顔合わせパーティー!
食堂、とやらに出向くと、ただただ広い空間に所狭しと椅子が並べられており、食堂というよりは高級レストランのようだ。
そして、ゼロが入ると中にいた4人の会話がぴたりと止む。気まずくなりながら、フェリシーとネメシス、ルシアと共にその4人と同じテーブル席に座る。
誰が口を開くのか、という空気の中最初に話し出したのはフェリシーだった。
「コホン…新しき王に紹介しよう、左からビアンカ、キリエ、アイリス、ベルティーナ君だ」
「どうも…」
それとなく頭を下げて会釈する。どちらかというと目を背けたいだけだった。……特に右端から。ネメシスと同じ龍人特有の琥珀の眼、黒い髪に黒い尻尾。何より、の龍種特有の鱗状の組織で申し訳程度に隠されたナイスバディでこちらを誘ってくる。
「ベルティーナ・オーディアスです!王のことは以前から存じておりました!これからよろしくお願いしますね!」
活発…というよりは興奮気味なのが怖い。フェリシーとネメシス曰く、エンバージュには既に妻がいるためアプローチなどできず、普通の人間はいずれ死んでしまうため離別の悲しみからは逃れられず、ここのほぼ全員が欲求不満だとか…
「以前からっていったいいつからなんだ?」
「預言が示してからなので…半年くらい前…?多分それくらいです!」
「そ、そうか…」
(半年くらい前ってこの世界に帰ってきた時じゃねぇかよ!)
それ以前に、フェリシーは数週間前からゼロを監視していたと言っていたが、彼女は半年前から監視していたのだ。恐怖でしかない。
ベルティーナは机に乗り出してゼロの方を凝視してくる。その様子を、左端とベルティーナの左の者が呆れて見ている。
「はぁ…ベルティーナ、いい加減にして。スタートラインはみんな一緒って約束したでしょ?」
ブロンド髪の碧眼の少女…いや、ここにいる騎士団は最低でも100年も生きているのだから少女とは言えないが…ともかく、背丈の低い少女はどこか口当たりが強い。
「うぅ…すみません…」
「君は?」
「アイリス・アイゼン・シグマス。研究者兼技術者です。よろしくお願いします」
どうやらゼロに対しては敬語なようだ。
それはそれとして、この空間は彼女が作ったと言うことになるが、こうも広い空間を食堂のためだけに使うなど、いったいどれだけ魔力を持っていると言うのだ。
「この地下の…城?基地?はアイリスが作ったんだってな?」
「はい。お気に召しましたでしょうか?」
「お気に召したというか驚いたというか…これ半日で作ったのか?」
「ええ。王ともあろうお方があのような見窄らしい宿に住まうなど、許されることではありません」
(エンジェが手配してたからそこそこ高級な宿のはずなんだけどな…)
「食堂だけでなく訓練場や会議室、大浴場、栽培場、防衛機構なども完備しております。あとは…その…防音が完備されたそういったお部屋も…」
「ちょっとアイリス!?そんな破廉恥な部屋まで作ったんですか!?」
ネメシスが顔を真っ赤にして狼狽している。まさかとは思うがそんなピンクな部屋まで作ったというのだろうか。是非とも遠慮したい。エンジェライアのせいでちょっとしたトラウマなのだ。
「し、仕方ないでしょ!?フェリシーが作れって…」
「フェリシーあなたそんなことを!」
「ちょ、ちょっと待て!言いがかりだ!私はそんなこと…!」
可憐な女性達の醜いなすり付け合いが目の前で繰り広げられる。遠い目でその光景を見ていると、横からトントンと肩に何かが触れる。
「あの方達は醜い争いに夢中なようなので、何か食べ物を食べませんこと?せっかく食堂に来られたわけですから」
声をかけてきたのは黒髪のシスター服をした黒目の女性だ。しかしよく見ると首に下げているネックレスは十字架とはかけ離れた、三日月の中に半月のようなものがあるネックレスだ。
「お、おう…そうだな。…君は?」
「キリエ・クロサキと申しますわ。突然ですがあなた様を王である前に神として崇めることをお許しください」
もうこの時点で彼女が一番ヤバい奴だということを察してしまった。目が怖い。光が無いのだ。目を合わせなくていい口実がほしくて、キッチンの方で食べ物を探す。
「別に構わないけど…それよりその名前、極東から来たのか?」
すぐ真後ろをピッタリとついて来てるのが怖い。刺そうと思えばいつでも刺さる距離だ。もちろん、エンバージュが送ってきた配下を信用していないわけではないし、この殺気が敵意ではなく好意によるものだとも分かる。だからこそ怖いのだ。
「ええ。改めて、黒咲桐恵と申しますわ。よくお分かりですね」
「俺も極東の生まれなんだ。ゼロ・スティングレイだけど、元は氷雨零って名前だ。あ、他の奴には内緒にしといてくれ。魔術師からの評判はあんまり良くないからな」
「そのようにいたします」
執着が一番ヤバそうなのを除いて、同郷ということもあってか彼女が一番馴染みやすいと感じた。
「レモンジュースはあるか?俺はまだ酒は飲めないんだ」
冷蔵庫には何も入っていなかった。冷蔵庫と言っても、ただの魔術で冷やされた箱なのだが。
「それでしたらあちらの箱に」
「ありがとな。他の奴らにも持っていくか?」
「そうしましょう。あ、フェリシーさんはトマトジュースが大嫌いなので提供しないようにしてるんです。昔のことですが、ビアンカさんがエンバージュ王の血だと偽ってトマトジュースをフェリシーさんに飲ませて以降、彼女はトマトジュースに並々ならぬ殺意を…」
「肝に銘じとくよ。…これでいいか」
飲み物と軽食を盆に乗せて皆のいる机まで持っていったが、何故かネメシスに滅茶苦茶謝られた。
「おや、キリエ君とはもう打ち解けたようだな。では残ったのは…」
皆の目を集めるのは桃色の髪に、一部青いメッシュのようかものが入っている赤眼の少女だ。
(異世界で見たミリタリージャケット…もしかして…?)
ゼロの持っているものと似通った、真っ黒な軍用ジャケットに、銃をしまうホルダーを足に幾つか付けている。背丈はゼロとほぼ同じか、それよりやや低いくらいだ。
「どうも、ビアンカ・エンデリリィだよ」
「おや?随分と大人しいからエレモフィラの方かと思ったんだがね?」
「エレモフィラ?」
「彼女のもう一つの人格…いや、彼女の中にあるもう一人の魂のようなものだ。君にエンバージュの魂の一部が混じっているのと同じさ」
「はぁ…別に、顔合わせの時くらいは私が出るよ」
ため息を吐いて、呆れたようにフェリシーを睨むビアンカ。事前に耳にした話だとどこか悪戯好きに思えたが存外クールビューティーな印象だった。
「ビアンカにしては大人しいですよね」
ネメシスも意外そうな顔をしている。
「いつでもハイテンションな訳がないでしょ。100年も戦闘してなかったらそりゃ大人しくもなるよ」
「まぁこれで全員自己紹介が終わったわけだ。今宵は存分に楽しもう。さぁ、飲んで食って騒ぎたまえ」
騒ぐ…と言うほどでもなかったが、皆それぞれ好きな物を食べて飲んだ。
(エンバージュよ…お前さんの配下って本当に100年前リヴィド滅ぼそうとしてたの?スッゲェ陽気なんだが?)
「ほらほらゼロ君も呑みたまえよ。私が自ら手がけたワインだぞ?絶対に美味いはずだ」
「俺はまだ酒飲めないって。あとそれあり得んくらい匂いがキツいんだけど。何年モノ?」
「う〜む…1000年くらい前か…?あまり覚えていないな。収納魔術空間に送り込んでそれっきりだったからなぁ…」
「1000年!?熟成とかそういうレベルじゃねぇーよ!あとなんで収納魔術の中で熟成できるんだよ!」
収納魔術の中では時が止まっているとまでは行かずとも、食物が腐らないので醸成も熟成もできないはずなのだが…
「フェリシー…酔い過ぎですよ」
「まったく…これだから節操のない年増は…」
「言葉にすると酷いですねそれ。ビアンカの言った通りなので何も言えませんが」
「でも!酔ってないとアタックできない気持ちは分かります!その…私も初めて安心して愛せる人に出会えたので…」
「えっと…ここにいる方は皆不老不死なのですよね?いったいどうやってなったのですか?」
ゼロがエンバージュの魂によって不死になった、というのが正しければここにいる者はルシアを除いて全員不死であることになる。
「フェリシーは魔術と魔法の悪用の結果で、私とベルティーナは最上位の龍人だからですね。エルフや獣人も、その種族で最上位の個体には不死が与えられます。種族の抑止力として、或いは絶滅を防ぐ最後の砦として。エンバージュ王曰く、それが世界の意思なのだと」
「最上位の個体…それになれば私もゼロ様に永遠に仕えることが…」
「ルシア様ならきっとできますよ。武神と呼ばれたこの私が保証します」
「ありがとうございます。…残りの3名は?」
「私はあんまり褒められた理由じゃないから黙秘させて欲しい。でもキリエは極東で禁忌の術に触れたかららしいよ。アイリスは…研究の成果じゃないかな。彼女の考えてることはよくわからないんだ」
「そうですか…」
「別に劣等感を感じるようなことじゃないよ、死は生命に平等に訪れる。私達はそれを否定した臆病者だから。普通に生きて普通に死ぬ方がよっぽど偉い。…でも、もし君がどうしても王に永遠に仕えていたいなら…いつか叶うはず」
「…はい!ありがとうございますビアンカさん!」
「別に、君が聖エンバージュ騎士団改め、聖ゼロ騎士団の団長なんだから。当然のことをしたまで」
ビアンカはルシアにそう言った。彼女達の話を聞いて分かったことだが、それぞれ不死に対して思うことがあるようだが皆に共通していたのは、誰一人として死にたくなったことなどないと言う点だった。
「ゼロ様ぁ〜今からみんなで王様ゲームしませんかぁ〜?もちろん、王様はゼロ様固定ですよぉ〜」
「それ何の意味があるんだよ!てかお前も酔ってるんかい!」
ゼロの中ではキリエとベルティーナが一番刺してきそうで怖い。逆に、ビアンカとフェリシー、アイリスは比較的クールビューティーなので安心している。ルシアとネメシスは話の通じる部類なのでまだ大丈夫だ。
「みんな楽しそうですわね…私は信仰上お酒は飲めませんので」
「嘘つくのは良くないよキリエ。さっき普通に飲んでたし、なんならその信仰ってキリエが立ち上げた教団でしょ?それに今もまた一杯取りに行こうとしてた」
「あら、バレてしまいましたか。アイリスさんもどうです?」
「私はいい。私が酔っ払ったらこの騎士団が崩壊するでしょ」
「今ならルシア様がおられますので大丈夫ですよ」
「それもそう…いややっぱりやめとく。現にフェリシーとベルティーナが悪酔いして王に迷惑かけてる。私はまだ嫌われたくない」
「王は皆を平等に愛してくださるお方ですわよ?」
「それって眼中にないだけだよ。王はエンジェライア女王を助けることで精一杯、私達で力を合わせて成功させてようやくスタートラインでしょ?」
「それもそうかもしれませんわね。となるとまた明日から忙しくなりますわよ?」
「そうみたいだね。今日は徹夜で調整するよ」
「ビアンカさん用の試作兵器ですか?」
「ビアンカ用の武器はほとんど試作兵器でしょ。電磁投射砲のこと?随分と無茶な設計だしオーバーテクノロジーだけど、ようやく実用化できそうなんだ。もちろんビアンカにしか使えないけどね」
「懐かしいですわ。1回目の試作品はビアンカさんの電撃に耐えられずに自壊したんでしたわね」
「うぅ…魔術の絡まない工学は苦手なんだ。やっぱり高純度な魔鉱がないとダメだったんだよ…」
「良い経験だったと思いますよ?2回目のビアンカさんが反動で吹っ飛んだ時は、彼女が体を鍛える動機になったんですから」
「確かあれは…魔力が逆噴射したんだっけ?本当に、嫌な思い出しかないよ…」
「ようやく完成するのなら良いではありませんか。ところで、私の二丁拳銃はどうなったのですか?」
「あぁ…アレか…てっきり刀の方がお気に入りかと思って100年前から手を加えてないよ」
「やはり自分の手で息の根を止めたことを確認できた方が安心しますわ。でも刀一本だけというのも心許ないですわね…」
「何のための魔術なのさ…」
アイリスは呆れた様子でやれやれというジェスチャーをした。そして、静かな宴も次第にお開きになって、皆それぞれアイリスが作った部屋に戻った。急な来客のことも気にかけなければならないため、ゼロはいつも通り上で寝る。
(さっきまでのが夢なんじゃないかって心配になってきたな…)
学園生活をしながらの叛逆はなかなかハードなので、ハイドレスト入学までに事変を解決したいゼロはこんなに楽しんでいていいのかと思いながら、自信を戒めるのだった。
(他の女にうつつを抜かすな…そんなんじゃエンジェを助けられない…アイツらはあくまで配下だ…)
ゼロは気がつくと眠りについていた。
設定資料 フェリシー&ネメシス
フェリシー・ド・アークス:薄い青髪、右眼は赤と青、左眼は白と黒という特徴的な目。身体170、体重不明。碌でなしで、自称クール系。魔法を使うことができ、魔術に関しても一級品。五大元素全てを操るだけでも珍しいのだが、それらを高水準で実現していること、その他の属性も操ることができるなど、紛うことなき天才である。
ステータス
魔力生成:EX
魔力貯蔵:EX
魔力変換効率:A+
魔眼:S(暫定。能力は不明)
属性:五大元素:S+
その他の属性:C〜A+
魔法:S+
不死性:S+
ネメシス・ド・イヴェルナ:桃色のやや短めな髪、琥珀色の眼を持つ最高位の龍人。身体175、体重59程度。武神とも称される…らしい。魔術があまり得意ではなく、とにかくフィジカルにおいて最強である。騎士団の中ではフェリシーとネメシスが魔と武の二極を体現するため、各地に散らばる騎士団の下っ端達からは実質的にツートップとして扱われる。性格は礼儀正しい武人そのものであるが、フェリシーには他より厳しい。ほとんどフェリシーの自業自得だが。
ステータス
魔力生成:D+
魔力貯蔵:B+
魔力変換効率:B+
魔眼:龍の眼:EX
属性:五大元素:D+
[五大元素を扱えるという、フェリシーと同じ珍しい才能があるにも関わらずその素養はあまり高くない]
自己強化魔術:EX
[魔術の才能はあまりないが、自己強化と龍種の中でも最高峰のフィジカルで全てを粉砕する]




