前方不注意
「エンジェライアが…?」
シルバー女の冷たい視線。なんて言ってる場合じゃないな…前後を囲まれてるってなると横しかないか…上手いこと隙を突いて逃げるか。
「陛下はこの一年間ずっと貴公の帰りを待っていたぞ」
「エヴ…シルビア。どうしてここまで?」
ああ思い出した。シルビア・エヴリン・フィリドールとか言う名前だったな。…何で一年しか経ってないのに覚えてないのかって?この一年間あり得ないくらいキツい修行してたから覚えてないんだよ。
「お前のその鎧はよく目立つ」
うーん正論。実際月明かりに反射してすっごい見えやすい。…そんなこと言ったらこっちの方もだけどね。
「昨日妹達にも言われたんですよ、それ」
「今まで夜間の任務など無かったからな…無理もないか。…それで…おとなしく連行されてもらおうか、『剣の魔術師』。今や君は2つのクイーンに挟まれたナイトに過ぎない」
さっきまで会話してたのに切り替えがお早いことで。もちろん大人しく捕まりたくないので逃げの一択だ。ゆっくりと、悟られないように屋根の縁へと移動して…
「…クイーンが最強の駒なのは認めるよ。けどな、ナイトにしか飛べないマスもあるってことを忘れるな」
「なっ…!捕まえろ!」
屋根から飛び降りる!これしかねぇってな!それから弓に矢を番えて他の屋根に射る。この矢はワイヤーで繋がってるから振り子の要領で次から次に屋根を伝っていく。これならいけるだろう。
(危なかった…シルバー女まで来てたのか。こんな事なら手出ししなきゃよかったな)
そう。先程賊の剣を弾き飛ばしたのはこの俺だ。遠くからスナイプするのもロマンがあって非常に良い。そう思うだろ?その結果がこれなんだけどな!でもなんか逃げれそうだし結果オーライ!
そしてそのまま郊外の森にある、俺の配下達が暮らしてるアジトを迂回しながら目指す。修行の成果か、どれだけ走り回ってもあまり疲れない。
…だが一つ気がかりなことがある。それはシルバー女が俺のことを『剣の魔術師』と呼んだことだ。実際俺は謎に満ちた魔術を使える。それが剣を生み出す魔術だ。
基本的に、魔力の操作がどれだけ精密で、どれだけ魔力量に自信があろうと魔力から本物の剣を生み出すことはできない。あくまでも、『剣の形をした魔力の塊』しか作り出せない。そう…わざわざ説明するということは俺は何故か例外なのだ。魔術で本物の剣を作れる。
この事を俺の配下兼魔術の師であるとある大魔女に聞いても、何も答えてくれなかった。分かっているのは、その生み出す剣が今ではどういうわけかどれもこれも錆びつき、ボロボロになった状態で生成されることだ。それが俺が剣の達人であるにも関わらず弓を使い始めた理由だ。
まぁその配下達とも連絡を絶って夜の英雄ムーブをしてたわけなので今更合わせる顔もないけど。なんかだんだん『ある行為』がエスカレートしてきて身の危険…というか貞操の危険を感じたんだよね。日に日に依存度が高くなってきて毎日誰か1人はベッドに潜り込んでたし、最初に配下になった奴は何のつもりかメイドを目指し始めたし…。
『ゼロ様のスケジュールはこの私が寸分の狂いもなく作成致しました。これに沿って過ごしてくださいね』
(ダメだ…幻聴が聞こえてくる…やっぱりやめようかな…)
今頃アイツら何してるかなぁ…急に戻ってきたら驚くかなぁ…てか下手したら一生監禁されそうで怖いな…でももうアイツらしか頼らないしなぁ…はぁ…
「っと…ここまで来れば…うおっ!?」
途端に何かに引っかかって転んでしまった。視点が反転する中、黒衣の人物が近くにいたのが見えた。きっとこいつだろつが、何故こんなに近くにいて俺が気づかなかったのだろう。体格的に男であることは分かる。
「誰だお前!」
屋根を走る俺の足を払って転ばせた謎の黒衣の男…俺はこいつを知らない。魔術を使えばその波長のようなものである程度の識別はできるが、こいつの波長は感じたことがない。
「…ったく、お前も少しは諦めってのを学べよ。焦って走り回ってると俺みたいな奴に気付けないぞ?」




