13ーー4年生(6月)
ーーこの間、おにぎりを独り占めしたのは失敗だった。
塔子は前回のアクティブラーニングの微妙な空気を思い出しながら反省した。あれはメグもエリもあまりイイ気分にはならないだろう、と塔子は考える。
ーー次は間違えないようにしなきゃ。
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今日は金曜日、いつもの班活動の時間だ。
「ねー森田、やっぱりタイトルとか見出しって横書きだよね?」
「うん、横で書いて欲しいな。縦じゃ……入れられないよね?」
「だーよーねー。サイズなんだけど、結局スキャンして取り込むんだからどうとでもなるよね?書きやすいサイズでイイよね?」
「うん、構わないよ。難しそう?」
「うーん、書いてみてるんだけど納得いくものがなかなか……なんか浮く気がするんだよねー」
「うーん、見てみないことには分かんないな」
「あ、そうだ、今日帰ったら写真撮ってメール送るから確認してもらえない?」
「あぁ、分かった」
六つの机を合わせた対角線上でそんな話を森田としていたら急に顔を上げた橘が叫んだ。
「え?!森田と高瀬連絡先交換してるの?!」
突然の勢いに塔子は若干身を引きながら応える。
「え、うん。こないだ交換したよ」
「えー!僕も仲間に入れてよ!」
ぶぅーと膨れっ面でスマホを取り出す橘に続いて、メグとエリもさっとスマホを差し出してきた。
「そうだよ!アタシも入れて!」
「うんうん、何のアプリ使ってるの〜?」
塔子自身が、とあるトークアプリしか使ってないことを説明するとメグもエリもビックリした声をあげた。
「えっ?!塔子他のSNSやってないの?!」
「うん、何もやってないや」
「マジか。でも塔子ちゃんらしい気もするね〜」
「まーイイか。じゃーここでグループトーク作ろう!阿久津も参加してよ!これからここでも相談できるじゃん!」
「そうだよそうだよ!阿久津くんも是非!」
「…………」
顔上げた阿久津は顰めっ面で数秒間考えた後チラッと塔子を見て、下に置いてある鞄から自分のスマホを取り出した。
その阿久津に塔子は自分のスマホを見せながら聞く。
「ゴメンね、私このアプリしか使ってないんだけど阿久津も入れてある?」
塔子のスマホをチラ見して自分のを操作した阿久津が塔子にQRコードを見せる。
「読み込んで」
塔子がQRコードを読み込むと阿久津はサッとスマホを仕舞ってしまった。塔子は皆んなを見渡す。
「皆んな私にアカウント教えてー。グループ作るよ!」
皆んなからアカウントを教えてもらい、塔子はグループを作った。実はやったことが無かった塔子、無事に作れるのかドキドキしていたことは秘密だ。
こういうことがあまり好きでは無さそうな阿久津がアカウントを教えてくれたことが塔子は何となく嬉しかった。だから阿久津の気が変わる前に作ってしまいたかった。
そして何となく、人の機微に疎い塔子にとっては何となくでしか分からないのだが、阿久津のアカウントはこの間のおにぎりなんだと感じていた。独り占めしてはいけない危険な代物だ。さっさとグループを作って共有すべき物だ。
ーー今回は間違っていない筈……
これでまた更に皆んなと仲良くなれたら嬉しいと思った塔子だった。
登録したばかりの皆んなのアカウントを見てみると、アイコンの写真に個性が出ていて面白い。
「あ、エリのアイコン、誰の似顔絵??」
「推しの似顔絵だよ!!カッコいいでしょ〜〜〜!!ホントは写真使いたいんだけど著作権とかで訴えられても怖いしさ〜。そうそう、今週末ライブ行くの!チケット取れたの奇跡なんだけど!」
「そーなんだー!楽しみだね!」
「うん、ホント死ぬほど楽しみ〜〜!」
「それにしてもこの似顔絵上手くね?ちゃんと面影あるじゃん?もしかしてエリが描いたの?」
メグが感心しながらエリに聞く。
「まさか!友達でそういうの上手な子がいてさ〜、書いてもらったの!」
「あ、私もいつでも受け付けるよ!」
塔子が言うと
「絶対ヤダよ〜!推しの顔が溶けたら泣く!!」
秒で断られた。
「ね〜塔子ちゃん、前から思ってたんだけど好みとかないの?好きなアイドルとか居ないの?」
「うん、いない」
塔子の即答にエリは目を見開きながら驚いた表情を見せる。
「え〜!信じらんない!あんなにカッコいい人たちがこっち向いて笑顔振りまいてくれるのにトキメかないなんて人間じゃない!!」
「ちょ、人間じゃないって……あ、そう言えばあったわ、トキメいたこと」
「え!アイドルに?誰〜?気になる!」
「うん。ちょっと前にドラマに出ててさ、あの深夜枠でやってた学園モノ。私そのドラマ観て、初めてアイドルにトキメいたよ」
「あ、あのドラマね!グループFのユータでしょ!カッコいいよね〜!え、塔子ちゃんのタイプってあんな感じだったんだ〜。かなり美形じゃん!」
「いやそれがさ。ドラマでキュンキュンしちゃったもんだから興味持ってちょっと調べたの。歌って踊ってるとこ観てみたり、バラエティ出てる動画チェックしてみたり」
「うんうん!!」
「知れば知る程コレジャナイ感が酷くて……演技が上手かったんだねー。私はさ、ドラマの中のつれない猫のような彼に惹かれたのに、アイドルとしての彼は全然違っててさー。いや、それだって彼の本質ではないんだろうけど……
結局私は役の人物が好きだったんだなって気付いたの。原作の小説買って読んだらドラマより萌えたよ!」
「え〜、もうなんでそんな残念仕様なの〜?」
「ひどい!残念って言わないで」
「イケメンは世界を救うんだよ?」
エリの言い草にあははと塔子は笑う。
「うーん……私きっとものすごく欲張りなんだと思う」
「どういうこと?」
「アイドルってさ、それこそ何十万人何百万人に向かって笑顔振りまいてるんだよ?私は私だけのレアな物が欲しい」
「え、ダメだよ、独り占めしてイイものじゃないんだよ!アイドルの笑顔はファンの共有財産なんだから!」
「でしょ?だからアイドルはダメなの、私」
「なるほど、塔子ちゃんは欲張りだったのか〜」
今まで黙って勉強していた橘が塔子に顔を向ける。
「……ねぇ、じゃあ好きな俳優とか歌手とかも居ないの?」
「あ、いるよ!え、聴いてくれる?……この人とか!……この人とか!」
塔子は自分のスマホを取り出し、ユーチューブで好きなアーティストを橘に見せた。横から皆んな覗いてくる。
「めちゃくちゃカッコいいの、この人の声!あとこの人たちの音楽も超オシャレ。あ、この人はマジウマだよ!あとねー……」
「待って待って。めっちゃ語るじゃん。そして誰も顔見えないし!この人に至っては女だよね?」
とメグ。
「この人は仮面付けてるからねー。歌に顔必要ある?この人の声ヤバいよ?これ以上余計な情報要らないよ?」
「顔面は余計な情報ではない!」
「えぇ……この人なんてアニメーションだけだから姿形なんのヒントもないよ。でも最高だよ!」
「自信ないから出さないんでしょ。騙されちゃダメだよ」
「ねぇ、別に私騙されてなんかないよー。
……そもそもさ、私、顔の美醜にそんなに興味が無いよ」
「嘘だー!イケメンとブサイクがいて、その他の要素が全く同じだったら塔子もイケメン選ぶでしょ?」
「まず他の要素が全く一緒ってことがないでしょ」
「えー、じゃー塔子が今まで好きになった人たちって皆んなそんなカッコよく無かったの?そんな事ないでしょ?」
メグに聞かれて塔子は返答に詰まる。
「ほら、答えらんないじゃん」
「……うーん、そうじゃなくて……私今まで好きになった人とか居ないんだよねー」
「……は?え?塔子今まで彼氏とか居たことないの?」
「うん」
塔子のスマホを返しながら橘が頷く。
「同じクラスになる前だったら信じられなかったかもしれないけど、今の高瀬見てると納得かも〜」
「塔子ちゃん、ちょっとでも惹かれた人とか居ないの?」
「うん、居ない」
「え、バスケ部とかイケメンいっぱい居るよね?ときめいたりした事ないワケ?それに塔子が好きなバスケをやる男子なんでしょ?趣味も合いそうじゃん?」
「うん、無いのよ」
「嘘だー!」
メグの価値観や常識では理解して貰えなそうだ。
「そう言えばさ、中等部最後の試合でね……」
塔子は十一ヶ月程前の試合を思い出す。
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片瀬学園は立派なアリーナを有している為、バスケの大会でも会場として使われることが多くある。その日も男バス女バスともに自校での試合だった。
塔子たち女バスは二回戦で当地区の優勝候補と当たってしまい大差を付けられ中学最後の試合の幕を閉じた。塔子自身は向こうのエースに食らいつき、得点を一桁に抑え、さらに自身は二十五点をあげるという快挙を成し遂げた為、試合には負けてしまったが個人的には満足の行く勝負だった。
一方男バスは、地力はややこちらが劣るであろう相手と一点を争う勝負をしていた。その手に汗握る試合を既に大会を終えた塔子たち女バスの面々はアリーナの二階から観戦している。
試合は四クォーター残り三十四秒、二点ビハインド、相手ボールのスローイン。相手チームのガードがドリブルで中に切り込んで行くと見せかけてパスフェイクの後スリーを打とうとした瞬間、マークに付いていた背番号七番がシュートをブロック。弾いたボールを拾ってドリブルで運び、そのままレイアップシュートを打ちに行く……
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「でね、なんかおかしかったんだよ。いつもだったらサクッと決まるシュートな筈なんだけど、相手に追いつかれちゃってさ。うわー!決まりますよーに!って祈りながら観てたら、まさかのファールもらってのバスケットカウント。
そしてきっちりフリースローも決めて逆転だよ。残り九秒を守り切って勝利。ホント鳥肌立ったわ」
塔子が腕を摩る。今話しながらもまた鳥肌だ。
「ちょっとバスケの詳しい事は分かんないんだけど、つまり残り数十秒で負けてて、その人が三点取って逆転勝ちしたってこと〜?」
エリが聞いてくる横からメグが身を乗り出してくる。
「ってかそれは誰よ?」
塔子はエリに向かってその通りだと頷きながら、メグに答える。
「えっとね、高松。高松橙里って言ったかな?英語コースだったと思う」
「あ〜高松か〜。確かにバスケ部だったね。アイツも結構なイケメンじゃない?」
橘の言葉にメグがさらに身を乗り出す。
「えー!今何組よ?見に行く!」
「「転校したよ」」
塔子と橘の揃った声にガックリ肩を落とすメグ。
「なんか父親の海外転勤で一緒について行ったみたい」
「まーじーかー……
で?塔子はそのプレーにトキメいたって話?」
気を取り直したメグの言葉に塔子は首を横に振る。
「あれ私がやりたかったなーって」
「は?」
「もうね、ベンチからコート脇から観客席から大興奮の嵐よ。他の学校の女の子たちもキャーキャー言ってたし、あれは確かにカッコよかった。しかも後で聞いたらワザと追いつかれてバスカンもらったらしいしさー。漫画だよね。それに高松のプレーって華があってさー。ウチの学校で一番上手だったし、私も一緒にバスケやるの楽しかった。
……でもなー、なんか悔しかったなー。同じ状況に置かれたとしても今の私には同じこと出来ないだろうなって」
「嘘でしょ……それでそんな感想になる?!そこはもうキュンキュンしてイイとこでしょ!」
「ま〜ま〜、高瀬らしいっちゃ高瀬らしいよね」
理解できないものを見る目で塔子を見ているメグを橘が苦笑いで宥める。
「まーだからバスケが上手くても好きになるワケではなさそうだな、私」
言いたかった結論に辿り着き、塔子は満足気に頷く。
「高瀬って実はめちゃくちゃ理想が高いんじゃないの?」
「僕も思ったよ〜」
「なるほど!そうなのかも!塔子ちゃんはどんな人を好きになるんだろ〜ね〜」
三人でうんうん頷いているところにメグの冷めた声が割って入ってきた。
「どーでもイイから早く誰かと付き合っちゃえばイイのに」
「ヒドっ、ちょっと誰でもって……」
冗談を言われたと思った塔子は笑いながらメグに反論しようとしたが、思いの外無表情のメグを見て続く言葉を飲み込んだ。
「今年になって塔子を紹介しろって言われること増えてマジウザいんだよねー。どうせ塔子興味ないだろうし。だからサッサと誰かの物になって欲しいわー」
「えぇ…………」
「いや、割とマジで」
――おかしい、また何か間違ったのかも……
塔子は前回同様冷えてしまった空気を感じるが、何が原因なのか分からず途方に暮れるのであった。
拙い話を読んでくださってありがとうございます。
泣いて喜んでおります。




