16ーー4年生(7月)
今回は抜けていないはず!
抜けてるのは私だ!
おのれ、よくも抜け抜けと!(混乱)
「高瀬さん、俺、ずっと高瀬さんのことみてて……良かったら付き合って欲しいんだ」
塔子は今売店でおにぎりを買い、教室に帰ろうとしているところを知らない男子に呼び止められていた。
ーー誰だろう、この人。見たことないなー。先輩とかあるかな。学年すら分かんないや。
「ありがとうございます。気持ちは嬉しいんですが、私今誰かと付き合うとか考えられなくて……」
「あ、待って待って!まだ自己紹介もしてないし。
俺、五年二組、サッカー部の村上って言うんだけど。お試しでイイからさ!やっぱ無理ってなったらやめてもらって構わないから!ね?どう?」
「……すみません」
塔子が丁寧に頭を下げるも、この村上という男は引く気が無いようだ。
「えー、今好きな人とか居るワケ?そうじゃないんだったら試しに付き合ってみたって良くない?減るもんじゃないしさー」
ーー……何かが減る気がする。
「ね!イイじゃん!そうだ、もうすぐ中間じゃん?一緒に勉強とかしようよ!俺教えるよ!高瀬さんにとってもお得じゃない?」
ーー得?あなたとの勉強にどれだけの価値が……?
「ね!決まり!」
村上は強引に話を進めようとする。
「ちょ、困ります。私……」
「高瀬」
突然割り込んできた聞き覚えのある声に振り向くと、そこには不機嫌そうな森田の姿があった。
「高瀬、遅い。何やってんだよ、皆んな待ってるんだぞ」
「ゴメン!今すぐ行く!
先輩、すみません。私無理なんで。申し訳ありません」
後半は村上に向け言い、塔子はもう一度頭を下げて森田の方へ駆け出した。
「森田、多目的室取れた?」
塔子と森田は並んで歩き出す。
「取れたよ。皆んなもう向かってる。高瀬荷物取りに教室帰るでしょ?一緒行った方がいいワケ?」
森田が後ろを振り返り、村上を気にしながら言う。
「大丈夫、ダッシュで走って取ってくるよ。ありがとね」
塔子は森田に礼を言うと教室に向かって走り出した。
先程村上が言ったように、もうすぐ中間テストを迎える片瀬学園は部の活動停止期間に入った。もちろん塔子のバスケ部も同様だ。
それをうけてメグとエリが皆んなで中間テスト対策をしようと言い出した。そしてそれは英語が苦手な塔子にとっても渡りに船の提案だった。森田も橘も即賛同してくれたが、阿久津まで頷いたのは塔子にとって意外だった。
ーーつるむのとか好きじゃなさそうなのになー。あ、でも人見知りだけど慣れてきたらそうでもないって橘が最初に言ってたな。意外に人慣れしてきたのかな、ふふ。
そんなことを考えてながら多目的室に着いた塔子は扉を開けて中に入る。
「ゴメン、遅くなっちゃったー」
「あ、高瀬、大丈夫〜?」
「塔子、誰かに告られてたって聞いたけど!付き合うことにした?!」
塔子は思わず森田を見る。
「告られてたっていうか、しつこく言い寄られてたよな」
これから始まる会話を思うとメグたちに言っては欲しくなかったが、淡々と言う森田に悪気はなさそうだ。助けてもらったこともあり仕方ないかと割り切った。
「しないよ……初めて見た人だったし」
「知ってる人だったらアリなの〜?」
エリに聞かれてしばし考え込む。
「…………違うか。そんな気になれなかった……?」
相変わらず、この分野において自分の気持ちが分からない塔子。
「何組の誰よ?」
「あー先輩だったよ。よく分かんない」
「えー誰だろ。カッコ良かった?って聞いても塔子は分かんないって言うよねー。背ぇ高かった?」
「え…………どうだったかな?高かった?」
最後は森田に向けて訊く。
「どうだろ?俺と同じくらいに見えたけど」
「森田身長いくつ?」
「百七十五」
「まーアリかな!」
「自分を引き合いに出すんじゃなかった。なんかムカつくな」
「ねー!橘と阿久津は?!」
憮然とした顔で言う森田を無視して、メグは橘と阿久津にも身長を聞いている。
「えー僕は百八十五あるんだよ〜、イイでしょ〜」
「イイ!橘ポイント高いよ!」
「あはは〜、メグはそう言ってくれると思ったよ〜」
「やっぱり橘くんはクォーターだからかな〜?」
「ん〜どうだろうねぇ。もっと伸びたらイイなぁ」
「橘、欲深いぞ」
「あはは〜。ちなみに阿久津は自分じゃ言わないと思うけど、春の身体測定の時百八十超えてた気がする。ヤダね〜完璧すぎる男は」
「もうっ!阿久津くん推せる!!」
「うん、阿久津完璧だな。アタシと付き合お!!」
「……」
「無視かよ!塩過ぎんだろ!」
はしゃぐメグとエリをニコニコ見つめながら、塔子はこのままさっきの話が流れていけばいいなーと思っていたが、やはりそんなことにはならないようだ。
「で、塔子。百七十五あったら充分でしょ。付き合ってみなよ」
「メグ……身長は関係ないかな……」
「なんでよ?!低いより高い方がイイに決まってんじゃん!」
「個人的にバスケに有利だから身長は欲しいと思ってるよ?でも人に求める気はないかなー。伸ばしたくても自分じゃどうしようもない部分じゃない?私だってあと十センチ欲しいけどもう無理そうだもん!」
溜め息を吐きながらメグが訊く。
「はぁ……アンタ今身長いくつよ?」
「百六十五」
「充分でしょ」
ウンザリした顔で言うメグに塔子は続ける。
「私昔から小さかったんだよ。だから高身長への憧れはあるよ、自分がなりたいって意味でね。大きくなりたかったから毎日牛乳いっぱい飲んだもん」
「それってホントに効くの?」
「分かんない。眉唾かもね」
「あ〜塔子ちゃん、牛乳ばっかり飲んでるから胸そんな大っきくなったの?!超羨ましいんだけど〜」
「確かにアンタってスタイルイイよねー。ムカつくわ」
「ちょっとやめてよ。胸よりも身長が欲しかったんだけど……バスケに必要ないし、むしろ邪魔だし」
「そのバスケ脳どうにかなんないの?」
「えへへ」
「塔子ちゃん、今の照れるトコじゃないから〜」
とりあえず付き合ってみればイイじゃーん、と言うメグの言葉を聞いて、塔子はしばし考えた後、改めてメグに話しかける。
「最近さ、この手の話題をメグとかエリとしててさ、私何となく気付いたことがあるの」
「お、塔子ちゃん、真面目バージョンだ」
「何に気付いたの?」
姿勢を正して塔子は続ける。
「好きってさ、良く分かんないんだけど、知りたいって気持ちなの先にあるのかな、って。前にエリと話したじゃん?アイドルのユータに興味持って調べたって。結局知りたかった情報は小説の中にあったんだけど、でも興味を持って知りたいって思ったことが始めの一歩だったんだなって」
「うんうん、そうだね。まずメチャクチャググって情報集めることからドル活は始まるよね!」
「きっとメグも顔が好みだから、とかから興味を持って知りたくなっていくんだよね?」
「確かにそーだねー」
「私さ、歌手とか好きな人たくさん居るけど、別にその人たちのプライベートを知りたいとかは思ってないのよ。ただ、心躍る歌を聴かせてくれたらそれで大満足なワケ。そういう方向の興味を持ってるワケじゃないの。だから仮面の奥の素顔はどうでもイイんだよね」
「珍しく分かりやすいな、高瀬」
「森田、急に入ってきてディスるのやめてくれる?」
塔子が苦笑いを向けると真面目な顔をした森田が続ける。
「で、高瀬は人のどんな部分に興味を持つわけ?」
「「そこだよね」」
メグとエリがハモる。
「それをこれから追い追い考えて行こうかと……」
「はぁ?」
メグが眉間に皺を寄せる。
「今まで考えたこともなかったんだよ?だから全く思いつかないんだけど、とりあえず今日の先輩にはその様な興味持てなかったので付き合うとかはないです、マル」
「……あの人しつこそうだったから、高瀬、気を付けた方が良さそうだぞ」
「うん、分かった。ありがとう、森田」
「あと、どんなトコに興味持つか分かったら俺にも教えて。興味あるから」
「う、うん?分かった」
「え?森田それって……」
橘が小さな声で森田に話しかけるも森田は応える気は無さそうだ。
「じゃー勉強始めよう。時間ロスし過ぎ。高瀬のせいで」
「ゴ、ゴメンて!」
メグとエリが意味深に目で会話している横で、塔子は何となく浮ついた空気にも気付かず何の勉強からするかに頭を悩ませているのであった。
どうやったらミス防げますかねー?
初心者ってこれだからやーよ。




