明け方
三題噺もどき―さんびゃくよんじゅうはち。
会社から出ると、昇り始めた朝日が目に染みた。
歩道を歩く人はまばらというか……なんというか。
ほとんどいない。遠くに1人だけ歩いているようだ。
「……」
車道を走る車はほとんどない。
数台、先程から走り去っているが、数えられるほどしか走っていない。
片手で足りるかなって感じ。
まぁ、実際には数えてないので知らないけど。
「……」
んぁ~。
夜勤明けはいつになっても辛いものだ。
年々きつさが増しているのは年のせい以外もありそうだ。
そういう仕事を選んだ身ではあるが、ここまで辛くなるものかと思うばかりだ。
月に数日しかないんだが……しんどい。
「……」
これから明日までは、切り替えのための休日ではあるので。
さっさと帰ってゆっくりするとしよう。
明後日からはもう普通に出勤だしな。
毎回夜勤じゃないだけありがたいと思うようにしている。
「……」
さてどうしたものかと考え始めたあたりで。
いやまぁ、さっさと帰ればいいんだけど。
なんとなく気になって。
ふぃと上を見上げてみると。
薄く青み始めた空の端の方に。
追いやられたように。
白い三日月が浮かんでいた。
それに寄り添う様に、大きな鯨のような雲がいた。
消えていく友達を最後まで見送ろうとしているように。
「……」
太陽の昇る方と反対側。
帰路のある方向の道の先。
夜はあんなに存在を主張して、美しく輝いているのに。
あっという間にあんな風になって追いやられてしまう。
でも。
「……」
夜に浮かぶ黄金の美しい月もいいにはいいが。
私はこちらの、白く霞んだような月の方が好みかもしれない。
どこか儚い感じというか、何だろう。
こういう時にうまく表現できないのはなんだかもどかしよなぁ。
別にそういう仕事についているわけでもないんだけど。
「……」
……何で今日に限ってこう、変な気持ちになっているんだろうな。
いつもならこんな風に立ち止まる事すらなく真っすぐ帰路につくんだけど。
何かが引っかかっているのかな。
まぁ、色々あるにはあったけど。
「……」
それは割といつものことで。
今日も今日で、苦手なかくしごとをしないといけなくなってしまった事があって。
苦手というだけで、不得意というわけではないのが行けない気がしている。
むしろ得手だから、捨てようにも捨てきれない自分の何かになってしまっている。
「……」
かくしごと。
と言っても。さほど大きなものでもない。
たいしたことではない、個人間の問題で済むことで、気にもならない程度のことだ。
それでも、なにか。
罪悪感のようなものを覚えてしまうから、苦手なのだ。
得意ではあるけど、嫌いだ。
「……」
どこかにそのかくしごとをしてしまったと言う、ぬぐい切れないものがあるせいで。
もやもやとしてしまっているのかもしれない。
らしくもなく。
「……」
「……」
「……」
しっかし……。
これからまた歩いて帰るのもめんどくさい。
会社の近くにアパートを借りたはいいが、こういう時に駆り出されるようになってしまったのはなぁ……。
だからまぁ、別にいいんだけど。給料は上がるし。
とは言え、1人暮らしだし、食事とかもそこまでこだわりがないタイプだし。
お金を使うような趣味もないし。
生活日にだけお金が溶けていく。
あとは、両親や兄弟の誕生日ぐらいか。
今日は帰りがけにコンビニでも寄るとしよう。冷蔵庫の中身が何もなかった気がする。
「……っぁ……」
そう決めてから、なんとなく背中に力を入れ、伸ばしてみる。
座っている時間が長いせいなのか、ものすごく背骨のあたりが痛い。
一応会社の外で、すぐそこには道路があるので、思いきり背伸びというわけにもいかない。
だから、なんとなくの感覚だけで伸ばしてみている。
これだけでもかなり気分は違う。
痛みは治まらないけど。
「……っし」
さて、帰るとしよう。
お題:鯨・かくしごと・白い三日月