後日談・叛逆者の運命
王都に入ると、街中が補修作業に入っていた。と言っても家屋はそこまで破壊されておらず、主に公共物や通路の破損のみだ。それと並行して新女王の即位を祝うお祭りムードが漂っている。
「いい匂いだな…レモンジュースでも売ってればいいんだが…っと、寄り道してる場合じゃなかった」
「陰の英雄の凱旋だな」
「シルバー女!?」
独り言を聞かれるほど恥ずかしいものもそうないだろう。気分が高揚して気を抜いていた。
「そう驚かなくてもいいだろう。今回の事件の一番の立役者が何の表彰もされず、何の勲章も与えられないとは随分と酷い話だな?」
「さて何のことかな。俺はテキトーにパトロールしてただけだよ」
シルビアが意地悪そうに笑う。まさか彼女は知っているのだろうか…
「隠すことでもあるまい。結果としては今回の反乱は革命という形で歴史に名を残すだろうからな。なぁ、エンバージュ?」
「どこまで知ってんだか…」
「エンジェライア様から聞いたのさ。本当に感謝しているとも。なにせ私もペントルクス派ではなかったが、公務もあり周りに押されていたのでな。私にとってはこれ以上ない救世主だとも」
「本当に世渡りがうめぇやつだなお前さん」
「そう言われたのは初めてだ。普段はむしろ下手だと言われる」
どうだか…と軽く睨みつけ、足早に王宮に向かう。
「どれくらいのやつにバレてんの?全員とか言うなよ?」
「本当にごく一部だけだ。ヴィエ…ゴールドスタイン卿にも教えていない。安心したまえ」
「安心できなさそうだな」
「何はともあれ、私も肩の荷が降りた気がする。改めて感謝と謝罪を、スティングレイ卿」
それ以降は彼女と別れて王宮に着いた。特に何も言わなくても門番は通してくれた。人目を避けなくてもいいというのはなかなか快適で、堂々といつもの部屋に向かうことができた。コンコンコン、とドアをノックするとすぐに扉が開けられた。
「ゼロ!」
「よっ、元気か?」
「まったく、こっちの台詞よ」
「ハハッ、元気そうだな」
「あなたのおかげよ」
「その言葉はありがたく受け取るよ」
褒められる、というのも悪くない。実力の向上には無縁だと割り切ってきたことを後悔しそうだ。
「…それで…その…」
「どうした?」
エンジェライアがしどろもどろになって俯いている。何か問題でもあったのだろうか。
「私達…婚約者だったじゃない?それで…改めて返事が欲しいなって…」
ゼロの脳内には無限に広がる宇宙が見えた。そう言えばそうだった。初めは彼女から逃げたいと思ってこの問題を解決しようとしていたのだ。
「うーん…お断り、かな」
「ちょっと!そこははい喜んで、って言うところでしょ!?」
「いやほら、だって俺…スローライフ送りたいし」
「そんなぁ…」
「まぁほら、女王様になったからにはこんな何処の馬の骨とも知らない奴と結婚するわけにもいかないだろ?」
自分でもただ都合の良い事実を並べているだけだと分かっているが、しばらくは何もする気にならないのだ。達成感から来る虚無感というやつだろうか。遊園地の帰りのような、あの感じだ。
「それもそうだけど…はぁ、まぁいいわ。あなたの選択だものね」
おや?以外と諦めがいい。変なものでも食べたのだろうか?
「けど、いつでもウェルカムとだけ言っておくわ」
「女王様がそんなのでいいのかな…」
「あら、今更よ。そう言えば初夜は随分と可愛いらしかったわね?」
「あーあーあー!!何も聞こえねー!!」
本当にやめてほしい。もう思い出したくない。大和男児の恥だ。ここに至るまでかなりプライドを捨ててきたが、これ以上にない屈辱であることに間違いはない。
「ふふ…またいつか、期待してるわ」
「期待しないでくれ。頼む」
「だーめ。私女王様よ?」
「この国大丈夫かな…」
「そう言えば、少し穏やかになったかしら?」
相変わらず話の転換が強引な女王だこと。だが確かに少し心に余裕ができたのはあるかもしれない。
「ストレスでちょっとピリついてただけじゃないか?俺自身は何も変わってないが」
「そう…今後は何か予定はあるの?」
「そうだな…しばらく森に引き篭もって修行かな…上には上がいるって知っちまったからな」
実力の向上もあるが、何より右腕が相変わらず痛むのだ。エンバージュの魂はもうゼロには無いが、その力が徐々に体を蝕んでいくため、彼の力に釣り合うだけの人間にならなければならない。
「ハイドレストはどうするの?私は即位しちゃったから行けないけど…」
「途中から入学ってのはできるのか?できるんだったらそうするけど」
「ドラクロワ学園長に話を通しておくわ」
「感謝するぜ。…ん?」
『だから!しっかり負けは認めたでしょ!?別に問題は解決したんだからそんなネチネチ言わなくてもいいじゃない!』
廊下から聞いたことのある声が聞こえてくる。だが今はあまり彼女に会いたくない。
「事の発端が来たみたいだな。俺はこの辺で帰るよ。またいつか会おう」
「あっ!行っちゃった…」
こういう時に盗掘の経験が生きるのだ。誰にもバレずに窓から王宮を脱出できる。
「はぁ…これだから最近のガーディアンは…エンジェライア?どうかしたの?」
「いいえ、なんでも」
「そう。ならいいわ。今後の復興作業の手続きだけど……」
エンジェライアの問題は解決したが、それと同時にやることが増えた。彼女はこれからも忙しくなるだろう。
「さて…このメンバーで集まるのも、もしかしたら最後かもね」
ドラズィアスター家の屋敷にて、旧聖エンバージュ騎士団の8人が顔を合わせていた。
「私としては心配事が減って嬉しいかぎりですが」
「ユーリ嬢、あなたの命令通り我々はもう新たな主を見つけた。どうだい?やればできるだろう?」
ユーリにとってはクロードを独占できるまたとないきっかけだっただろう。…そのせいでゼロにこの6人が押し付けられるのだが…
「フェリシーもなんだか嬉しそうだね」
「実に興味深い研究対象なのでな。あんな逸材は君以来だよ」
「それ、私達と出会った時も同じこと言ってましたよね?」
「ネメシス君、老人の記憶をあてにしてはいかんぞ?」
「はぁ…もうツッコむ気力もありません」
「クロード、続けて。この二人をいちいち相手してたら時間が足りない」
「そうだね。えーと…ひとまず彼をどうする?」
この場には8人いるがベルティーナとキリエはほとんど発言せず、アイリスもユーリがいる時は司会の役割を任せる。そのためかほとんど5人しかいないのと同じだ。
「我々が責任を持って見守るとするかな。彼が自分の能力を完全に把握すると世界が崩壊しかねん」
「そんなにヤバいの?」
「ああ。私が何百年、何千年と研究して積み上げてきた魔術の論文を全て撤回しなければならないほどイレギュラーな事態だ」
「それはもう『彼は例外』って書き足しとけばいいんじゃない?具体的に何がヤバいのか知らないけど」
「初めは剣を作る魔術だと思ったのだが…いやそれでも魔力が物質化している時点で不可能ではないが突飛な才能だと言える。だが本質はそこではなかった。だろう?キリエ君」
「なんでキリエ?」
「彼女が『あの技』を使ってゼロの魔術…魔法?アーツ?を使ったからじゃない?」
「ええ。幼き主の術は筆舌しがたいものでしたわ。作り出す剣と斬撃に込められた魔力が、それに必要な魔力と釣り合わなかったんですもの」
基本的に、魔術には魔力が必要であり、どれだけ魔力の変換効率が良くても100%を上回ることはなく、あくまで『適正』に近い魔力消費に近づけるだけ…のはずなのだが、どういうわけかゼロは明らかに不釣り合いな魔力を持った剣や斬撃を放出することができる。
「頭が痛くなりそうだよまったく…例外とは実に趣深いものだが学術に於いては厄介極まりないな」
「彼が気づく気配はありそう?」
「まだ何とも言えません。何しろ実力を測ろうとしたのですがあまりにも計画を前倒しにしてしまって…」
「いいんだネメシス。少なくとも、彼が暴走しないように見張っておいてくれればそれでいい」
「とのことだ、ビアンカ君」
「何で私?いや一緒にいれる時間が増えるのは嬉しいけど」
「君が一番打ち解けていたじゃないか。君には心を開いていたように見えたが?」
「確かに良い人だったけど、アレは絶対に他人に心を開いたりしないよ」
「そうですか?正義感が強くて、ユーモアもある方だと感じましたが…」
「あの時…地下で文字通り終止符を打った時、ゼロはベルナールすら助けた。自分の両手両足に剣を突き刺してまで彼女を止めていたんだ。見つけてすぐに引き戻したけど、あの時のゼロは…」
ビアンカがここで区切る。しかし、その先はいつまで待っても言わなかった。
「…急に悪寒がしてきたよ。何かとんでもない奴に君達を押し付けてしまったみたいだ…。悪いことは言わない。嫌だったら別に無理に彼の側にいろとは言わない。もう不死性は無くなったんだろう?」
クロードの顔色が悪い。彼が何に怯えているのかは分からないが、肩を震わせている。ユーリがそっと手を置いて落ち着かせた。
「構わんさ。もう彼と離れるなど考えられない。彼の不死性が無くなったのなら私が何が何でももう一度不死にしてやろうじゃないか。なぁ、君達もそう思うだろう?」
フェリシーがニヤリと、何か悪企みをする子供のような笑みを浮かべた。
「ええ」「はい」「まぁね」「もちろん」
「クロード、もう一度言います。私としては彼女達を厄介払いできるのならあの少年が刺されようと知ったことではありません」
「おっと…身近に一番病んでるのがいたなんて…いや気付いてたけどさ。僕としてもユーリとの時間が邪魔されないなら喜んで承諾するが…心配だ」
「大丈夫だ。仲間同士で取り合ったりしないさ。きっと彼も平等に扱ってくれるさ。なにせ彼は壊れているからな」
「あーあ、フェリシーの悪いとこ出ちゃった…果たしてゼロはこの激重魔女をどう躱すのかな…」
「ビアンカ君、君も結構内に抱える感情が重いことくらい知っているぞ?」
「ノーコメントで。じゃあもう帰っていい?」
ビアンカはいつに増して気怠げだ。それに反するかの如くフェリシーは機嫌が良さそうだが。
「ちょっと待ってくれ。ベルティーナ、最後に彼の運命を教えてくれないか?」
「承知しました。ではカードを三枚お選びください」
「あれ?いつもは二枚だったのでは?」
ベルティーナがどこから取り出したのか、数十枚のカードをシャッフルしている。裏面は上下左右共に対照で、方向が分からない。
「ビアンカのお話を聞いて少し考えが変わりました。人の運命は何も一つの役では収まらないのだと」
クロードが言われた通り三枚選んだ。表を見ても何も書かれていないが、しばらくすると絵が浮かび上がってくる。
「これは?」
「『囚人』と『剣』…あまり良い結果とは言えないね。でも最後のは…」
「…この絵柄は見たことがありません。『叛逆者』…?」
「それなら囚われた者との関係が見えてくるね。でもそれが彼の役割なのか…?」
「要するにゼロは何かに縛られて生きることになるけど、必ずそれに反抗する運命…ってところかな?」
とても良い結果とは思えない。もちろんこの場にいない本人には知る由もないことだが。
「占いは未来のことだけではないだろう?これまで彼が生きてきた運命のことを指している可能性もあるんじゃないか?」
「だとしても不吉過ぎるでしょ」
「最後の最後に不安要素が増えたけど…もういいかな。これにて聖エンバージュ騎士団は解散とする。君達の運命に幸あれ!」
序章・完
これにて零章終了です!ご愛読ありがとうございました!次の章は学園編です!多分!それでは!
ちなみに第一章はもっといろいろぶっ飛ぶと思います。零章シリアス気味、一章コメディ気味みたいな。けど途中から多分シリアスになると思います。もしかしたらゼロだけコメディやってる中知らず知らず他キャラがシリアスやってるかも。




