執着心、即ち愛
薄暗い部屋、ランプの優しい光だけが室内を照らし、深い明暗を作る。その部屋のドアを開けて入っていく者が1人。
「アイリス、ゼロが見つかったってさ」
「…本当?」
アイリスと呼ばれた少女は何かの作業をしていたが、すぐに手を止めた。
「私がそんな嘘をつくとでも?まぁフェリシーからの情報だから、フェリシーが嘘ついてたら話は変わるけどね」
シニカルな笑みを浮かべる少女。どちらもゼロと同じくらいの歳に見える。
「どこにいるの?レグーナ?それともケルニオン?そもそも生きてる?他の女に盗られてない?」
眼の色を変えて来訪者にがっつくアイリス。来訪者は軽く払いのけて話を続ける。
「どこで何をしてるのかは分からない。流石に国は跨いでないはず。生きてはいる。女は…まぁ、ゼロのことだしどっかの街娘を無自覚で口説き落としてるんじゃない?もしかしたら一回くらいは刺されて死んでるかもね」
「………」
「冗談、ハイドレストに通うらしいから気になるんなら潜入してみれば?」
「…流石にそこまではしないよ」
「本当かな〜。私はやるつもりだったけどね」
「ちょっと。その報告をするためだけに来たの?結局ほとんど情報なかったよ?」
「ああ、忘れるところだった。黒雨弐型とその鞘の説明書を作れってさ」
来訪者はそれだけ早口で言うとドアを勢いよく閉めて去っていった。
「ちょっとビアンカ!?どれだけ時間がかかると思ってるの!?そんなことしてる暇ないんだけど!?」
(はぁ…どうして私ばっかり…)
ビアンカ、と呼ばれた少女は既に別の場所にいる。どこなのかは分からないが、周辺の空気からして先程の部屋からはかなり離れていると思われる。
「…もうまともなのは私だけなのかな…ゼロ…君の歩む道に私達はついていけるのかな…アイリスもおかしくなっちゃったよ?どうしようかな…」
「話ってなんだ?」
現在俺はまたエンジェライアに呼ばれて謁見している。元々顔は良かったのに即位してからはますます綺麗になりやがって…え?こんなのに求婚されてるのにどうして断るのか?馬鹿野郎、俺は一生独身貴族でのんびり暮らしながら適度に強さを見せつけるダークヒーローになりたいんだよ。目立つのも悪くないが裏でいろいろやるのも捨てがたい。結婚なんてしたらそれができなくなるだろ。俺の優先順位は一に家族、二にロマン、三にレモンジュース、それ以外の欲望は四番以下だ。
「そこまで重要なことじゃないわ。しばらく会えなくなるだろうから、最後にじっくり顔を見ようと思って」
「そうかい。…あんまりジロジロ見るなよ…」
俺の顔を見てだいたいの奴は眼のことを言ってくる。『目が死んでる』だの『本当に生きてる?』だの、失礼な奴らばっかりだ。何度も言うが、昔は本当にルビーみたいに綺麗な赤色だったんだぞ?まぁ今じゃそんなの誰も信じないが。鏡を見るたびに自分でも怖くなる。確か別の世界に飛ばされた時からか?本当に災難だが楽しかったな…
「ちょっと痩せたかしら?ちゃんと食べてる?」
「失礼だな。まぁ偏食なのは認めるけど」
「学園には食堂があるから、しっかり食べなさいよ?」
「学園か…そう言えば入学式は一、二ヶ月くらい前に終わってるはずだけど、そこまで急ぐ必要があったか?昨日は一式揃えるので1日潰れたんだけど」
実はこの世界に帰ってくる前の一年間、向こうでも学校に通っていたことがある。少し懐かしいのだ。
「ああそのことね。実はあなたが登校する明日はちょうど今季の学園祭があるのよ。だから急ぐ必要があったの」
明日が学園祭?てことは明日シトラスに勝てと?無茶を言う。まだシトラスがどんな奴なのか把握しきれていないのに。
「随分と余裕の無いスケジュールだな」
「そこは早く捕まってくれなかったあなたの問題よ。まぁ、実際あなたが好きそうなイベントだし、ド派手にデビューしなさいな。ほら、『ロマン』ってやつよ」
「やれやれ…言ってくれるぜ…」
まぁ…確かに転校初日で大会優勝の無双ゲーも悪くない…というかかなり好みではある。そうなるともしや名采配か?
「そんなこと言わないで…もっと顔を見せて?」
まぁ…見られるだけで恥ずかしがるのもそろそろやめにしないとな…
「私はその目、生きる意味を失った人間みたいで好きよ」
「歪んでないか?」
「吸い込まれそうな目…よかったら一つくれないかしら?」
「怖い事言うなよ…ゾッと来たぞ…」
そんなお菓子を分けてもらう子供みたいな言い方で人の人体の一部を要求しないでほしい。
「冗談よ。半分はね」
「やめてくれよ…」
俺のまわりってヤバい女しかいないのかなぁ…?さっさと結ばれずにこのままハーレム楽しんでたらいつか刺されそうで怖いんだが。
「ああそうだ、ちょっとした事情で根無草なんだがどこか住む所はあるか?」
「…定住地を見つけたことがあるの?」
「失礼だな?これでも活動拠点に住んでたんだぞ?…二ヶ月くらいだけど」
「はぁ…顔は無駄に良いんだからあんまり放浪してると変な女に連れてかれるわよ?」
「無駄にって言うなよ。似たもん同士だっただろ」
この女王、実は初めて出会った時は家出をしていたのだ。そんな経歴でよく言えるよホント…
「お前さんこそ護衛も追っ払って男と会ってていいのか?」
「あら、襲ってくれるなら大歓迎よ。いつも無理矢理こっちからっていうのは心苦しいしね」
「いつもやってるみたいに言わないでくれ」
尊厳に関わるから本当にやめてくれ。
「つれないわね。安心しなさい。寮の手続きもしてあるから。学園内の寮だから多少寝坊しても大丈夫よ」
「まるで俺が朝弱いみたいに言うじゃないか」
「あら、違うの?」
「いいや、大正解だ」
「はぁ…でも遅刻しすぎて成績落とさないようにね?あんまりにも成績が悪かったら推薦されないから」
「分かってるよ。修行って言っても戦闘以外のこともたくさん学んだからな。そこらの学生よりは魔術とかポーションには詳しいぞ?」
「だと良いけれど…」




