フェリシーの手記 その②
通常、魔力を魔術に変換する際にはロスが生じる。それをどれだけ減らせるかを魔力変換効率と呼称するが、彼の魔力変換効率は異常だ。
分かりやすい話、一般的に10の魔力で行使できる魔術があるとする。だが実際に10の魔力で行使するのは極めて難しく、個人差はあれどどうしてもそれ以上の魔力を消費してしまうのだ。
だが彼はどうだ?極端な話、1の魔力で術式に変換したのだ。私でさえ11程は消費するというのに。あり得るだろうか?私も何が何だか分からなかった。
異常だ。極めて異常だ。魔力の変換効率は100%を越えることはない、というのが私が何百年も前から唱えてきた説であり、この説は今もなお主流となっているのだ。だがその説は見事崩れ去った。彼だけが特別、それだけで済ませることもできるが、例外だとしても理屈を解明しなければならない。
この事をエンバージュに話したのだが、彼から返ってきた言葉は意外なものだった。聞いたままをここに書き記す。
『確かゼロの魔術は剣を作る魔術だって言ってたよね。それで、本来の刀剣作成魔術で消費する魔力量と彼が消費する魔力が釣り合わないわけだ。なら視点を変えてみればいいんじゃないかな。例えばさ、既にその剣が存在していたとして、あくまで彼はその剣を呼び出す…そうだね、扉を作っているに過ぎない、とか。もちろん、その扉を作るという魔術…いや魔法の領域か…まぁ、それですら莫大な魔力を消費するはずだから彼の魔力貯蔵量じゃ厳しいか…。それか、体内に魔石を作る器官でもあるんじゃない?いやごめんウソウソ、流石にふざけ過ぎた』
後者の仮説は置いておくとして、確かに『扉』という概念は画期的だ。当面はこの方向で研究を進めるとしよう。
(大きくバツがされている。この説は間違っていたようだ)
研究は振り出しに戻ってしまった。エンバージュが言った通り、仮に『扉』の魔術なのだとしても、彼がその非常に膨大な魔力を使う魔術…最早魔法の領域に踏み込んでいるが…ともかくそれを行使する程に魔力を貯めておけるとは思えない。彼の異常な変換効率を持ってしても、だ。もし可能なのだとしたら、それは最早、無から有を創り出すのと同義な程の効率だ。流石にそこまで非現実的な数値ではない。
既に非現実的だとも!!!!
(大きく荒々しい字で書き足されている)