前方不注意・その②
「フン、お前には覇気が無さすぎて気付かなかっただけだ。弱者であることに救われたな」
あっやべ…いや違う。弁明させてくれ。この態度にはしっかりわけがある。普段の『俺』はあくまでゼロとして生きてるわけだが、夜間の自主パトロール中は訳あって共闘したあの伝説の魔神王エンバージュの名を使ってるんだ。そいつが『もう僕にはこの名は必要ない。君にあげるよ』とか言うもんだからさ、そりゃ魔神の名前貰ったら使うしかないだろ。
それで助けた奴とか取り締まった奴とかにも同じ態度してたら、いつしか『表のゼロと裏のエンバージュ』になってたんだ。二重人格とかじゃないから安心してほしい。ただの厨二病だから。でもカッコよくない?ロマンあるくない?
「この呪われた森まで来てどうするつもりだ?待て…その眼…お前本当に生きてる人間か?眼が死んでるぞ」
(呪われた森?アイツらのアジトこんな風に呼ばれてたのか)
俺は取り押さえられてしまった。それにしてもこいつも眼のこと言ってくるのか。もうほっといてくれ。元は宝石みたいな綺麗な赤色だったんだぜ?気づいたらこんな生気がないくすんだ血の色になったわけだが。
「経験上、俺の眼をとやかく言うやつは心の方が死んでるものだ」
「シグマス卿!助力感謝する!」
後方から2人が追いついてきた。いや待て、シグマスだと?俺の知人…というか腹心の部下にも同じ名前のやつがいたはずだが…
「なに、問題ない。それにしても、エンジェライア様は随分とこの男にご執心のようだな?」
シグマスの顔は仮面で隠れて見えない。というか何だその装いは!ペスト医師みたいなマスクに全身黒ずくめとか全世界の男の子の憧れみたいなファッションしてるじゃないか!
(いいなぁその服。どこで買ったんだろ…裏で活動する時用に一着欲しいな…)
厨二病のイタイやつってことくらいとっくに自覚してるんだ。…でも仕方ないだろ!?好きなものは好きなんだから!だって俺英雄だし!一年前国救ったし!少しくらいハメ外してもいいでしょ!?
「ああその…一年前の事変で彼がエンジェライア様即位のきっかけを作ったんです。命の恩人でいらっしゃるので…」
ここでゴールド女が言った『命の恩人』というのも別に今思えば大した事はしてない。簡単に説明すると、今の女王エンジェライアはペントルクスっていう偽物の王家に虐げられていて、リヴィドに魔力を循環させる生贄にされそうになってたんだ。その真実を暴いて、共謀してたベルナールも倒して、生贄としての運命から解放してやった。それだけ。本当に、いろいろ偶然が重なっただけだ。ついでにその時にエンバージュの名前を使ってた。
まぁその事でガーディアン達からも目をつけられてるわけだけど。こいつらからしたら魔神を名乗る俺はいくら英雄と言えども味方なのか敵なのか分からないのだ。
「ああ…そう言えば極秘資料とやらにそんなことが書いてあったな」
「何故貴様が極秘資料の存在を知っているのだ?…いや待て、ヴィエル。何故お前もそのことを知っている?」
「あっ…えーと…その…」
「フィリドール、そう怖い顔するな。極秘資料にわざわざ『極秘』なんて書いてあったら見たくなるだろう?」
(おや?なんか言い争ってるな…今のうちに…)
とは言え俺がエンバージュとして、『叛逆者』として活動してたのがバレてるのか…じゃあもう『ゼロ・スティングレイ』も使えないな…そろそろ本名使うかまた新しいの用意するか…
「はぁ…貴様が暗部に選ばれた理由が分かった気がするよ…」
「お前ら2人は輝かしい絵に描いたような騎士様でいいねぇ。憧れちまうよ…おい、何してる?」
(おっと…流石暗部とやら。気付くのが早くて嫌になっちゃうよまったく)
「目を離す方が悪い」
俺はそう言って腰から刀を外した。もうこんな奴ら3人に追いかけられたら逃げれないだろう。ならせめて戦って果てるのみ!…いや果てたら困るけど。ただテンションが上がってるだけだ。圧倒的強者3人を同時に相手取るなんて今しかできないのだ。
「戦う気か?」
「もちろん。シグマスと言ったか?お前の名前と階位を名乗れ」
これこれ。一回言ってみたかったやつ。今の俺はエンバージュとしてここに立っている以上、傲慢なキャラを演じても許されるのだ。なら存分に活用させてもらうまでだ。
「シックスガーディアン第四席、レイエス・シグマス・セザールだ。そっちは?」
「リヴィドの英雄、ゼロ・エンバージュ・スティングレイだ。ゼロでもエンバージュでも好きな方で呼べ」
第二席から四席を使ってまで俺に会いたいとかエンジェライアもなかなかヘヴィーだな…いや体重じゃないよ?てかなんか戦う気無くなってきたな…この口上言えただけでもう満足なんだけど…
「英雄を名乗るならシックスガーディアン相当の実力があるってことだな?見せてもらうぞ」
ちなみにそのシックスガーディアンの幻の第七席にクロードってやつがいるんだけどそいつが本当のエンバージュね。今は隠居してるけど。
「まぁこの2人はどうやら知り合いみたいだから自己紹介しなくてもいいよな?お前の実力が早く知りたいんだ」
「私は構いませんが」
「私はしておくぞ。シックスガーディアン第二席、シルビア・エヴリン・フィリドールだ。久しいな。スティングレイ卿」
「ちょっと待ってください。私が第二席です!」
「いや私だ」
「私です!」
「お前らまたそれ言ってるのか…締まらねぇから頼むぜ…」
シグマスの呆れた声。そういえば俺がまだ王宮にいた時もこいつらこんなこと言ってたな…
「仲間内で言い争いか?俺を甘く見るなよ?」
「面白い。その不敬な態度を改めさせてやるぜ」
こうして1対3の戦いが始まった。魔術で剣を生み出してそれを操って戦うのが俺の戦闘スタイルだったが肝心のその剣がボロボロになってる以上、今までみたいに手ぶらで戦うことはできない。だから配下である少女…『アイリス・アイゼン・シグマス』にオーダーメイドの刀『黒雨弐型』を作らせた。いや向こうが勝手に作ってきたんだけど。
「ガーディアンも落ちぶれたな」
「なんだと?」
鞘からは抜かない。抜けば勝てるだろうがそれをしちゃあロマンがない。あと純粋にこいつが気に入らない。だから本気は出したくない。少なくともこいつにだけは。だから適当にあしらって降伏すればそれでOK。後のことは後の俺に任せる。
「1人の男を捕まえるのに3人も精鋭を使うなんてな?」
「生憎別の任務終わりだったもんでね。四天王制で来て欲しかったか?」
一撃は軽い。スピード特化型か。でも残りの2人は結構ゴリラなんだよなぁ…盾が欲しいなんて思う日が来るとは思わなかったよ。
「いいや?それだと俺が圧勝するに決まってる。これくらいが…ちょうどいい!」
スピード型はパワーで押せば一瞬ってワケよぉ!でもやっぱり残りの2人が面倒だ。
「その剣を抜かないのは、俺を舐めてるからか?それともその剣は玩具か?」
そう、これが刀を抜かない理由の一つでもある。
「鞘付きだろうと武器にしてみせる。それが俺だ」
とは言ったものの、この黒雨弐型は『鞘』ですら魔改造されており、俺自身も把握しきれないほどの機能が備わっている。
「レイエス!ヴィエル!連携を取れ!こいつは本当に勝ちかねないぞ!」
「今更焦り始めたか?」
「くっ…!」
鞘でもぶん殴れば立派な武器になる。魔改造されていれば尚更だ。ゴールド女を鐺で突き、シルバー女を柄頭で突く。そして気に食わない仮面野郎を思い切り蹴飛ばす。
(…っと、こんなものでいいかな。これだけで十分実力の差は分からせれただろ)
「お前一人に苦戦してた頃とは違うんだよ。修行したからな。それに比べればお前たちはまだ鍛錬不足だ」
そう吐き捨てて刀を腰に戻す。3人は…いや、一人は仮面で見えないが…驚いた顔をしてこちらを見る。
「…何を…している?」
腹に当たったからか、息を切らしながらシルバー女が聞いてきた。それに対して俺は両手を前に突き出して答えた。
「もう満足だ。捕まってやる」
「おい!まだ終わってないぞ!」
これだ。これが見たかった。気に入らない奴の悔しそうな台詞。顔が見えないのが残念だ。
「続けても死人が出るだけだぞ?崇高なるガーディアンが無関係の人間を巻き込んでいいのか?大人しく捕まってやるって言ってるんだぞ?」
(ああ…今俺、最高にロマンムーブしてる…)
「…クソッ!…連れて行け!」
両手両足を拘束された。この拘束凄い。マジで全然動けない。
そして、俺は雑に馬車に放り込まれて城まで連れて行かれるのであった。




