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叛逆者はヤンデレを避けて気ままに暮らしたい  作者: 芋ケンプ
本編 第一章 叛逆者と時の魔女
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這い寄るメイド


消えかかったランプが広い部屋をチラチラと照らす。この場にいる者の心情を表すかのように、小さく、不安定な光だ。屋敷の主人が何故他の照明をつけないのかは分からない。落ち着くからだろうか、それとも目の前の少女を糾弾するためだろうか。


「…聞いたぞイネス。今年は学年の部で優勝できなかったらしいな?」


モロー家の屋敷の主は今日も不機嫌そうに飯を喰らう。美味いのか不味いのか、好物なのかそうでないのかをこちらに悟らせることなく無表情に口に運ぶ。


「ごめん父さん…でも…」


その主人と反対の席に座る、一族の中で何もかもが異端な少女…明るい金髪ではなく、光の当たり方によっては銀髪にも見える美しいアッシュブロンドの髪、龍人と似通った琥珀色の目ではなく海のような碧眼。一族の共通の身体的特徴から外れた少女は俯いたままだ。


「でも?なんだ?負けたのは事実だ。お前に期待した私が愚かだったが…」


「…ごめん…」


「はぁ…これ以上私を失望させてくれるな。お前はあの偉大なるアラン・モロー様の名を継いでいるという自覚を持て」


「名付けたのは父さんじゃないか!」


イネス…ヘルミナが吹っ切れたように机を叩いて立ち上がる。


「口答えする気か!!」


「ああするさ!期待するだけ期待して!自分は何もせずにそうやってふんぞり返って!先祖を失望させているのは父さんだ!!」


ヘルミナは乱暴に椅子を蹴飛ばし、出口へと大足を踏んでいく。


「待てイネス!待ちなさい!何処へ行く!!」


扉が大きな音を立てて閉ざされ、男は一人部屋に取り残されてしまった。


「はぁ…どうしたものか…」


「お父様?イネスが不機嫌な様子で出て行かれましたが…」


すぐに同じ扉が開かれ、別の人物が入室する。長女のヴィエルだ。


「大丈夫だ。すこし揉めただけだ」


男はトーンを落とす。


「…最近は一層元気が無い様ですが…」


「…なぁヴィエル。私は貪欲過ぎたのか?イネスにもお前の様な輝かしい肩書きを持たせてやりたいと思うのは欲張りなのか?」


「…私には分かりません。モロー家たる者、道は己の力で切り拓き、照らしていくものですから」


「…そうか…」








夜中、俺はふと意識が覚醒した。あの後すっかり疲れたは俺は割り当てられた部屋に着くとすぐに眠ってしまった。ここのベッドは心地よい。規模の小さいクラブにしては普通に住み込めるだけの施設が揃っている。そこら辺の高級宿泊施設より上等なのではないだろうか。


…しかし目を開くよりも先に何かの気配を感じ、起きた事を悟らせないように不動を貫いた。


「………」


何もいないはずだが、確かにそこにいるはずだ。何を言っているのか分からないと思うが、知覚よりも先に本能に訴えかける何かがそこにあるのだ。そしてその存在を一度意識すると、それは次第に気配を露わにしていく。


(オイオイオイオイ……終わったわ…)


その存在は俺が最も警戒していた存在であり、それと同時に、警戒していてもどうしようもない存在なのだ。


(いる…すぐ真横に立ってやがる…!)


ベッドのすぐ傍…こちらをじっと見ているだろう。もう今から逃げても遅い。だがいずれこうなっていたことだ。諦めよう。『諦めないことが大切』なんてよく言うが、この状況で言ってくる奴がいたらぶっ飛ばしてやる。それはさておき、こうなってはただ目を開けるだけでは面白みがない。何をしようか…


「『怪物を殺す時…』」


目を閉じたまま、そっと呟く。


「『己も怪物になっていることを自覚せよ』、ですね」


「パーフェクトだ」


やっぱりいた。銀よりも銀らしい髪を揺らし、ベッドの傍らに佇む狼の獣人のメイド…ルシアだ。


「…今の状況と何の関係が…?」


関係?あるわけないだろ。カッコつけさせてくれよ。


「いずれ理解するさ。それで?主人の睡眠を邪魔してまで何の用だ?」


「寝ても寝なくても変わらないじゃないですか」


驚くだろ?コイツこれでも自分からメイドになったんだぜ?てか睡眠が不要なのはお前らだけだから。今の俺はただの一般人なの。…こう言うとまるで前は一般人じゃなかったみたいだな。当たらずとも外れずだが…どうなのだろう、俺は結局勇者なのか魔王なのか分からない。世間的にも『叛逆者であり英雄』とされている。…結局どっちだよ。それによって今後のロマンムーブ(ロールプレイ)のチャートに影響が出るんだが?


…そんなことはさておき、本当に何の用なのだろうか。


「生きる者に睡眠は必要不可欠だ。もう一度聞く、何の用だ?」


「ご報告します。ベルティーナ様の預言によると、ゼロ様の運勢が芳しくないようです」


ルシアは俺や七騎士に様付けをするが本当は彼女が一番最初に俺の元に着いていた。最初は頑張ろうとしていたが年季の差という奴を痛感し、今はこうしてメイドとなり七騎士間の連絡要員となっている。


「ただの占いじゃないか。それくらい捻じ曲げてみせるさ」


向こうと違ってこっちでは占いの類はかなり真面目な話で、実際魔術や魔法が絡むとかなりの的中率を誇るのだが、俺からしたらやはり半信半疑なのだ。


「それが…ベルティーナ様曰く千年に一度の凶運なのだと…一刻も早く伝えなければ既に何か起こっているのではと…」


「俺の寝床がお前にバレてること以外は何も起きてないな」


「ならよかった…」


良くないが?これ心の底から言ってるんだから本当に終わってるよ。


「用件はそれだけか?他に無いなら俺は寝るが」


気配に敏感なのも便利では無い。隠密の名手であるルシアにさえ気付けてしまうのはある意味不便で仕方がない。何故かって?コイツが四六時中見張ってたのに気づいちまったからだよ!寝れんわ!


「最後にレモンジュース以外を口にしたのはいつですか?」


「…見てたなら分かるだろ」


「生憎、ここ数ヶ月は見失うことが多かったので」


それでも何度か見つけてきたのだから怖い話だ。干渉してこなかっただけマシかもしれないが…


「味がある物が舌に触ったって基準なら今日入ったばっかりだぜ?自分の血がな」


「はぁ…こんなに痩せて…勝てるものも勝てないでしょう」


人がせっかくボケたのにツッコミが来ないじゃないか。フェリシーなら気の利いたジョークや皮肉の一つくらいは飛ばしてくれる。


「まさか、今が全盛期だ。それで勝てなかったならそれまで、努力が足りませんでした、残念。ってね」


「何が全盛期ですか。お得意の技を一つも出さないままいいようにやられて…」


「相手に技を出させないのもそいつの実力だ。調子が悪かっなので負けました、は通用しないんだよ」


「もういいです。そこで大人しくしていてください。夜食を作ります」


ルシアはそう言うと部屋を出た。ここは魔法研究部の応接室を奥に行った先にある個人部屋なのだが何処で作るのだろうか。共同のキッチンで作ると誰かにバレてしまうのではないだろうか。


「行っちまったか…」


そもそも、何も口にしないのはアイツらのせいでもある。食事はいつも8人で食卓を囲っていたのだが、フェリシーとネメシスが修行の内容で魔術を優先するか戦闘技術を優先するかで揉めたり、料理に薬を盛ったり、挙げ句の果てにはナイフとフォークにも塗られていたり…どうせ薬の中身は媚薬か睡眠薬だろうが…食事に対してあまりいい思い出は無くなってしまったのだ。


それ以降はレモンジュースを飲み、王国の騎士団の備蓄から盗んだ糧食を食ったり…あまり美味しくはないが…そんなところだ。……いやこればかりは薬盛る方がおかしくないか?料理の色が変わってるんだよ。そんなもの食べるわけないだろ。


「…千年に一度の凶運、か…」


異世界から帰ってこれたのならそれは千年、いや万年に一度の幸運って言ってもいいのかな…そして妹とも再会できたし、妹に嫌われてるわけでもなくむしろ好かれ過ぎてるみたいで何よりだ。なら、別に凶運でも悪くはないかもしれない。


「できましたよ。温かいうちにどうぞ」


湯気が立ち上るスープを持ってルシアが戻ってきた。誰も起こさずに調理できたのだろうか。それともフェリシーの収納空間にあった物だろうか。


使える時点で稀有とはいえ、元からそこまで収納できない俺の空間は最近は更に小さくなってしまった。今じゃ財布と何ら変わらない。…やっぱり飯食ってないからか?


「…どうかされましたか?」


「いや、なんでもない。ありがとう、いただくよ。…何も混ぜてないよな?」


「今回は本当に心配なので何も混ぜてませんよ」


…『今回は』、か。毎回やめて欲しいんだけどな。


「…あーん、というやつをして差し上げましょうか?」


「しなてくいいから」


コイツにそれをさせたら知らないうちに中身すり替えてる可能性があるからな。作ってもらった身で失礼だが撤退しないと色々まずい。


「そうですか…では私はこれで失礼します。主様に幸運があらんことを」


消えた…本当に霧みたいに消える奴だ。神出鬼没というか、今の出来事が夢だったと言われても納得してしまうくらい、実感のないまま出たり消えたりするのだ。プライベートとか諸々無くなるんだが?…まぁいい、食べよう。




「…凶運を伝えておいてそれ言うか…」









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