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11ーー4年生(5月)




「知ってた?この教室、妖精いるよ」

 

 唐突に始まった塔子の荒唐無稽な話にいつもの五人が固まったところから今日のアクティブラーニングの時間は始まった。


「俺最近、高瀬の話二割くらいしか聞く価値ないと気づき始めたよ」

「二割も聞いてあげるなんて優しいね、森田」

「確かに…二割は多すぎるか……」

 メグの指摘に訂正が入ったようだ。


「僕は興味あるな〜、妖精の話」

「橘くんって優しいよね〜」

「え〜エリちゃんも気にならない?」

「う〜ん、阿久津くんはどう思う〜?」


 いつもの怠そうな姿勢で目線だけ上げた阿久津はチラっと塔子を見て小さく溜息を吐き、また下を向いてしまった。通常運転だ。


「皆んな扱いがヒドイのよ…」

 塔子がガックリ肩を落とす。

「仕方ないから聞くけど、ヒドイのは高瀬の話の内容だと思うよ」

「まだ聞いてもいないのに?」

「断言するね」

「でも聞いてくれるんだね。森田も何だかんだ言って聞きたいんだね?」

「言う気がないなら作業進めよう」

「わーちょっと待ってよ」


 塔子は一旦姿勢を正した後で、内緒話をするように背を縮めて話し出した。



「今日さ、私日直なわけ」

「あ〜そうだったね、高瀬」

「でさ、日直って朝のホームルームが始まる前に出席簿取りに行かないとじゃない?職員室まで。それって忘れがちじゃん?」

「いや、忘れんなよ。ってか二人のどっちかが取りに行けばいいんだよね?どっちも忘れるの?」

 メグがご丁寧に手まで付けてツッコミを入れる。

「そうなの。田所くんも忘れがちなの。前回の初めての日直なんて、ウチのクラスの出席簿、朝から夕方まで職員室にあったのよ」

「ちょ!結局取りに行ってないってことじゃん!」

「そうとも言うね。先生たちもさ、自分の手持ちの名簿に記録してるみたいで、無くても問題無かったっぽくて?気付くのが遅れたんだけどさ」

「いつ気付いたのよ?」

「次の日。日誌も書いて無かったから小林先生に書くように言われてさ。その時に前日日直だったことを思い出したの」

「マジか。高瀬ポンコツ過ぎん?」

「あの日さ、ホームで受ける授業もなくて、しかも小林先生が研修かなんかで居なかったからホームルームも無かったのよ。だから私にとっては今日が、このクラスになって初めて『起立!!』って言った記念日」

「そんな記念日犬にでも食わせとけ。え?田所も高瀬と同類ってこと?怖。その日直の日は危険だな」

「森田落ち着いて。で?それと妖精と何の関係が?」

 メグに聞かれて塔子は真面目な顔で続ける。

「うん、それでね。前回そんな散々な私たちだったので、昨日帰る前に田所くんと今日の日直についての心構えを話し合ったワケ」

「真面目なポンコツってヤダな、救いがない」

「森田、とりあえず今は真面目な部分を評価してあげよ」

「橘くん優し過ぎ」

 皆んなの反応にちょっと顔をしかめながら塔子は続ける。

「で、二人して今日も出席簿取りに行くの忘れたの」

「「「「ポンコツ!!」」」」

 


「ほら言ったじゃん、俺何も間違ったこと言ってない」

「確かに森田の言うように、高瀬はポンコツだしこの話は聞く価値のない話かもしれない。でもここまで聞いてしまったら最後まで聞かないと僕もう気になって眠れない!」

「私も〜」

「アタシも。不本意だけど!」

 阿久津はずっと下を向いたままだ。既に寝てるのかもしれない。


「皆んな落ち着いて?」

 塔子がどうどう!とでも言うように手で落ち着けサインをする。

「なんか腹立つな」

「それでね、その事実に気付いたのがホームルーム開始のチャイムをBGMに小林先生が教室に入って来ようとしてる瞬間だったの」

「塔子、BGMとかいらん」

「思わず、はっ!!って田所くんの方を見たら、田所くんも私と全く同じリアクションを取ってたのが目に入って、『あーもしかしたら田所くんが取りに行ってくれてるかもー』の希望が打ち砕かれるまで三秒かからなかったの」

「怖ぇー、二人して同じリアクション取ってるポンコツ怖ぇー!」

「田所くんって超成績良いよね?学年トップテンの常連じゃなかった?」

「頭の良いポンコツという新しいジャンルに挑戦してるんだな、アイツ」

「森田さっきから毒まみれなんよ……

 まぁいいや。それでね?前回の事もあったから、ヤッベ、怒られる?!って身構えてたんだけどさ」

「怒られるべき案件だろ」

「あったの」

「「「「は?」」」」

「何故か出席簿が教卓の上にあったの!!」

「何でだよ!怒られとけよ!」

 メグが呆れた顔をして言う。


「小林先生が自然な動作で教卓の上の出席簿を手にした瞬間の私と田所くんの顔は見ものだったと思う」

「自分で言うことじゃないから、それ」

「ホントビックリしたよー。この謎の現象について田所くんと話し合った結果、妖精の仕業だねってことで落ち着いたの」

「……くっっ、ゴホッゴホッ!!」

「あ、阿久津が起きた。何咽せてんの?」

「信じらんない。何が信じらんないって田所まで巻き込んで妖精の帰結ってことがホント信じらんない」

「ちょっと森田、田所くんは巻き込まれた一般人じゃないよ?正真正銘立派な当事者だよ!」

「でも妖精って言い出したのは高瀬でしょ?」

「お、おん……」

「それって絶対高瀬が唱えた妖精説に田所が頷かされただけじゃん。二人で話し合った結論みたいに言うなよ、田所が気の毒だ」

「見てきたように言うじゃんよ……」

「見てなくても分かるよ」

「くっ…………でもね、実はそれだけじゃないんだよ、妖精の仕業は」

「まだ他にあるの〜?」

「だから優し過ぎんだよ、橘。終わんないぞ」

「塔子、とりあえず話の続きはまた今度ね」

「うんうん、塔子ちゃんごちそうさま!」

「それってもう黙れってこと?!」


 結局妖精の存在は信じてもらえず満足に日直も出来ないポンコツの烙印をおされた塔子の話は、取るに足らない与太話だとスルーされてしまった。やってる事(やらなかった事?)は田所くんと同じなのに、加害者と被害者のような認識になってしまったのは何故なのか。全く解せぬ塔子だった。

 

 

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