?!」

「とりあえずスピード勝負?」

「その勝負俺も乗った」

「え、森田も?じゃーアタシもやる!」

「え、え、この流れ私もやんないとじゃ〜ん。うう……数学嫌いなんだよな〜」

「はい、阿久津始めるよー!」

 阿久津まで巻き込んでの数学プリント勝負が始まった。




 塔子は教科の中で数学が一番好きだ。シンプルで一番分かり易いと思っている。英語の様に言い回しや訳し方に幅があったりせず、国語の様に作者の感情を慮る必要もない。アプローチが違っても必ず唯一の答えに行き着く気持ち良さ。さらに解き方をブラッシュアップし無駄を削ぎ落として答えに辿り着いたりするとワクワクしてくるのだ。



「終わった!」

「げ、早いな高瀬。ムカつく」

「森田、もうちょっと毒控えめでお願い」

「まーイイや、俺も終わった」

「わ〜森田も早いな〜」

「待って待って、私まだまだかかる〜ってか答え出ないかも〜」

「……終わった」

「あ、阿久津も終わったね。

 ねー終わったら答えあわせしといてイイ?」

「高瀬、交換してやろう。不正防止」

「ちょっとしないよ、不正なんて!でも交換イイかもねー、阿久津も交換しよ」

「え〜、僕たちが終わるまで待っててよ〜」

「あ、そうだね。折角だから皆んなで交換しよ!」



 皆んなのプリントを集め、ランダムで配って丸付けをすることになった。


「あ、自分の引いちゃった、誰か交換してー」

 塔子が言うと、阿久津が自分のプリントを差し出してきた。

「……俺も自分の」

「あ、じゃ交換しよ!」



 それぞれ自分に回ってきたプリントを丸付けする。

 

「……石田、よくこの学校受かったな」

 森田がエリにプリントを返しながら言うとエリが恥ずかしそうに奪い返す。

「だからイヤだったんだよ〜、数学嫌い〜」

 

「橘まあまあかなー、思ったより出来てたわ」

「思ったよりって、僕どう思われてたのさ?メグは思った通りあんまり出来てなかったよ」

「ムカつく!」


「阿久津、一問間違ってたけど、これってここの答え間違ってたら次の㈡の答え合わない筈だから転記ミス?もったいなーい」

「……チッ」

 阿久津は自分のプリントを見ながら眉間に皺を寄せている。そして阿久津から返ってきた塔子のプリントは満点だった。

「イエーイ!」

 エリから返ってきたプリントを見ながら森田が言う。

「え、高瀬満点?マジか、高瀬が満点とか信じられないな」

「ちょっと失礼な。森田は?」

「俺も満点。

 もしかして高瀬って五年からサイエンスコース選ぶ?」

 

  サイエンスコースというのは所謂理系コースのことだ。


「うん、そのつもりー」

「塔子、行きたい学部が理系なの?」

 メグの質問に塔子は首を横に振る。

「ううん、まだ学部とか決めきれなくて……

 でも数三・数Cはやりたいからサイエンス行く。そしてその分英語の時間減るのとか大歓迎」

「なるほど〜、私は絶対選ばないな」

「だろうな。それで選んだらしんどいと思う」

「森田くん、うるさ〜い」

 エリは森田にプンプン怒っている。

  

「森田もサイエンス?」

「うん、そのつもり」

「他の皆んなはー?」

 誰も居ないようだ。皆んな首を横に振っている。


「そっかー、じゃあ森田以外来年は確実にクラス別だね」

「そうだね〜、せっかく今年からシャッフルしたのに」

 橘が残念そうに言う。

「ホントだ、サイエンス選ばない英語コースの子たちとは、この一年限定だったんだねー」


 そんな話をしながら、塔子はメグとエリのプリントを借り、ヒントを書いた付箋を貼っていく。


「ねー、二人ともこの付箋見て、教科書見ても分かんなかったらまた声かけてよ」

「え、塔子が教えてくれんの?阿久津が良かったんだけど」

「私も〜!阿久津くんに教わりた〜い!」

「ガーン!」

 二人に拒否された塔子はショックを受けて半目になった顔を橘に向ける。

「今なら高瀬空いてます」

「高瀬先生、よろしくお願いしま〜す」

「うむ!良かろう!

 プリント貸してみたまえ、一体全体どこを間違ったんだい?……あ、そんなに間違ってないね。最後の大問だけじゃん」

「一応ちゃんと授業聞いてるからね〜」

「ふむふむ、ここはね〜………………」


 塔子が橘に教えている正面で、両脇をメグとエリに挟まれた阿久津が顰めっ面で二人のプリントを見ている。


「「阿久津先生、お願いします!」」

「………………」

 阿久津はキャッキャとはしゃいでいる二人にプリントを返すと不機嫌を隠さない態度で突き放す。

「……話になんねー。せめて公式くらい覚えろ」

「え〜、公式って何だっけ〜?」

「そこから教えてよ!」

 二人は全く堪えないようだ。

「……あぁ?高瀬が貼ってくれてるだろ」

「もー、塔子は余計なことばっかりしてー」

「…………」



 

「大問四はオッケーだね。

 ねーねー、大問三ってどう解いた?」

 塔子が橘に質問する。

「え、これは普通にこの公式使って解いたよ。計算が複雑で面倒だけど何とかミスしなかったみたいで良かったよ」

「うんうん、公式使うって授業でも習ったんだけど、橘も言うように問題によっては計算が複雑になり過ぎてミスを誘うんだよねー。時間かかるし」

「待て、高瀬。他に解き方あるわけ?」

 橘の向こうから森田が食い付いてきた。

「ふふふ。実はね、まずこっちの値から出すんだよ。そして……………………ね?同じ答えになったでしょ?」




「ねー、阿久津。どうしてこの公式を使ったら答えが出るの?」

「…………公式の証明すれば分かんだろ」

「「公式の証明??」」

「………………」




「ちょっと待って、高瀬。え?これで類題も解けるの?」

「それがさ、私も何問か解いてみてイケそうだったから小池先に聞きに行ったんだよ。この解法の方が良くないですか?って。そしたらこれじゃある条件の時に使えなくなるからダメなんだって」

「「ある条件?」」

「うん。このX値とこっちのY値がイコールの時には使えないんだって。確かに答え違っちゃうの」

「……どうしてだ?」 

「私も分かんなくてさー。小池先に聞いたんだけど、お前は俺を過労死させる気か?って言われた。素直に公式使っとけって」

「小池面倒になったな?でも面白いな、これ」

「でしょ?!ホントは使わない方がイイんだろうけど、万が一、時間無いって時に思い出したら使ってみて!」

「さっきの高瀬のスピードはこれか……これが無かったら俺が勝ってたな」

「待って待って、これを見つけた私がもう優勝だから!そしてそれを教えてあげてる優しい私を崇め奉るべき!」

「ホントだね〜、高瀬先生ありがとう!なんか得した気がするよ〜」

「でしょでしょ!うむ!橘は素直な良い生徒だ!」

「じゃ〜次は先生役交換して英語しよっか!」

「うげぇ…………」

「はい、やろやろ。準備して〜」




「…………とりあえずここの単元の公式全部覚えろ。覚えるまで話しかけるな。話しかけてきた時点で覚えてないヤツあったらもうお前らとは勉強しねー」

「えっ、ちょっと待ってよ、鬼かよ」

「え〜、無理ゲーなんだけど……」

「今からスタートな」

「「ひ〜〜〜」」



 

「高瀬、動詞の時制がごっちゃになってない?」

「大らかな気持ちでニュアンスを受け取って貰えると……」

「そんな話じゃないから。ここは過去完了形じゃなくて過去完了進行形だからね?」

「うん?」

 塔子は首を傾げる。

「う〜ん、だから連続した動作を強調したい時に使うんだよ。こっちの文の方が躍動感あるでしょ?」

「な、なんとなく分からないような分からないような」

「線分図書いてみなよ。今自分がどこに居て、どの時点の話をしていて、その状態が完了してるのか継続してるのか」

「線分図はテンション上がるよねー」

「はいはい、上げていこ」




「阿久津先生〜、公式のテスト三回チャンスください〜」

「……話しかけたな。さっきの公式覚えてたらこれ解けるから解け」

「……うえ〜ん、メグちゃ〜ん」

「エリ、ちょっと話しかけないで。頭から公式溢れる」

 



「あれ?橘先生、これは?」

「これは仮定法だから時制をずらすんだよ」

「……お、おん」

「仮定法っていうのは現実じゃないってことだよね?もしこうだったら、っていう。つまりこの文は自分の今の状況とこの妄想との間に心理的距離があるんだよ」

「……どうしましょう、橘先生。私と英語との心理的距離が深刻です……」

 塔子は俯いて頭を抱える。

「ゴメン、抽象的に説明してもダメだね。

 文法なんて数学の公式と似たようなもんでしょ。パターンを覚えることにしよう」

「げぇ……」

「高瀬、根性だよ」

「はっ、根性だね!!」

「あはは!!」




「そろそろ下校の時間だ。帰る準備しよう」

 森田の声で塔子の意識が戻ってきた。

「もうそんな時間なんだ。あっという間だった……」

「高瀬頑張ったね!」

「橘先生……アルファベット見ると吐きそうだよ」

「アタシも公式見ると吐きそう……」

「私は泣きそう〜」

 塔子の言葉にメグとエリもグッタリしながら頷いている。

「あはは、二人とも阿久津に鍛えられたんだね〜」

 橘が笑いながら言うと二人はガックリ肩を落として呟く。

「おかしい……楽しく嬉しいお勉強の時間になる予定だったのに」

「殆ど会話もしてもらえなかったよね〜……」


 そんな二人を見て、阿久津は不機嫌を隠さずに森田に話しかける。


「おい、森田。明日もこの勉強やるんだったらお前があの二人教えてくれ。俺無理」

「でもあの二人の指名でしょ」

「……いや、無理だろアレ……」


  森田は溜め息を一つ吐くとメグとエリに向かって言う。

「ねぇ、今日みたいな感じだと明日から阿久津参加しないと思うけど。いいの?」

「そ〜だよ〜、また『あ?話しかけんな』とか言われて泣いちゃうよ?」

「あ、例の鬼畜バージョンですね?」

 笑いながら揶揄う塔子の頭を阿久津が軽く小突いた。

「例のって何だ、そんなんねーし」

 今のは少し口角が上がってるバージョンの阿久津だ。怒ってるかと思ったが、そんなに機嫌が悪くもなさそうで塔子はホッとした。


 

  

 荷物を片付けて帰る準備をする。

「森田ー、今日は私が鍵返しに行くよー。いつもやってもらってるし!」

「いや、別に大丈夫だけど?」

「ホームにスマホ忘れてきちゃったっぽいんだよ。ついでだし」

 鞄に入ってると思ってたスマホが見つからない塔子は探しに行ってから帰ることにした。

「そっか、じゃあお願いしようかな。ありがとな」

「え、森田ってお礼とか言えたの?」

「日頃高瀬に感謝することが無いだけだ」

「ちょっと?そんなこと無い筈だよ!」

 塔子は笑いながら森田から鍵を受け取る。

 もう一度スマホが無いことを確認して自分の荷物を持ち、皆んなが多目的室を出るのを待って鍵を閉める。


「じゃーねー、職員室とホーム寄ってから帰るねー。皆んなお疲れ様ー!橘、英語ありがとねー」

「塔子じゃーねー」

「塔子ちゃん、また明日ね〜」

「高瀬も数学ありがとね〜」

 塔子は皆んなに手を振り、まず職員室に向かうことにした。




 鍵を返しホームに戻る。

 てっきり自分の机に入れてしまってたのかと思っていた塔子だったが見つからない。ロッカーも確かめてみたけどそこにも無さそうだ。


ーーあれ?おかしいな。今日持ってきた……よね。毎日音楽聴きながら来てるから家ってことは無いよなー。


 その時教室にスマホのバイブ音が響いた。驚いた塔子が音の発信源を探すと、教室の後方、掃除用具が入ったロッカーの上から聞こえる。

 

 近づいて腕を伸ばし探ってみると思った通り、そこにあったのは塔子のスマホだった。



ーーん?どうしてこんなとこに……誰か拾って置いてくれたのかな?


 何となく腑に落ちない塔子だったがあまり深く考えることなくスマホをチェックする。


『スマホあった?』


ーーあ、阿久津からだ。珍しいーってか初めてじゃない?


 確認すると阿久津からのメールだった。グループトークではなく個人的に送ってきたようだ。



『あったよ。ってか阿久津のメールで見付けられた!ありがと!』


 塔子がとりあえず返信をして自転車置き場に向かうと阿久津の姿があった。



「あ、さっきはメールありがとー。お陰で見つかったわ」

 塔子が話しかけると阿久津は顔を上げる。

「おー」

「ってか阿久津まだ帰ってなかったんだね」


 塔子がそう言うと阿久津は下げた頭をガシガシ掻きながら目だけを上げて塔子を見る。

「……さっき勉強してる時に橘と森田に教えてただろ?公式使わない解き方。

 ……あれ俺にも教えてくんね?」

 塔子は驚いた後ニヤニヤ笑って阿久津を見る。

「あー、阿久津もスピード勝負負けて悔しかったんでしょー?!森田と一緒じゃん!ちなみに阿久津は点数でも負けてるからね?ふふ」

「……ぐっ」

「ふふ、いーよー!今日はもう遅いから明日の勉強会でやる?ってか明日阿久津参加する?」

 阿久津は遠くを見ながら少し考える。

「……朝は?高瀬いつも何時頃来てる?」

「そっか、朝ねー!イイよ、早く来よっか!自転車だから何時でも大丈夫だよ!」

「ん……サンキュ」

「七時に開門だけど、何時にする?」

「……とりあえず早めに来とくわ。好きな時間に来て」

「うん、分かった。ふふー、阿久津の先生もやっちゃうよー」

 嬉しそうな塔子を阿久津は柔らかい表情で見ていた。 

 

 

 

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