狂信者・黒咲桐恵
短いですがキリがいいのでこの辺で投稿しておくか、といった感じですので何卒。今回はキリエの活躍?です。
「少し片づきましたでしようか…」
「そうですね、数はかなり減ったと思います…先程に比べればの話ですが」
フェリシーとネメシスのいる広場からは遠く離れた兵舎付近で、キリエ、ベルティーナ、ルシアが騎士達を抑えていた。
「異教徒が1人…2人…あら、数えられませんわ」
「キリエ、一回一回それやってると効率が悪いんですけど」
敵を倒すたびに祈りを捧げるキリエ。彼女からすれば純粋な祈りであり、休息と救済を意味するものだがこの状況では煽りにしか見えないのが事実だ。
「汝らにも救いあれ…」
「本当に…ん…?どうかしましたか?」
「い、いえ…なんだか急に眩暈が…!」
ルシアが途端にうずくまってしまった。耳を塞ぐようにして頭を抑えている。
「何が…あれは…魔霧!?どうして…!?まだ日は昇っているはず…!」
「うぅ…!」
ルシアが苦しそうに悶える。目が血走り、頭を抑える手に力が入って自身を傷つけてしまいそうだ。だが前方からは続々と騎士達がやってくる。他の抜け道はこちら側の雑兵達に相手をさせているためか、彼女達が抑えているルートが最も敵が多い。このままでは飲み込まれてしまう。
「くっ…!キリエ!しばらく1人で抑えててください!私はルシアさんを安全なところまで運びます!」
「あら、久しぶりに暴れてもよろしくて?」
「今回だけですよ!絶対に敵を通さないで!」
ベルティーナはルシアを抱えて走り出した。彼女もネメシスに次いで最高位の龍人であるため、1人を運びながらでもかなりの速度で走れる。
「絶対、と言われては仕方ありませんね」
キリエが銃を捨て、手を組んで祈り始めた。
「『我は主の忠直なる信徒なり。主の代行者として汝らに裁きを下す者なり。我が主の名を魂に刻みたまえ。主の名はエンバージュ。主の名はゼロ。そして我は汝らに休息を与える者なり』」
呪文のようにも聞こえるその祈りは、騎士達の耳に入り心へと侵入していく。諭すようにも、戒めるようにも聞こえるその声は気持ち悪いくらいに透き通っていた。
「主に仇なす者に恩情なし…と」
曇り始めていた空から一筋の光が差し込み、キリエを暖かく包み込む。
「なんだあのシスター…?」
「気味が悪いぞ…早く倒したほうがいいんじゃ…」
「何をしている!総員かかれ!相手は1人だ!」
その神々しさは騎士達を戦慄させるのに十分な効果があった。しかしそれだけでは終わらない。この光がキリエに力を与えるのだ。
「うあぁぁァァ!!」
「がはッ…!あ、ぁぁ!」
悲鳴を上げて次々に串刺しにされていく騎士達。地面から突き出る光の槍によって体が力無く持ち上げられ、あたり一面を針山へと変貌させる。
「怯えるな!進めぇ!!」
「…哀れ」
キリエの目が赤く輝き、突っ込んできた騎士が辺りに血を撒き散らしてバラバラに崩れ去った。他の騎士達も、『見えない刀』で斬られたように、何も無いはずなのに攻撃を受け、鎧がボロボロになっていった。
「き、貴様のような修道女がいるか!!」
「このような魔術!神への冒涜だ!恥を知れ!!」
皆口々に罵倒を浴びせながら倒れていく。最低限の恩情か、攻撃する者以外は殺さずに武器を破壊するだけに留まったが、戦意を喪失させるには十分だった。
「ただの一度も神を疑わなかった者だけを赦します」
この様子を後方から、意識が朦朧とするなかで見たルシアは戦慄した。ベルティーナがなんとか屋内に運び込み、少しづつ回復してきたようだ。
「あれがキリエさんの魔術…?」
「彼女が極東を追放された理由です。…本当に、味方でよかった。とても修道女の所業とは思えませんね。…おや…?この音は…」
ベルティーナが窓から身を乗り出し、外を確認する。風が巻き起こって砂埃が舞い散り、上空の存在に気づかせる。しばらくしてその物体は着陸し、中から見知った少女が降りてきた。
「ルシア、乗って。どういうわけか魔霧が発生してる。急いだ方がいい。ベルティーナはキリエの援護に戻ってあげて」
「アイリスさん!分かりました、ベルティーナさん、後は任せます!」
「ふぅ…お迎えが来てよかった。アイリス、感謝します」
ルシアがなるべく外気に触れぬように急いでヘリに乗り込み、ベルティーナと別れた。ルシアが乗り込んだことを確認するとヘリはすぐに離陸した。
「魔霧はエンバージュのものだと耳にしたのですが…」
「いや、それはただの童話や迷信だよ。多分ベルナールやペントルクスが絡んでるはず。地下で何が…」
「ベルナール…ゼロ様は無事ですか?」
ルシアは落ち着きがない。先程まで苦しんでいたのが嘘のように、今ではゼロの心配をしている。
「ベルナールが魔眼を解放して広場に大穴を開けたところまでは見たけど…瓦礫で塞がってるからよく分からない。一応ビアンカが向かってる」
「ビアンカさんが…?」
「そんな不満そうにしないで。認めたくないけど、こういうときはビアンカが一番上手く立ち回れるんだから。200年前の戦争の経験者は違うねって話」
「………」
ルシアはどこか無力感を感じている。自分は戦闘から身を退いているというのに、最愛の主を助けにいくのはよりによって前日口論になった女なのだ。自分が助けに行けたのならどれだけよかったことか。
「…どうしてみなさんは魔霧の影響を受けないのですか?」
「分からない。少し気分が悪くなる程度だけど、完全に効かないってわけでもないよ。擬似魔法やら魔法に関することはフェリシーの方がよく知ってるはず」
「…何か…何か力になれることは…」
機体の外を眺め、どこを見るでもなく目を泳がせる。ゼロの配下となった者の中で、ルシアだけが不死性を一切持たない。なんと無力なことかと自分を呪う。
「大丈夫。今のところみんな最善の動きをしてる。ルシア、もちろんあなたも」
「私も…?」
アイリスの声は聖母かと思うほどに優しく慈愛に満ちていた。それがただの慰めではないと、ルシアは直感で悟ることができた。
「ビアンカはあなたに負い目を感じてる。あなたに無理をしてほしくないって思ってるんだよ」
「どうして?先日彼女と口論になった時はそんな…」
「言ったでしょ?私達は不死故に、周りの死に敏感なんだよ。仲間には死んでほしくない。フェリシーでさえその感情は捨てられなかったんだ」
「…ビアンカさん…」
「無茶な兵器ばっかり作らせてくるし、人に嘘は吐かないけど自分に嘘はつく奴だし、それほど魅力的な自分を魅せないくせにふらっと現れては相手に印象付けていく、恋人の周りにいてほしくない女の典型例みたいな奴だけどビアンカなりの考え方もあるんだよ」
「あの…何もそこまで…」
人は他人の陰口を言うとある程度親密になると言うが、アイリスの場合悪意が無さそうなのがまた…
「彼女は幼い頃から戦場に出ててね、大人として持つべきものを理解せずに大人になった…言い換えれば子どものまま大人になった奴なんだ。それはエンバージュ様とベルナールも同じ。この戦いは子どもの喧嘩と同じなんだ。きっといつか、なんで自分達が争っているのか忘れてしまう。そんなことはあってはいけない」
「…………」
操縦桿を握るアイリスの表情は分からない。ただなんとなく、悲しそうな表情をしている気がした。
「ごめんね。どうも戦場だと人生観を語っちゃうみたい。大切なことは常日頃から言っておくべきなんだけどね」
「いえ…とても、勉強になりました」
ルシアは僅かに、本当に僅かに、目に涙を浮かべていた。
設定資料:キリエ・クロサキ
本名は黒咲桐恵。修道女の服装をした極東人だが、自ら立ち上げた教団の教祖でもある。なおこの教団の信仰の対象は魔神としてのエンバージュと、その後継にあたる(キリエが勝手に認定)ゼロである。
魔力生成:D
魔力貯蔵:?
魔力変換効率:C
魔眼:おそらく所持していない、あるいはE〜Dランク程度の微弱な魔眼。
『代行者』:EX
[主の力と同じ力を引き出し、主の崇高なる理想を代行する禁術]
キリエの行う禁術は、簡単に言えばエンバージュとゼロの力をコピーするものである。その再現性は彼女の信仰対象への信仰度合いによって高まる。それが魔術であるのか擬似魔法、アーツであるのか、はたまた魔法であるのかは不明である。ただ、まともな人間がこの術を使用すればその代償がどれほどのものなのかは想像に難くない。




