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叛逆者はヤンデレを避けて気ままに暮らしたい  作者: 芋ケンプ
番外編 第零章 叛逆者と死なずの七騎士
16/48

決戦前夜


計画の実行まで残り1日。今日この1日をどのように使うのかが、この計画の成否の分かれ目となるだろう。そんな中ゼロは…


「チェックメイト」


「まだ逃げ道があるんだなコレが」


「おいそのビショップどっから来やがった」


フェリシーとチェスをしていた。彼女曰く、直前の訓練は怪我のリスクがあるが、頭のトレーニングなら安全且つ効果的だとのことだ。


「斜線は見逃しやすい。君はどちらかと言うと直感派だな?」


「ぐぬぬ…」


確かにゼロは直感派だ。ある程度は頭は回るが、脳のキャパシティを超えると思考を放棄しがちだ。


「情報を制する者が戦場を制する。何千年前からずっとそうだ。そう考えればスパイの重要性は一目で分かる」


「その役目が俺だって?」


「現にガーディアンに紛れ込めているではないか。ほら、君の番だ」


盤面は一気に捲り返された。その様子を、明日の計画と重ねてしまって不安に駆られる。


「はぁ…パス」


「パスは無いぞ」


「現実の話か?」


「両方だ。しかし現実はタチが悪い。選択を迷っていると次第に選択肢そのものが奪われていく。かと言って決断を急ぐと正確な判断ができない可能性がある」


フェリシーの言っていることはどこか現実味があった。1人の少女の悲しむ顔が見たくない、それだけの理由でここまで来てしまった。正義だとか倫理だとかは自分を正当化させる理由に過ぎない。


「…酷い欠陥ゲームだな」


「ああ。だからルールを変えたのが私達さ。死という絶対を拒絶した臆病者、生命を冒涜する反逆者、そんなところだ」


「…お前の番だ。お前はどうやって死を克服した?」


キングを逃す。ここから手持ちの駒で勝つことは不可能だ。


「あまりにも昔のことで覚えていないな。だがまぁ、おそらく若かりし頃の私の選択は間違っていないと思う。例え死ぬことができなくても、それはそれで無限大の楽しみようがある」


フェリシーが黒のビショップを動かす。


「他の奴らは?」


「私はあまり知らないな。ここにはいないユーリ嬢は元から吸血鬼故、死から遠い存在だったが…ふむ、そう考えれば最も死を恐れているのはエンバージュ…いや、クロードだと言える」


あの魔神と恐れられた少年が最も死を恐れているというのはどうにも腑に落ちない。


「どうしてだ?」


ゼロが再びキングを動かす。


「その前にまず、彼の生い立ちを知っているか?」


「さあ?でも旧姓はスティングレイってあの吸血鬼が言ってたな」


「元を辿ると、彼に姓など存在しない。彼は人から生まれた存在ではないからだ」


「……?」


「…いや、この話はまた今度しよう。簡潔に言うと、彼はまだ精神が未熟な時期に、あまりにも大切な人を失った。…そうだな、彼は自分の死を恐れているのではなく、彼の周りで起こる死を恐れている、と言うべきか…それは私たちも同じか…」


フェリシーが今度はルークを動かした。


「ステイルメイトだぜフェリシー、引き分けだな」


「おっと…私としたことが…お喋りに夢中になり過ぎたようだな…」


フェリシーが駒とボードを片付け始めた。数秒の沈黙が生まれる。


「…周りの死を恐れるのは間違ってるか?」


「種の繁栄という観点で見れば、同属の死を恐れるのは至極当然のことだ」


「訂正、自分より他人が大切だと思うのは間違いか?」


「…自分より勝る点が無いのなら、そう言えるかもな。だがそれだけでは説明できない感情を愛と呼ぶ…そんなところかな」


これが彼女の結論。長年生きてきた重みは感じない、ゼロの求めた答えとは違うが、気持ちは楽になったかもしれない。


「…ありがとなフェリシー。ちょっとリラックスできたよ」


「次はどこに?」


「ビアンカに呼ばれてる。じゃあな」


フェリシーが書棚から重そうな本を取り出したのを尻目に、ゼロは部屋を後にする。


「…『間違い』というものは存在しない。無限にある選択の一つに過ぎないのだから」







リヴィドではないどこかにて


かび臭い宿に1人の客が入ってきた。フードを被り、目元を隠している。フードからはみ出る髪で女性だと分かる。


「お一人様で?何日くらい?」


その人は一枚の紙切れをずっと見ていたが、すぐにしまった。


「…小一時間休むだけよ」


女は懐から金貨を取り出し、乱雑にカウンターに置いた。


「お、お客さん!こんなに受け取れません…!」


「そう…悪かったわ。これくらいかしら」


幾つか回収し、再び紙切れを取り出している。


「はい…ちょうどピッタリです…お部屋に案内します」


「いいわ。ここで休むだけで十分」


「へ?そ、そうですか…それではごゆっくり…あの、中々変わってらっしゃるというか…」


宿の主は恐る恐る、伺うように聞いた。


「…ねぇ、アンタは運命を信じる?」


「え?ま、まぁ…女房が占いをやってるんで少しくらいは…」


「運命を恨んだことは?」


女は主の方を見向きもしない。窓の外を眺めながら話しかけているのだ。何が面白いのか、何もない平原にただ雨が降るのみだ。


「恨んでも仕方ないでしょう?まぁそりゃ、運が悪い時は恨みたくはなりますけど…」


宿の主は目を逸らして、食器を洗い始めた。


「そう…」


「お客さんは?」


「205年前からずっと運命を恨み続けてきたわ。歳を重ねるごとに、より強く、より深く」


「に、200年…ですか…」


「そう、200年よ。200年叶わなかった恋、アンタはどう思うかしら?」


「残念だったとしか…え…」


主人が再び顔を上げると、そこに客の姿は無かった。


「お、お客さん…!?」


ドアが開いている。もう出ていったのだろうか。雨宿りにしても、まだ雨は止んでいない。


「いったい何が…幻覚…?」


…カウンターにはしっかりと金貨が置かれていた。









再び宿の地下にて


「緊張してる?」


「少しは」


ビアンカとゼロの2人が机を挟んで座っている。


「やっぱりベルナール?」


「…ああ」


「ベルナールが恐ろしいのは間違ってないけど、みんな本質を見落としてる」


ビアンカはレールガンの手入れをしている。銃の構造などゼロにはさっぱりだが、明らかにおかしな点が幾つも見られた。内部に結晶のような部品がある。


「本質?」


「彼女にもリヴィドを救う意志があるということ」


「それは重々承知してる。だがその方法に関しては相容れない。エンジェを救うならな」


計画を進める中で考えていたことがある。この戦いはどこに向かっているのだろうか。絶対悪と謳われたエンバージュの思想は、初代女王を大切に想うが故。ゼロの敵となるであろうベルナールもまた、初代女王の遺した国を守りたいが故。何が正しくて何が間違っているのか、ゼロは混乱してきたのだ。しかし、エンジェライアを救う約束だけは守りたい、そう思ったのだ。


「そう、相容れない。彼女は本当にタチが悪いからね…」


「どういうことだ?」


「クロードとマリーのちょっとした痴情のもつれってやつだよ。それが2人が対立する理由の…3割くらいはあるんじゃないかな」


「ちょっと待て結構占めてるな!?」


その3割に何が詰まっているというのだ。そして何をやっているのだ魔神王。何をやっているのだ王国の英雄。


「ちっぽけな感情が後に大きな影響を及ぼすことはたくさんあるんだよ。恋情なら尚更ね」


「それを今聞きたくなかったんだが!?」


「いやぁ…和むかなって」


ちっとも悪気は無さそうだ。明日になれば真っ向から殺し合う可能性もあるというのに、どうしてこうも…いや、彼女なりに雰囲気を良くしようとしたのだろう。確かにこの頃ゼロは浮かない顔ばかりだった。


「和んでどうする…戦うのはほぼ確定してて、明日か明後日か、それとももっと後かってだけなのに…」


「いいでしょ、どうせ死なないんだし」


「死ぬわ!…いや?…あっそうか…」


そう言えばエンバージュから力を貰っていたのだった。生憎死を意識する瞬間は無かったもので、忘れていた。


「まぁフェリシーに比べたら不死性は弱いけどね」


「だったら俺はどのくらいで死ぬんだ?」


「不死特効みたいな能力の聖遺物とか魔法と相殺して不死性が失われるくらいかな?でも一回くらいなら大丈夫だよ。……多分」


「最後で馬鹿みたいに不安になったんだが?」


これも彼女なりの和ませ方なのか?どうにもビアンカの思考は読めない。


「大丈夫大丈夫。死んだらまぁ…どうにかするから」


「どうにもならねーよ!?」


「最悪の場合はクロード呼んで魔石使うから」


「今度はなんだ?魔石?」


「あれ…こういうのはフェリシーが説明してると思ってたんだけど…まぁいいか、はいコレ」


手渡されたのはネックレスに付けられた1センチ四方の赤い結晶だ。彼女が装着していたが、服の下に隠れていて結晶の部分は見えていなかったのだ。


「これがその…魔石?ってやつ?」


「そう。結晶の部分触ってみて」


「これか…なんかすごい魔力を感じるな…」


「でしょ?これが『万物の魔石』。聖遺物の一種だけど、別に聖なる物じゃないし、寧ろ邪悪な物。この石は端的に言えば願いを叶えることができる」


「は!?じゃあそれ…」


「使わないのには理由がある。まぁ、お察しの通り、とんでもない代償があるらしくてね…クロードから招集がかかった後、ここに来る前に彼から貰ったんだ。世界に7個しか無くて、そのうち実物はコレを含めて4…いや3つしか無いね。残りの2つはクロードの体内。どう?宝の持ち腐れでしょ?」


「ここで見せたのは何のためだ?まさかとは思うが自慢じゃないだろうな?」


流石にそのような悪趣味なことは無いだろうが、フェリシーに対するビアンカの態度を見ていれば疑ってしまう。


「計画の実行が明日だから、手札はちゃんと公開したほうがいいかなって。いざとなったらこういう切り札もあるんだよってだけ」


「手札ねぇ…お前のもう一つの人格にはまだ会ってないが、それは手札に含まないのか?」


ビアンカの中にあるらしい、大人しい少女の人格。ビアンカの仲間ですら、ビアンカが大人しいことに驚いていたくらいだ。


「エレモフィラ?彼女は眠ってるよ。起きるかどうかはさておき。大丈夫、彼女は私と記憶を共有しているから」


「二重人格ってそう便利なモンか?」


「人格じゃなくて魂ね。元々エレモフィラと私は別人だから。人格云々で言ったら…エンバージュとクロードの方が当てはまるかな」


「そういえばずっと気になってたんだけどよ、お前らの中でもエンバージュって呼ぶ奴とクロードって呼ぶ奴に分かれてるよな?」


ビアンカはクロードと呼ぶが、ベルティーナやキリエはエンバージュと呼ぶ。


「ああ…クロードにとって、初めて名付けられたのはエンバージュという名だった。けど彼は自分が魔神であることを否定した。だから…アイリスの師匠の愛善先生の拾い子に与えられたクロードという名前を使ってた。私は単に、クロードか魔神であることを受け入れる前から知り合ってたからそう呼ぶだけ」


彼にそのような過去があったのか。しかし、いかんせん納得のいかない点もある。魔神として生まれたと言うが、彼はあまりにも普通の少年すぎる。ゼロと容姿が酷似している以外、どこにでもいそうなものだ。


「なんで魔神は嫌だったんだ?」


「クロードの生い立ちは本当に特殊なんだけど…彼の幼馴染で、私の所属してた部隊の隊長が愛善の拾い子で…ああもうややこしい…」


ビアンカは自分で話していて混乱しているようだ。とうとうレールガンの整備を止めて、こちらに向き合った。


「その人が叛逆の魔女『ユイナ・スティングレイ』って人で、訳あってクロードと一時的に対立した幼馴染兼私の上司」


「待て、特徴が多すぎる。何?幼馴染で前の前の上司で、前の上司の敵でもあった?」


何がなんだか分からない。エンジェライアと出会った翌日に、叛逆の魔女の存在を知った時は『そんなのもいるんだな』くらいだったが、まさかそんな破天荒な人物だとは…


「あり得ないと思うけど本当にそうなんだよ。いやまぁ、18年の間で起こった事をまとめたからそう聞こえるだけで、当時は割と成り行きだったんだ」


「成り行きでもそうはならんだろ…」


「なってるから仕方ないでしょ。とにかく、幼い頃の叛逆の魔女はエンバージュという少年にクロードと名付けて一緒に過ごしました。しばらくして魔女は若くして死に、少年は魔女から貰った名前を大切にしましたとさ。めでたしめでたし」


「めでたいかぁ?だいぶ話が脱線したが、それがエンバージュとクロードの人格に何の関係があるんだ?」


もう正直彼女の話はお腹いっぱい…というか、エンバージュに関する話はお腹いっぱいだ。見た目こそ思春期くらいの少女だが、博識かつ話が長い様子にギャップを感じてしまう。


「確証はないけど、クロードとエンバージュは別人格なんじゃないかなってだけ。言動はほぼ同じだけど、なんかこう…根底にある思想が違うような気がする。人格というか、頭を切り替えているというか…」


「うーん…やっぱりこの話止めないか?俺の頭じゃこれ以上は理解できん。今日だけで何話した?ベルナールのことだろ?不死云々とか魔石云々とかだろ?んでお前とエンバージュの人格がどうとか…フェリシーより難しい話ばっかりだな」


「私の生きてきた200年には思い出がぎっちり詰まってるからね。スカスカなフェリシーやネメシスとは違うんだよね。そうだ、私達の年齢自慢でもしようか。そっちの方がよっぽど楽だし」


ビアンカだけ…かは分からないが何処か距離感がおかしい気がする。彼女達は不死故に周りが先に死んでいき、離別の悲しみを味わうことを嫌うため、彼女達以外に友情や恋情など抱かず、唯一不死の男であるエンバージュには既に伴侶がいる…と、恋情には疎いらしいがそれは関係あるのだろうか。フェリシー曰くビアンカは以前は色々な意味で狂っていたらしいが…


「まぁ別に…」


「じゃあ、私達の中で一番年寄りなのは誰だと思う?」


『年寄り』と言う点に少し悪意を感じるが気のせいだろうか。


「多分フェリシーだろ?」


「正解。少なくとも3000歳、長くても10000歳以下ってとこかな」


「幅デカ過ぎだろ!?」


「仕方ないよ。あのオバさん、魔術と魔法の研究のために不死になったんだから。ずっと篭りっきりで年月なんて数えてない。孤立した天才って怖いね。それじゃ次に年寄りなのは?」


「やっぱりただの陰口だよなこれ!?」


ビアンカは楽しそうだ。あまり笑わない彼女がこんなことで笑っているなど思いもしなかった。


「絆もクソもない腐れ縁だから別にいいんだよ。ほらほら、次は誰だと思う?」


「良くねーよ!?」


結局ゼロは全員分付き合わされるのだった。結局、順番で言えばフェリシー、ネメシス、ベルティーナ、ユーリ、アイリスの順で、エンバージュとビアンカが同じ歳、キリエが一番若いらしい。よりによってデリケートな年齢の問題を話題にするあたり、彼女は何処かズレている。いや、彼女達ほど年齢の概念が壊れていればもはや問題ではないのだろうか。


「フェリシーってそんな生きてるクセにあんなヤツなの…?ネメシスの方が歳上だと思ってたんだけど…」


ゼロはビアンカの部屋を後にしながらぶつぶつと呟くのだった。どうして重要な計画の前日にこんなふざけた会話をしてしまったのだろう。そう後悔した。


一方でビアンカはレールガンの整備を終え、席を立った。


「…いるの分かってるよ、ルシア」


「…どうして分かったのですか?」


部屋の陰から姿を現すルシア。いつからいたのだろう。先程までは見えなかったのに、まるでずっとそこにいたかのように、違和感なくその体が浮かび上がった。


「認識を改変させて自身の存在を隠す聖遺物。周囲の生物に対して認識を書き換える魔法を内蔵してる。けど私には効かないよ。エレモフィラが見ててくれるからね」


「この指輪があなたの中にいるもう1人までは認識できなかったと、そう言うのですか?」


「まぁね。なんならゼロも本当は気付いてたんじゃない?」


けらけらと笑いながら、ドアの向こうを顎で指すビアンカ。ルシアはこの少女に薄気味悪さを感じていた。どこかで出会ったようで、全く思い出せないこの感覚…


「…そうですか。盗み見していたことは謝ります。ゼロ様の護衛は私が買って出たことですので」


「いいよ別に。いちいち君にも説明するのは手間がかかるからね。けど…本当の目的はそれじゃないでしょ?」


「………」


沈黙。狼狽えているようだが、どこか冷静にも見える。彼女は何者だ?何故こうも察しが良い?占いが得意なのはキリエやベルティーナだったはずだ。


「嫉妬してるんでしょ?確かに私達はゼロのこと気に入ってるけど、彼は私達を道具として見てるんじゃない?」


自虐的でもあり、どこか悲壮感も感じさせる、本来の笑みとは正反対の意味が込められた笑みだ。


「断じてあり得ません。ゼロ様は私達を大切に思ってくれています」


「顔は独占欲丸出しだね。別に嫌いじゃないよ。私も獲物が盗られるのは気に食わない性分なんだ。


「私はゼロ様に忠誠を誓ったのです!派遣されてきた貴方とは違う!」


ルシアは声を大にしてそう叫んだ。心からの怒りと焦り、悲壮の篭った怒号だ。


「派遣だって。確かに私達は出会ってそう長く無いけど、初めて安心して好きになっていい男がゼロなのも事実なんだ。仲間が死ぬのは辛い。それが好きな人なら、その悲しみは想像を絶する。私達みたいな不死の怪物は周りが死んでいくのを何回も、何十回も、何百回も体験したの」


ビアンカは語る内容とは反対に、無機質にそう言い放った。


「ゼロに付与された不死性はそこまで強くない。けど仮にもクロードの護りだよ。彼の魔法なら私達が守ってれば生き続けられるだろうね。さて、そんな貴重な逸材をほったらかしにして、今まで通り腐れ縁の仲間と過ごし続けると思う?」


「そうすればいいじゃないですか!ゼロ様に余計な接触をしないでください!」


ルシアは嫉妬と怒りで混乱していた。フェリシーとネメシスに、ゼロが初めて会った時、独占はしないと告げたことを忘れるほどに。


「遠回しに言ってたけどやっぱり獣人の頭じゃ理解できないか。品が無い言い方だけどさ、私達は恋に飢えてるんだよ。安心して恋人になれる人が欲しかったんだよ。君だって、愛した人に先に死なれるのは嫌でしょ?」


「それは…そうかもしれませんが!」


「いいじゃん。私達は長年渇望してきた恋人ができて、ゼロも浮気する事がない女に囲まれて幸せ。win-winでしょ?」


「そんな不純な関係ッ…!!」


「不純なんかじゃないよ。互いに愛してれば何も問題はない。要はゼロ次第ってこと。私達がとやかく言うことじゃないと思うワケ」


ビアンカはこれでもかと言うほどルシアを手玉に取るが、その表情は相変わらず『無』そのものであり、この話題にさえ興味が無いように見える。


「あなたとは分かり合えないみたいですね!」


とうとう怒りが頂点に達したルシアはビアンカに飛びかかった。机の上にあった物が飛散し、グラスが割れる音が響いた。しかし、ルシアの鋭い爪がビアンカに届く前に、銃を突きつけられて静止した。


「君と分かり合えなくても構わないけど、ゼロにも迷惑がかかるよ?それでいいなら私は構わないけど…果たしてみんなはどう思うかな」


部屋の外から音が近づいてくる。きっとグラスが割れる音を聞きつけたのだろう。


「何をしているのす?」


ドアが開かれ、ベルティーナが入ってきた。龍人の琥珀の眼を輝かせ、整えられた黒い髪と艶のある角が特徴的な女性なのだが、今は不思議な笑みを浮かべている。


「あら…荒事でしょうか」


後ろにはキリエもいた。相変わらずシスターのような格好で、今もなお手を組んでいる。


「何でもないよベルティーナ、キリエ」


「………」


互いに手を下ろし、一瞥し合った。


「銃を突きつけるのは穏やかではないですね」


「弾は抜いてるから安心して。ちょっとしたデモンストレーションだよ」


ルシアは少し驚いた。あの場面で、もしかしたら怒りのままにビアンカを殺していたかもしれないのに、彼女は弾を抜いていたというのか。いや、不死故の余裕なのか、そう思うと惨めで仕方がない。


「デモンストレーション…?まぁ、当事者で解決してください。計画に支障が出ないように、ね?」


「全て理解しました…愛ですね…愛故に、ですね…」


「何を言っているのですキリエ、アイリスが待っているので早く行きますよ。それでは失礼しました」


もっと止めるかと思われたが、ルシアにとっては都合が良かった。冷静になるまでの時間を作ってくれたからだ。死なない彼女とここで争う必要はない。ましてや、明日には作戦の実行が迫っているのだ。


「………ごめんなさい」


「こちらこそ。まぁそう難しく考える必要はないよ。適当でもどうにかなるし、ならなかったらその時考えればいい」


「そうですか…では失礼します」


ルシアは申し訳なさそうな表情を作ってビアンカの部屋を後にした。内心ではまだ怒りは残っているが、すぐに収まるだろう。







「…てっきり『あの事』だと思ったんだけどな…」


















設定資料 黒雨


またの名を魔剣エンバージュ。しかし、誰が作ったのかは分からず、本質は持つ者によって姿形を変え、能力すらも変化する最上位の聖遺物である。氷雨愛善によってエンバージュに受け継がれ、ゼロの手に渡された。以下はゼロが使用する際のスペックである。


分類:魔剣

氷雨家に伝わる宝刀にして妖刀『黒雨』。その姿を模した魔剣がこの聖遺物の正体であり、『黒雨』そのものではない。本物の『黒雨』は今もなお氷雨家にて保管されていると思われる。


『影に写りし御心』:EX

[零の心の在り方を力にする能力。言い換えれば、零の精神力によって強さを増す能力である]


『黒き雨の如き御剣』:EX

[氷雨家に伝わる剣術、その中でも秘伝の術『氷雨流・黒』を記録、再現する能力]






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