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性悪説

作者: 花織
掲載日:2023/04/14

昼下がりの部屋。

飼い猫の悪戯でテレビが点いた。

つらつらと流れるテレビのニュース。


「……では、……の捜索……」


うとうととしながらソファに横たわっている。

夜勤明けで疲れてるのだ。ニュースなんかには興味ない。勝手にやっててくれ、と消すためのリモコンを横着して手だけ伸ばしながら探す。


「……懸賞金として1億円が……」


何?今なんと言った?

寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。


「この忽然と消えた本を見つけて届けてくれた方には懸賞金として1億円を支払うとのことです。」


1億!?そんなにあれば今の仕事なんかさっさと辞めてやるのに。

まあ見つけられはしないだろうがもし、だ。もし見つけられた時のためにテレビに映るその本を携帯のカメラで撮影しておいた。

どんな本なのかは知らないが懸賞金を掛けてまで探す価値のある本なのだろう。見つけたら値上げ交渉してやろうとほくそ笑んだ。


------------------------------------------


また別のところ。

昼下がりのニュースを席巻した懸賞金のかかった本のことを街頭のテレビで耳にした。

一昨日、私が盗んだ本。これさえあれば世界は私のもの。

懸賞金をかけたところで見つけ出させやしない。

だって。この本はなんでも叶えてくれるんだから。


元の持ち主は都市伝説かなんかで世界を裏から操っていると言われていた家で、この本の効果を見るにそれは本当だったのだろう。

私はその家のメイドだった。今頃私が盗んだことくらいはバレてるはず。でも私は数ヶ月かけて今回の盗みをしたのだ。主人が寝る時も肌身離さず持っている本を盗むために強い睡眠薬を手に入れて、逃走のためにパスポートも作って旅券も買った。

力を失ったあいつに窃盗ごときで国際手配する力なんかない。

そこで懸賞金と出たわけだ。大金持っているくせにケチりやがって。それでも全世界に配信されたそのニュースは貧困国の人間ほど血眼になって探すようにさせた。


貧困でもなければ富豪でもない自由な国日本。

私が逃走に選んだのはその国だった。

この本はなんでも教えてくれる。

私が「逃げるならどこがいい?」と問うと日本と出た。ただし日本の田舎は見知らぬ人間は目立つから都会にしておけと。


かくして私は日本へ来た。

初めての国だけれどこの本を持っているだけで言語が分かった。それはリュックに入れてても大丈夫なようだったから人目につかないようにできた。

難民申請をして帰化してここで一生遊んで暮らすのだ。

本の教えの通りにことは進んだ。

本当にすごい本だ。念じればお金も出てきた。

そうして数ヶ月が過ぎ、日本ではすっかり本のことなど話題にも上らなくなった。見つけるだけで1億も貰えるというのに日本人は無関心なんだな、と思った。


全てうまくいき、日本ではほぼ通らないとされている難民申請も帰化申請もあっという間に通った。

全てこの本の力か。その魔力に囚われてしまうのもわかる気がした。盗んだ私が言うことじゃないかもしれないが最初は半信半疑だった。

主人がメイドにチップを渡す時に本がお金を出すのを見てもなんかの手品だろうと思っていたほどで、主人が寝ている時にこっそり忍び込み本に触れ「チップちょうだい」と囁くとそれなりの額のお金が出てきて、「夜食用意しといて」と言うと誰もいないキッチンに夜食が用意されていた。それでようやく信じた。信じるしかなかった。見てしまったのだから。


---------------------------------


あれから数ヶ月経ち本のことなどすっかり忘れた頃。夕方。

やばい。寝過ごした。

間に合うように急いで準備を済ませて仕事に向かおうとしていた。

その道中、一人の外人の女とぶつかった。

こっちが駆け足だったからか相手の女は勢いよく飛び倒れた。急いでる時に限ってこれだ。

荷物が散乱してしまったので急いで拾い集めて渡した。その中に見覚えのある本があった。

どこで見たかも覚えていなかったが確か凄い本だったっけ。まあどうでもいい。仕事に遅れる方が大事だ。「おー、そーりー!そーりー!」と伝わるかわかんないくらい拙い英語でもう一度謝ると再び駆け出した。


今日の仕事は散々だった。

何かがずっと頭に囁きかけてきて集中できなくてミスばかりだった。

知らない間に呪われたのか?それにしては声は「願いを言え。」ばかり言ってくる。

あまりにしつこかったからとうとう頭にきて頭の中で「じゃあ仕事に集中させてくれよ!」と言うと声は聞こえなくなった。

あれはなんだったんだ。思い出すだけでゾッとする。


それにしてもあの特徴的な本、どこかで見た気がするんだよな、と思い返してようやく思い出した。懸賞金1億円の本だ。

なんてことだ。目撃情報だけでも半分くらいくれないかななんて考えたけどすぐに諦めた。

人生を諦めている俺にとっちゃ諦めるなんてのは日常茶飯事だ。ツイてたのかツイてなかったのか微妙だが不思議な経験をした日だったと思い返しながら家に着く。

するとまた「願いを言え。」と聞こえてきた。

仕事が終わったからか?よく頭のおかしい連中が言う電磁波攻撃か何かか?とりあえず疲れてるから「いいから寝かせてくれ。」と念じると急に眠気がきた。やっとの事でいつも寝ているソファまで辿り着くと力尽きたように眠った。


---------------------------------


何かがおかしい。

本が急に何も叶えてくれなくなったのだ。

何度も試した。けれど結果は同じだった。

あの男とぶつかってからだ。絶対に関係があるはず。私はそこで初めて本を深く読み込んで調べた。本の効力について。

それでわかったことがある。


[この本は最後に触ったものの願いを叶える。]

[この本は同じ者が二度触れても一度目しか効力を発揮しない。]

[本を持っているかいないかは関係がない。]


それならなぜあの主人はこの本を取り戻そうとしているのか?一度他の人間が触れたのは確実なのだから諦めてもいいはずなのに、懸賞金までかけて。まさか子息に触らせる気か?

疑問は湧くばかりだったが一生遊んで暮らせる分のお金はもう手に入れた後だ。それならもうどうでもいいかと本をリュックに放り込んだ。


---------------------------------


夕方。

昨日というか今朝は散々だった。

夜勤帰りで疲れていたのだろうか幻聴まで聴いて帰るなりすぐ寝てしまって。

起きると風呂に入って、それから食事を摂った。

「願いを言え。」

まただ。いい加減しつこいぞと思って「まずお前は誰か言え。」と頭の中で返すと「我は願いを叶える為に生まれた魔の本である。」と返ってきて固まってしまった。本はあの時確かに返したはず。ならなんで声がするのだ。どこから聞こえているんだ。

「直接頭の中に語りかけている。」

俺の思考を読むな。

「なんでもいい。願いはないのか?」

ははっ、そうだな……じゃあこんなクソみたいな世界をメチャクチャにぶっ壊してくれよ。まずはうちの職場のクソうるさい上司を消してくれ。

できるなら、な!

「お前はなかなかに悪い奴だな。面白い。答えてやろう。取り消すのは無しだぞ。」

そりゃ最高だ。


俺はそろそろ出勤時間なことに気づいて支度をして向かった。

職場に着くといつもうるさくて偉そうにしやがる上司がさっき交通事故に遭って死んだと聞かされた。

おいおい嘘だろ?俺のせいだとでも言うのか?

まあいい。初めて会った時から嫌いだったからせいせいする。職場で連名で香典を出そうと言う話になったがもちろん香典なんか出してやるもんか。

心のなかでざまあみろと言ってやった。

今日の仕事は楽しくて仕方なかった。


仕事帰りにまた声がした。

「次は何を望む?」

そうだな、まずは隣の国をぶっ壊してくれよ。

馬鹿みたいな国が自滅するのを見るのは楽しいだろ?

「わかった。聞き入れよう。」


家に着いてすぐテレビをつけるとニュース速報が入った。

隣の国が核ロケット実験に失敗して首都含め数カ所に核が落ちたとの話だった。

アメリカの偵察衛星によると首都圏は全滅、指導者もおそらく死亡した模様とのことで、即座に叶ってしまった。


恐ろしい能力だ。何でも叶えてくれるだなんてどこぞの青いロボットのようだがもしあいつならこんなことは止めるだろうな、と思った。

止めもせずに実行してしまうのだからいいもんだ。

俺は上機嫌だった。仕事明けに一杯飲むか。


「次はどうする?何か壊したいのでもあるのか?それとも人の幸せを奪いたいとかか?何でも叶えられるがお前次第だぞ。」

そんな声掛けに応えることもなく床についた。


次の日も出勤前に願いを言う。

じゃあ次はもうひとつ隣のあの国をめちゃくちゃに壊してみてくれ。

「……わかった。」

とだけ返ってきた。


退勤後家に着いてテレビを見るともうひとつ隣の国で革命が起きていた。貿易相手国でもあり国交もある日本にも少なからず影響が出そうだとの有識者のコメントを見て流石に近すぎたか、と反省した。

だが面白い。面白すぎる。何でも叶えてくれるって本当だったんだなお前。

「最初に言ったはずだ。昔からそういう望みを言う者もいたからこんなのは朝飯前だ。」

いいパートナーになれそうだと思った。退屈で緊張感のない社会にうんざりしていたからこういう歴史書でしか見ないような混沌は楽しくて仕方がない。


じゃあ次はアフリカで核戦争を起こしてくれよ。

そうしたら大した影響もなく高みの見物ができるだろ?


「……わかった。それでいいんだな?」

もちろんいいに決まってる。うちの会社はただの営業だし仕事に支障もないだろう。

「お前は狂った奴だな。叶えてやるがどうなっても知らないぞ。」

そう言い残すと声は聞こえなくなった。


次の日は言った通りアフリカ全体で核戦争が起きていた。中東まで巻き込まれて世界はめちゃくちゃだった。当然日本はオイルショックで大変なことになってきた。


いいぞいいぞ。

俺はゲーム感覚だった。戦争もののFPSを見ているようでテレビに毎日釘付けになった。

そのうちうちの会社にも影響が出てきたのにも関わらず。

一番仲の良かった同僚が出張先の中東で戦争に巻き込まれて死んだという知らせを聞くまでは。


俺はとんでもないことをしてしまったんじゃないか。やっと気づいた。核の冬も来そうだとの有識者のコメントも合わせて呆然と立ち尽くしていた。


「だからいいのかと確認したのだ。言わんこっちゃない。これだから若者は……」

本はそう呟くと静かになった。

「チッ、怖気付きやがって……クソが」

俺に残されたのは潰れそうな会社と死んだ親友の弔いだけだった。



---------------------------------


何かがおかしい。

本が急に何も叶えてくれなくなったのだ。

何度も試した。けれど結果は同じだった。

あの男とぶつかってからだ。絶対に関係があるはず。私は調べてみた。本の効力について。

それでわかったことがある。


[この本は最後に触ったものの願いを叶える。]

[この本は同じ者が二度触れても一度目しか効力を発揮しない。]

[本を持っているかいないかは関係がない。]


それならなぜあの主人はこの本を取り戻そうとしているのか?一度他の人間が触れたのは確実なのだから諦めてもいいはずなのに、懸賞金までかけて。まさか子息に触らせる気か?

疑問は湧くばかりだったが一生遊んで暮らせる分のお金はもう手に入れた後だ。それならもうどうでもいいかと本をリュックに放り込んだ。


そうしているうちに世界が段々戦争に巻き込まれていった。絶対あの男の仕業だ。私は確信を持った。止めなくては。誰でもいい、まともな人にこの本を触れさせるのだ。まともに見える人を探して街に出た。数日彷徨って何か策を考えるべきだったと後悔した。その間にも戦争は広がっていった。


そこでだ。通りすがりのまともそうな人に声をかけて「これ落としましたよ」と言って渡そうと思いついた。

日本人のことだからきっと否定して返してくるだろうが一度は触れさせられるし早々に交番にでも届けてくれる人が現れるだろうからそれで解決だ。

私は本と関係のない人生を送ることができる。

完璧な計画だ。

そうと決まったら実行だ。


ターミナル駅の通路でわざとぶつかった後に本を渡し「これ落としました?」と聞く。

すると何度やっても皆本を触りもせず否定されてしまう。作戦失敗だ。

仕方ない、直接交番に持っていくことにしよう。


近くにあった駅前交番に拾得物として届け出た。

するとすんなりと受け取ってもらえた。

本はそのまま警察署の遺失物保管庫に保管されることになった。

最後に触ったのはきっと保管庫の係の人だろう。

本の話題も忘れ去られた日本ではきっと誰も名乗りを上げないし本に名前もこれといった特徴もないから保管庫に置きっぱなしになるに違いない。

せめて保管庫の人がいい人であることを祈った。


---------------------------------


私はとある警察署で遺失物の管理を任されている。

毎日が割と忙しくて見つかりそうもないものを探しにくる人でいっぱいだ。財布ならまだしもビニール傘くらい探さなくても買い直せばいいのに。

財布とか定期券のような個人情報が入っているものはこちらから連絡しなくてはいけないからそれもまた面倒。他よりは楽なんだろうけれどテレビで活躍している警察官に憧れて就職した私にとっては嫌な仕事でしかない。

早く配置転換来ないかな〜って思いながら数年が経った。


そんな中、テレビで出ていた有名な本が届いた。

本当は持ち主もわかっているし連絡しなくてはいけないんだけど海外にまで連絡するのは面倒だ。

何億貰おうが知らない。向こうが取りに来ればいい、と知らないふりして保管庫にしまった。


その日からだ。頭の中に声が聞こえ始めたのは。

「我は人の願いを叶える本。さあ願いを言え。」

「じゃあ配置転換して〜?捜査に関われるところね〜。」

「わかった。」

すると次の日辞令が出て捜査一課に転換になった。

効果は本物らしい。

なら色々叶えてもらっちゃおう。

……もしかしたら最近の世界の騒乱は前の持ち主のせいかな?酷い人もいるんだなぁ〜。


私は次の願いを考えていた。

お金が欲しいとか好きな先輩と付き合いたい、とか言ってみたら本当に叶ったし、なんでもできちゃうんだね〜。

じゃあ私も好き勝手しちゃおっと。


「私、表彰されるくらいの手柄が欲しいな〜」

「わかった。だが解決するのはお前自身だぞ。」

「は〜い♪」


次の日、殺人の容疑で全国指名手配されていた犯人をたまたま見つけて、他の捜査員と連絡を取り私が捕まえた。

結構大変な逃走劇にはなったけれど無事捕まえられて私は表彰されることになった。


「表彰されたよ〜」

「わかっておる。お前が望んだことだろう?」

「ちゃんと活躍できてしあわせ〜♡って感じ〜」

「それは良かったな。」

「でも〜、なんかちょっと物足りないかも〜?」

「もっと望むというのか?」

「う〜ん、そうだね〜。もっと欲しいかも〜」

「……わかった。」


そしたら次の日首都ですごいテロ事件が起きちゃって私は捜査で大忙しになった。

「犯人は〇〇に隠れておる。捕まえられればまた表彰されるはずだ。」

私は頭の中の声に従って捜査を進展させた。

でもテロの影響で首都はめちゃくちゃになってしまった。地下鉄は全部使えなくなって、知り合いもたくさん死んでしまった。

一応住んでいるのは郊外だったから私自身は被害は免れたもののもし通勤中に遭遇していたらと思うと恐ろしい。


そんな中一報が入ってきた。

世界一大好きだった高校の先輩もテロに巻き込まれて死んだ、という知らせ。

そんなこと絶対に許せない、との一心で捜査した。

結局犯人は本当に声の通りの場所に逃げていた。

その潜伏場所に機動隊が突入して戦闘になって、大勢の死傷者を出しながらも首謀者は捕まった。

私は表彰されたし昇進したけれど嬉しくなんかなかった。先輩を返して欲しい。本に言えば叶うのかな?ねえ、どうなの?


「我とて死者を蘇らすことはできん。決して平和の維持なぞできんのと同じだ。」


そっかぁ。私のせいだよねこれ。

私が浅ましい願いなんかを適当に願ったから、だから罰が下ったんだ。そうだ、天罰だ。

先輩がいなかったら私はどうやって生きていけばいいんだろう。

高校で一人ぼっちだった私を救ってくれた、ちょっと抜けてるけどすっごく優しい先輩。

卒業後もずっと一緒に遊んでた。先輩は優しいから警察に就職した私をいつも気にかけてくれてた。やっと付き合えたのに。

あんなに幸せだったのに、無くなるのは一瞬だ。

それからは抜け殻のように生きるしかなかった。

私は死に目にも会えなかった。先輩の死体は無惨にバラバラだったから見ない方がいいって止められたけどこの目で見るまでは先輩が死んだなんて信じないって一心で見てしまった。

顔だけは綺麗に残ってて、ちゃんと先輩の顔だった。


こうすれば先輩のところに行けるかな?

私の部屋には買ってきたロープが円を描きぶら下がっていた。

ねえ、先輩。私のこと許してくれる?


「お前はそれを選ぶのか。我は願いを叶えることしかできんぞ?」


いいよ。もういい。

先輩がいない世界なんてないのと同じだもん。


「じゃあね。不思議な本くん。さよなら。」


きっと私は地獄に行く。先輩は天国かな?

そうして私は首を吊った。



---------------------------------


首都でテロが起きた。

またあの本の影響だろう。

いい人に渡ってほしくて警察に預けたのにこれじゃ無意味だ。

取り返すにも今更なのかもしれないけれど、それでも自分で巻いた種だから放っておくことはできなかった。


遺失物係に問い合わせて本を取りに行った。

ちゃんとあった。すぐに手続きをして取り戻した。

もうこうなったら捕まってもいいから返しに行こう。自分の罪も償おう。全部私のせいだから。

いい人ばっかりの国って聞いてたけど嘘だったんだ。

人間不信になってきた私はそんなことを考えていた。


あれ以来久々に飛行機に乗る。

手荷物検査は本に触れさせないように頑張った。

故郷に帰ってきて息をつく間も無く、すぐにあの家に返しに行った。


当然のように私は窃盗で逮捕された。

親にも迷惑をかけた。面会では涙ながらにいっぱい叱られた。当然だ。

あの家のご主人様はわざわざ面会にまできて、「返してくれてありがとう。ちゃんと罪は償うのだぞ。私は怒ってないから安心して自分と向き合ってきなさい。」だなんて言ってた。

あれだけ世間を騒がせた本だから、私の逮捕も大々的に報じられていたけれどもうどうでもよかった。これで悪いことが起きなくなればそれで良かった。

結局私はただの小賢しい盗人でしかなくて、浅はかな人間だってことだろう。一応敬虔なカトリックの家系な私は獄中で毎日神様に懺悔した。

そして数年と暫くして釈放されても行き場がなかった私をご主人様は優しく迎え入れてくれた。

あんな大変なことをしてしまったのに。

結局いけすかないと思ってた私の方が馬鹿だったんだ。

本は子息に受け継がれたらしくご主人様の息子さんが必死に世界を直そうとしているのをよく見かけた。

「戦争を終わらせて平穏を取り戻させて。」

「あの国の被害者が救済されるよう取り計らって。」

そんな声がご子息の書斎からよく聞こえていた。

まともじゃなかったのは私なんだ。

世界では少しずつだけど復興が始まって平穏が戻りつつあった。それも全て本のおかげか。

いや、本を使う人次第なんだ本当は。


そんな中、ご主人様が危篤と聞いていても経ってもいられず病院に駆けつけた。

「もう罪は償ったのだから神様はお前をお許しになるだろう。これからは真っ当に生きて行きなさい。」

それが私にくれた最期の言葉だった。

涙が止まらなかった。こんな私を許してくれたご主人様はなんてお優しいのだろう。

その場にはご子息も一緒にいて、看取ったあと教会で葬儀を執り行った。

これからはご子息のために必死で生きていこうと誓った。ご主人様に似て真面目で優しくて、いつも私のことも気遣ってくれた。


神様、こんな大罪を犯してしまった私がこんなにも幸せでいいのでしょうか?

いつも懺悔室に向かっては神父さんから優しい言葉で説教を受けた。

世界はなんでもなかったかのように元通りになりつつあって、悪い夢だったかのように時間だけが過ぎた。


常日頃から性善説なんかを説いたご主人様に報いるように生きなくては申し訳が立たない。

結局全ての罪は私が背負うべきだと思って今日も生きている。

本の使用者のその後のことは知らないけれど、彼らにも赦しを。私が全ての罰は受けますから、赦しを、どうかお願いします神様。


私は生涯そう祈り続けた。

一連の出来事は馬鹿な私が馬鹿げたことを考えた罰なのだ。そう思っている。


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