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叛逆者はヤンデレを避けて気ままに暮らしたい  作者: 芋ケンプ
本編 第一章 叛逆者と時の魔女
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朝旦を抜け出す


「あぁ〜…眠い…」


昨夜あんなことがあったせいであれ以降は寝付けていない。とりあえず授業の時間になるまでこのやたら整った中庭で時間を潰すことにした。


「寮暮らしだとだらだらできて良いな。羨ましいよ」


「お、ヘルミィじゃん。こんな時間に来てるのか」


汽車組が来るのはまだ先だと思っていたが既にいるようだ。ちなみに、寮で軽く調べたところ彼女と同じクラスだったので少し安心している。転校…いや中途入学初日…いや二日目か、だが結局顔は合わせていないのでそう変わらない。今の俺は学園祭の日に転校してきてその後大怪我してそのまま自己紹介せずに終わった奴だからな。一人でも知り合いがクラスメイトだと安心できる。


「いや、今日はいつもより早く来たんだ」


「ほーん、課題やってないとか?」


何気なく聞いたが、少しヘルミナの顔に影が落ちた。何かまずいことだっただろうか?


「いや…少し姉さんと喧嘩して…一緒に来たくなかったから一つ早い汽車で来たんだ」


「喧嘩?あのゴー…ヴィエルと?結構優しそうなヤツだと思ってたが…」


「あまり追及しないでくれ。些細なことさ」


「そうか…何かあったら俺に相談してくれ。絶対に力になれるから」


「ありがとう…君はどうして昨日会ったばかりのボクにそんなに優しくしてくれるんだ?あぁいや、本当にただ気になっただけだよ」


?あまり言っている意味が分からないが…感謝を伝えているのなら別に責められているわけではない、か…?


「んー…ほら、今のところ知り合いが少ないからさ、狭い人脈は大切にしたいなって、それくらいだ。それに、君も何だかんだ良いヤツそうだからかな」


「そうか。…ありがとう」


「感謝されるようなことは何も」


そういえば魔法研究部の部員はどこにいるのだろう。魔法が使えるヤツなんてそういてたまるかって話だが、クラブ活動として成り立っておりあれだけの部屋をこしらえるぐらいなのだからまさかシトラス一人ということはあるまい。


そんなどうでもいいのかよくないのか分からないことを考えていると、遠くの出店の前を横切る特徴的な赤髪が見えた。


「あ、クソ女だ」


ベルナール…あんなところで何をしているのだろう。


「え?」


「あぁいやなんでもない。良い意味でクソってことだ」


「まず何があったのか分からないんだけど」


思えばアイツに振り回されっぱなしだな…異世界に飛ばされたのもベルナールが実験してるところに巻き込まれたのが原因だし、あのふざけた配下と出会うことになった一連の流れもベルナールがいなければ無かったはずだ。もっと言えばアイツが一年前の事変の黒幕だった。…あれ?俺ってアイツにキレていいんじゃないか?


「分からないならその方がいい。本当に、忘れてくれ」


しばらく剣を封印して弓を使っていたからか、少し目が良くなったのだろうか?


「何だか含みのある言い方だな…そうだ、屋台にでも行かないか?」


「もう学園祭は終わったんじゃないのか?」


「学園祭は、ね。別に祭りが終わっても売店を出しっぱなしにするようにしたんだ。昼時にいろいろ買えて便利だからね。これも生徒会長が片付けをするみんなを労って取り決めたことだよ」


なるほど…確かにあの大掛かりなセットをたった一日のために出し入れするのは勿体無い。


「じゃあ今でも何か売ってるってことか。いいじゃん、買いに行こう」


そういえばあの生徒会長、治ったとはいえあんな重傷負わせといて謝罪の一つも無しかぁ…後でレモンジュース買わせてやろう。まぁそんなことはどうでもいいか、さっさと行こう。ベルナールについての愚痴を言っているとキリがない。それに、本当にキレていいのはクロードぐらいだろうな。今アイツ何してるんだろな…面倒な部下を俺に押し付けて自分は嫁とイチャイチャしてんのか?いいように利用されたなまったく…。









王宮にて


「西岸から飛来した魔獣五匹を正体不明の弓兵が射落とした…その弓兵の行方は不明、騎士団の装備ではなかった…」


「はい。その弓兵は雷と共に去っていったという報告も上がっています」


若き女王に謁見するは黒衣の男、レイエスだ。鳥のような仮面は外し、玉座に跪く。


「一難去ってまた一難…すぐにその弓兵を追いなさい」


「ですが私には別任務がございます。どちらを優先されますか?」


「っ…ゼロを見張ってなさい」


「了解しました。…その…少年はシトラスに敗北しました。しばらくは彼女の飼い犬にでもなっていると思いますが…」


エンジェライアは呆れ顔でレイエスを見つめる。窓から朝の光を、純白の壁や床が反射し教会のような神秘的なこの広間に黒衣の男はあまりにも場違いだ。そう…例えるなら天国にやってきた死神のようなものだ。


「学院の大賢者…あのうざったらしい老いぼれのことだけど…アイツ曰く、ゼロの歩む運命は過去現在未来全てにおいて『叛逆』の運命だって」


「それは…奇妙ですね。どんな占い方だとしても、既存の配役には見られない運命が出るとは…」


「占いの配役は全て基になった英雄、神、悪魔がいるはず…けど叛逆の象徴なんていない。そう…たった一人を除いて」


広間に緊張が走る。護衛の兵達も、全ては分からないにしてもこの空気を悟って身じろぎひとつしない。まるで彫刻のように、武器を持ってそこにいるだけだ。


「魔神王エンバージュ…とすると本当に彼が?」


エンジェライアはレイエスのこの問いには答えない。代わりに別の言葉を口にする。


「…私がゼロに救われたとき、彼はエンバージュから力を借りたと言っていた。私は実際に力を借りた瞬間を見たわけじゃないから、そのときは私を勇気付けるためについた嘘だと思ってた。人間が魔神の力に釣り合うだけの素質があるわけがない、ってね」


「…ではあの事件で彼は本物の大魔女と武神を連れて貴方様をお助けした、と?」


「私は直接その二人に出会ったわけじゃない。ゼロはあくまで彼女達はただちょっと強いだけの一般人で、本物ではない、と。でも奇妙よね?フィリドールとモローが2対2で負けるなんて」


「…おやめくださいエンジェライア様」


レイエスは何かを察したようだ。だがエンジェライアはどこか楽しそうにしている。


「ガーディアン第四席レイエス・シグマス・セザール、彼が何者なのか暴いてきなさい」


「…了解…はぁ…」


次の瞬間には愚痴を言う黒衣の男はいなかった。まさしく影のように消える存在…対象に慈悲を与えることなく、静かに狩り尽くす死神のような男。それがガーディアン第四席のシグマス卿なのだ。






 


「生徒会長とは上手くやれそうかい?」


授業が始まるまで少し時間があるという頃、出店で買ったクッキーのような、スコーンのようなよく分からない菓子を頬張って二人でベンチに座っていたところ、ヘルミナが口を開いた。


「まだ二日目だから何とも。でも良いやつそうだった」


「悪いやつには生徒会長は務まらないさ。そうだ、君はまだフリーだったよね」


「フリー?」


何かの勧誘か?悪いが宗教は信じないぞ。全知全能の神がいたとしたらこんな残酷な世界を作るはずがないからな。でも創造主としてじゃなくて、力の象徴としての神なら知ってる。エンバージュがいるからな。


「どの流派にも属してないってことさ。学園祭が終わると大抵どこの派閥も勧誘に躍起になるのさ。君みたいなのはどこの派閥からも引っ張りだこだろうよ」


あぁ…フェリシーが言ってたな…


「それって、どこかに入らないといけないのか?」


「いや、強制というわけではない。けどいつまでも無所属だと面倒だよ。どこかに所属してても引き抜こうとしてくるんだ。フリーの状態だと尚更だろ?」


「そっかぁ…何かおすすめはあるか?」


「うーん…難しいな…。魔法研究会に所属してるなら各派の出方は二極化されるだろうね…シトラスとベルナールを恐れて完全に諦める所と、逆に更にしつこく勧誘してくる所とかね。後者も結構多いんだ。色々優位に立てるから」


「そんなに対立関係ってヤバいのか?」


「そりゃね。卒業後にも関わる事だし、何よりみんな自分の所属する派閥への忠誠心が強いから…本当に、毎日煩くて仕方がないよ」


「そうか…ありがとう」


これはかなり厄介だな…人生一度の学園生活を棒に振るわけにはいかない。ただでさえ一年分損してるんだ、慎重に行こう。


「君の姉さんはどこに入ってるんだ?」


ヘルミナはその質問に顔をしかめた。そうだ…喧嘩したって言ってたわ…


「すまん。聞くべきじゃなかったな」


「いいよ。こっちの問題だ」


彼女は俺の方を見ているようで、その先にある何かを見ているような気がした。戦闘では相手の目が何を捉えているかにも気を配るためか、日常でも他人が何を見ているのか気になって仕方がない。だからこそ気付けたと言えよう。


「……出会ってばかりでこんな事聞かない方がいいんだろうが…大丈夫か?よかったら話してくれないか。君は何か重いものを抱え込んでいるように見えるんだ」


沈黙。だが正しい選択だったと確信した。彼女の目の配り方が明らかに変わった。


「……出会ったばかりの君に話す事じゃないかもしれない…けど君になら話せる気がするから…少し…長くなるけどいいかな…」


震えた声。間違いない。彼女は何かに押し潰されそうになっている。


「話してくれ」


ヘルミナが一歩分身を寄せた。ほとんど密着している状態だ。手を伸ばせばすぐにでも彼女の美しいアッシュブロンドの髪に触れられるだろう。もちろんそんな事をする気はないが、それくらい近いということだ。


「喧嘩したのは姉さんもだけど、父さんもなんだ。大会のことでね…。ほら、姉さんは三年生になったから準決勝はシトラスと当たって…本当はあの後君の妹と3位決定戦があるはずだったんだけど、君の側から離れなかったから不戦勝で、父さんは認めようとしなかった」


「…厳しい人なのか?」


「まぁね。父さんはボクに少しだけ期待してくれた。…本当に最後のチャンスだったと思う。でもボクは二年生代表にすらなれなかったから父さんはがっかりしてる」


…俺のせいだ。


「すまない。俺のせいだ」


「いや、それはない。全て実力の差さ」


「違う。その事じゃない。君と戦った時、俺は手加減してしまった。本当に申し訳なかった」


こればかりは俺が100%悪い。彼女には親から最後のチャンスが託されていた。それを嘲るような戦い方をしてしまった。まだ俺もガキだが闘いに生きた身だ。この行いがどれだけ最低な事か分かっていたはずなのに…


「謝らないで。君は強くあるべきだ。それに…言ってたよね、『この刀を抜いたら相手が生きてる保証がない』って。ボクの事を気遣ってくれたんだろう?」


震えた声が少し落ち着いたように感じた。まるで調律の終わった楽器のような、そんな安心感がある。


「いや…その…すまない…君の話を続けてくれ」


最早何も言わない方がいいだろう。口は災いの元とはよく言ったものだが、まさに俺のために作られた言葉なのではないだろうか。


「そうだったね…父さんが冷たいのは昔っからだ。ボク達姉妹は全員女だろう?でも父さんは男の後継ぎが欲しかったんだ。…姉さんがまだ才能を発揮していなかった頃、子供全員が女の子だったことに焦った父さんはボクを男として育てようとした。一日中稽古をつけて、妹達が着てるような可愛らしい服なんて着させなかった」


話は更に重くなっていく。何も珍しい事ではない。向こうの世界と比べてまだ文明、文化の発展途上にあるこの世界…少なくともこの国リヴィドではこれが普通だ。何かが引っかかる奴なんて俺だけ、もしくは俺とベルナールだけだ。


一呼吸置いて、また口を開いた。


「そこまでは別に何とも思わなかった…って言えば嘘になるけど、耐えられる範囲だった」


ヘルミナと完全に密着している。幸い辺りには誰もいないが、恐らく配下の一人か二人には見られているだろう。だがそれでもいい、彼女を放っておけるはずがない。


「…けど姉さんが擬似魔法(アーツ)に目覚めて、入学してまだシトラスがいなかった一年生の時に優勝してシックスガーディアンへの挑戦権を手に入れてそのまま無事就任、幼い頃からの親友だったエヴリン先輩も次いで就任。二人して若き天才になった」


「じゃあ君は…」


「ああ。父さんにとってはお払い箱さ。それから更に互いに嫌いになったし、姉さんとも上手くいかなくなった。ボクの勝手な都合だって分かってる。でも…!」


声が、また音を鳴らす弦のように震える。彼女の感情を受け止める心の準備はできている。


「ボクの今までの人生は何だったんだよ…!?自分を捨てて父さんの期待に応えようとした!その結果がこれだ!ボクの半生の努力なんて姉さんの才能一つで全部水の泡さ!」


ヘルミナが泣き出した。声にならない声をあげて、呻くように。その感情はよく分かる。誰も悪くない、ただ運が悪かっただけだと自分に言い聞かせて前を向こうとしても、どうしてもいたたまれない気持ちになるのだ。その感情を、国と家を追放された時と、異世界に流れ着いた時に嫌と言うほど味わった。


「ハァ…ハァ…!…ボクの人生なんてとっくに落ちぶれてて惨めなんだ…!今だってこうやって会って間もない君にこんな時間から泣きついてるんだ…!でも仕方ないじゃないか!みんな、こんなボクよりももっと辛い人がいるって言うんだ…!ボクはどうすればいいんだよ…!?」


これが彼女の抱えていた感情か。俺には想像もつかなかった。


「…『君は頑張った。昨日の自分を超えられたら、それでいいじゃないか。君を認める人がいないのなら、君が君を認めなくてどうするんだ?』」


「え…?」


「恩師の言葉だ。無理するな。抱え込むな。俺らはまだ出会って二日目だけどよ、多分誰よりも上手くやっていけると思うよ。ほら、行こう」


立ち上がって彼女に手を伸ばす。今の彼女は心を落ち着かせる時間が必要だ。言葉巧みに誘導したとは言え、俺みたいなヤツに自分を曝け出してしまうくらいだ。きっと、ずっと長い間誰からも見向きもされず、助けを求めてこなかったのだろう。半生を費やした努力は無駄となり、天才の姉と比べられる人生…想像もつかない。


「えっと…どこに…?」


恐る恐る俺の手を取り、立ち上がってくれた。この手の感じがどこか懐かしい。病弱だった妹を連れて屋敷の庭を駆け回っていた頃を思い出す。冷たく、震えた柔らかい手だ。


「確か君は雷の魔術使いだったよな?合わせたい人がいるんだ。一緒に来てくれないか?」


そう、俺の配下のレールガン女ことビアンカは随一の雷使いだ。頭も良いし優しさもあってユーモアもある完璧な女。今のヘルミナにはカウンセリングが必要だ。


「いいけど…授業はどうするんだい?」


「学園生活を楽しむなら、一回くらいは抜け出さないとな」


彼女に微笑みかける。授業をすっぽかすのはほとんど俺がやりたいだけなのだが、彼女をこのまま授業で憂鬱にさせることはできない。…いろいろ複雑な新生活だがこれはこれでいい。他のクラスメイトとは結局顔を合わせないままだが。それに四年制だから大学のイメージだったがどっちかって言うと高校だなこの学園…。まぁそっちの方が青春っぽくていいか…


「授業をサボって二人で抜け出す…それもいいか」


「お、乗り気みたいだな。行こうぜ」


ビアンカがどこにいるかは分からんが最悪ルシア経由で呼べるだろ。もし無理だったらフェリシーにカウンセリングしてもらおう。フェリシーが動くような事を俺に知らせないはずがないからアイツが暇じゃないなんてことあるはずが無いし。さーて出発〜


「待ちたまえ」


…何でこういう時に邪魔が入るかな…













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